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殊能将之『ハサミ男』

2008-07-20 | 小説
ハサミ男 (講談社文庫)
殊能 将之
講談社

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「殺したければ殺せばいい。いろんな男と寝たければ寝ればいい。家族と話したくなければ話さなければいいし、義理の姉とセックスしたければすればいい。単純なことだ。何かをしたいけれどできない、何かを実行したいけれど許されない、と言って苦しんだり、悩んだり、あるいは逆にひそかに楽しんだりするのは、愚か者のすることだ。やりたいことをやればいいんだよ。自分の責任においてね」(P346)


 ミステリーとしては何かと評判のいい『ハサミ男』を読んだ。まあいわゆる叙述トリックで騙すタイプのミステリーだ。うまく騙されたくて読んだけど、どうだろう。

 あらすじ。
 年ごろの頭の良い少女を殺し、その死体にハサミを突き立てることを至高の愉しみとする連続殺人犯、通称”ハサミ男”が第三の獲物を定め、綿密な殺害計画のためにストーキングを行っていたところ、当の獲物が”ハサミ男”の手口とまったく同じ方法で殺害され、”ハサミ男”自身はその第一発見者となってしまう。偽の”ハサミ男”が捜査される中で、本物の”ハサミ男”は自分に累が及ばないため、独自の捜査を始める。

 前述したとおり、叙述トリック系のミステリである。が、正直あまりうまく騙された感じが僕はしなかったなあ。叙述トリックのネタがバラされる章でも、「え、あー、うん、そう」という感じでどうも「ころっ」と感がないというか。僕が叙述トリックを警戒していたせいもあるのかもしれないけど。

 なるべくネタバレしない範囲で語っておくと、この小説は”ハサミ男”の視点と警察の捜査の視点が交互に提示される。一方で、”ハサミ男”がかなり奇妙な人物で”医師”という独立した人格を備えていたり、また被害者にも不思議な性行があったりで、てっきり”ハサミ男”と被害者の各々の行動の動機にトリックが隠されているのかと思いきや、そうではなかった。というか、動機に関しては最後まで明らかにされないまま、上述の叙述トリックと犯人逮捕について終盤でスポットライトが当たり、そのまま終わってしまったのだ。正直、僕は叙述トリックうんぬんよりも、”ハサミ男”や被害者がどんな人物かに興味があった(正確には、トリックと人物の動機は一緒のものだと思ってた)ので、これらが特に明らかにされないまま終わってしまったのは拍子抜け。筆者の社会批評的な視点も面白かったので、期待していたのだが。まあ、冒頭に引用した文章を真に受ければ、そんなことを考えること自体迂遠だということかもしれない。

 大まかにいうなら、ミステリ好きの人が叙述トリックに騙されて読みたいタイプの小説だと思う。だから、僕のようにミステリーに特に思い入れにない人は、あんんまり…という感じになるかもしれない。うまい小説だとは思うけどね。

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