船はアルゼンチンのブエノスアイレスにつきました。
例によってブラブラ、街の方に歩いて行くと、道端でサーカスのピエロのような大道芸人がいっぱいいるところに出ました。
路上でサーカスのようなパフオーマンスをして、見る人を喜ばせるのです。無論、タンゴのダンスも披露していました。
1つ特徴的なのは、見学料を入れる物がなくて、お金にまったくこだわらず、自分のパフオーマンスをいかに楽しめると言う事に熱心で、それだけに集中しているようでした。それは見る方に、とても好意と親しみを感じさせました。
おおらかで明るい国民性なのでしょうか。とにかく笑顔と明るさはアルゼンチン特有のものかもしれません。
タンゴのダンスショウの素晴らしさに驚きました。
私はとくにダンスに興味がある訳ではなくて、しかし、折角タンゴの国に来たのだから、一流のタンゴのダンスは見ておきたかったのです。アルゼンチンで一流なら、世界的なダンサーもいるはずと思いました。
そして、最も古い老舗の劇場で、その一流のタンゴのダンスショウを観ました。本物の一流の凄さを目の前にして、まるでとても素敵な夢物語に心を奪われたようで、私は時間を忘れてしまいました。
彼ら一流のダンサーは、ダンスを見せようという気持ちが何処にも感じられませんでした。ダンスをより綺麗に、深く楽しもうとして、その楽しみの世界に観客を誘うほど、自らのダンスを楽しんでいるようでした。そこには、観客と一緒に楽しめるまでダンスを洗練に洗練を重ねて、ダンスの頂点をのぼり詰めようとする姿があり、本当の一流を感じさせました。
会場もまるでお城の貴賓室のように豪華で、感性の強い直子は舞い上がって、途中休憩の時にシャンパンを持ってきてくれた人に、感動を分かち合いたくハグしてしまうほどでした。
またショウの中休みの時に、南米特有の音楽の演奏もありましたが、この楽団も選びに選び抜いたのでしょう。それは、ペルー音楽調のものや前衛的なタンゴ音楽もあり、素晴らしいジャズセッションのような南米音楽を聴かせてくれました。
後半のショウでは、よりアップテンポのタンゴを全員、ひとかけらの違いもなく、まったく同じキレッキレのダンスを披露してくれました。観客は、そのタンゴダンスの楽しさの世界にすっぽり包み込まれ、まるで自分がダンスを極めて楽しんでいるようにさえ感じるのです。
何事も一流になると、見せようとするのでなくて、全身全霊で中身を濃くする、極めていくということは、共通していえる点だと再確認しました。
人の評価や社会的認定は、自分自身の世界を洗練に洗練を重ねてその追求を辞めない限り、評価はついて回るということです。
船が出航しなければ、毎日のように通いたいと思うほど、私にとって珍しく魅いられた世界でした。
船旅から帰り、しばらくして、アルゼンチンで学会があるということで、
「お薦めは何ですか?」と聞かれました。
私は何をさておいても、その劇場のタンゴダンスショウだけは見た方が良いと強くアドバイスしておきました。
また次回、アルゼンチンに来たら、劇場を間違えないように、携帯にその劇場名を打ち込んでいたからです。
もともとタンゴの発生は貧民街のポカ地区辺りだといわれます。タンゴのテーマは、喜びと哀愁、と言われています。
あのタンゴを観るとそれが肌身に感じられます。
喜びも悲しみも浸りきれば、ある種の割り切った、楽しさになるためにタンゴのダンスが発生したようでした。
エビータの話
アルゼンチンといえば、貧しい産まれから、美貌を活かして女優となり、最終的にはアルゼンチンの大統領夫人となって、政治的にとても影響力をもつようになります。その女性の呼び名はエビータと言います。
エビータの社会政策に今でも賛同している政治集団があるほど、彼女の社会政策は大衆に身を置いたもので、アルゼンチンの最盛期とまで言われています。カストロがキューバの父なら、エビータはアルゼンチンの母と言えると思います。
アルゼンチンのタンゴショウが始まるまで、例によってタクシーをチャアターして、エビータの眠る綺麗なお墓を訪ねました。いまだにファンの多いエビータの墓はお花でいっぱいでした。女性が三人、お墓に体を摺り寄せたままじっと目を閉じ、今もなおエビータの声を聴いているようでした。
そこで、たまたま、観光バスのオプショナルツアーの参加者と出会い、解説者の説明だけを聞いて、その後さっさとタクシーに乗った時、ツアーの参加者からとても白い目でみられたのが、まだ、記憶にあります。
白い目で見るぐらいなら、自分でタクシーと交渉して自由行動すれば良いと思います。
ちなみに、キューバ革命のあのゲバラもアルゼンチン産まれです。基本的にはとても情熱的な国民性があり、他の国にはない、特有の雰囲気と人間性がありように感じられました。
それにアルゼンチンでは、ドンキホーテを尊敬する人がとても多いと聞きました。
タンゴ、喜びと哀愁、エビータ、ゲバラ、ドンキホーテ。
これらを混ぜ合わせてイメージすると、アルゼンチンの国民性なのでしょうか。
私は、また行けたらアルゼンチンにはもう一度行きたいと思います。
エビータについては、マドンナ主演のDVD「エビータ」が一番お薦めです。今夜借りてきたので、また観る予定です。