以下は今日の産経新聞に掲載された石平さんの連載コラムからである。
「日本ブーム」が意味するもの
平成最後のこの4月、隣の中国ではちょっとした「日本ブーム」が起きている。
ことの始まりは新元号の発表である。
1日の11時41分頃に「令和」が発表された直後、中国国営の新華社通信や、中国の代表的なポータルサイトの『新浪』『網易』、人民日報傘下の環球時報ウェブ版などはまるで日本のメディアと競合しているかのように速報を出した。
そしてそれを受け、ネット上では日本の新元号に対するコメントが殺到し、このテーマひとつで中国のネット空間は大いに盛り上がった。
それからほぼ1週間、新元号はホットな話題であり続けた。
前述の環球時報はもちろんのこと、大都会の上海では発行部数が最も多い『新民晩報』や、全国紙の『文匯報』などが論評を掲載したり、専門家を招いて座談会を開いたりして、新元号の話題を盛り上げた。
その中で、「中華文明から発祥した元号をそこまでに大切にし、現代生活に密着させている日本人の知恵には敬服の念を禁じ得ない」と絶賛する論評もあれば、「令和」の出典は元をたどれば中国古典
にあることを殊更に強調し、「日本は中国の痕跡を消すことができない」というコメントもあった。
ネット上では、中国の失われた伝統は日本に現存することに対する称賛と羨望の声が数多く聞こえる一方、中国語で「令」と「零」の発音が同じことから、「令和の意味はすなわち。平和の思いがゼロだ」と、こじつけて日本の新元号をおとしめるような書き込みも見られた。
しかしいずれにしても、改元するのは日本であるのに、中国のメディアとネットがそれほど熱をあげて大騒ぎしている光景はまさしく不可思議である。
背後にあるのは、中国自身の喪失した伝統を今でも生かしているこの日本に対する中国人たちの、羨望と嫉妬を交えた屈折した思いではないのかと思う。
4月といえば日本では桜の季節である。
実は数年前から、「日本で花見するブーム」が中国で起きている。
日本で発行されている中国語新聞の『中文導報』は3月28日付で、「中国人が日本で『爆花見』」と題する記事を掲載した。
それによると、中国人が花見のために大挙日本に押し寄せてくる現象が起きていて、今年のシーズンだけで約100万人の中国人観光客が日本に訪れることになるという。
実際、平成最後の花見シーズンとなった今月には、伊豆半島の河津町や東京の千鳥ケ淵、京都や奈良の花見の名所で中国人観光客があふれている光景が報じられており、写真が趣味で多くの花見スポットを訪れた筆者自身も、あちこちで、桜の花に見ほれる、かつての同胞たちの姿を数多く見た。
日本の自然美の象徴である桜はこうして、多くの中国人を魅了して彼らの心をひきつけているのである。
中国人が魅力を感じているのはもちろん桜だけではない。
日本の四季折々の美しい自然風景、風情の漂う温泉旅館や日本庭園、中国自身の古き良き時代を思い起こさせる古寺や古い町並み、そして心に届く日本の温かいもてなし、それらのすべては多くの中国人の心を捉えて空前の日本観光ブームを引き起こしているのである。
江沢民政権時代からの「反日教育」が30年近くにわたって行われてきたこともむなしく、日本の伝統、日本の文化、日本の美しさがおのずと多くの中国人を魅了していることは実に興味深い。
日本はこれだけ、魅力のあふれる良い国だからであろう。
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