女狐ムーブ

大人になると身だしなみに気を遣わなければいけない。

朝、鏡を見てなんとなく髪型が乱れてるなと思うと櫛で髪を梳かすことにしている。櫛はビジネスホテルで配布されている真っ白なプラスティック製のものだ。くせっ毛の私にはこの櫛が一番合う。平べったいのでスーツの内ポケットにしまったままにもできるのが嬉しい。

今朝も髪が乱れていたので櫛で髪を梳かしていたのだが、なんとなしに櫛を人差し指と中指で挟んでみた。挟んだ指を曲げたり伸ばしたりしてみる。おや、どこかで見たような光景だ。一体何だっただろう。鏡の前で考えることおよそ１分間。

そうだ。峰不二子や野上冴子がナイフを投げる時の指だ。ピンチの時はさっと内股に隠していたナイフを取り、ターゲットに投擲するあの動きだ。ナイフじゃなくてカミソリが仕込まれたカードというケースもあるが、基本はナイフだと思う。投げたらピッ！という効果音が出る奴だ。

これに気づいてしまったらもうどうしようもない。櫛をナイフに見立ててどこかに投擲してみたくなる。幸いターゲットはすぐに見つかった。カーテンだ。閉じられたカーテンならふわふわしているので櫛を投げつけても壊れることはないし、後ろの窓も大丈夫だろう。

内股から櫛を取り出す素振りをして指二本で挟んだ櫛をカーテンに向けて投げつける。櫛はくるくると横回転してカーテンに当たり、ぽとりと落ちた。なるほどナイフと違って櫛は軽くて重心のバランスもよくないので真っすぐは飛ばないようだ。

こんなことで朝の貴重な時間を浪費する私だった。