以下は前章の続きである。
母・洋子氏も涙ぐんだ
桜井
憲法改正と関連して、『月刊Hanada』六月号に掲載された論文「直筆御製発見 昭和天皇の大御心」(著者は『世界日報』編集局長の藤橋進氏)について、どうしても触れておきたいと思います。
安倍
『月刊Hanada』六月号の論文は、私も拝読して大変感銘を受けました。
母にも見せたところ、読んで涙ぐんでいましたね。
櫻井
昭和天皇の未発表の御製が二百十一首見つかり、しかも昭和天皇の直筆で残されていました。
昭和天皇はご生涯で約一万首を詠んだとされますが、政治家では岸信介元首相について詠まれ、次の三首を残されています。
「國の為務たる君(は)秋またで世をきりにけりいふべ(ぐれ)さびしく」
「その上にきみのいひたることばこそおもひふかけれのこしてきえしは」
「その上に深き思ひをこめていひしことばのこしてきみきえにけり(さりゆきぬ)」
この部分の欄外には、「言葉は聲なき聲のことなり」と書かれている。
昭和三十五年の安保改定でデモ隊が国会を取り囲んだとき、岸首相が「(デモの)参加者は限られている。(中略)私は『声なき声』に耳を頤けなければならないと思う」と語ったことに昭和天皇も共感されていたのではないか、岸首相の孤独な戦いへの深い同情を詠まれたのではないか、と筆者の藤橋さん同様、私もそう感じました。
多弁でも能弁でもいらっしゃらなかった昭和天皇にとって、和歌は心の真実を表現する重要な手段だったと指摘する専門家もいます。
そこで、私も昭和天皇の御製を改めて読み直してみました。
すると、今回の未発表御製とは別の、あるひとつの御製にハッとさせられました。
安保改定から四年半が経った昭和四十一年元旦の歌会始で詠まれた次の御製です。
「日日のこのわがゆく道を正さむとかくれたる人の声をもとむる」 日本のゆく道を正しくしようとしているからこそ、いまその隠れたる人の声を求める、と。
「声をもとむ」の「声」は、岸元首相が語った「声なき声」のことではないかと思うのです。
おそらく昭和天皇は、岸元首相が安保改正を成し遂げた先に憲法改正を考えていたことをよく御存知だった。
そこまで成し遂げてもらいたかったのではないか。
そのお気持ちが、「日日のこのわがゆく道を」の御製や「國の為務たる君(は)秋またで世をさりにけりいふべ(ぐれ)さびしく」との御製に表れていると感じます。
昭和天皇は、ひたすら国民の幸せと国家の安寧を願っておられた。
立憲君主国の君主として、政治には介入しない姿勢を貫かれましたが、国の安全を大きな高い視点から考えられていました。
また、日本が日本であり続けることを願っていらっしゃった。
たとえば、「国がらをただ守らんといばら道すすみゆくともいくさとめけり」と詠まれたように、日本の国柄の大事さを考えておられた。
国民の一人として、昭和天皇のこの御心を正しく理解しておきたいものだと思います。
同時に、殊更にそのことを強調して皇室を政治利用してはならない、と自戒しています。
安倍
自民党は憲法改正の旗を掲げ続けています。
憲法改正は結党以来の党是ですから、必ず成し遂げていきたいと考えています。
櫻井
最後に、国民の多くが案じている安定的な皇位継承について、是非、お考えをきかせて下さい。
安倍
安定的に皇位を継承することは、国家の基本にかかわる極めて重大な問題です。
男系継承が古来、例外なく維持されてきた重みなどを踏まえながら、慎重かつ丁寧な検討を行う必要があると思っています。
女性皇族の婚姻などによる皇族数の減少などにかかわる問題のなかで、皇族方のご年齢からしても先延ばしできない重要な課題と認識しておりますが、この課題の対応などについては様々な考え方や意見があり、国民のコンセンサスを得るには十分な分析と慎重な手続きが必要だと考えています。
政府としては、まずは天皇陛下の御即位に伴う一連の式典が、国民の祝福のなかでつつがなく行われるよう全力を尽くして、そのうえで衆参両院の委員会で可決された附帯決議の趣旨を尊重し、対応していきたいと思います。
櫻井
多くの課題に立ち向かっていかれますよう、期待しています。
2024/8/18 in Fukuyama