![]() | ハイペリオンの没落〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)ダン シモンズ,Dan Simmons,酒井 昭伸早川書房このアイテムの詳細を見る |
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「ゆえに、詩人たることは―真の詩人たることは、人類という存在の化身となることである、と小生は悟った。詩人のマントを身にまとうことは、救世主の十字架を背負い、人類の魂の母としての、生みの苦しみを経験することにほかならぬ。/詩人となることは、神になることなのだ」(P342)
「行け!/生きて死ね、生きるために!/またはしばし生きてのち死ね/我らみなのために!」(P376)
「わが新時代の人類の膨張は、いっさい惑星のテラフォームをともなわない。われわれは困難を喜び、異質さを歓迎する。われわれは宇宙を自らに適応させたりはしない……われわれのほうが適応するのだ」(P452)
『ハイペリオン』の完結編、『ハイペリオンの没落』を読んだ。続けて読むと500ページ級の文庫4冊という長大なSF物語だが、最後まで読んだ甲斐があった。圧巻! 案外海外の小説ってオチが弱いことが多いと思うのだが、この小説は明らかに例外。『ハイペリオン』で提示された謎が後半になるにつれ、次々と明らかにされ、これでもかとうならされる。
遂に<時間の墓標>にたどりついた6人の巡礼たちだが、かの地では何も起こる気配がない。しかし、探索をするにつれ、一人、また一人と巡礼が消えていく。一方、「宇宙の蛮族」アウスターとの開戦準備を勧める人類連邦CEOのグラッド・ストーンのもとには、ジョゼフ・セヴァーンという謎の画家が招かれていた。彼は、巡礼の一人、レイミアを通して、巡礼たちの様子を「夢見る」ことが出来るというのだが…。
アウスターと人類連邦と<テクノコア>の三つ巴や、巡礼たちのシュライクとの対峙、謎の存在ジョセフ・セヴァーンの正体など、見所の多い小説である。政治的な要素、恋愛的な要素、ミステリー的な要素、そしてもちろんSF的な要素が詰め込まれまとめあげられているが、この小説はなんと言っても冒険小説ではないかと思う。派手なアクションこそ少ないものの、次から次へとめまぐるしく変わる事態と興奮は、まさに冒険小説のそれである。小説としては、『ハイペリオン』の巡礼たちが次々と自らの物語を語るという実験的な試みはないが、各所で起こる事態の推移を平行的に書き上げる筆力はまさに神業的。詩の引用は文体の書き分けなどもすごい(そしてこれを訳した訳者も)。まあ、唯一突っ込むとしたら、ときどき顔を出すちょっと行き過ぎたロマンチシズムくらいだが、アイデアを得ているジョン・キーツの詩の影響かもしれない。
『ハイペリオン』シリーズはこれで一応の終わりだが、この後に『エンデュミオン』『エンデュミオンの覚醒』という続編が続く。というのも、『ハイペリオンの没落』で<時間の墓標>が開いたのは一つの遺跡だけで、他の遺跡群の機能は謎として残されているのだ。この『エンデュミオン』だが、アマゾンのレビューとかを見ると、評判が悪い。『ハイペリオンの没落』の解説の大森望氏はシリーズで『エンデュミオン』が一番面白いといっているが、どっちが正しいのか。でもまあ、一旦他の小説に手を出し、覚悟をできたら『エンデュミオン』を読みたいと思う。