8時起床。一晩寝て起きたら、もう内臓の痛みはすっかりよくなっている。まったく元通りになった。トーストと緑茶の朝食を摂り、実家を出る。
昭島駅から青梅線・中央線を乗り継いで吉祥寺へ。吉祥寺から井の頭線に乗って渋谷に行く。いつもなら混んでいるイメージのある井の頭線も、何だか今日はやけに空いている。渋谷まではあっという間だった。
渋谷駅近くのビルに用事で立ち寄っていると、比較的大きな揺れがあった。ガラスの多い場所にいたので、安全なところまで誘導される。ビルそのものが新しく、地震に強いとのことだったが、その分かえって揺れるようだ。
用事が済むと渋谷から表参道のほうに歩いていく。いったん表参道ヒルズのほうに向かって進み、それから神宮前の路地裏をうろうろする。あてもなく歩いていくと青山劇場の裏手に出た。ちょうどお昼どきになったので、「京はやしや」でおばんざいランチを食べる。なかなか上品なお味。外に出ると、暑い。すぐに銀座線の表参道駅に潜り込む。
銀座へ。東京宝塚劇場や日比谷シャンテにある宝塚グッズのお店を覗く。宝塚の劇場のほうは、僕は一度も行ったことがない。エントランスから覗いてみると、立派な階段があって、一歩足を踏み入れたらそこは特別な世界、といった感じだ。
銀座五丁目の「マリアージュフレール」のサロンに入る。地下のほうに案内されたが、何だかまた地震があるんじゃないかと思うと少々落ち着かない。しょうがの入った紅茶(銘柄の名は忘れてしまった)とフルーツババロアを食べる。
ババロアは実に上品な味でおいしい。だが、僕にとってのフルーツババロアの記憶というのは、かつて小田急エースにあった「ピレネーカタオカ」のものである。お店がなくなってから久しいが、今でもあそこのフルーツババロアとレモンケーキを食べたいと思う。
帝国劇場へ。「レ・ミゼラブル」を観にやってきた。今年は帝劇100周年のメモリアルイヤーに当たる。内外にも特別な装飾が施されている。
ロビーには、出演者の寄せ書きもあった。劇場は日常を忘れさせてくれる空間ではあるけれども、だからといって断絶しているわけではない。現実はつながっている。
「レ・ミゼラブル」を観劇するのは今日が2回目である。主人公ジャン・バルジャンは前回と同じく山口祐一郎さんである。今回は何といってもこの人が観たくてチケットを取った。
重苦しい雰囲気のなかでの物語の始まり。ああ、何だか懐かしい。冒頭のジャベールとのやり取りも記憶を甦らせてくれる。
ジャベールを演じるのはKENTAROさん。これまでにも何度も舞台での活躍を観てきたのだけれど、どちらかといえば踊りの人、というイメージが強い。実際どの舞台でも華麗でキレのあるダンスを見せてくれていたから。だからこのキャスティングにはびっくりした。だが歌声もしっかりとしていていい感じだ。
ファンテーヌは知念里奈さん。弱々しそうに見えながら、芯の強さを感じさせる。転落していくなかで、最後の希望をジャン・バルジャンへと託していく、その演技が素晴らしかった。
ある意味一番の私的注目キャストは、テナルディエを演じる三波豊和さんであった。三波さんといえば、僕にとっては何といっても「いじわるばあさん」の万年さんだ。それが舞台では欲深き親父になっている。あくどいのだが、どこか憎めないキャラクターはぴったりだ。
そしてテナルディエ夫人を演じる阿知波悟美は、もう東宝の舞台では欠かせない、というくらい、この手のおばちゃんをやらせたら天下一品である。抜群の安定感だ。
今回の上演では、かなりキャストの世代交代が進んで(その代わり?に、スペシャルキャストの出演があるのだが)、全体として若々しい空気が漲っているのだが、そんななかでのベテランたちの演技はさすがだ。
レミゼは、鹿賀さん、滝田さんがそれぞれバルジャンを演じたCDも持っているのだけれど、不思議と普段聴くことがない。こうして今あらためて劇場に身を置いていると、その楽曲の何と素晴らしいことか。社会が動き、変わっていく様がひしひしと伝わってくる。その高揚感と緊張感を、今回あらためて感じ取ることができた。
カーテンコールの盛り上がりもまた、舞台の素晴らしさに対する端的な反応であるように思えた。東宝の舞台のカーテンコールは、それぞれが役柄から離れて、素に近い表情を見せてくれるのが楽しい。阿知波さんのコミカルな動きとか、そんな様子もまた実に微笑ましいのだ。
お芝居が与えてくれる力を感じて、じっくりと余韻に浸りながら劇場を後にする。力強いナンバーを頭のなかで反芻する。こんな夜はすぐには眠りたくない気分になる。