五行目の先に

日々の生活の余白に書きとめておきたいこと。

4月4日(曇):Mr.B.D

2007-04-05 01:25:03 | 
 朝7時に起きるつもりが、うっかり寝過ごして7時半に目が覚める。慌ててスーツを着て、バスに飛び乗る。朝食は大学に着いてから摂った。

 今日はガイダンスの日。まずは9時から新入生全体のガイダンス。社会科教育講座を代表して入っているので、数分間講座の案内をする。大人数に気後れして、「しゃかいかきょういくこうざ」がちゃんと発音できず、カミカミになってしまった。

 11時に自分の出番が終わると研究室に戻って新2年次向けのガイダンスの準備。科目登録方法の変更案内と段取りを考える。昼食はおにぎりを3個、急いで詰め込む。13時からの2年生ガイダンスは40分ほどでつつがなく終了。

 その後、第一会議室に移動して、14時から履修相談。この春からゼミ生になるMさんに助けてもらった。教員にはなかなかわからない勘どころをきちんと説明してくれて、新入生にも有益な情報提供になったと思う。ここまでが学務委員としてのお仕事。

 15時からゼミのガイダンス。今日が僕のゼミの第一歩。この日が来るのを待っていた。最初のゼミ生となるMさんとMさん(イニシャルにするとおんなじだ)に、僕のほうで考えている進め方などについて説明する。2人とも、とてもしっかりしていて、将来がとても楽しみだ。2人のいいところを伸ばしてあげられるように、僕も成長していかなければならない。

 16時ちょっと前にゼミガイダンスを終えると、入れ替わりで来客がある。年度はじめのせいか、あちこちから電話も入る。16時40分になってようやくひととおり片づいて、ふーっと息を吐く。

 17時。午前中のガイダンスのときに、同僚のH先生に声をかけていただいて、青森産業会館に無我ワールド・プロレスリングを観に行く。H先生の車で、先生のゼミ生2人と合わせて4人で、プロレス談義に花を咲かせつつ会場に向かう。僕だけチケットを持っていなかったので、当日券を買う。なんと最前列、ニュートラルコーナーのすぐ脇で、赤コーナーの選手がすぐ前を通っていく。

 久々の会場でのプロレス観戦。しかも大ファンである“Mr.B.D”後藤達俊選手を初めて生で観ることができる。これはもう、興奮せずにいられようか。

 会場に着くのが少し遅れて、第2試合からの観戦となる。長井満也選手とグラン浜田選手の対戦。浜田選手も、日本のプロレス界にとってはリビング・レジェンドである。この人がいなかったら、日本に軽量級のプロレスが根づくことはなかったろう。文字通りの小さな巨人だ。メキシコのルチャをベースとする浜田選手と、UWFの血を引く長井選手というのは異色の組み合わせで、しばしば身長差を強調するような展開もあったりして楽しさもあった。キックで攻勢の長井選手を浜田選手が一瞬の丸め込みで仕留める。小よく大を制すという試合で、会場も盛り上がった。

 第3試合の竹村豪氏選手とチャド・マレンコ選手の試合は、3分5ラウンド制で行われた。1ラウンドが3分だと、あっという間で、決定的な決め技に欠けると、かえって間延びした感じの試合になってしまう。それぞれ巧みなテクニックを披露したが、結局ドロー。ヨーロッパのキャッチレスリング的な試合は、なかなか日本で受け入れがたいかもしれない。

 ここまで終わって10分間の休憩。グッズ売り場に行くと、藤波辰爾選手がTシャツに一枚一枚サインを入れている。藤波選手といったら、僕らの世代にとっては大ヒーローである。そんな人が目の前でせっせとペンを走らせている光景が、とても不思議に思えた。



 グッズ売り場でパンフレットを買う。こちらにもちゃんと藤波選手のサインが入っている。そのまま流れて他の選手のグッズを物色していると、グラン浜田選手に「サインはどうだい?」と声をかけられる。先ほどいい試合をみせてもらったご祝儀だ。1000円を渡して、その場で写真付きの色紙にサインを書いてもらい、握手もしてもらった。これは研究室に飾ることにしよう。



 そして第4試合。僕にとってはこれがメーン・エベントである。後藤達俊選手対吉江豊選手。テーマ曲の「Mr.B.D」に乗って後藤選手が目の前を通り過ぎたときには、鼻血が出るかと思った。以前と比べると、だいぶ体を絞っている感じがする。それでも、コーナーにたたずむ姿には惚れ惚れする。



 対する吉江選手は、デカい。開始直後はきっちりとしたレスリングが展開されたが、場外に出ると、後藤選手がイスを手にしてラフ殺法を解禁。やはりこうでなくては。場外でのバックドロップは未遂に終わる。うーん、今日は投げて欲しい。リング内に戻ってからも後藤選手がペースを握り、アピールの後、バックドロップの体勢に入った。キターーーー!と思った瞬間、空中で体位を入れ替えた吉江選手が後藤選手を圧殺。そのままダイビング・ボディープレスへとつないで吉江選手の勝利。ああ、バックドロップを観られなかったのが残念。

 メインの試合は、藤波選手がチャボ・ゲレロ選手と組み、西村修・倉島信行選手組と対戦。チャボ選手といえば、往年の藤波選手のライバルである。現在57歳で、このシリーズの最終戦で日本での引退を迎えることになっている。僕は彼の弟にあたる故エディー・ゲレロ選手が好きだった。

 それにしても、チャボ選手の年齢を感じさせない軽快な動きには驚いた。さすがに華麗な跳び技はないものの、メキシカン・ストレッチなどの見た目以上に効く技の妙味にはうならされた。藤波選手は、コーナーから出てくると会場の熱気が上がる。一方、対峙する西村選手も決して負けてはいない。体格的にはスマートで、派手な大技があるわけでもないのに、ひとつひとつの定番ムーヴが観客を湧かせる。決して藤波・チャボ両選手に見劣りしないだけのオーラが、この選手にはある。

 試合そのものは、チャボ選手のジャーマンスープレックス一発で倉島選手が沈んだ。少々唐突な終わり方で、会場の雰囲気もえー、これで決まり?といった感じだったが、あとでパンフをみてみたら、ジャーマンはチャボ選手の得意技だった。きっちり決め技でフォールを取ったというわけである。実際、受身を取り損ねたのか、倉島選手は試合終了後もずっと首を押さえていた。

 全試合終了後、全選手がリング上に集合し、チャボ選手のあいさつに続いて記念撮影。リングの4方向に、勢揃いした選手たちが向いてくれる。実にすがすがしく、いい光景だ。



 リングを降りて控え室に戻る後藤選手に握手してもらった。藤波選手、そして再び浜田選手にも。いずれも、僕にとってはテレビの中の大スターである。それがこんなに身近に接してもらっていいのだろうか、夢をみているんじゃないか、と不思議な気持ちになった。

 ヒロ斉藤選手とのコンビで、派手に暴れ回る新日本時代の後藤選手も好きだったが、今は形にとらわれず、多彩な引き出しを自在にみせてくれ、ますます魅力的なレスラーになられたと思う。ブログにみえるお茶目な感じといい、これまで以上に後藤選手が大好きになった。

 試合数は5試合と少なかったが、ひとつひとつの試合は濃密で、熱気があった。久しぶりに生の雰囲気に気持ちが高まった。そして、余韻に後ろ髪を引かれつつ、会場を後にしようとしたところで、印象的な光景に出会った。



 リングの撤収作業を、裏方さんだけでなく、選手も手伝っていた。大ベテランの後藤選手も例外ではない。かつて所属していた新日本プロレスでは、若手時代はともかく、こんなことはやっていなかっただろう。小規模な無我では、本当にスタッフ総出で興業を作っている。最後の記念撮影なども、ファンを大切にしていこうという団体の気持ちが感じられて、胸が熱くなった。さらに、障害をもった子どもたちを招待して、彼らが技の迫力に歓声を挙げたり、必死で拍手を送ったりしている様もあたたかい気分にさせてくれた。本当に、この試合を観に来てよかったと思った。これからも無我を応援していきたいと思う。

 弘前に戻る車中でも、4人で試合の感想や、それぞれの選手にまつわるエピソードなどで盛り上がる。プロレスというのも、案外世代をこえて楽しめるものなのかもしれない。偉大な選手たちに、本当に至近距離で接することができた幸せは、明日への大きな活力になるだろう。