以下は、「日中国交正常化」は誤りだった、と題して、発売中の月刊誌Hanadaセレクションに掲載された、国際教養大学学長中嶋嶺雄の論文からである。【「WiLL](花田紀凱責任編集)2012年10月号】
日本国民のみならず世界中の人たちが必読の論文である。
飛んで火に入る夏の虫
佐藤首相の首席秘書官の楠田實氏に依頼されて、保利書簡の原案は私が執筆したのだが、当時、周恩来総理は保利書簡を突き返したにもかかわらず、それを見ているのである。
そのなかでは、台湾問題に関する「日中復交三原則」(①中華人民共和国が唯一合法政府②台湾問題は中国の内政問題③日華平和条約は不法で破棄)には触れていなかったために、周恩来総理としては受け取るわけにはいかなかったのだといえよう。
しかしながら、佐藤政権の日中国交回復にかける意思は十分読み取れたはずで、そこに保利書簡の大きな意味があったといえよう。
当時の国際環境には米中接近という大きな動きがあったものの、一方では中ソが激しく対立していた。
日本との国交が必要だったのは、むしろ中国のほうだったのである。
そのような状況を考えると、日本側はもう少し余裕を持って中国とわたりあうべきであった。
何らのシナリオも持たずに9月に訪中し、マスコミに煽られて一挙に共同声明を発表してくるという方策とは違ったシナリオが、私たちにはあったのである。
9月に田中・大平両氏が中国を訪問して、毛沢東・周恩来と会談する。
中国側の意向も十分聞き、いったん帰国して、翌年春に国交正常化にもっていくべきだというのが、私たちのシナリオであった。
その間に台湾問題を十分に練っておき、たとえばアメリカが71年の米中接近以後、79年の国交樹立まで8年近い歳月をかけて自らのポジションを整え、国内法としての台湾関係法を制定したように、歴史的にも文化的にも台湾とのかかわりが最も深い日本としての配慮があってしかるべきであったのである。
しかし当時は、外務省もまたマスコミも、そして佐藤政権を引き継いだ田中政権下の内閣官房も、ほとんど聞く耳を持たずに日中国交を一挙に実現する方向に流れ込んでいった。
それ以来、中国側は日本を「飛んで火に入る夏の虫」のように扱う優先権を得てしまったといえよう。
その結果、ほぼ中国の意のままに操られて「日中復交三原則」を日中共同声明でも承認し、台湾(中華民国)を一方的に見捨ててしまったのである。
この拙速外交による台湾問題の大きなツケをその後、40年を経た今日まで残してしまっている。
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