以下は今日の産経新聞に、ロシアと韓国・・・「歴史は進歩する」のウソ、と題して掲載された、筑波大学名誉教授・古田博司の論文からである。
本論文も彼が戦後の世界で有数の学者であることを証明している。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。
見出し以外の文中強調は私。
いまだに多くの人が、歴史は進歩すると考えている。
人類は過ちを繰り返しながら一歩ずつ進歩してきたのであり、やがて理想の社会へと行き着くというわけだ。
戦争にしたって、第一次世界大戦、第二次世界大戦と多くの過ちから学んできたのだから、いつかは戦争も核兵器もない平和な世界を実現できるという理想を抱く。
こういうことを言う人は、特に新聞やテレビなどに出てくるインテリやマスコミ人に多い。
彼らは、社会がある発展段階を経つつ進歩し、どの国でも必ず近代化できるし、せざるを得ないという進歩史観で世の中を論じようとする。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻は、そういう人たちが、進歩という虚構(ウソ)をばらまいてきたことを証明してしまった。
2度の大戦を経て、冷戦の敗北・ソ連崩壊まで経験したロシアは、またも侵略戦争を始め、ウクライナのみならず、他国も核で恫喝している。
ウクライナでは、ロシアが略奪や暴行、惨殺、強姦、収容所送りをしていることが報道されているが、これなど、第二次大戦末期に日ソ中立条約を破って満洲に攻め込んだソ連軍が、日本人に対してやったことと同じである。
この前近代さながらの所業を見ると、ロシアは1917年のロシア革命から100年以上の歴史を経ても、なんの進歩もしていないと言わざるを得ない。
しかし、進歩史観にとらわれた人々は、そのことがよく理解できない。
だから日本の専門家と呼ばれている人は「まさか本当にウクライナ侵攻をするとは思わなかった」などと思ってしまうのだが、それが現実だのだから仕方がない。
プーチン大統領の言動は、近代的な国家の国際ルールでは説明がつかない。
侵攻を始めたときも、「ウクライナにいるネオナチを打倒し、ロシア人を解放する」などと理由をつけていたが、これなどは韓国が「日本の旭日旗は軍国主義だ。日本は悪だ」などというのと同じレベルのイチャモンである。
古代イスラエルのエフライム族が、ギレアデという土地の人々に、「他国が侵攻したときなぜエフライム族を援軍に呼ばなかったのか。だから今回は我々が攻め込むぞ」などと、理屈の通らないイチャモンをつけて攻め込んだ(旧約聖書の「土師記」)ことが思い起こされる。
プーチン大統領の発想は近代より古代に近いように思われる。
科学の発達は別としても、精神的な意味では、そもそもロシアが近代社会を望んでいるはずだという考え自体が、勝手な思い込みなのかもしれない。
ロシア人の6割以上が、ソ連の社会主義時代がもっともいい時代だと考えているという調査もあるが、社会主義というのは身分制、専制政治、農奴制(共同農場)など古代社会に通じる要素が多く、擬古代社会ともいえる。
土地の所有権も皇帝(ツァーリ)にあり、皇帝専制の下、農奴制が敷かれていたロシア帝国によく似ているのである。
「文在寅保護法」の制定
進歩史観の誤りは、韓国をみると、もっとはっきりしている。
韓国には、今も近代国家の大原則である法の支配が根付いていない。
近代国家の大原則は、条約など国と国との約束を守ることだが、この国は1965年の日韓請求権協定で決着済みの問題を何度も何度も蒸し返している。最近では戦時労働者いわゆる「徴用工」問題をめぐり、法の番人であるはずの韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じている。
韓国では国民統合もいまだに法の支配ではなく、「反日」教育ではかられる。日本から独立したばかりの黎明期ならば、それもやむを得ないかもしれないが、70年以上も経っているのに今も「反日」という感情論が法の支配に優先するのである。
近代的な国家指導者ならば、こうした現実を憂え、法の支配を根付かせようとするものだが、韓国では元首たる大統領が自ら法治を骨抜きにしようとする。韓国には退任した大統領を次の政権が逮捕する「伝統」があるのは周知の通りだが、文在寅(ムンジェイン)前大統領は自分が逮捕されないように、在任中にいわゆる「文在寅保護法」ともいうべき法改正を行わせ、検察から独自の捜査権の大半を奪ってしまった。
このように日本では考えられないことが韓国でなぜまかり通るのか、進歩史観では説明かつかない。
新しい尹錫悦(ユンソンニョ)ル大統領になり、韓国は変わる、日韓関係も改善すると期待する人たちも少なくないようだが、果たして本当かと思う。
こう書くと、まるでロシアや韓国の悪口を書いているみたいに思われるかもしれないが、そうではない。
どんな国も進歩して近代化するのだという進歩史観で、ロシアや韓国を見ると、その史観のおかしさが露呈するということを言っているに過ぎない。
ロシアも韓国も、そういう国なのだから、そのまま受け止めるしかない。
むしろ進歩史観に照らして、「ロシアも韓国もこういう国になるに違いない」と思いこんで接すれば、自分たちの勝手な理想を押し付けることになるから、彼らにすれば迷惑なはずである。
マルクスどもが夢の跡
進歩史観はかつて、国家は歴史的な進歩の末に社会主義の理想にたどり着くというインテリたちのマルクス主義の土台となった。
日本では過去に「進歩的文化人」と呼ばれるインテリたちが朝日新聞などをにぎわし、自分たちにとって理想的と思われる海外の都合のいい事例を持ってきては「これに比べて日本は遅れている」と言っていたものだが、彼らの頭には、資本主義は社会主義に劣るもので、今の資本主義は社会主義という理想に進歩するのだ、しなければならない、それが「歴史的必然」だという考えがあった。
それは共産主義者や社会主義者を自称する者だけではない。
代表的な戦後知識人である丸山眞男も、その講義録でマルクス主義講座派(日本のマルクス主義者の一派)を受け継ぎ、ブルジョア革命からプロレタリア革命への歴史的必然を説いていた。(米原謙「丸山眞男と社会主義」『思想』第988号、2006年8月)
社会主義の理想が日本のインテリを魅了したのは、戰後、資本主義の後進国として再スタートした日本人の劣等感を打ち消してくれたからではないかと思う。
日本は米国に戦争で負けた後、政治的にも経済的にも、その米国の後ろについて資本主義の道を歩むことになったが、そうすると後に続く自分たち日本のインテリも追随的で未熟ということになる。
彼らはその劣等感から脱するために、米国とは違う、社会主義の理想を追ったのではないかと思うのだ。
敗戦コンプレックスから来るインテリの反米感情の裏返しである。
さすがに、この頃は、老朽化した進歩的文化人のこのような社会主義も影響力を失ってきたが、それでも進歩史観そのものは生きているし、そのウソを信じ込んで、骨の髄までひたってきた老人たちの人生はもはや戻らない。
先日、日本赤軍の最高幹部だった重信房子さんが懲役20年の服役を終え、出所したが、マルクス主義を信仰し、社会主義革命のために銃を乱射して無辜(むこ)の民を殺傷したり、ハイジャック事件を起こしたりしてきた日本赤軍もまた進歩史観の申し子である。
夏草や、マルクスどもが夢の跡。
罪深きは進歩史観である。
本論文も彼が戦後の世界で有数の学者であることを証明している。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。
見出し以外の文中強調は私。
いまだに多くの人が、歴史は進歩すると考えている。
人類は過ちを繰り返しながら一歩ずつ進歩してきたのであり、やがて理想の社会へと行き着くというわけだ。
戦争にしたって、第一次世界大戦、第二次世界大戦と多くの過ちから学んできたのだから、いつかは戦争も核兵器もない平和な世界を実現できるという理想を抱く。
こういうことを言う人は、特に新聞やテレビなどに出てくるインテリやマスコミ人に多い。
彼らは、社会がある発展段階を経つつ進歩し、どの国でも必ず近代化できるし、せざるを得ないという進歩史観で世の中を論じようとする。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻は、そういう人たちが、進歩という虚構(ウソ)をばらまいてきたことを証明してしまった。
2度の大戦を経て、冷戦の敗北・ソ連崩壊まで経験したロシアは、またも侵略戦争を始め、ウクライナのみならず、他国も核で恫喝している。
ウクライナでは、ロシアが略奪や暴行、惨殺、強姦、収容所送りをしていることが報道されているが、これなど、第二次大戦末期に日ソ中立条約を破って満洲に攻め込んだソ連軍が、日本人に対してやったことと同じである。
この前近代さながらの所業を見ると、ロシアは1917年のロシア革命から100年以上の歴史を経ても、なんの進歩もしていないと言わざるを得ない。
しかし、進歩史観にとらわれた人々は、そのことがよく理解できない。
だから日本の専門家と呼ばれている人は「まさか本当にウクライナ侵攻をするとは思わなかった」などと思ってしまうのだが、それが現実だのだから仕方がない。
プーチン大統領の言動は、近代的な国家の国際ルールでは説明がつかない。
侵攻を始めたときも、「ウクライナにいるネオナチを打倒し、ロシア人を解放する」などと理由をつけていたが、これなどは韓国が「日本の旭日旗は軍国主義だ。日本は悪だ」などというのと同じレベルのイチャモンである。
古代イスラエルのエフライム族が、ギレアデという土地の人々に、「他国が侵攻したときなぜエフライム族を援軍に呼ばなかったのか。だから今回は我々が攻め込むぞ」などと、理屈の通らないイチャモンをつけて攻め込んだ(旧約聖書の「土師記」)ことが思い起こされる。
プーチン大統領の発想は近代より古代に近いように思われる。
科学の発達は別としても、精神的な意味では、そもそもロシアが近代社会を望んでいるはずだという考え自体が、勝手な思い込みなのかもしれない。
ロシア人の6割以上が、ソ連の社会主義時代がもっともいい時代だと考えているという調査もあるが、社会主義というのは身分制、専制政治、農奴制(共同農場)など古代社会に通じる要素が多く、擬古代社会ともいえる。
土地の所有権も皇帝(ツァーリ)にあり、皇帝専制の下、農奴制が敷かれていたロシア帝国によく似ているのである。
「文在寅保護法」の制定
進歩史観の誤りは、韓国をみると、もっとはっきりしている。
韓国には、今も近代国家の大原則である法の支配が根付いていない。
近代国家の大原則は、条約など国と国との約束を守ることだが、この国は1965年の日韓請求権協定で決着済みの問題を何度も何度も蒸し返している。最近では戦時労働者いわゆる「徴用工」問題をめぐり、法の番人であるはずの韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じている。
韓国では国民統合もいまだに法の支配ではなく、「反日」教育ではかられる。日本から独立したばかりの黎明期ならば、それもやむを得ないかもしれないが、70年以上も経っているのに今も「反日」という感情論が法の支配に優先するのである。
近代的な国家指導者ならば、こうした現実を憂え、法の支配を根付かせようとするものだが、韓国では元首たる大統領が自ら法治を骨抜きにしようとする。韓国には退任した大統領を次の政権が逮捕する「伝統」があるのは周知の通りだが、文在寅(ムンジェイン)前大統領は自分が逮捕されないように、在任中にいわゆる「文在寅保護法」ともいうべき法改正を行わせ、検察から独自の捜査権の大半を奪ってしまった。
このように日本では考えられないことが韓国でなぜまかり通るのか、進歩史観では説明かつかない。
新しい尹錫悦(ユンソンニョ)ル大統領になり、韓国は変わる、日韓関係も改善すると期待する人たちも少なくないようだが、果たして本当かと思う。
こう書くと、まるでロシアや韓国の悪口を書いているみたいに思われるかもしれないが、そうではない。
どんな国も進歩して近代化するのだという進歩史観で、ロシアや韓国を見ると、その史観のおかしさが露呈するということを言っているに過ぎない。
ロシアも韓国も、そういう国なのだから、そのまま受け止めるしかない。
むしろ進歩史観に照らして、「ロシアも韓国もこういう国になるに違いない」と思いこんで接すれば、自分たちの勝手な理想を押し付けることになるから、彼らにすれば迷惑なはずである。
マルクスどもが夢の跡
進歩史観はかつて、国家は歴史的な進歩の末に社会主義の理想にたどり着くというインテリたちのマルクス主義の土台となった。
日本では過去に「進歩的文化人」と呼ばれるインテリたちが朝日新聞などをにぎわし、自分たちにとって理想的と思われる海外の都合のいい事例を持ってきては「これに比べて日本は遅れている」と言っていたものだが、彼らの頭には、資本主義は社会主義に劣るもので、今の資本主義は社会主義という理想に進歩するのだ、しなければならない、それが「歴史的必然」だという考えがあった。
それは共産主義者や社会主義者を自称する者だけではない。
代表的な戦後知識人である丸山眞男も、その講義録でマルクス主義講座派(日本のマルクス主義者の一派)を受け継ぎ、ブルジョア革命からプロレタリア革命への歴史的必然を説いていた。(米原謙「丸山眞男と社会主義」『思想』第988号、2006年8月)
社会主義の理想が日本のインテリを魅了したのは、戰後、資本主義の後進国として再スタートした日本人の劣等感を打ち消してくれたからではないかと思う。
日本は米国に戦争で負けた後、政治的にも経済的にも、その米国の後ろについて資本主義の道を歩むことになったが、そうすると後に続く自分たち日本のインテリも追随的で未熟ということになる。
彼らはその劣等感から脱するために、米国とは違う、社会主義の理想を追ったのではないかと思うのだ。
敗戦コンプレックスから来るインテリの反米感情の裏返しである。
さすがに、この頃は、老朽化した進歩的文化人のこのような社会主義も影響力を失ってきたが、それでも進歩史観そのものは生きているし、そのウソを信じ込んで、骨の髄までひたってきた老人たちの人生はもはや戻らない。
先日、日本赤軍の最高幹部だった重信房子さんが懲役20年の服役を終え、出所したが、マルクス主義を信仰し、社会主義革命のために銃を乱射して無辜(むこ)の民を殺傷したり、ハイジャック事件を起こしたりしてきた日本赤軍もまた進歩史観の申し子である。
夏草や、マルクスどもが夢の跡。
罪深きは進歩史観である。