8時半起床。起きたと同時に今日お会いすることになっているGさんからお電話をいただく。体調がすぐれないので、直接自宅のほうに来てほしいとのこと。何しろ77歳になられるのだ。しかも急に北海道に行くことになって、ご無理をお願いしてしまった。それでも何とか会おうとおっしゃってくださっている。
ホテルで朝食を摂る。バイキング形式で、値段の割にとてもおいしかった。和食を食べた後でパンもひとつ食べておく。
10時にGさんが寄越してくれたタクシーが迎えに来た。運転手さんはお得意のお客らしいGさんのお宅まで最短距離で送り届けてくれた。呼び鈴を押すと、ご夫婦で迎えてくださった。お電話でお話ししたときの印象は、いかにも北海道の人というか、素朴でおおらかな感じなのだが、お会いしてみると、ダンディでカッコいいおじいさんだ。
書斎のようなお部屋でしばらくお話しする。初対面とは思えないくらい、気さくに話せる。しばらくすると、やっぱり出かけようという。いや、体調のこともあるのでご無理なさらないように、といったら、話している内に調子が出てきたとのこと。あまり長い時間を取らせないようにと気をつけながら、再びやってきたタクシーに乗る。Gさんのおすすめスポットは手宮洞窟だ。
入口で入場料を払って中に入ると、内部はずいぶんとひんやりしている。内部に古代人が刻んだ人の姿がみられる。アイヌ民族とも違う、古代人が遺した遺跡。こうやって見学できるようになった経緯についても聞かせてくださった。
僕のリクエストで、すぐ近くの小樽市博物館にも立ち寄る。8年前に寄ったときには鉄道記念館だったような気がするが、その後市の総合博物館に衣替えしたようだ。館内に入って、「しずか」号をみる。Gさんはきつい階段ももろともせず、運転席に登っていった。なんだかとても楽しそうである。見学に来ていた子どもにも、「♪機関車シュッポシュッポ」などといっておどけている。

子どものころ、ご両親とともに中国に渡っていたこともあるそうで、神戸から乗った汽船の話しなんかもしてくれた。その後はお仕事で船に乗り、イスラエルからインド、オーストラリアと世界を股にかけてきたのだそうだ。こういった昔話を聞かせてもらえるのは僕にはとてもうれしい。
展示の中で最も気になった「手宮高架桟橋」についても話しを聞かせてもらった。Gさんは現物をご覧になったことがあるそうである。『鉄道廃線跡を歩く』でも取り上げられていたが、この高架桟橋は想像を絶するような建造物である。今も残っていたら間違いなく近代化遺産として注目を集めたことだろう。
Gさんはますますノリノリになってきた。ひいきの女性のタクシー運転手さんをご指名で呼び、うまい寿司屋に連れて行ってくれ、という。途中、かつての日銀の建物を利用した金融資料館に立ち寄る。2人で金庫に入り、1億円分の紙の束を持ち上げてみる。記念写真もばっちり撮ってもらった。

寿司屋通りにある「うしお亭」というお寿司屋さんに連れて行ってもらう。Gさんはあまり食べられないのだが、僕にはどんどん好きなのを食べな、と勧めてくれる。やはり昨日の回転寿司とは鮮度が違う。うまかった。すっかりごちそうになってしまった。子どものころに天秤棒にかついで売りに来たガサエビ(シャコ)を食べさせたかったとのこと。僕はシャコは好きだが、これまで食べたシャコはあくまでシャコであり、エビではない。ところが今日食べたシャコは、間違いなくエビの味だった。
お寿司屋さんの前でも記念写真をパチリ。そのままタクシーでご自宅までお送りしてお別れした。楽しかった。祖父に遊んでもらった感じ。お兄さんにも会えたので、思い残すことはないなあ、などと笑っておっしゃっていたが、いやいやどうして、また近々訪ねて行こうと思っている。
タクシーで小樽駅に着く。どこに行こうか思案しているうちに、駅前でアメフト部の勧誘をしている小樽商科大の学生さんの姿をみかけた。各地の大学行脚は最近の趣味のひとつだ。行ってみよう。その学生さんに行き方を教えてもらった。バスで10分ほどで到着した。
歴史ある大学だから、古い建物が残っているだろう、と期待して行ったら、歴史を感じさせるのは門柱くらいだった。だが、坂の上にあるキャンパスからの眺めはとてもいい。


土曜日にもかかわらず、健康診断が行われているようで、しばらく学生さんたちを観察する。なんだかずいぶん垢抜けている。普段接しているうちの学生さんよりもずっと都会的。服装もおしゃれだ。標準語でしゃべっているし。なんなんだこの文化の飛び地的現象は。
生協で大学グッズを求めようとしたら、ラインナップはイマイチ。もうちょっといろいろあってもいいような気がするな。校章マーク入りのクリアファイルを買う。一枚52円というのは商売っ気がなくていい。
帰りのバスまで時間があったので、歩いて戻ることにした。地獄坂を下る。途中に美しい教会をみかけた。カトリック富岡教会という。入口にポストカードが置いてあって、寄付のためにお金を入れる箱が設えてあったので、200円を入れて2枚買う。

駅に戻ると、近代建築めぐり。カメラを片手に写真を撮りまくる。小樽はやはり銀行建築がいい。途中、元たくぎんの建物を改修したホテルの喫茶室でホットサンドとコーヒーを頼む。


小樽運河沿いには観光客の姿も多くみられる。その運河に沿って、手宮のほうに向かって歩く。さっきタクシーからみて気になった建物があった。その建物とは、北海製罐小樽工場。ただの汚い工場じゃないか、と思われるかもしれないが、これは1931年の建築。装飾を一切排した合理的なスタイルである。平屋の倉庫群を圧倒する偉容である。

すぐ近くにある日本郵船の小樽支店(重要文化財)も見事だが、僕には北海製罐のほうがグッとくる。

北海製罐の隣にある倉庫も何気ない造りだが、昭和初期の運河の風景写真にしっかりと写っている。1923年竣工だそうだから、これまた歴史ある建物なのだ。こういった工場や倉庫は格別惜しまれることもなく消えてしまうのが常だ。ならばみられるうちにしっかりみておこう。

運河近くのガラス工芸品店で、かつての小樽の町中の風景を復刻した絵はがきを買う。16枚セットと、日銀小樽支店のものを1枚追加で買った。
再び札幌に向かう。快速「エアポート」もいいが、駅前から高速バスも出ている。こちらのほうが大通公園近くを通るので、ホテルに行くには便利。しかもJRより30円安い。いざ乗ってみると、札樽道経由で、電車とは違い高台を走る。来たときとは違った風景を楽しむことができた。

一昨日と同じドーミーイン札幌に投宿。少しして、札幌駅に向かって歩く。夕食はJRタワー6Fにある「カレー研究所」なる店で食べる。無性にカレーが食べたかったのだ。チキンカレーを頼んだのだが、隣のテーブルのお客さんが食べていたスープカレーがうまそうだった。そういえばスープカレーは北海道の名物だったな。
7Fにある札幌シネマフロンティアで「ガチ☆ボーイ」を観る。前から観たいと思っていた映画だ。学生プロレスが物語の舞台。学プロというと、プロのプロレスよりもうさんくささが満載なのだが、話しが進むにつれて、ぐいぐいと観客を引っ張り込む力が感じられるようになった。コメディーでもなく、青臭いだけの青春物語というわけでもないのがミソ。
主演の佐藤隆太がとてもいい。真面目で純粋な大学生が、実は大きな心の闇を抱えているという、微妙な綾がうまく表現できている。加えて親父役の泉谷しげるもよかった。プロレスシーンが一切スタントなしというのも、学プロのリアリティーを出すうえで有効だ。それにしても敵役の瀬川亮が、見事にパンプアップされた体で演じていたのには驚いた。まさにプロレスラーといった感じ。もし実際にレスラーになったら、相当な人気を集めるだろう。
ロケ地には北海道の大学が使われていて、しかも商店街イベントの場面では、ついさっき歩いた小樽の都通り商店街が出てきた。これは北海道で観てこその映画だなあ。DVDが出たらもう一度観てみたい。
歩いてホテルに向かう。西四丁目の市電の電停のところを通りかかったら、終電車が出発しようというところだった。写真を撮っているうちに、何だか乗りたくなった。だが終電車は中央図書館前止まりである。西四丁目とすすきのとは近いが、中央図書館前は中間地点。それでも乗ってみる。

札幌の市電は、車体が丸っこい、ヨーロピアンスタイルといわれる電車で、おしゃれな感じ。西四丁目を出たときにはかなり混んでいた車内は、中央図書館前に着くときには僕を含めて3人だけになっていた。電車から降りて、さあどうするか。そのまますすきのに向かって歩くことにした。線路に沿って歩けば、道に迷うことはない。途中ですすきのからやってきた中央図書館行き最終電車とすれ違う。

路線全体の距離はたかだか8.4km。その半分くらいのはずなのだが、意外と遠い。ウォークマンを取り出し、音楽を聴きながらとぼとぼと歩く。小樽でもさんざん歩き回ったのだが、幸い歩くのは得意。それほど疲れを感じない。結局電車を降りてから50分ほどかかってホテルに着いた。20分電車に乗るために、徒歩50分。バカバカしいと思われるかもしれないが、路面電車を楽しんだうえにウォーキングをしたと思えば一石二鳥である。気温は7℃。早歩きでも汗をかかない。
旅に出ると一日が長い。日常でもこれくらいの時間の長さを実感しながら仕事できたら、ずいぶんいろいろできると思うのだが。