以下は、「日中国交正常化」は誤りだった、と題して、発売中の月刊誌Hanadaセレクションに掲載された、国際教養大学学長中嶋嶺雄の論文からである。【「WiLL](花田紀凱責任編集)2012年10月号】
日本国民のみならず世界中の人たちが必読の論文である。
国交樹立を急いでいたのは中国
1972年7月の田中内閣の成立は、長く保守本道の政治を担ってきた佐藤栄作政権崩壊直後の新しい政治的機運の醸成ではあったが、それは同時に、日中国交正常化という重大な外交案件に連動したものであり、田中首相は大平外相とともに早くも同年9月に中国を訪問して、一挙に国交樹立を実現したのであった。
当時の日本国内は、「産経新聞」(当時はサンケイ新聞)以外のマスコミがこぞって、ほぼ無条件で中国との国交樹立を要求しており、前年夏に起こった衝撃的な米中接近以降の国際社会の変動のなかで、「バスに乗り遅れるな」とばかり、雪崩現象的に中国へ傾斜していったのである。
東京のホテルで、当時の三木武夫氏、田中角栄氏、大平正芳氏など自民党の領袖たちが、参事官クラスにすぎない肖向前中日備忘録貿易弁事処代表とともに壇上に並んでスクラムを組んでいた姿が、いまでも目に浮かぶ。
それほどまでに、日本は中国側に一方的に傾斜してしまい、対中国外交の戦略・戦術や日中関係の長期的な展望や将来のあるべき姿についてはまったく欠如していた。
爾来40年、尖閣諸島問題ばかりか、靖国問題、歴史認識の問題、最近の中国の軍事力増強といった一連の問題のみならず、日中双方の国民感情の問題をも冷静に見つめれば、40年前の日中国交樹立自体が正しかったのかどうかが真剣に問われるべきであろう。
私は当時、内閣官房長官の私的諮問機関としてできた国際関係懇談会の委員として、佐藤政権の時代から日中関係についての政策形成の一端にかかわるという巡り合わせにあった。
私たち学者を中心とする国際関係懇談会のメンバーは梅掉忠夫氏、石川忠雄氏、衛藤藩吉氏、永井陽之助氏、神谷不二氏ら、若手では山崎正和氏、江藤淳氏、同じく高坂正堯氏、そして私で、とくに高坂氏と私か一番若いということで幹事を務めることとなった。 その辺の経緯については、『佐藤榮作日記』(全六巻、朝日新聞社、1997~99)や『楠田實日記』(中央公論新社、2001)にもしばしば出ているが、私たちは中華人民共和国を正統政府として認めることにおいては意見が一致していたものの、台湾、つまり中華民国との関係は日本にとってきわめて重大なので、台湾との関係も十分に調整しながら中国との国交樹立を実現すべきだと考えていた。
そのことは、71年1月の国会における佐藤首相の施政方針演説にも初めて中華人民共和国という言葉を使って表現されていた。
その前後にはいわゆる保利書簡問題、すなわち自民党幹事長の保利茂氏の周恩来首相宛ての書簡を、美濃部亮吉都知事が訪中に際して携えていったという問題もあった。
この稿続く。
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