馬鹿バスケ

Brooklyn Comets(ABA)でのアシスタントコーチを終えて、今はNYでスタッツいじり。

国際ルールとNBAルール(その3)

2006年09月13日 | バスケについて考える
先日TVでWNBAファイナルをやっていて、よく見たら3ポイントラインは国際ルールと一緒だった。アメリカ女子が国際大会でも優れた成績を残しているのは、海外でもプレイしている選手が多く国際ルールに慣れていること等に加えて、WNBAでもスペースが変わらないということが挙げられよう。確かにWNBAのゲームを見ていると、男子と違ってそれなりに「フロー」があるのが判る。

ここまで国際ルールとNBAの違いに注目してきたが、必ずしもNBAルールが悪いという訳ではない。NBAとしてはより1on1に焦点が当たるようなバスケに変えたからこそ、国際的に人気を博するまでに至った訳だし、だからこそ世界中から優れたタレントが集まるようになった。それが無かったら、逆にもっと早く世界に追い越されていたかもしれない。

面白いのは、バスケットボールというのは、基本的に3ポイントラインをたった1メートル後ろに下げるだけで、これだけ違ったゲームになってしまうということ。世界でもっともレベルの高いリーグと国際大会でこれ程ゲームの質が違うスポーツは(更に言うと、それが些細なルールの違いに起因しているのにこれだけ認知されていないということ)珍しいのではないだろうか。幾らNBAが世界のトップリーグだからといっても、競技のポイントが変わっているので、そう簡単に選手を集めれば勝てるという訳ではないのである。

国際ルールはこれまでクオーター制や24秒ルールの採用など、NBAルールに追随してきたが、3ポイントラインやペイントエリアの形は変えずに今のまま据え置いた方がよいと思う。他のどの部分を変えるよりも、この二つを変えることは国際ルールを限りなくNBAに近づけてしまう。

僕はバスケットボールの本来の魅力は、前回書いた「1.スペーシング」と「2.フロー」にあると思っている。5人がゴールという一つのポイントの周りで、刻々と変わる互いのポジションに配慮しながらフローを作り上げる。またその「フロー」は一回のオフェンスで終わらない。バスケはオフェンスとディフェンスの切れ目が殆ど無いことから、時にディフェンスの好調がオフェンスへ、逆にオフェンスの好調がディフェンスへと伝播する。5人と5人がコート上で絶妙のバランスを保ちながら、絶え間ない流れの中で有機的に機能する様は実に美しい。そしてこういったバスケ本来の魅力は、今は国際ルールの中により強く残っていて、NBAルールに近づけることでそれを失って欲しくないのだ。

こっちで有名な"Slam"というバスケ雑誌があり、その中でかなり前にBob Cousyのコメントでかなり興味深いものがあり、どういう訳か書き留めておいたのでご紹介まで。彼は最近のHCがプレイをコールしてばかりいるのを非難しているのだが、一部バスケというゲームの魅力について、僕の考えと重なる部分がある。 
"The coaches have taken over and that's what I find wrong with the game. They all want to be seen standing there holding up fingers. There are two types: big egos who want control and insecure guys who think they can minimize their margin of error by controlling and over-structuring. This is true in football, where 11 people have to be on the same page carrying out their assignments perfectly for a play to be effective. But the reverse is true in basketball where the option to the play works better than the play itself. Yes, you need a basic framework, but it's a game of free flow. If coaches put as much time into teaching and disciplining the running game as going over the half cournt, they would actually minimize turnovers, because you are specializing your offense. If that's the old school, that's where I'm from. "

3回シリーズこれにて終了、お付き合い頂きありがとうございました。豪快なダンクや派手なアンクルブレイカーもよいけれど、こういったバスケの真の魅力に多くのファンが気がついてくれるようになることを願うばかり。


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2 コメント

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世界選手権 (Yumie-na)
2006-09-17 19:25:14
こんにちは。ついまたまたお邪魔しにきました。

日本にて世界選手権をおなかいっぱい満喫した幸せなバスケファンのひとりとして、ご考察楽しく読ませていただきました。

今のNBAの、スタープレイヤーの個人プレイ重視の流れには何となく釈然としないものを感じてもいたので、そのあたりをわかりやすく書いていただいて本当に面白かったです。



特に、「僕はバスケットボールの本来の魅力は、…」と書かれているあたり、とりわけ



>時にディフェンスの好調がオフェンスへ、逆にオフェンスの好調がディフェンスへと伝播する。

>5人と5人がコート上で絶妙のバランスを保ちながら、絶え間ない流れの中で有機的に機能する様は実に美しい。



という部分には深く深くうなづかされました。

NBAがいけないというわけでは決してないし、NBAにだってこういうバスケが存在しないというわけでもないと思うのですが、それでも、選手権を見ていて「本来自分が好きなバスケってものを久しぶりに目の当たりにしている気がする」としみじみ感じたというのもまた本音ではあります。



Bob Cousyのコメントも面白かったです。彼の目にはカーライルさんとかどう映るんだろうな…と、われらがペイサーズの来季にもいろいろ思いを馳せてみたり……(苦笑)
Re: 世界選手権 (t123da)
2006-09-18 00:40:53
Yumie-naさんご無沙汰してます。いつも極東監視団、楽しく拝見させて頂いてます。



仰るとおり、決してNBAが悪いという訳ではありません。ただバスケというゲームにおいて「個人技」と「チームプレイ」占める割合が、NBAルールでは「個人技」の方が高いというだけです。やはり調和を重んじる日本人だからか、ああいうアルゼンチンやヨーロッパのバスケを見ると、どこかで心地よく感じている自分がいるんです。



カーライルのバスケは、今シーズンはアップテンポになるようですね。いろいろな意味で、今までと違ったペイサーズになることを願ってます。今後も宜しくお願い致します。