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読書・「或る「小倉日記」伝」・松本清張

2009-04-08 12:21:27 | Weblog
                       「或る「小倉日記」伝」

いつか読もうと思ってなかなか手が出なかった本作を、やっと読んでみた。

主人公の田上耕作は実在の人物であるが、読んでいくうちに清張本人とオーバーラップする部分が多い。もちろん、私小説ではないが。

耕作は熊本に生まれ、五つの時に父親の仕事の都合で小倉に移り住んだ。

耕作は生まれつき左脚と左腕が不自由であった・・。いろいろな医者にかかったが、治すことはできなかった・・。

耕作はそんな身の不自由さもあって、仕事に就けずにいた。

そんなとき、友人の薦めた、森鴎外の小説のなかに「独身」という作品があった。

<外はいつか雪になる。をりをり足を刻んで駈けて通る伝便の鈴の音がする。(中略)小倉の雪の夜に、戸の外の静かな時、その伝便の鈴の音がちりん、ちりん、ちりん、ちりんと急調に聞えるのである>

この作品が耕作の幼少期の「でんびんや」の思い出とオーバーラップし、彼を鴎外文学へ導くきっかけとなった。

その頃、(昭和13年頃)、「鴎外全集」が岩波から出版されたが、鴎外が小倉で過ごした明治三十二年六月からの三ヶ月間の日記が欠けていた・・。

耕作は、この空白をうめることに一生を賭けようと思い立った・・・。


この作品を読んでいると、不思議な感覚になった。フィクションにしては、年号や日時などが明瞭に記載されている。
しかし、主人公の風貌は、どこかしらフィクションなのでは・・とも思ったのである。
どうやら、「田上耕作」は実在の人物で、実際に変わった風貌をしており、鴎外文学の小倉時期の欠落部分の充填を一生の仕事としていたのは事実らしい。

この、「或る「小倉日記」伝」の入っている傑作短編集(一)には、全部で12の短編が収められている。それぞれが、歴史小説、推理小説、私小説の渾然一体となった作品群であり、一言でカテゴライズすることができないのである。
これが松本清張の作品の「魅力」なのであろう。

清張がこの「或る「小倉日記」伝」を書いたのは、まだ彼が朝日新聞西部支社(在小倉)の図案係にいたころである。
八人の家族を支えるために、食うために、「灰色の」人生を送っていた頃だ。
六畳、四畳半、三畳という元の平気廠の工員住宅で、暑い夏の盛りに書いたらしい。
これが「三田文学」という小説本に掲載され、昭和二十七年、第二十八回芥川賞を受賞することになる。














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