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行き詰るヘッジファンド ソロス引退「三つの理由」…AERA815号より

2011年08月10日 16時38分28秒 | 日記
ドル支配が崩れゆくなか、史上最強と呼ばれた投資家が引退する。通貨危機を舞台に世界を席巻したが、グローバル化と規制強化で商機を奪われていった。

投資家各位。重要なお知らせがありますー。
7月下旬、米国の著名投資家ジョーン・ソロス氏が率いる投資ファンド「ソロス・ファンド・マネジメント」の投資家に手紙が届いた。

ファンドはソロスー族の資金だけを運用することになり、投資家のお金は全額返還するという。「40年にわたる投資に感謝したい。(ソロスに投資した)あなたの判断が十分報われたと思っていただけると信じています」。手紙は謝意で結ばれていた。

ファンドの担当者は「ソロスは会長職を続け、大局的な戦略には関与するが、日々の運営には携わらない」と説明する。

史上最も成功したヘッジファンド運営者の実質的な引退は、ヘッジファンドというビジネスが曲がり角にきてぃることを浮き彫りにしている。

 資産の75%運用できず

ソロス氏率いるファンドが得意としたのは世界情勢の緻密な分析と経済理論を組み合わせ、割安、割高な通貨を割り出して巨額の資金をつぎ込む投機だ。

1992年の欧州通貨危機では、通貨防衛に動く英国政府に大量のポンドを売―浴びせ、数十億ドルを稼いだ。

その後も為替相場が大きく変動するたびに動向が注目を集めた。
人物像は「哲学者のよう」と言われる。直属で働いた経験がある米投資家は「上品で冷静な男だ。しかり飛ばしたりはしない。うまくぃかなければ冷徹に首を切る」と話す。

「非常に賢いが、実際にトレーディングで稼いだのは(右腕といわれた)スタンレー・ドラッケンミラー。ドラッケンミラーが優れたトレーダーなら、ソロスは優れた『人間のトレーダー』だ」

創業以来、平均年20%のリターンをあげてきたとされるソロス氏。しかし最近は不振が続いた。昨年は2・5%の増益にとどまり、今年上半期は6%の損失だった。今、運用できずにファンドに現金として残る資産が75%もあると報じられた。

ヘッジファンドが振るわなくなった背景には世界的な環境変化がある。ひとつはユーロの出現だ。欧州各国通貨はヘッジファンドの主戦場だったが、統一通貨でそのうまみが消えた。

もう一つは情報社会の進化だ。インターネットの普及で、情報格差を利用するヘッジファンドの優位は失われた。コロンビア大のブルース・グリーンワルド教授は「ソロス氏は2008年の金融危機後、価値が急落した住宅ローン担保証券を買い集めていた。

割安な商品を仕入れるのは古来の慎重な投資手法。彼はこういうことを繰り返してきただけ」と話す。時代がソロス氏に追いついたともいえる。

米政府もソロス氏を追い詰めた。投資家への手紙では「引退」の最大の理由に「規制強化」を挙げる。一定額以上の資産を扱うヘッジファンドは、来年3月から投資家や従業員、取引情報の開示義務が課され、米証券取引委員会の監査も受ける。

手間やコストを考えれば、割に合わないと考えたようだ。家族の資産運用なら規制は免れる。

 245億ドルは一族に

ポールソン・アンド・カンパニーなど大手ヘッジファンドはまだ活発に動いているが、歴史的な低金利でリターンは思うようにいかない。ソロス・ファンドでは今後、日々の運営は2人の息子が担うという。ソロス氏は表舞台からこのまま姿を消すのだろうか。

ソロス氏の下で働いていた男性は首を振る。「投資は彼のDNA。ひととき退いたとしても、結局は投資の世界に戻ってくるだろう。彼はトレードなしではいられない」。

ファンドの運用資金255億ドルのうち、外部資金は約10億ドルまで減っていた。残る245億ドルはソロスー族のもの。その気になれば、まだ市場にインパクトを与える取引ができる額ではある。

朝日新聞記者 山川一基(ニューヨーク)

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