精神療法家 増井武士のブログ・バリ島日本人自殺予防ヴィラオーナー(レンタル可)

心理臨床の研修会・精神療法外来の陪席・海外のワークショップやバリ島ビーチフロントヴィラの利用のご案内などを掲載します。

バリのヴィラ16・B-ヌガラ物語ー(19)

2018-05-02 15:33:04 | 日記
船造り

 新しいヴィラが浜辺にたった。庭から好きな海が目の前にいつもみえる。海を見ていると細長い船体にアウトリガーと言う転覆防止の長い竹のを付けた三角形のセールの漁師の船がいっぱい出ている。天気よく風もいい。日本に置いているヨットが嫌な程、ちらほら心をくすぐるのです。船が欲しいけど船がない。ヴィラの横の漁師の船置き場には使っていないような古い船もある。それを買って、普通のヨットにするのは簡単だ。ヴィラに来て最初から、何時も頭には船をどうするか?があった。
しかし、当初予定していた造船所は遠方に移り、バリのヨットハーバーにはヨットの影さえ見えない。だから、とりあえず丸尾さんに相談すると、いっときは家の外側に置いている船で何とかしのいだら、と言ってくれました。
外に出てみると、一つは地元の漁師の使う木製の船で、持ち上げると、とてつもなく重く、もう一つはFRP、風呂の素材のような強化プラスチックで出来た細長いカヌーがあり、その両側に浮力体としての細長い船体をもつトリマランタイプのものでした。それをヨット仕様にする事にしました。
ボートをヨットにする為には、むろん、セールをあげる為のマストとセンターボードと言う、船の横流れを防止する為に船底の下約1メートルくらいまで自由に上げ下げできる、ボードとそれを容れるセンターボードケースを取り付ける必要があります。その為には当然船底にボードが出し入れできるためにボードに合った細長い空間を作る必要があります。
 私は手伝いしている男性スタッフに、説明しても分かり難いと思い、セールをスプーンに喩え、水道水を風に喩え、上から水を流し、これは風でスプーンの外側のカーブをセールとして、上からスプーンの裏に水を流すとスプーンはどう動くか?と聞きました。
彼らは水道水にスプーンのカーブが弾かれるからスプーンは右側、即ち水道水から外側に動くと答えました。しかし、実際は水道水に引き寄せらるように動くのです。圧力は高い方から低い方に動くという、今では当たり前の事実を、多分ベルヌイの法則とか言ってたと思うのですが…。この作用でヨットは風上に向かって走れるのですが、風に向かってある程度の角度がないとこの原理は働かず、風に真っ正面、すなわち風に0度なら船は風に揉まれバックする事になります。
即ち風に対してどのくらいの船の進行角度とセールと風との角度とセールのカーブが、一番船のポテンシャルを引き出すか?は、セールのトリムといい、ヨットレースなどはトリム専用のトリマーの腕と技術が大きなレースの勝敗を分ける事になるのです。しかし、あまりこんな事を詳しく述べるとキリがなく、また、本意ではありませんので割愛します。

作業は思いの他大変だった。

 先ほど述べたように、大小を問わず、バリで船を作り楽しみたい意向は最初から丸尾さんに伝えておいていました。また、ヌガラにヴィラを建てようと思った一つの理由は近くの丸尾さんのヴィラの裏が、じかに川に面しており、常駐のガードマンもいる様子で、船の係留にはもって来いの条件が備わっている事もあったからです。また、土地の永代借地権を買う時には、無料の係留条件付きでもありました。
先に述べたカヌーのヨットへの改造は1月ぐらいからです。この時期はバリの夏の雨期に当たり、日陰を作る為にオーニンクを張ったとしても、その暑さは変わらず、また、皆が皆目作業の原則が解らないので、まずは、私がやってみないと皆に具体的な作業の工程が解らないので大変でした。
汗だくになって基本的作業を示して皆に説明するのですが、時々日射病になりかける前にプールに飛び込んで身体を冷やしながらの作業でした。

なかなか伝わらないやりにくさ

水道水の実験で一応理解されたものと思い、まずはセンターボードケースの取り付けの為に船底にドリルで穴を開けようとしたら、ヌルルが私の手を取り払うように、オウ、ノウ、ボトム、ノウ、と言ってドリルを取り上げるのです。あれほどスプーンに水をかけて説明しても、なにも分かってはいないのです。船底にドリルで穴を開けようとするなんてとんでもないと言う事です。ですから、もう黙って見ておけ、と言うしかないのような事態での作業でした。
防水や接着剤は2液性のエポキシを使います。バリではエポキシと言わずラシーンと言って、主剤と硬化剤と練り合わせて接着剤にするのですが、この薬品の臭いは長く吸うとシンナー中毒症の初期のように頭がジンジンしてきます。その上、素手で長く触ると皮膚炎のようなものが起こるので必ずビニール手袋をするのですが、細かい所の接着はベタベタして手袋がくっつき、ひどくやりずらく、彼らはしまいには素手でやっていました。
ヨットの専用部品はバリでは到底手に入らないと思い、あらかじめ日本からセールや携帯用GPSやブロックというステンレスの滑車やその他もろもろ、は日本から送っていたので工事途中でそれらが届きました。
バリの人々は美意識が強く、ステンレスのワイヤーなどは手触りを楽しむようにやさしく触っては見入っていました。細くて強いものは多分美しいのでしょう。
次はマストです。長い竹をマストにしても、セールの取り付けの為にセールに縫い込んだロープをマストにフィットする為にグローブという取り付けホールがマストには要ります。
この工夫は、パテントもののように上手く工夫しましたが、詳しく述べるとヨットの作り方になり、とても長くなるので割愛します。
舵はバリの船のようにオールをロープで固定して水中で微妙な動きで舵取りする物をやめました。舵は国際的な、日本で言う普通の舵にする為には、考えあぐねた上、二枚の舵で操舵するツインラダーと言われる方式にしました。トリマランの二つの浮力船体の後ろに一つずつ取り付け、両方を一本の木材で連結する方法です。
しかし、ひどく困ったのは、バリでは簡単な金具や木綿のロープやステンレス性の金具がまったく無く、釘もネジも素材が弱く、釘はすぐ曲がり、ネジはネジ山がすぐに潰れるのです。しかし、その割には値段は高く、少し大きな5センチくらいのネジは一本10円くらいします。日本では何百本入った箱入りがホームセンターで約400円くらいです。だから、次回以降は金具類は日本からの持ち込みにしていました。
ところでヨット専門部品店などあるはずがなかったので、その代用品を、金具屋に行き、英語もたどたどしいヘルパーを通じてある機能を満たす金具を手に入れる為に頻繁に金物屋に通いつめました。
この金具屋はお金儲けにさとい華僑で、普段はレジを宝物のようにしているブスッとした人ですが、なぜか私は顔をみると、ニコニコするお得意様になりました。
さまざまなアイテムをメモした物を買い入れるのに、炎天下に四時間も探し回る時もありました。

日本での真夏の改造

 日本でも自作艇の設計図面を販売している有名なウォーラムという設計家の設計図に基づくチキというブランド名の船があります。その名を自作に詳しい人々は必ず知ってると思います。そのチキ21を買い入れたところ、船の検査を免れる為に、三馬力程度の電動モーターしか着いてなかったのです。船の係留には船検証明書が要り、船の検査をとうすには八馬力以上の船外機の取り付ける決まりがあります。その船を真夏の炎天下で日射病になりながら作業をして、やっと動かせるようになった時、意外な程、波切がスムースでソフトでスピードが出る乗り心地に驚き、一日中堪能した事がありました。
不思議な事に私は、その一日中の堪能ですべてが報われた、と思ってしまうのです。そしてその後はわりと無関心でいます。
男の人というか、私は、一時の理想的な時間を持つためにはあらゆる苦労をいとわないものだとつくづく思いました。

浸水式と試乗

 バリのヨットは最終的な塗装を終わって船を裏庭に持ち出し、シャンパンがないので、そこらへんに残していたワインで船体を浄めてささやかな浸水式を終えました。
長いシャフトの8馬力のエンジンをかけてセールを上げ、海の膝ぐらいまでの沖合に出して私が船に乗り込み舵を然るべき方に取り、プロペラを水中に入れ、舵をセールに風をはらませると、船は思いの他かなりのスピードで走り出しました。そしてかなりの沖合でエンジンを止めてセーリングに入りました。波もあまりなく、風も穏やか絶好のテスト走行日でした。
船は静かに走り、風上に舵を切ると横流れしながら走ります。それでセンターボードを深くいれると横流れはピッタリ納まり船は静かに風上に走り出します。
次に横から風を受けてセールを引き込むと船のスピードも静かに速くなりました。多分この状態がこの船の最も好ましい走りをするセールのトリムかななどと確認しながら走り続けました。ブローと言って風が強く吹き出した時に船は微かに傾き、すっとスピートを出し波に乗ります。
そのように気ままに船のテスト走行している時に、海底が急に盛り上がって浅くなり、どうやら下が珊瑚礁のようでした。私のヴィラからコンパス角度で約200度ぐらい北北西の方で沖合い約三キロぐらいのところです。
私はアンカーも積まなかったのでロープを持ち出してシュノーケルで潜り、浅瀬の石にロープを固定して廻りを見回すと、約20畳ぐらいのところに珊瑚が群がりながら点在して、魚が熱心にそれをツツイテましたから、多分まだ活きている珊瑚なのでしょう。不思議にその部分だけが競り上がっていて、とてつもなく綺麗でした。
しばしの間、見惚れて廻りをシュノーケリングして、船に戻り丸尾さんのヴィラに向けて帆走を再開しました。
風は追い風となり、あたかも波乗りのように波のてっぺんから下の方に静かに降りて行きます。そうです。斜め後ろから風を受けて船はサーフィンをはじめたのです。このサーフィンを意図的に楽しむ為に、波に対して45度ぐらいの角度でのぼり、45度ぐらいの角度で降りるとサーフィン感覚がより味わえます。そのサーフィンを楽しむうちに、先ほどの珊瑚礁の位置をプロットする為の携帯GPSをわすれて来た事を思い出しました。
多分二度とあの位置を探すのは至難の技と思いました。おそらくこの辺の海を知り尽くした漁師でない限り、正確に位置決めするのは、とくに海では、とても難しいのです。
シュノーケルする時、自分の船からおそらくこの方向と見定め潜ります。潜り終えて見定めた方向をみると、とても考えられない方向にいっているのは常々経験しているからです。
乗り込んだスタッフ全員は、皆、咳一つせず、ただ静かに遠くの海や船の掻き分ける波を黙ってじっと眺めています。
生まれて初めて、苦労をしたヨットに乗り、その静かで豊かな報酬の世界に入り込んでいるのでしょう。私にはその沈黙の深さの中での言葉にならない満足感が伝わってくるのです。

ヴィラの裏の川に船はつける

 このようなテスト走行しながら丸尾さんのヴィラの裏の川を見つけて、川の低い岸壁に横づけしようと思い、エンジンをかけて思いついたのは、この種の東南アジアでよく見かけるシャフトの長いエンジンはバックが出来ないという事に気づきました。
普通日本で使うエンジンはクラッチがあり、バックは当然効きますから、船の離岸や接岸は簡単ですが、追い風状態でバックが効かないとなると、船をぐるりと1回転して、セールを正面から受けて風でバックするしかないのです。
私も仕方なく、エンジン無しの小さいヨットで追い風の接岸をしなければならず、これをピッタリ目標の位置に止めるのは腕の見せどころですが、彼らはまったく素人で、分かりません。加えて他の船のロープなどのびていたのにもかかわらず、我ながらも誉めてやりたい程見事な接岸をしました。
まずはヌルルが岸に上がり、たいそうな振りをして、さあ、キャプテンどうぞ、というジェスチャーをするのには驚きました。ふと土手を見ると、大勢の丸尾さんのビィラのスタッフが何事か!一体これは何か~という目で群れて見に来ているのです。
彼らの得意げを押さえた姿を見て、私は半分笑って半分得意げでした。