五行目の先に

日々の生活の余白に書きとめておきたいこと。

電車通勤

2011-12-01 09:52:02 | 鉄道

 ここのところ、訳あって早起きをしている。さらに訳あって、自宅を出て、それから少し離れたところに寄って、大学へと向かう。

 大学へは、もちろん歩いていける距離である。だが、通り道には中央弘前駅がある。しかもぴったりの時間に電車が出る。これは乗らないわけにはいかない。憧れの(そして久々の)電車通勤である。

 ちょうど通学時間帯に当たっていて、待合室は高校生でいっぱいである。大鰐からの電車が到着して、こちらは主として通勤のためらしいお客さんが改札口から出てきて、しばらくすると大鰐行きの改札が始まる。

 この駅には駅員さん(業務委託された方なのだろう)の女性がいて、きっぷを切ってくれる。その際には「おはようございます」と声をかけてくれる。何だか気持ちがいい。



 僕が普段乗る列車は、高校生たちで8割程度座席が埋まる。高校生たちはおしゃべりをしたり、参考書に目を落としていたり、いろいろだ。日中はガラガラで走っているところばかり目にするが、これだけの乗客だと、やはりバスでは積み残しが出る。通学の足としては欠くことのできないものなのだろうな、と思う。

 大学の最寄り駅は、中央弘前からひとつ目の弘高下である。でも初乗りの200円のきっぷで、次の弘前学院大前まで乗ることができる。たったひと駅で下車してしまうのはもったいないから、多少長く歩くことになってもこちらまで乗ることにしている。駅名のとおり、弘前学院大の最寄り駅だが、まだこの時間は大学生の利用者はほとんどいないようだ。そもそも大学生じたい、あまり利用しないのかもしれない。下車したのは僕を含めて3人。乗り込んだ高校生は20人はいただろうか。





 列車が出ていった後の駅は静まりかえっている。空が少し明るくなってきた。



 かつては駅員も配置されていた駅舎は、結構堂々としたものである。待合室の雰囲気とか、改札口のたたずまいなども、なかなか好ましい。



 待合室には、間もなくやってくる中央弘前行きの電車を待つお客さんが3人ほど、ベンチに腰掛けていた。たぶん青い帯を前面に巻いた(貼った)電車がやってくるはずだ。

 電車を利用して大学に出ると、いつもよりも、さあこれから仕事しよう、という気持ちが高まるから不思議だ。


カフェ・ラントマン

2011-11-29 21:08:54 | 

 久しぶりの帰京である。楽しみのひとつはもちろん食事であるのだが、せっかくの東京だ。そして今もなお、ウィーン熱ないしオーストリア熱は下がってはいない。ここはやはりオーストリア料理を求めることになる。

 予め目星をつけていたのは2箇所だったが、今回は表参道のAoのなかにある、「カフェ・ラントマン」に行くことにした。

 でもその前にちょっと恵比寿に寄り道をする。まだ11月だというのに、東京はすっかりクリスマス気分である。もっと節電しているのかと思っていたが、案外元に戻っているような気がする。







 ただし電車の車内はまだ暗いようだ。奥羽線の701系電車なども、今でも室内灯が半分に減らされたままで、薄暗いままだ。夜の車内では本を読みにくくなった。

 いつの間にか恵比寿ガーデンシネマは閉館していて、韓流スターの劇場になっていた。帰京の間隔が空くようになってからというもの、すっかり東京の変転についていけなくなっている。

 カフェ・ラントマンへ。運よくただちに席に着くことができた。表のテラス席もいいかと思ったが、室内の調度の雰囲気に惹かれて屋内を選ぶ。



 僕にしてはいささかのぜいたくをして、コース料理を注文する。スープとメイン料理、デザートとドリンクはメニューのなかから自分でチョイスする。

 ハプスブルク家を思わせるような装飾があるわけではないが、壁面の木目や座席のモケットの色合いといったものがいかにもウィーンのカフェなのである。本家ラントマンには行くことはできなかったのだけれど、ああこんな感じ、というのはわかるのだ。

 まずは前菜から。この辺にはオーストリアっぽさが出ているのかどうかは判然としない。ただしチーズの風味に、朝から思う存分美味なチーズを食べまくった記憶が蘇る。



 スープはフリターテンズッペを選ぶ。クレープの細切りが入ったコンソメスープ。体が温まる。ウィーンで飲んだものと変わらない味わいだ。そして量もたっぷりで、これだけで結構お腹が膨れる。



 メイン料理はリンドグーラッシュを選んだ。ヴィーナーシュニッツェルはおすそ分けに与ることにして、もうひとつのウィーンを代表する肉料理をいただく。見た目はこってり感があるが、食べてみるとそうでもない。実にうまい。ただスープと一緒にパンを食べてしまったことを後悔する。この料理はさぞかしパンと合ったであろう。おかわりをすればいいだけの話しだが、ここでパンをもうひとつ食べてしまうと、デザートが入りそうにない。



 ヴィーナーシュニッツエルもまた、そのサクサク感が、旅の記憶を呼び起こすものであった。

 デザートはラントマントルテを選んだ。ザッハートルテにも心引かれるものがあったのだが、店名を冠したケーキに敬意を表したのである。見た目の鮮やかさもさることながら、何層にも重ねられた生地の味わいが実に深い(奥に写っているのはモーツァルトトルテ)。



 コーヒーは、ヴィーナーコーヒーのなかから、と思っていたのだが、ケーキの甘さを考慮して、フェアレンゲルター(アメリカンコーヒー)にした。このコーヒーもまたおいしい。コーヒーの味がわかるわけではないのだけれど、オーストリアで飲んだコーヒーはおいしかった。酸味が少なく、まろやかな味わいが僕には合うようだ。ザルツブルクやウィーンのホテルの朝食に出てきたものは、格別高級な豆を使っているわけではなさそうだが、何杯でもいける味だった。こちらのコーヒーも、そうしたものであった。

 青森には、誇るべきカフェ、「シュトラウス」があるが、こちらはお菓子と飲みものだけである。料理まで楽しむとなると、やはり東京まで出てこなくてはならない。束の間の至福のひとときを過ごすことができた。

 食事を終えて、原宿駅まで歩く。もう22時を過ぎているが、まだまだ人通りは多い。ここのところ、生活がすっかり朝型になっていて、普段なら23時には就寝している。そんなものだから、こうして街を歩いていると、時間感覚が麻痺しそうになる。


6000系電車

2011-11-01 18:20:21 | 鉄道

 調査実習で弘前の街中に出た際に、たまたま弘南鉄道の鉄道の日のイベントポスターを目にした。大鰐線では、通常運行から離れている6000系電車が走るらしい。車庫のある津軽大沢から大鰐に行き、中央弘前まで走って津軽大沢に戻るという運行のようだ。ホームページを見ると、時刻表も出ている。


 これはぜひ乗ってみたい、と思っていたら、この日は午後に修士論文の中間発表会がある。となると津軽大沢や大鰐にまで行って乗るのは難しそうだ。中央弘前からなら乗れるかもしれない。

 ただ、どうしても今日のうちに書き上げてしまわねばならない書類がある。津軽大沢まで乗って、それから大学に戻ってくるとなると、かなり遅くなってしまう。時間を計算してみると、うーん、やはり乗りに行くのは厳しいか。

 だが、写真を撮るくらいならできる。というわけで、弘高下の駅までカメラを提げて出かけていった。先に大鰐行きの7000系電車がやってきた。お客さんはポツポツ乗っている。



 お目当ての列車が到着するまで、ホームの上をいろいろと観察して回る。今でこそ無人駅だが、随所に趣があって、個人的にはとても好きな駅である。



 ほどなくして、ゆっくりと特別列車がやってきた。正面の帯は取り外されて、東急時代の顔になっている。弘高下の駅にも停車した。ひょっとしたら、お願いしたら乗せてもらえたのだろうか?車内は鉄道ファンで座席はほぼ埋まっていた。立っている乗客もいる。大鰐線でこんな光景はあんまり見たことがなかったので、とても新鮮。





 せっかくなので大鰐行きも見送ることにした。こちらは「急行」のプレートを誇らしげに掲げてやってきた。





 本来客扱いはないはずなのだが、一人ホームに下りてきたお客さんがいる。となるとやっぱり乗れたのだろうか。うーん、たった1駅でも、乗ってみたかったものだ。次はいつ走るかわからない(というより、これがラストランなのだろうな)。

 去っていく電車を見送る。電車好きでなければ、格別変わったところのない電車なのかもしれないが、よくよく見ると、ステンレスはぺこんぺこんで、まだ技術が確立する前の、過渡期を象徴するようなたたずまいがいいのだ。



 大学に戻る途中、木立のなかにひっそりと建つ赤れんがの建物を見る。敷地には立ち入ることができないが、外側からもよく目立つ。青森県内初の私有変電所の跡とのことである。遠目に見る限り、保存状態はよさそうだ。



 いい散歩ができたおかげで、夕方にかけての書類作成にも集中することができた。


青森のザッハートルテ

2011-11-01 18:15:43 | 

 旅行から結構な時間が経過したのだが、相変わらずオーストリア病ないしウィーン熱はさめやらない。先だっての「マイヤーリング」では束の間の楽しい時間を過ごしたが、そうそう行けるところではない。


 だがそういえば、と思い出した場所がある。青森の新町通りというか、夜店通りに入ったところに、ザッハートルテを売っているお店があったような。確か場違いなくらいに豪華な雰囲気を醸し出していたような気がする。

 調べてみるとすぐにわかった。「シュトラウス」というお店である。さっそく出かける。国道7号線をひた走って、古川のところで左に入る。休日とあって、市場周辺のお店のほとんどはお休みだ。

 お目当てのヴィーナー・カフェ・コンドティトライ「シュトラウス」に着く。いつも前を通り過ぎるだけだったが、扉からしてすっかりあちらの雰囲気である。中に入り、テイクアウト用のショーケースの中身をちらりと眺め、螺旋階段を上る。その色遣いは、まさにハプスブルク家のイメージ。

 2階のカフェに入る。店内には金色のシャンデリアが下がり、フランツ・ヨーゼフ1世とエリザベートの肖像画が目に留まる。ああ、ここはまさにウィーンではないか。迎えてくれたマダムの衣裳もまたカフェ・ザッハーの店員さんを彷彿とさせる。

 壁際の、ゆったりとしたソファー席に案内された。すぐ傍らには老皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の肖像画がある。うーん、素敵だ。でも窓の外を見やると、夜店通りのちょっとくたびれた商店街の眺め。これはこれでいいのだが、こちらにいる間は極力視界の外に追いやる。

 メニューももちろん本格的だ。メランジェの他にも、マリア・テレジアやアインシュペナーといったウィーンのコーヒーが揃っている。どれを頼もうか、目移りする。ケーキの種類もいろいろとある。ケーキセットは680円とリーズナブルで、周りのお客さんの多くはこちらを注文している。だがやはりザッハートルテである。アインシュペナーとザッハートルテを注文した。

 出てきたザッハートルテは、やはり生クリームが添えてある。甘さは抑えめのようだ。こちらでもクリームとトルテとを一緒に食べると格別。そしてアインシュペナーは、透明なガラスのカップに入っている。これもまた本場と一緒だ。香りも味もよい。クリームがたっぷりと入っていても、コーヒーそのものが大変よいものであることはわかる。



 時間をかけて、ゆっくりとぜいたくな空間を味覚と視覚と嗅覚とで楽しむことができた。青森にはウィーンがある!青森にはいい喫茶店が多いが、こちらもまた素晴らしいお店である。青森に出かける楽しみがまたひとつ増えてうれしい。

 支払いのときに、少しばかりお店の方とお話しをした。こちらのご主人は7年間ウィーンで修業をされて、お店を構えたのだとのこと。個人的にはデーメルやザッハーのザッハートルテよりもおいしく感じた。日本人の口に合うようになっているのだろう。

 1階に下りると、お店が「甘精堂本店」と内部でつながっているのに気づいた。「シュトラウス」は、こちらの和菓子の老舗が出しているお店なのである。和菓子と洋菓子両方扱うお店は結構あるけれど、ここまで本格的にオーストリア菓子を専門に扱っているのは実に面白い。

 2つの百貨店で買い物をする。「中三」も「さくら野」も、青森だけでなく弘前にも店舗を構えているが、やはり青森店のほうが広いし、百貨店の風格をまとっているような気がする。このあたり、さすがは県都の面目だと思う。


岩手山麓のザッハートルテ

2011-11-01 18:12:24 | 

 帰国してからというもの、ずっとウィーンやザルツブルクのことが忘れられずにいる。ホームシックの逆のような状態だ。オーストリア病ないしウィーン病にかかってしまったようだ。


 ビデオの「おまかせ録画」にも、ウィーンだのオーストリアだのをキーワード登録して、うまいこと番組が録画できると喜んで見ている。ブログの記事を検索して見つけては眺めている。どこかでオーストリア料理が食べられないものか、あちこち探す。東京にはいくつかお店もあるようだ。

 さすがに料理となると難しいが、お菓子なら食べられるようである。岩手の滝沢村に「マイヤーリング」というお菓子屋さんがある。もちろんウィーンの森の「マイヤーリンク」から取ったのだろう。お天気もいいことだし、出かけてみることにした。

 東北自動車道を南下する。滝沢インターチェンジの周辺は、聞き取り調査の際に利用する勝手知ったるところ。さほど迷うことなく目的の「マイヤーリング」に到着することができた。黄色い壁が目に鮮やかな、かわいらしいお店である。駐車場も車で埋まっていたが、タイミングよく1台分空いた。



 お店に入ってみる。ショーケースにはザッハートルテがある。アプフェルシュトゥルーデルもある。店内で食べる旨伝えて席に着く。内装も暖かみがあって、窓から差し込む日光が気持ちいい。



 いろいろおいしそうなケーキに目移りしそうになったが、初志貫徹でザッハートルテとメランジェを注文する。ほどなくして運ばれてきた。ああ、懐かしい組み合わせ(といってもまだ帰国してから1週間ほどしか経っていない)。





 食べてみると、それほど甘さは強くない。割とさっぱりと食べられる。付け合わせの生クリームも甘さはほとんどなくて、いい感じだ。日本人向けにアレンジされているのだろう。でも本格的。旅の記憶が蘇ってきた。メランジェの香りもウィーンのカフェを彷彿とさせる。

 その後もひっきりなしにお客さんが訪れていた。人気店なのだろう。わざわざ足を運んだ甲斐があった。

 盛岡市内に出る。内丸に車を停めて、「食道園」で冷麺を食べた。お昼どきを過ぎていたせいか、それほど待たずに座ることができた。



 小岩井のほうに向かって車を走らせる。夕方になっていたので、「まきば園」には入らず、牛舎を見に行く。口蹄疫の影響からか、敷地の入口には消毒用のゲートが設けられ、見学できる敷地も以前と比べると大きく制限されていた。









 夕闇のなかを北上して走る。気分はザルツブルク郊外のアウトバーン、にはほど遠いけれど。ますますオーストリア病が昂じたような気がしている。


県道13号

2011-11-01 17:46:45 | 

 何かおいしいものを食べようと思ったとき、最近真っ先に意識が向くのは黒石方面である。とりあえず国道102号線を進むといいような気がしている。


 お昼どきを少し過ぎた時間に自宅を出る。黒石の街への入口を過ぎて、東北道のインターを越え、さらに温湯温泉への入口の先を左に曲がる。少し走るとお目当ての「ル・グレ」がある。先日訪れたときはオープンテラスで食事をしたが、さすがに秋口の冷たい風が吹くようになったので、今日は店内の席につく。



 お気に入りのパスタとズッキーニのピザを注文する。もうひとつ、パンを注文した。これはちょっと特別なものらしい。

 まずはピザが出てくる。生地は薄く、パリパリだ。そのうえにしっかりとした味のチーズと、ジャガイモが載っている。シンプルだが、味は深い。熱いうちに次のピースへと手が伸びる。



 パスタは以前も頼んだラグーパスタ。茹で加減が絶妙で、食感がよい。こちらも控えめな味つけながら、たくさん食べたくなる。1人で1皿食べたいくらいだ。



 そしてパン。自家製のジャムがたっぷりと塗られている。自然な甘酸っぱさに感動する。これは完全にデザートにカテゴリーすべきものだろう。



 今日も丁寧に作られたお料理を堪能した。弘前からちょっと遠いが足を運ぶ価値は十分である。そうしょっちゅう行けるわけではないのだけれど、また来たくなるお店である。

 先ほどまでは晴れていた空は曇ってきて、雨もぱらついてきた。黒石市街のほうに向かって引き返す。右に曲がればこみせ通りの「高橋家」でサイフォン式のコーヒーを飲むのがいい。だが今日は左に曲がって県道13号線を進む。大鰐に行く際の近道である。この道はよく整備されていて、気持ちよく走れる。

 国道7号線を少し南下して、脇道に逸れる。大鰐線の線路に寄り添うように走って、「シュヴァルツバルト」へ。

 店内はそこそこに混んでいた。前に訪れたときとはメニューも少し変わっている。シュバルツバルターキルシュトルテ・ピスタチオのアイスクリーム添えとコーヒーを注文する。こちらのコーヒーのおいしさもまた格別である。

 美しく盛りつけられたシュバルツバルターキルシュトルテが出てきた。相変わらず、食べるのがもったいない。上品なお皿をできるだけ美しく保とうと、少々緊張しながら食べる。下で感じる冷たさが心地よい。こちらの冷たいデザートは、寒くなってからでもきっと楽しめることだろう。



 至福のひとときを過ごす。おしゃれなヨーロッパ風の建物を出て、2、3分も走れば、昭和のままの鄙びた温泉街だ。このギャップがまたよいのだ。

 週末に車を走らせる楽しみを覚えたのはこちらに来てからだが、その先においしいものが待っていると、楽しさは2倍、いや3倍になる。


9月14日(水)晴れ(ウィーン)→晴れ(フランクフルト)→晴れ(成田)

2011-10-27 07:02:17 | Weblog

 6時半起床。豪勢な(というより大量の)朝食もこれが最後である。おいしいコーヒーはポットごと頂戴して帰りたいくらいだ。昨夜は遅くまで荷造りをしていたので、いささか寝不足である。

 荷物を持ってロビーに下りると、現地ガイドさんが待っていてくれた。ワゴンタイプのタクシーに乗ってウィーン空港へと向かう。車窓から見える建物についてもガイドさんが説明してくれる。まだまだ観られなかった場所がたくさんある。到底3日くらいでくまなく回れるものではない。

 航空券の手配や免税手続きはガイドさんが手際よく済ませてくれた。おみやげを詰め込んで重くなったスーツケースは、厳密には重量オーバーのはずだが、見逃してもらえた。

 入場ゲートのところで、お世話になったガイドさんとはお別れである。ザルツブルクで迎えてくださった方にも、現地ツアーのガイドさんにも、本当によくしてもらった。

 ルフトハンザLH1235便に乗る。機体はエアバスA319だ。



 搭乗口の前で、しばし時間をつぶす。いよいよオーストリアともお別れだ。



 窓際の席に座ったので、外の景色に目を凝らす。どこまでも広い大地が続く。





 それにしても、集落のこの統一感というのはどうして生まれるのだろう。屋根の材質が同じといえど、色まで揃っているというのは日本ではあまりない風景のような気がする。





 順調なフライトと思いきや、フランクフルト空港への着陸態勢に入ってからは、気流が悪いのか、やけにアップダウンした。おかげで手は汗でびっしょりだ。飛行機は快適、と思っていたところで、いや、やっぱり苦手だ、と思い直した。

 フランクフルトでの乗り継ぎ時間は約1時間。行きにあれこれ手間取ったことを考えると若干緊張したが、スムースに乗り継ぎができた。ただし手荷物検査はかなり厳重で、われわれの荷物も引っかかった。カバンを開けて、中のものを見せる。どうやら疑惑の品はザッハートルテだったようだ(そんなことがあるのだろうか。地雷にでも見えたのか?)。係の人に「ザッハートルテです」と説明したら、「ザッハートルテ?ハッハッハ!!」と大笑いされた。空港の係員は無愛想な人が多い印象があるのだが、こちらのお兄さんはやけに陽気だった。

 帰国便のルフトハンザLH710便の出発ゲートの前にはたくさんの乗客が集まっていた。圧倒的に日本人が多い。案内放送も日本語が流れる。機内に不具合が見つかって、出発が遅れますとのアナウンスが流れると、「ええーっ」という声が挙がった。だがそれほど大きなトラブルでもなかったようで、それほど待たされずに機内に案内された。

 機体はもちろんエアバスA380である。われわれの座席の担当のCAさんはかなり年季の入った感じの男性である。物腰がごつい感じ。たぶん実際にはかなり親切な人なのだろうが、いろいろとサーブしてもらう際には、「おしぼりだ、手を拭け」「水だ、飲め」とかいわれているような感じだ(あくまでイメージです)。対照的に機長さんはやたらと陽気に機内アナウンスでしゃべりまくるのが面白かった。

 機内ではできる限り眠るように努めた。ほとんど揺れず、快適なフライトだった。

 飛行機は定刻通りに成田に到着。無事に帰国することができた。ウィーンはもう秋の気配だったが、こちらはまだまだ夏の暑さである。


9月13日(火)晴れ(その2)

2011-10-27 00:37:04 | Weblog

 そろそろお腹が空いてきた。この旅行中、昼食はいつもケーキである。「ホーフブルク宮」の前にあるカフェ「グリーンシュタイドル」に入る。メニューを見ながら迷っていると、ウェイトレスさんに急かされる。何だか動きがやけにきびきびしている。

 グリーンシュタイドルトルテとメランジェを注文する。グリーンシュタイドルトルテは、ザッハートルテの甘さを抑えめにした感じ。本当はアンナトルテを食べたかったのだが、こちらは売り切れていた。



  まだ最後まで食べ終わらないうちに先ほどのウェイトレスさんが会計を急かす。どうやら彼女の「上がり」の時間が迫っているらしい。基本的にこちらのカフェ はそれぞれのテーブル担当が付くから、別の人に引き継ぐのがイヤなのだろう。ほどなくして食べ終えて、きちんとチップを渡したら、ようやくにっこりしてく れた。

 ここに至ってようやく市電(トラム)に乗る。ずっと乗りたかったのだが、スケジュールの効率性を重視して、移動時間の短い地下鉄を利用していたのだ。系統番号をしっかりと見極めて乗り込む。



 古いタイプの車両の内部はこんな感じ。簡素な造りだが、しっかりしている。



 僕が乗った路線の終点はループ線になっているので、運転席は前側にしか付いていない。後ろの車両は完全なトレーラーになっている。いったんおみやげを置きにホテルに戻る。ホテル近くまでの59番は、ずいぶんと狭い、結構な傾斜のある道をすいすいと上っていく。

 身軽になって再びリンクへと戻ってきた。ここからリンクを1周するトラムに乗る。観光用のぐるっと1周するものではなく、一般路線を乗り継いで回ることにした。

 リンク周りには素晴らしい建築が建ち並ぶ。まずは「国会議事堂」。車内から撮影するとどうしても写り込みがあってなかなかうまくいかない。「ウィーン市庁舎」とか「ブルク劇場」はきれいに撮れなかった。



 「合同庁舎(旧陸軍省)」。上部の双頭の鷲のレリーフがいかめしい。





 「市立公園」に立ち寄る。緑豊かな公園内には、数々の作曲家の像がある。

 シューベルトの像。



 なかでも有名なのがヨハン・シュトラウスの像。だが行ってみるとこんな具合。シュトラウスがいるべき場所はがらんと空いている。ガイドブックでは今年の春まで修復中とあったが、まだ完了していないようだ。



 でもその代わりにこんなメッセージが掲示されていた(各国語のものが用意されている)。



 再びトラムに乗る。目の前を古いタイプの単車が走っていった。ああ、こんなのにも乗ってみたかったなあ。



 リンクトラムをもう半周乗車する。今度は下車して「国会議事堂」を撮影する。だんだんと日が傾いてきた。



 ショッテントーア/ウニヴェルジテート電停でトラムを乗り換える。ホームからは「ヴォティーフ教会」の2本の尖塔が望める。



 ここでの乗り換えにまごつく。お目当ての系統の電車に乗り換えたいのだが、乗り場がわからない。よくよく案内表示に気をつけながら進んでいくと、エスカレーターを降りろ、とある。降りてみると、そこにはホームがあった。なんと、路面電車の停留所が2層式になっているとは。すごいなあ。

 今宵は「フォルクスオーパー」でオペレッタを観る。格式ある「シュターツオーパー」と比べると、「フォルクスオーパー」は外観からして入りやすそうだ。



 こちらのチケットも予め日本でインターネット予約をしておいた。席に入る直前にチケットをもぎってもらうのは「ライムント劇場」と同じ。3階の一番前の席に座る。隣りに座っていたドイツ人の男性から、「写真を撮るときはフラッシュは焚いちゃだめだよ」といわれた。はなから撮ってはいけないものと思っていて、ただカメラを首から提げていただけなのだが、ということは撮っていいのだな。しっかり注意は守って撮影する。緞帳の古びた感じもいいし、ボックス席があるのもオペラ劇場ならではだ。

 そして、開演直前となると、後方に立っていたお客さんがどどどっ、となだれ込んでくる。空いている席なら立見料金(びっくりするくらい安い)でも座ってかまわないということなのだろう。日本の劇場ではありえない習慣である。



 演目はオペレッタ「ウィーン気質」。入口で買ったパンフレットには、あらすじが日本語でも書かれていたので、おおよそのストーリーは頭に入れておいた。さらに舞台上方には英語の字幕も流れるので、思っていたよりも流れについていける。

 歴史ある作品だけれど、かなり現代風に、というかコミカルに潤色されている。先ほどお会いすることができなかった金色のヨハン・シュトラウス像が登場するし、フランツ・ヨーゼフ1世は、子どもが演じている(公園の大道芸人といった設定なのだろうが)。テレビで有名な俳優さんが出演しているらしく、その人の登場場面では客席からどっと笑いが起きる。

 それでいて、オーケストラの演奏やオペラ歌手たちの歌声は素晴らしい。笑わせるところは笑わせ、聴かせるところは聴かせる、そんなメリハリが効いた舞台だった。ミュージカル好きが、その延長線で観ても存分に楽しめる。こんな肩の凝らない作品は楽しいなあ。



 終演後、真っ直ぐホテルに帰るのは惜しくなって、再び旧市街に出る。さすがに夜はちょっと冷えてきた。温かいものが食べたい。一昨日も訪れたカフェ「モーツァルト」で、アルト・ヴィーナー・ズッペントプフとステーキサンドを食べる。コンソメスープのなかに野菜と細い麺がたっぷりと入っている。小さなクネーデル(肉団子)も入っている。ああ、これでお酒が飲めたら、もっとゆったりと夜を楽しめるのだろうが。

 「シュターツオーパー」の前からトラムに乗る。いよいよ明日でこの旅行も終わりである。まだまだ観たいところがたくさんあって、名残惜しい。だからゆっくり走るトラムに乗って、できる限り風景を目に焼き付けておく。


9月13日(火)晴れ(その1)

2011-10-26 22:31:00 | 

 6時半起床。いよいよ今日が実質的な最終日。悔い?は残すまい、と張り切って朝食を食べる。

 地下鉄6号線と4号線を乗り継いで、世界遺産・シェーンブルン宮殿に向かう。昨日お世話になったツアーのガイドさんから、混雑を避けるなら朝早くかお昼頃がよい、と教えてもらっていたので。



 アドバイスの通り、開館直前の宮殿前広場は人もまばらだった。そして朝日を受けたテレジア・イエローの宮殿の美しさに目を瞠る。空は雲ひとつなく、真っ青だ。



 美しく整備された庭園も、数人が散歩をしているだけで、とてつもなく広く感じる。



 シシィ・チケットを使ってグランド・ツアーを見学する。日本語の音声ガイドを聞きながら見学する。こちらの解説は割と簡素で、さっさと先に進める。後から次々にツアーの団体客に追い越されていくが、ほとんどがインペリアル・ツアーで帰ってしまうので、グランド・ツアーに進むと空いてきた。

 こちらは内部の写真撮影が禁止されている。知らずに撮影している人は厳しく注意されていた。「ホーフブルク宮」に対してこちらは夏用の離宮という位置づけだが、各部屋の装飾や調度品はむしろこちらのほうが上、という感じがした。

 フランツ・ヨーゼフ1世の書斎(執務室)もあり、そして彼が亡くなった部屋もここにある。もちろんエリザベートゆかりの化粧室も。6歳のモーツァルトがマリア・テレジアの前で演奏した鏡の間は、ミュージカル「モーツァルト!」のなかでも触れられる場所である。

 大きな天井画の大ギャラリーは工事中で、半分ほどだけ見ることができる。

 グランド・ツアーで見学できるのは、主としてマリア・テレジアにまつわる部屋の数々である。「漆の間」は西洋の文化と東洋の文化とが交差している面白い空間だ。ロココ調の可愛らしいデザインの部屋もある。豪華絢爛なベッドのあるフランツ・ヨーゼフ1世が誕生した部屋も見ることができた。

 こちらはミュージアムショップも充実していて、定番のガイドブックや絵はがきの他に、ハプスブルク家の紋章が入ったインク瓶がカッコいいGペンのセットなんてものまで買ってしまった。見学コースを出るころには、入口には長い行列ができていた。

 庭園に出る。お天気もいいことだし、歩いてみることにしよう。とりあえず「ネプチューンの泉」を目指して歩き出す。振り返ると真っ白な砂利道の向こうに宮殿がどーんと構えている。



 「ネプチューン」の泉の向こう側には「グロリエッテ」が見える。せっかくだからあそこまで上ってみよう。



 汗をかきかき上っていくと、視界が大きく広がる。高いところからの眺めはまた格別だ。遠くには「シュテファン寺院」まで望める。



 間近で見る「グロリエッテ」もまた遠くから見たときとは趣が異なる。記念「碑」とのことだが、立派な建物である。内部にはカフェが設けられていた。



 ここで日がなでれーんとしていたら楽しいだろうが、われわれには時間がない。地下鉄4号線と1号線を乗り継いでプラーターシュテルン駅へ。近郊列車Sバーンの駅もあって、かなり広い。高架下の自由通路を抜けるとすぐに「プラーター公園」である。ミュージカル「モーツァルト!」ではいろいろな物語が展開する。モーツァルトとシカネーダーが遊びに行って、コンスタンツェと再会する場所だ(もちろん史実とは違うのだろうが)。

 こちらでのお目当ては大観覧車。ゴンドラは木製で、かなり大きめ。定員は12人とのこと。映画「第三の男」に登場したことで知られる(僕はこの映画は観たことがない)。近寄ってみるとかなり大きい。

 チケット(観覧車とリリプットバーンのセット券)を買い、中に入ろうとしたところで記念写真を撮られる。普段なら買わないところだが、せっかくだからここは買ってみることにした。ゴンドラの合成写真だが、表情の演技指導までしてくれるのでなかなかである。



 しかしこの観覧車、12人乗りでどのようなタイミングで人を乗せているのかと疑問に思っていた。乗り場で待っていると、目の前をゴンドラが通過していく。なかにはテーブルがあって食事でもできそうなものもある。



 ゴンドラは操縦する人がいったん停止させて、そこに乗り込む形になっている。だから回転は一定ではない。結構な速さで回ると思ったら、次のお客さんを乗せるために一時停止するのだ。それにしても木製の古びたゴンドラには何ともいえぬ味わいがある。





 上に上がっていくと、これまた素晴らしい景色が広がる。もちろん「シュテファン寺院」はちゃんと見える。



 「プラーター公園」は実に広大だ。もともとはハプスブルク家の狩猟場だった土地である。



 集合住宅地と思しき一角が見えるが、日本の団地とは全く異なったたたずまいだ。



 観覧車でひと回りしたころには、写真ができあがっていた。それを受け取ってからリリプットバーンに乗りに行く。小さなかわいらしいディーゼル機関車がオープン客車を牽引する。まあどこにでもありがちなミニ鉄道だな、と思って乗り込んだ。





 ところがいざ走り出してみると、これが実に楽しい。遊園地から出発して、やがて深い緑のなかへと入っていく。





 途中駅もちゃんとあって、公園を散策する人が適宜乗降していく。全長は4kmほどだそうで、実に乗りでがあった。今まで乗ったミニ列車のなかでは間違いなくナンバーワンだ。

 プラーターシュテルン駅の構内には、市営交通の案内所がある。そちらに市電の模型が売っていたので自分のおみやげに買って帰ることにした。模型は手ごろなものから結構高価なものまでいろいろと揃っている。

 地下鉄をカールスプラッツ駅まで乗る。「分離派会館(ゼツェッシオン)」の前を通る。黄金のキャベツと呼ばれるドームが目を引く。



 「アン・デア・ウィーン劇場」へ。正面ではなく、脇のパパゲーノ門を見に行く。現在は入口としては使われていないようだが、ちゃんとオペラ「魔笛」のパパゲーノの像がある。





 この劇場はシカネーダー設計によるもの。以前はミュージカル「エリザペート」もこちらで上演されていたそうだ。現在はオペラとクラシックコンサートが中心とのこと。

 リンクの内側まで歩いて、「カプツィーナー教会」を見学する。それほど大きな建物ではなくて、探すのに手間取った。だがこちらの教会の地下には、ハプスブルク家の人々の棺が安置されている。内臓は昨日見た「シュテファン寺院」に、心臓は「アウグスティナー教会」にそれぞれ収められている。

 地上の暑さとはうってかわって、地下室はひんやりとした空気が漂う。マリア・テレジアと夫フランツ1世の棺はひときわ豪華なもの。2人の像が向かい合う形になっている。



 フランツ・ヨーゼフ1世(中央)とエリザベート(左側)、ルドルフ(右側)の棺は仲良く並んでいる。ここが「エリザベート」「ルドルフ」の登場人物の人生の終着点である。



 出口に近いところには、今年7月に亡くなった、最後の皇太子オットー・フォン・ハプスブルクの棺がある。慣例に従って、遺体はこの棺の中に、心臓はハンガリーの「ノンバンハルマ修道院」に収められているとのことである。



 帝政は廃止されても、ハプスブルク家の歴史は脈々と続いている。どのおみやげもの屋さんに行っても、エリザベートの肖像画を使った商品はあるし(これは日本でもよく見かけるが)、フランツ・ヨーゼフ1世の肖像をあしらったものもたくさんある。

(その2)に続く。


9月12日(月)晴れ(その2)

2011-10-26 18:25:03 | 

 午後は現地ツアーの「ウィーンの森半日観光」に参加する。こちらは日本語でのツアーである。集合場所は「シュターツオーパー」の脇。



 きょろきょろしていたら、ガイドの方が声をかけてくれた。今日申し込んだのはわれわれだけのようだ。というわけで、実質的にプライベートツアーである。

 ベンツのワゴン車に乗って、街中を走る。ガイドの方は街並みについても詳しくお話ししてくれる。歴史に関する知識も豊富だ。聴き入っているうちに、市街地からウィーンの森へと進んでいく。

 最初に「リヒテンシュタイン城」を眺める。



 リヒテンシュタイン公国の元首、リヒテンシュタイン家はこの地から出たとのこと。現代的な視点からすれば、かわいらしいともいえるのだろうが、なかなかどうして、堅牢そうな城である。つい先ごろまで上部が劣化してきて、修復工事を行っていたそうだ。これだけの高さのある建物だから、維持も大変だろう。

 せっかくのいいお天気なので、このお城のまえから小道を散歩する。辺りは人びとの憩いの場になっているようで、散歩をする人の姿も見かける。

 車に乗って、シューベルトが「菩提樹」を作曲したとされるヘルドリッヒシュミューレへ。ガイドさんはひととおりの説明をしてくれるだけでなく、「自説」に基づいた見解についてもお話ししてくれる。それが理路整然としていて、ガイドというよりフィールドレクチャーを聴いているような感じである。





 またしばらく走ると、「ハイリゲンクロイツ修道院」に着く。1133年創建のシトー派の修道院である。
森のなかに、こつ然と現れたような感じ。







 内部を見学させてもらう。美しい回廊を歩きながら、時代ごとの建築様式を見分けるポイントについても解説してもらった。



 至るところに美しいステンドグラスがある。これらにも時代によって様式の相違があるそうだ。





 なかでも「泉水堂」はとりわけて美しい。光の加減で見え方が幾様にも変わる。





 ステンドグラスには、幾何学模様のものと、実在した人物をモデルにしたものとがある。





 回廊からは暖かな日が差し込む。だが冬の寒さの厳しさは相当なものらしい。



 壁面には十字架にかけられたイエス・キリストの像がある。こうした像はザルツブルクでもウィーンでもあちこちで見かけるのだが、やはり時代ごとの様式の違いがあるとのこと。このように腕がだらりとして、リアリティのあるものは新しいもので、逆に腕がぴんと伸びた感じのものは古いのだそうだ。



 アーチ天井には鮮やかな天井画が描かれている。想像していたのとは違う明るさがある。



 再び回廊を歩いて、教会内部へ。



 祭壇の上には、板に彩色されたキリスト像が架かっている。腕が伸びているからこれは古いものだ。このキリスト像のレプリカはおみやげ売り場で売られていて、われわれもひとつ買って帰ることになった。



 アーチの幅が狭い分、天井の高さが際立って見える。



 観光客が少ないこともあって、静けさのなかでじっくりと見学することができた。聖なる場のなかに身を置いているという感じが、独特の興趣を起こさせる。

 そんな修道院も、一歩外に出ると世俗の世界である。敷地内には小ぎれいなカフェがある。ツアーにはこちらのケーキセットが付いている。ケーキは2種類から選ぶことができて、ひとつはザッハートルテとのことだったので、もう一種のほうを注文する。飲みものはコーヒーとだけ伝えたら、アインシュペナーが出てきた。



 そしてこのケーキが何とも素晴らしくおいしかった。クリームは甘すぎず、ブルーベリーソースとの相性もよい。振り返ってみれば、この旅行のなかで食べたケーキのなかのベスト・ワンである。

 思いがけずおいしいティータイムを過ごして、売店で先の十字架の複製とこの修道院のガイドブックを購入する。ガイドブックは日本語版が用意されていた。

 いよいよこのツアーの一番のお目当てである、マイヤーリンクへと移動する。「マイヤーリンク修道院」は、フランツ・ヨーゼフ1世とエリザベートの息子、ルドルフ皇太子とその愛人であるマリー・ヴェッツェラが心中した場所である。その死の真相をめぐっては諸説あるらしく、ガイドさんが詳しく解説してくださった。

 礼拝堂は、緑に囲まれた場所に静かに建っていた。



 内部は以前は撮影禁止だったが、現在はかまわないとのこと。現在も8人の女性が厳しい修道生活を送っているそうだ。

 入口正面には祭壇が設けられている。



 その上方にはフレスコ画があり、これはルドルフ皇太子の死後、父フランツ・ヨーゼフ1世が自らの家族の理想の姿を重ね合わせて描かせたものとのことだった。



 母エリザベートが寄贈した祭壇も残されている。



 マリー・ヴェッツェラのかつての棺も展示されていた。何度か墓を暴かれたりしたそうで、現在はハイリゲンクロイツ修道院の墓地に眠っているとのこと。



 皇太子ルドルフは、「エリザベート」「ルドルフ ザ・ラスト・キス」という2つのミュージカル作品の登場人物となっていて、いずれにおいてもその死が描かれている。そんな人物はそうはいないだろう。斜陽の大帝国の悲劇を象徴する人物として、多くの人の興味関心を惹きつけるからだろうか。

 こちらも見学コースの出口のところに小さな売店がある。日本語のガイドブックもあった。タイプ文字なのがらしくてよい。修道女さんたちが作った製品も売っている。おばさんが「はちみつ、はちみつ」という。日本から訪ねてくる人も結構多いのかもしれない。とくにミュージカルファンが。かくいうわれわれだってそうなのである。はちみつの他に、はちみつを使ったリップクリームや蝋燭を購入。



 これでツアーの見学地はすべて見終えて、あとはウィーン市街に帰るのみである。途中温泉地のバーデンの街を通る。ああ、こんな郊外もゆっくり訪れてみたい。

 運転手のゲオルグさんが、せっかくだからちょっと寄り道してみないか、と提案をしてくれた。広大なブドウ畑に立ち寄る。ちょうどワイン用のブドウの収穫時期で、今しか飲めないお酒(シュトルム)があるとのこと。ワインになる前の濁り酒で、シュトルムとは嵐の意味である。

 お酒は飲めないので、発酵する前のモーストというジュースを飲むことにした。これがまたおいしい!自然な甘みとブドウのしっかりした味。それでいて全然くどくない。のんびりした風景を楽しみながらいただいた。ゲオルグさんはこっそりブドウ畑に入って、いくつかの実を獲って渡してくれた。ブドウそのものも甘くておいしかった。



 楽しい半日ツアーは、出発地の「シュターツオーパー」の前に戻って終わる。まだ明るいので「ホーフブルク宮」の庭園を散歩する。

 フランツ・ヨーゼフ1世の銅像は、マイヤーリンクを見学した後だからか、寂しそうな表情に見えた。孤独を独り噛みしめているようだ。



 対してモーツァルト像のほうは陽気に見える。たくさんの天使たちに囲まれてもいるし。



 今日もお昼ご飯はケーキだけだったが、あまりお腹が空いていない。それでも少し食べておこうということで、何だか人気のありそうなホットドッグのスタンドに行ってみる。実物を見ないで頼んでみたら、こんなでっかいものを渡された。ベンチに腰掛けて食べたら、もうすっかりお腹いっぱいになった。



 今宵も音楽を楽しむことになっている。「楽友協会」で「ヴィーナー・モーツァルト・オーケストラ」の演奏を聴く。チケットは予め日本でインターネット予約をしておいた。「シュターツオーパー」のあたりにもいろいろなチケットを売っている人を見かけたが、事前に取れるものなら取っておこうと考えた。それにしてもチケット売りの人はわれわれを見るとただちに日本語で話しかけてくる。中国語や韓国語であることはほとんどない。そのあたり、ちゃんと見分けがつくところがすごい。

 「楽友協会」はニューイヤーコンサートの会場として知られる。その外観からして他の建物のなかでもひときわ目を引く。



 観光客向けのコンサートなので、普段着で観に行った。服装についてとやかくいわれることはなかったが、買い込んだおみやげはクロークに預けるように指示された。この辺は結構厳格なようである。

 大ホール(黄金ホール)のバルコニー席に座る。文字通りきんきらきんである。演奏中もシャンデリアは点いたまま、つまり明るい客席で演奏を聴く。





 演奏する人びとは、モーツァルトの時代の衣装で登場する。演目も、普段クラシックを全く聴かない僕のような者でも知っているものばかりだった。オペラの曲のときには、ちゃんと歌手も登場する。



 手荷物に関しては結構厳格なホールだが、お客さんのマナーというとかなりひどいものだった。フラッシュを焚いての撮影とか、演奏中の私語なんかも当たり前。演奏する人たちもその辺は割り切ってやっているのだろうが…。

 とはいえ、親しみやすいラインナップで楽しいコンサートではあった。カーテンコールの最後が「美しき青きドナウ」「ラデツキー行進曲」なのは不思議だったが、みんなでノリノリで手拍子したりできたのでこれもよし。

 ここでのコンサートに関しては、何よりもこの場所で聴くということに価値があるのだ。



 気がつけば、ウィーン観光も残すところあと1日となった。美しい夜の街並みを見ていると、ホテルにさえ帰りたくなくなる。


9月12日(月)晴れ(その1)

2011-10-25 23:20:22 | 

 6時半起床。今朝もホテルのバイキングの朝食。コーヒーをポットでもらってくる。午後にも飲むことがわかっていながら、ついつい2杯飲んでしまう。

 今日もいいお天気だ。目の前の通りを路面電車が走っていく。すぐにも乗りたいが、本日はタイトなスケジュールゆえ、地下鉄で移動する。





 地下鉄3号線でシュテファンプラッツへ。オープンと同時に「シュテファン寺院」を見学するつもりで出かけてきた。まずは内部に入る。



 チケットを買って見学したいのだが、肝心の売り場がよくわからない。それにガイドブックによると場所によって見学開始時刻が異なるようである。いったん外側に出て、南塔の入口へ。こちらでオール・インクルーシブチケットを買う。まだ少しぼーっとした頭のまま、螺旋階段へと足を踏み入れる。

 これが登れど登れどまだまだ続く。狭い階段をぐるぐると回っているうちに、平衡感覚がおかしくなりそうだ。汗もだらだらと出てきた。体力がずいぶん落ちているなと実感する。

 ようやく見張り台に到着する。だがここからの眺めは素晴らしい。周りに高い建物がないから、まさに一望である。

 「ホーフブルク宮」方面


 「シュターツオーパー」方面


 「ヴェルヴェデーレ宮殿」方面


 「プラター公園」方面


 見張り台の内部には塔の写真が掲示してある。ここまでの階段は343段あるそうだ。この高さでもまだ塔の半分くらいなのだな。



 屋根にはハプルブルク家の象徴、双頭の鷲がデザインされている。



 階段を下りていく。もう膝は笑いっぱなしである。時間が早かったせいか、途中ですれ違う人は少なかった。上りと下りが分かれているわけではないので、人が多いと大渋滞になるだろう。

 下まで下りて、上を見上げる。首が痛くなるような高さ。装飾に目を凝らそうとすると頭がくらくらしてくる。



 身廊中央部を見学する。こちらは身分証明書と引き替えにオーディオガイドを借りる。パスポートはホテルに置いてきてしまったので、コピーで勘弁してもらった。至るところに見事な彫刻や彫像がある。





 中央の祭壇の向かって右側には、フリードリヒ3世の棺が安置されている。



 主祭壇のところは外からの光が差し込んでまばゆい。



 距離を置いてみると、ステンドグラスの色合いも違って見える。



 見どころはまだまだある。きらびやかなノイシュタットの祭壇に目を瞠り、



 精巧なピルグラムの説教壇にため息をつく。



 続いてカタコンベツアーに参加する。入口には次回のツアー開始時刻が表示されていて、時間になるとガイドの方がやってきてドアを開けてくれる。ここでもまずドイツ語、次いで英語で説明をしてくれる。

 地下室に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が漂う。ウィーンの司教の棺が安置されている場所は思ったよりも明るい。しかも割と真新しい感じがする。ハプスブルク家の内臓を収めた壺が安置されている部屋は薄暗い。

 さらに進むとペストで亡くなった人びとの遺骨が安置された場所に至る。こちらは床も土で、壁面はレンガ造り、そして暗い。遺骨は直接目にすることができる。同じ空間に様々な人びとが眠っているというのが不思議だ。しかも大都市のどまんなかに。

 出口にたどり着くと、外の空気を吸い込む。とても不思議な時間を過ごしたような気がした。出口のところにはモーツァルトの葬儀がここで行われたことを示す記念碑がある。



 「シュテファン寺院」見学の最後は北塔に上る。こちらはエレベータで上るようになっている。

 南塔と比べると北塔はかなり低い(予算の都合で高くできなかったとのこと)。それでも南塔とはまた違った景色が楽しめる。



 南塔はこんなにも高い。





 ひととおり見学するだけで約2時間を要した。ほとんど待ち時間なしで、しかもそれほどじっくりというわけでもないのにこれだけかかる。それくらいスケールの大きな建物なのである。

 「ホーフブルク宮」へと向かう。歩いているとパカパカと蹄の音が近づいてくる。ザルツブルクでもウィーンでも、観光馬車が至るところで走っている。それが何の違和感もなく、街並みとよくマッチしている。歩いている側もそれほど気を遣わなくて大丈夫。


 
 昨日農業祭が行われていたところから「ホーフブルク宮」に入る。シシィ・チケットという、「ホーフブルク宮」と「シェーンブルン宮殿」共通のチケットを購入する。こちらも日本語の音声ガイドがある。これはもちろんありがたいサービスなのだが、うっ、また時間がかかるのか、と思ってしまう。それはシステムの問題ではなく、タイトなスケジュールで動いているわれわれの側の問題なのだが。



 最初はハプスブルク家の「銀器コレクション」を見学する。この部分は音声ガイドは聴かず、名品の数々に目をやる。

 2階へと階段を上る。階段ひとつとってみても、装飾がハンパではない。



 「シシィ博物館」へと進む。エリザベート(音声ガイドなどは一貫して「エリザーベト」と呼んでいた)ゆかりの品々が展示されている。僕は高校のときには西洋史はまったくといっていいほど勉強しなかったし(その分中国史はみっちり教えてもらった)、大学に入っても必要な科目を取っただけなので、この人物のことを知ったのは帝劇で「エリザベート」を観たのが最初である。舞台作品の人気もさることながら、人物そのものの人気も非常に高いことは、見学者の多さからもよくわかる。

 「シシィ博物館」から「皇帝の部屋」へ。こちらはエリザベートの夫、フランツ・ヨーゼフ1世の執務室やエリザベートの居室などを見学することができる。ガイドの解説とともに、皇帝の多忙な様子が窺える。執務室などはこの建物の部屋としては割と質素な造りだ。そして執務中、いつでも見られるようにと、机の前には大きなエリザベートの肖像画がでん、と構え、それを囲むように家族の肖像画がある。

 他方エリザベートの部屋には実家のほうの家族・親族の写真が飾られている。うーん、本当にこのような状態だったとしたら、かなりの温度差を感じるなあ。そしてフランツ・ヨーゼフ1世には、僕が舞台を観たときに演じていた、鈴木綜馬さんがぴったりと重なってしまうのである。肖像画の風貌もそっくりだ。

 エリザベートはどこか奔放さとか自由さを感じさせるが(それは窮屈さへの抵抗としても)、居室の吊り輪などを見るにつけ、いかに美に対しては厳しかったかがわかる。

 今、こんな風に私生活の様子が多くの人に見せられていることを、当の人物たちはどう思ってしまうのだろう。僕は何だか、やけにフランツ・ヨーゼフ1世に思い入れを持ってしまうのである。


 
 おみやげを、ということで「ホーフブルク宮」のなかにある、「マリアー・シュトランスキー」というお店に行く。プチポアンという、精巧な刺繍が施された商品が並んでいる。お値段も相当なものなのだが、普通のおみやげ屋さん然としたたたずまいなのがちょっと面白い。だが、お店の入口近くには、さる高貴なご一家の方々がこちらで商品をお求めになった証拠写真がしっかりと飾られている。なぜかこの国の方のお写真だけあるのが不思議だ。

(その2)に続く。


9月11日(日)晴れ

2011-10-25 18:04:09 | 

 6時起床。この旅行中、早寝早起きを徹底している。朝食のバイキングは、さすがに3日目となるともなると飽きるかと思っていたのだが、案外そうでもなかった。何しろ種類が豊富なものだから、食べられなかったものもあるくらいだ。旅の朝の基本はしっかり食べておくことだ。

 出発の準備をして、到着時に迎えてくださったガイドさんと待ち合わせ。スーツケースを曳いて歩いて駅まで向かう。列車を待っている間、いろいろとおしゃべりをする。そのうちにいろいろと列車が入線してきた。こちらの列車は流線型が基本である。

 何しろローカル列車でさえこんなにカッコいい。



 国際列車が到着する。オーストリア連邦鉄道(ÖBB)の誇る「Railjet」だ。連結作業が行われるので見物に行く。日本のものと比べるとかなりシンプルな造りである。



 ミュンヘン発ブダペスト行きの「Railjet RJ61」列車を見送ると、間もなくしてわれわれの乗る「Eurocity OEC861」列車が入線してきた。「Railjet」より遅いものの、機関車重連の客車列車は堂々たる雰囲気をまとっている。



 2等車のコンパートメントに乗る。6人がけの広々とした座席。大きなトランクもゆったりと置ける。検札に来た車掌さんは陽気なおじさんで、しかも日本にも行ったことがあるらしく、「水道橋」なんていう地名まで出てきた。震災のこと、とくに福島のことを心配していた。記念写真にも快く応じてくれた。



 コンパートメントには途中3人ほど出入りがあったが、いずれも短い区間の乗車で降りていった。それにしても乗り心地が素晴らしい。標準軌ということもあるが、ほとんど揺れない。滑らかに、滑るように駆け抜けていく。そして車窓に広がるのは広大な田園風景である。真っ青な空の下、3時間あまり、これまでの汽車旅のなかでも至高のひとときとなった。





 ウィーン西駅にはほぼ定刻に到着。ホームに下りると今度はウィーンの現地ガイドの方が待っていてくださった。乗っていた車両の位置も伝わっていたようで、探す手間もいらなかった。

 ガイドさんの案内でホテルにチェックインする。こちらでもウィーン滞在中の注意事項についてレクチャーを受けた後、ホテルのフロントでウィーンカードを購入し、早速街へと繰り出すことにした。

 ウィーン市内は至るところに路面電車が走っている。近代的な車両と古びた車両とが混ざって走っているのでたまらない。ウィーンカードがあれば市内交通は乗り放題ときている。ますますたまらない。

 地下鉄3号線に乗って中心部へと移動する。改札口はなくて、最初に乗車する際に日付をカードに刻印するのみ。車両はこちらも新旧混ざっていて、ドアを手動で開けるものとボタンで開けるものとがある。プラスチックのボックスシートが並んでいる。急発進急停車といった感じで走る。

 ウィーンの真ん真ん中、シュテファンプラッツで下車する。まずは「シュターツオーパー」(国立オペラ座)を見に行くことにした。真っ直ぐ進めばすぐにたどり着くはずなのだが、うっかり右に曲がってしまって遠回りをする形になった。

 人通りの多い中を「ペスト記念柱」の脇を抜けて歩き出す。



 さらに突き当たりを左に曲がったら、「デーメル」の前を通り、「ホーフブルク宮」の前に出た。トラクターや農具を持った人びとが集まっている。何かのお祭りだろうか。



 「シュターツオーパー」の裏手に出た。まずはウィーンでの最初の目的地、「ホテル・ザッハー」に到着。旅行プランに「カフェ・ザッハー」のクーポン券が付いているのである。ガイドブックには行列必至と書いてあったが、少し待つと座ることができた。





 こちらに来たら何といってもザッハー・トルテを食さねばならない。「デーメル」のものはザルツブルクでいただいたので、ウィーンでは「ザッハー」を食べる。オーダーをして待つ間は、辺りをきょろきょろと見回す。調度品からして素晴らしく凝っている。



 メランジェとザッハー・トルテがやってきた。こちらは「デーメル」とは違って生クリームが添えてある。





 やっぱり、非常に甘い。「デーメル」のものよりもアプリコットジャムの酸味が効いている。そして甘みのない生クリームと一緒に食べるとちょうどいい味加減になる。うーん、贅沢だ。

 再び「シュテファン寺院」に戻る。あらためて大寺院を見上げる。大きい。そして高い。戦禍にも遭っているこの建物は、その煤けた色合いからして独特のオーラをまとっているような感じがする。





 「モーツァルトハウス・ウィーン」へ。オペラ「フィガロの結婚」を作曲した家とのことで、かつては「フィガロハウス」と呼ばれていたそうだ。日本語のガイドを聞きながら見学する。

 展示は充実、音声ガイドの解説も非常に詳しいのだが、いかんせん長い!途中途中で置いてあるイスに腰掛けたりしながら聞いていたのだが、だんだん疲れてきた。出口までたどり着くとほっとした。「モーツアルト愛」が足りない者にはなかなか大変であった。



 ウィーンでの3日間は、いずれも音楽を楽しむことにしている。初日はウィーンミュージカル観劇である。地下鉄3号線から6号線へと乗り継ぐ。6号線の電車は路面電車がそのまま地下鉄になったような、少し小ぶりの車両である。



 「ライムント劇場」へ。「Ich war noch niemals in New York」という舞台を観る。10月には帝国劇場で「ニューヨークに行きたい!!」というタイトルで上演される作品である。予めインターネットでチケットを予約しておいたのだが、現地のガイドさんによれば、こちらでは大人気の作品なんだとか。「よくチケットを取れましたね!」と驚かれた。

 当日券売り場で予約確認のメールのコピーを示すとチケットを渡された。劇場のエントランスにはもぎりの人はおらず、そのまま階段を登って3階席へ。客席に入るところにもぎりの女性がいる。男性も女性もミュージカルのテーマに合わせて船員の格好をしている。

 3階の最前列の席に座る。眺めはこんな感じ。



 目の前の手すりが邪魔である。周りの人を見てみると、皆前方に身を乗り出している。日本の劇場だったらきっと注意されるだろうが、こちらでは問題ないようだ。外国人観光客と思しき人はほとんど見当たらない。

 ウィーンでのミュージカルだから、当然言語はドイツ語である。だが科白の内容はわからなくても、わかりやすいストーリーと軽快な音楽、アンサンブルの見事なダンスとで十分楽しめる。そして何よりキャストの歌唱力が素晴らしい。主人公リサ役のAnn MANDRELLAさんは、長身でカッコよく、よく通る歌声の持ち主である。相手役のアクセルを演じるKai PETERSONさんも上手だ。日本ではリサを瀬奈じゅんさんが、アクセルを橋本さとしさんがそれぞれ演じることになっている。

 初めて聴いたにもかかわらず、とても親しみやすい音楽は、こちらの名歌手ウド・ユルゲンスによるものである。現地のガイドさんは、「わかりやすくいえばオーストリアの北島三郎みたいな人です」とおっしゃっていたが、そうか、どおりで客席が中高年のおじさまおばさまばかりなのか。納得である。

 でも決して観客が落ち着いた雰囲気でいるわけではない。国民的歌手のジュークボックス・ミュージカルとあって、お客さんたちは皆口ずさみながら観入っている。だから客席はものすごく熱い。カーテンコールの盛り上がりは「マンマ・ミーア!」さながらである。

 これは実に楽しい作品だ。帝劇で上演されると知ったとき、どうもピンとこなかったのだが、これなら絶対に楽しめそうだ(帰国後、CDを買い、公演のチケットもしっかり入手した)。

 「ライムント劇場」は、重厚な造りで歴史を感じさせる。天井のあたりの装飾もそうだし、終演後の緞帳も開演前のものとはずいぶん違う。




 
 劇場の外に出る。こんなに歴史ある劇場でも、作品に合わせて船のような格好にしてしまう(屋根の上には赤い煙突まで付いている!)のがお茶目だ。劇場前に横付けされた観光バスには、おじさまおばさまが次々と乗り込んでいった。日本でいうと、かつてのコマ劇場に芝居やショーを観に来るのに近いのかもしれない。



 再び中心街へと戻る。昼間見た建物も、夜になるとまた違って見える。

 「シュテファン寺院」の内部ではミサが行われていた。詳細はわからなかったが、おそらく「9・11」の追悼が行われていたのだと思う。あの日からちょうど10年である。



 「シュターツオーパー」も灯りが点ると黄金に輝いて見える。



 劇場入口上のスクリーンには、上演中のオペラが生中継されていて、それを観る人だかりができていた。立ち見の人もいれば、しっかり敷物やイスを用意して観ている人もいる。



 さて、さすがにお腹が空いた。ウィーンのカフェは午前0時くらいまで開いているところもあって便利だ。地下鉄もそれくらいまでは動いている。

 「ホテル・ザッハー」の建物の一角にあるカフェ「モーツァルト」に入る。辺りは明るいので、外の席に座る。しっかり日本語のメニューまであって親切だ。ウィーンの名物料理、「ヴィーナー・シュニッツェル」を注文した。薄く叩いた子牛のカツレツに、たっぷりとレモンを搾って食べる。揚げ物だけれど、まったくといっていいほどしつっこくない。サクサクした食感がおいしい。

 すっかり満腹になって、ホテルに戻る。うん、ウィーンは素晴らしく楽しい。明日以降も楽しみでならない。


9月10日(土)晴れ

2011-10-25 00:14:35 | 

 6時半起床。今日も快晴である。ザルツブルクは雨の多い街だと聞いていたが、たまたまなのだろうか。ホテルでの朝食の際は昨日と同じ席に着く。昨日は中国からの旅行者が多い感じだったが、今朝は欧米の人が多いようだ。

 ホテルの前で一昨日申し込んだ現地ツアーの送迎車が来るのを待つ。ホテルの向かいの建物に朝日が当たっている。窓のところに黒い鳥がいつも留まっていると思っていたら、それは飾りだった。芸が細かい。



 予定よりも少し遅れてツアー会社の送迎車がやってきた。だがわれわれの予約については知らないとのこと。そんなはずはない。ホテルのフロントでちゃんと申し込んでおいたのだ。送迎車は他のお客さんを迎えに来たようなのだが、何とか乗せてもらって集合場所に行く。

 パノラマツアーズの「The Original Sound of Music Tour」に参加する。大型のバス2台仕立てだ。日本語のツアーももちろんあるのだが、こちらのほうが短時間で効率よく回ってこれるようだ。英語のほうは何とかなるだろう。

 2号車のバスに乗った。ガイドのペーターさんはわれわれが日本から来たと知ると「Sushi!」とかいってにこやかに迎えてくれた。後から知ったところではとても有名なガイドさんらしい。

 最初の目的地「レオポルツクローン城」に向かう。「サウンド・オブ・ミュージック」のなかで、マリアと子どもたちがボートから池に落ちてしまった場所である。背後には「ホーエンザルツブルク城」も聳え立っている。



 お次は「ヘルブルン宮殿」。ツアーではこの建物は外観を見学するのみ。お目当ては「もうすぐ17才」「何かいいこと」の場面で使用されたガラスの家である。こちらは元あった場所から移築されたものらしい。記念写真の人気スポットになっている。



 ここを出発すると、バスは丘陵地帯をぐんぐんと上っていく。見晴らしのよい草原地帯を勢いよく登る。途中、「サンクトヴォルフガング湖」に立ち寄る。



 市街地から少しばかり走るともうこのような風景に出会えるのだ。

 ツアーのお客さんは一見してわかるほどに多国籍である。説明は英語だが、会話はいろいろな言語が飛び交っている。そんな雰囲気もまた楽しい。

 モントゼーという街に着く。ここでは約1時間の自由行動。何といっても中心は「教区教会」である。映画のなかでマリアとトラップ大佐が結婚式を挙げるシーンで使われていた場所だ。映画のなかではずいぶんと煤けた印象の建物だが、実際はパステルカラーの明るいものである。



 内部はピンク色と、こちらもまた明るい。これから結婚式が開かれるらしく、歌の練習が行われていた。歌詞がわからなくても、上手かそうでないかはそれとなくわかるものである。音響がよいのでなおさらだ。だがそれがまたよい。



 結婚式に参列する人びとは、この地域の民族衣装に身を包んでいた。教会は壮麗だが、結婚式はいかにもアットホームな感じのようである。



 こちらでも観光地というのはだいたい同じようで、教会の前にはおみやげ屋さんが軒を連ねている。それらを眺めるのも楽しかったが、こちらでの一番のおみやげは、教会のなかで寄付をしていただいた小さな瓶に入った聖水である。

 少し早めにバスに戻る。バスには映画の場面場面があしらわれており、やけに目を引く。写真の反対側の側面中ほどには、乗降用の扉が付いていて、後ろの乗客はそちらから乗り降りする。よくできている。


 さて、そろそろ出発時間である。一応点呼を取っているのだが、かなりアバウトである。積み忘れ(?)が出てもおかしくなさそうだったが、何とか全員乗っていたようだ。

 ザルツブルク市内へと戻るバスの車中では、映画でリーズルを演じた女優シャーミアン・カーのインタビュービデオが流れていた。帰りは高速道路経由であっというまに出発地点の着いた。ほぼ定刻通りである。その手際のよさには感心した。

 バスを降りて、すぐ向かいの「ミラベル庭園」へ。マリアと子どもたちが「ドレミの歌」を歌うシーンに登場する。ああ、確かにこの「ペガサスの泉」なんか、見覚えがある。



 曲が終わる場面の石段は、写真を撮る人が多くいた。ちょうどこんな角度からカメラはマリアと子どもたちを撮っていたような気がする。



 撮られた側はこんな目線で進んでいったのではなかろうか。



 土曜日というのは結婚式の多い日らしく(日本でもそうだけれど)、こちらでも結婚式のカップルが歩いていた。この緑のトンネルも子どもたちが走り抜けた場所だ。



 それにしても美しく整備された庭園である。真っ青な空がよくマッチする。



 ここでいったん「サウンド・オブ・ミュージック」ロケ地めぐりは小休止。「モーツァルト!」ツアーへと移行する。ミラベル庭園からほど近い「モーツァルトの住居」へ。生家から移り住んだ家で、ウィーンへと移住するまでの間を過ごした建物だそうだ。内部には数々の楽器が展示してある。



 ずいぶんとお腹が空いてきた。新市街から旧市街へと移動して、モーツァルトも訪れたというカフェ「トマセッリ」に行く。1705年創業というから、3世紀以上の歴史がある老舗である。



 名物のチーズ入りオムレツを食す。コーヒーはアインシュペナー(ウインナーコーヒー)を注文。





 オムレツはまさに「フワトロ」で、実においしい。格別工夫がされているような感じでもないのだが、うまい。うーん、これが老舗の味というやつか。ウェイターさんがお皿を持って勧めているケーキにも惹かれるものがあったが、ここは自重。

 しかしさすがに観光地だけあって、料理を注文する際にもカタコトの英語で全く問題ない。その点ずいぶん気楽でいられる。

 ツェントラル界隈は、昨日にもまして活気があり、あちこちで大道芸人たちが技を披露している。呼び寄せられるままにコインを渡したら、美しい絵はがきをくれた。



 お腹もいっぱいになったので、腹ごなしに少し歩く。「ノンベルク修道院」へ。こちらは実在のマリア・フォン・トラップが生活した修道院で、トラップ大佐と実際に結婚式を挙げたのもこの場所である。

 修道院内部での撮影は許可されなかったものの、一度修道院に帰ったマリアを子どもたちが訪ねるシーンは実際の入口で撮影されている。



 停まっていたナチスの車がシスターの機知で動けなくなってしまった場所もこちらである。



 修道院の聖堂も見学することができる。ただし「ガイドツアーお断り」という貼り紙がしてあるところを見ると、あくまでも静粛に見る人だけに、ということなのだろう。大きな教会と比べると、ひんやりとして、厳かな雰囲気がある。





 なだらかな坂を下り、「サウンド・オブ・ミュージック」ロケ地めぐりのラスト、「メンヒスベルク展望台」へ。エレベーターで展望台に上がるのだが、入口がよくわからずにまごついた。というのも美術館の入口と一体になっているからである。一方通行の狭い道をしばらく右往左往した。こんなところをトロリーバスがすいすいと走ってしまうのだからすごい。



 こちらの展望台では、「ドレミの歌」の「ソ~ド~ラ~ファ~ミ~ド~レ~」の場面が撮影されている。旧市街が一望できる素晴らしい眺めである。こちらでも結婚披露パーティーが開かれていた。3つも結婚式に出会ってしまった。



 だんだんと日も傾いてきた。夕暮れの景色もまた美しい。さすがは世界遺産の街である。



 夕食はガイドさんおすすめの中華料理店「福楽飯店」に行く。かの小澤征爾さん行きつけのお店とのこと。さぞかし高級なお店だろうと少々びびっていたら、非常に庶民的な感じである。日本語のメニューもあって親切。春巻きとラーメン、それからもやしの炒め物を注文する。この炒め物の味が絶品だった。お値段もリーズナブル。ただし量が多くて、すっかりお腹いっぱいになってしまった。





 今夜でザルツブルク観光はおしまいである。名残を惜しんでまたしばらく街歩きをする。ぼんやりとした夜の表情もまたなかなかよい。





 新市街から旧市街へと戻る。川面に街の灯りが美しく映る。



 ゲトライデ通りは、多くのお店が閉まっているが、それでもショーウィンドーの灯りは点いているので明るい。買い物こそできなくても、ディスプレイされた商品を眺めているだけで十分楽しい。こういった街の造りだからこそできるのだろう。



 昼間は賑わっていた市場も、出店がすべて引き払って広々とした感じ。



 最後に「馬洗い池」を訪れる。こちらも昼と夜とで表情が異なる。



 ミュージカル「モーツァルト!」では、モーツァルトが「ザルツブルクなんか大嫌いだ!」と叫ぶのだが、いやはやどうして、とても美しい街である。何より中心部に見どころが密集しているので、てくてくと歩きながら回れるのがいい。もう1日くらいゆっくりしていたかったなあ、と思う。


9月9日(金)曇りのち晴れ

2011-10-24 12:43:36 | 

 6時半起床。ホテルの朝食はバイキング形式。チーズやらソーセージ、ハムやらがとても充実している。コーヒーがおいしい。

 今日が実質的な観光の初日である。外はどんよりと曇っていて、生憎のお天気ではある。ザルツブルク中央駅前の観光案内所でザルツブルクカードを購入。市内の交通機関とほとんどの観光施設が無料(もしくは割引)となるすぐれものだ。

 さっそくOBUSというトロリーバスに乗り込む。2車体連結のバスで、駅前のプラットホームのような停留所から乗る。どの系統に乗るべきかは昨日ガイドさんにレクチャーをしてもらっていた。いざ走り出すとモーターの音がするだけで、普通のバスと比べるとはるかに静かだ。

 降りるべき停留所のところで停車ボタンを押し、降車口に立ったが、ドアは開かない。ん、困った。そのうちにバスはさっさと発車してしまう。次の停留所で降りるべく停車ボタンを押した。ドアの開閉ボタンがどこにあるのか、見つけられないでいたら、見かねた他のお客さんが親切に開閉ボタンを押してくれた。ようやく下車して街歩きを始める。厚い雲の下にホーエンザルツブルク城と旧市街が見える。



 旧市街のなかで最も人通りの多いゲトライデ通りに入る。狭い道の両側が5階建てくらいのアパートなので、少々圧迫感があるが、細かな装飾が楽しい。マクドナルドでさえこんな感じだ。



 この通り沿いにあるモーツァルトの生家を見学する。内部はモーツァルト一家が生活していた当時をできるだけ再現しているようだ。子どものころに使っていたバイオリンや同じく幼い時分に書いた楽譜を見る。



 そのままゲトライデ通りを抜けてモーツァルト広場へ。中心にはモーツァルト像がある。



 朝方は少し冷えるような感じだったが、だんだんと暖かくなってきた。この銅像のほぼ真正面にある「DEMEL」のカフェに入る。こちらのチョコレートは日本でも売っていて、以前いただいて食べたことがある。まだ開店してそれほど経っていないせいか、それほど混んではいない。入口で案内されるのを待っていたが、格別声をかけてくれるわけでもないので、勝手に席に座る。すると店員さんがやってきた。そういうものらしい。

 ザッハートルテとメランジェを注文する。



 ザッハートルテは甘かった。甘いとは聞いていたが、想像以上に甘い。だがメランジェを飲むとこれが案外いい感じだ。何よりコーヒーがおいしいのがうれしい限りだ。ミルク入りのものを飲んでいるが、シュヴァルツァー(ブラック)でももちろんおいしいだろう。

 カフェで一服して外に出ると、いいお天気になってきた。映画「サウンド・オブ・ミュージック」に出てくる噴水を眺める。





 この地への旅を選んだのは、大好きなミュージカル作品「サウンド・オブ・ミュージック」「モーツァルト!」「エリザベート」の舞台を訪ねてみたかったからである。あえてそこに行ってみるというよりは、歩いているとここそこにゆかりの場所があるという感じである。

 広場から大司教の宮殿である「レジデンツ」に進む。何となく宮殿というと複雑なお城のようなものを連想してしまうのだが、こちらの宮殿は外見というか、格好は街中のアパートと同じような四角い建物である。





 だがひとたび足を踏み入れてみると、そこが庶民の世界とは大きく隔絶した場所であることを思い知らされる。こちらは日本語のイヤホンガイドがあって、詳細な解説を聞きながら見学していく。まず一歩進んでみれば、いきなり壮麗なホールだ。



 天井、壁面、床、どこに目をやっても、ひたすら贅沢で華やかだ。ここの主の一人が「モーツァルト!」に登場するコロレド大司教なわけだが、その大司教を演じた、真っ赤な衣装の山口祐一郎さんがこの場所にいることを想像して思わずにんまりする。もちろんこの建物はモーツァルトゆかりの場所でもある。











 「レジデンツ」を出ると、目の前には双塔の大きな教会「ザルツブルク大聖堂」がある。モーツァルトが洗礼を受けた場所である。



 外観もさることながら、内部の装飾の見事さに息を呑む。



 薄暗い中に陽が差してきて、明暗のコントラストが美しさをいっそう引き立たせる。



 教会と教会の間の道を通り抜けて「馬の水飲み場」に行く。こちらも「サウンド・オブ・ミュージック」に登場した場所だ。映画の印象だと少しくすんだような色合いだったような気がするが、実際に見てみると鮮やかな色彩に彩られている。



 この「馬の水飲み場」のほうからゲトライデ通りを眺める。お天気がよくなってきたこともあって、人出が多くなってきた。



 大学前広場にはたくさんの出店が出ていて、こちらも活況を呈している。気温が上がってきて暑い。スーパーでペットボトルの水を買う。つい目と鼻の先の出店とスーパーとでは、同じ銘柄の水がえらく違う。ただスーパーでの買い物はちょっと気ぜわしい。ベルトコンベアに載せた商品の会計をささっと済ませて前後の人に迷惑をかけないように気を遣わなくてはならない。



 「祝祭劇場」に行く。ガイドツアーは1日に数回で、その時間つぶしのために辺りをうろうろしていたのだ。ガイドさんは1人で、まずドイツ語で説明を、次いで同じ内容を英語で話してくれる。

 豪華なロビーを抜けると、メンヒスベルク山の岩盤をくりぬいて作られた劇場だ。「サウンド・オブ・ミュージック」のザルツブルク音楽祭でトラップ一家が合唱を披露した会場である。客席全体を巻き込んだ「エーデルワイス」の合唱は印象的だった。なぜだかやたらと司会役のマックスおじさんの姿が記憶に残っている。



 舞台の上にも上がらせてもらった。客席のほうはすっかり近代的な劇場然としている。

 続いて大劇場へ。こちらは毎年のザルツブルク音楽祭のメイン会場として知られている。





 舞台袖から裏側も見せてもらった。熱心な見学者の方は、ガイドさんにたくさん質問している。これくらいの気合いで見学したいものだ。

 祝祭劇場の見学は思ったよりも時間がかかって、時計的にはすでに夕方である。だがまだ明るい。

 「ザンクト・ペーター教会」へ。こちらは内部もさることながら、われわれにとってはやはり裏手の墓地のほうに惹かれる。





 こちらの墓地は「サウンド・オブ・ミュージック」のなかで、トラップ一家が「祝祭劇場」から逃げ出したときに身を潜めた場所である。



 いよいよザルツブルクのシンボルである、「ホーエンザルツブルク城」に上る。ケーブルカーであっという間に到着する。ものの本によっては、「城」ではなく「要塞」と書かれている。実際の印象も後者に近い感じである。





 こちらは内部の混雑を避けるためか、一定間隔で見学者を入場させているようで、入るまでにしばらく待たされた。日本語ガイドがあって、それを聞きながら進んでいく。案内されるままに上へ上へと上がっていくと、展望台に出る。ここからの眺めは素晴らしい。旧市街から新市街を一望できる。



 もともとは軍事上の要塞としての機能をもつホーエンザルツブルク城ではあるが、豪華なところはしっかり豪華に設えてある。黄金の広間ではコンサートのリハーサルが行われていた。

 再びケーブルカーで下りてくる。ツェントラルと呼ばれる旧市街は、建物と建物の間の小路が複雑に入り組んで迷路のようだ。行き止まりかと思うと、建物の中をくりぬいたような通路(パッサージュ)がある。ちゃんと外に出られるのか心許ないが、ぶらぶら歩きするのは楽しい。



 朝からさんざん歩き通しだったので、いったんホテルに帰ることにした。系統番号1番のObusに乗る。今度は終点のザルツブルク中央駅までの乗車だから、降りる際の心配もない。



 ホテルの部屋に帰ったら、へとへとになってしまった。夕食を食べに再び市街地に戻るのが面倒になって、中央駅のマクドナルドに入る。少し高めの(あくまでマクドナルドにしては、の)セットを注文したら、えらく大きなものが出てきた。それだけにお腹いっぱいになってしまった。

 時差ボケはほとんどない。よく歩いたおかげでよく眠れそうだ。


9月8日(木)晴れ(成田)→曇り(フランクフルト)→曇り(ザルツブルク)

2011-10-23 17:13:12 | 

 5時過ぎには目が覚めた。外を見るとようやく日が昇るころだ。すぐ目の前の空港がだんだんとはっきり見えてきた。

 ホテルからバスで5分ほど、成田空港の第1ターミナルに到着する。昨日下見をしておいたから、迷うことはない。だが旅行代理店のカウンターはまだ開かない。ロビーのソファは結構埋まっている。何とか空いているところを見つけて腰掛ける。

 ようやく代理店のカウンターが開いて、航空券等一式を受け取る。今回利用するのは「個人旅行」という商品で、現地での送迎や移動の面倒見てもらう以外はすべて自由である。自由はありがたいのだが、旅慣れていないわれわれにとっては、若干の不安もないではない。まあ何とかなるだろう。

 サブウェイで軽めの朝食を摂り、チェックインを済ませて搭乗口へと向かう。結構歩いた末に現れたのは、これから搭乗するエアバスA380の巨体だった。いやはや、これはでかい。でかいだけあって、搭乗するのにもいろいろ順番があって、われわれは最後のほうだった。



 座席に着く。元来飛行機は苦手だが、こうも大きいと、何だかそれこそ大船に乗った気分でいられる。通路際の席だったから、窓の外もよく見えない。ただ怖いと思っている割には、ついつい機体カメラの映像に見入ってしまったりもする。

 ルフトハンザLH0711便は、ほぼ定刻通りに成田を出発した。本当はウィーンへの直行便で行きたかったのだが、そちらはもう予約が埋まってしまっていた。よってフランクフルト乗り継ぎとなった。

 飛行機には日本人のキャビンアテンダントの方も乗務しているし、映像プログラムなんかも日本語のものがちゃんとある。もっともちょっとおかしな日本語であったりする。「エンターテインメントの概要」なんていうのは、いささかわかりづらい。その辺は質実剛健なドイツの航空会社のこと、ということで納得する。乗務員の制服も紺色で、まさに質実剛健である。機内食もまた…いやこれはなかなかおいしかった。

 映画があまり面白くなかったので、フライトの位置を示すGPS画像のようなものをたびたび眺めていた。目的地までの残り時間が表示されているが、なかなか減らない。手荷物のなかに入れておいた3冊の文庫本も読み終えてしまった。となると眠るしかない。だが明日以降のことを考えるとできるだけ起きていたい。

 フランクフルト国際空港には、ほぼ定時に到着した。空はどんよりと曇っている。確かに外国なのだが、曇り空は日本とあまり変わらない。当たり前か。

 ここで飛行機を乗り継ぐことになる。A380から降りて、長い通路を歩く。さて入国審査をどこで受けたらいいものやら。降機の際に係員の人に説明を受けたが、空港じたいがあまりにも広いものだから、よく分からない。長い列のできているところに並ぼうとしたが、どうもここで正しいのかわからない。そのうちに日本人旅行者の方が、「よくわからないですよね」と声をかけてくれた。どうも先のほうに乗り継ぎ用のゲートがあるようだ。そちらに行ってみると問題なく通過できた。

 乗り継ぐ飛行機の出発時間まで3時間近くある。さて、どうやって時間をつぶしたらいいやら。空港内のお店を覗いて回る。だが重い手荷物を持っているので、早々に疲れる。カフェに入ってみたいが、まだ外国に来たという実感が十分でないのでどうも腰が引ける。というわけで安心のスターバックスに落ち着く。こちらはShortサイズがなく、Tallサイズが標準の模様。味は当然日本で飲むものと変わらないが、周囲は飲み散らかしたのがそのまんま放置されていて、あまりきれいな感じはしない。

 出発前に、フランクフルトでは飛行機の出発ゲートの変更がままあるので注意するようにいわれていた。なので早めに再び手荷物検査を済ませて予定のゲートの前まで移動する。紺地に黄色のルフトハンザのマークが掲示されていたが、しばらくして赤地のオーストリア航空のものに変わった。どうやらここでいいらしい。

 ゲートが開いた。階段を降りるとバスが待っている。お客さんをひととおり乗せると走り出す。広い空港に駐機しているたくさんの機体を眺めながら走る。



 それにしてもなかなか着かない。いよいよ空港のはずれというところまで来て、バスが停まった。目の前には小ぶりのジェット機が駐まっている。あれ、ザルツブルクまでの飛行機はプロペラ機と聞いていたのだが(どうやら多客機にはジェット機が使用されるらしい)。

 飛行機にはフォッカー100と書いてある。リヒトホーフェンの愛機フォッカーDr.Ⅰとか「フレンドシップ」のフォッカーか!小学生のころは飛行機好きだったのだが、その後鉄道に転向して以来、ほとんど関心がなくなっていたのだが、こんなところで懐かしい社名を思い出した。



 OS266便も、ほぼ定時出発。当然小さい飛行機だから揺れるであろうと、席に着くと再び緊張してきた。だがスムースに離陸すると軽快に上昇していく。曇り空だが、そこそこ景色も見える。遊覧飛行みたいだ。

 オーストリア航空の乗務員の制服は鮮やかな赤で、ルフトハンザとは対照的だ。1時間半ほどのフライトだが、お菓子と飲みものも出た。これは実に快適。

 あっという間にザルツブルク空港に着く。タラップを降りると、あとはターミナルまで滑走路をてくてくと歩いていく。いかにもローカルな感じがする。



 荷物も無事到着した。ここで現地の旅行代理店の方が待っていてくださった。ホテルまで送っていただく間、そして到着してから、滞在中の注意事項などについてレクチャーを受ける。

 長旅の疲れと気分の高まりで、何だかおかしな感じだ。今夜はしっかり眠らなくては。とりあえず飲み水だけは買っておく。オーストリアでは水道水も問題なく飲めるとのことだったが(実際飲んでみると硬水独特の風味がするがむしろおいしい)、偵察がてら少しだけザルツブルク中央駅周辺を歩いてみた。ここに至ってようやく異国の地にたどり着いたことを実感した。