MARUMUSHI

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【A3】。

2010-12-15 23:54:10 | インポート
森達也著【A3】を読んだ。
『A』、『A2』はドキュメンタリー映画という媒体を使った表現手段だったが、今回は本という形での表現をとっている。
前二作品のタイトル”A”には、意味はない(例えばそれは犯罪を犯した未成年者をあらわす”A少年”といった意味に近い)。
けれど、【A3】の”A”には明確な意味がある。
それは、戦後最大の犯罪者といわれている麻原彰晃の”A”だ。オウム真理教という宗教団体を操り、数々の悪行を働いたとされる首謀者だ。

彼にまつわる裁判、あるいはオウム真理教を巡る裁判で明らかになった事実は、意外なほどに少ない。
彼とその側近たちが首謀者として犯罪を行ったことは間違いなかろう。もう、言い逃れるすべも無いんじゃないかと思う。
けれど、なぜ、そうなったのか?オウム真理教があれほどの重大犯罪を犯した理由は、なにも明らかにならないまま、麻原には死刑という刑罰が下った。

オウムを巡る裁判について思うのは、第二次大戦後に開かれた極東裁判(東京裁判)に近い結果になってしまっていることだ。
悪いことをした人間を、裁判で裁き、場合によっては量刑を課す。
これは確かに法というシステムの機能だ。だけど、裁判の役割ははそれだけじゃない。真実を明らかにすること。何がいつ、どうやって行われたのか?そして、なぜそうなってしまったのかを考える。法廷とはそういう場でなければならないと思う。
けれど、オウム裁判についてはその”真相の追究”が欠落したまま、裁判が終わってしまっている。非常に残念だと思う。
真相を明らかにし、オウム真理教が凶行へと走っていく過程を明らかにしなければ、同じような事件はまた起こる可能性があると俺は思う。

あの事件が起きた頃、俺は中学生で、毎日のように報道されるオウム関連のニュースをテレビで見ていた。
「もっと、何か起こらないか?もっと過激なテロが起きたりしないんだろうか?」と、ワクワクしていた。
停滞する毎日を壊してくれるでかい一発を待ち望んでいた、みんなの気持ちの創発的現象があの地下鉄サリン事件だったんじゃないかと俺は思っている。
こんなことは確認する方法なんてないし、まして実証なんて不可能だけれど。

でも、実際に起こった事件を目の前に、みんな立ちすくんだ。メディアが寄ってたかって報道する、オウム真理教の異常性を観て、さらに恐怖した。そして、「彼らと私たちは違う人間だ」と思い込んだ。当時報道の多くが、信者には高学歴者が多いことなどを報道し、「やっぱり、普通のアタマの人じゃないんだな」と思い込ませたのも一因かもしれない。
彼らと自分たちは、同じ人間だということを認めれば、一歩間違えれば自分が彼らの仲間入りをしてしまうことを認めてしまうことになる。それが恐怖だった。だから、オウム信者たちを徹底的に異物として見なすようになった。
こうやって、彼らから例外的に人権が剥奪されてしまった。
彼らは悪を犯した人間ではない何かだから、人権なんて無いに決まってると、一方的に彼らを拒絶してしまった。
その拒絶反応の最たるものが、住民票の不受理と麻原裁判なんだと思う。
「彼らは特別だから。」
という人もいるかもしれない。
けれど、これらの”特別”の拒絶反応が、いつ自分の身に起こるかわからない”前例”になってしまったことも事実だ。
正当な人権は、国民に遍く付与されるべき権利なのだ。そして、人権の一部を奪うことを決定するのが裁判という場であるべきなのだ。罪状も決定しないまま、推定有罪でことを進めてしまってはならないはずなのに。。。


オウムを巡る事件は、色んな角度から見るとまるで様相を変える。
信者から見て、
外にいる俺たちから見て、
警察や公安から見て、
メディアから見て、
そして、麻原から見て。
警察および司法が出したこれらの事件の見解は、もっともシンプルで簡単な物になっていると思う。
衆院議員選挙で大敗したオウム真理教は、逆恨みにも似た憎しみで国家転覆を図るために数々の事件を起こし、地下鉄サリン事件という未曾有のテロを起こした。
確かにこれも、一見解だと思う。
だけど、本当にこれほどシンプルな図式で表される事件だったのかな?と、疑問符も残る。
この多面的な事件を一方向だけで見て、それでおしまいにしたのは、やっぱり間違っていると思う。



著者の森達也は、これらの事件を彼なりの視点からもう一度洗い直し、国の見解とはまた違った見解を描いている。
だけど、それは彼の視点であって、俺の視点じゃない。
この本を読んで、オウム事件の真相が分かるわけじゃない。
けれど、1995年という年を区切りに明らかに変化したこの国を、もう一度見つめなおすためにも、あの事件を考え直すいいチャンスを与えてくれる本だと思う。


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