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アカデミー賞特集・作品賞の行方~編集賞と演技部門から分析

2022-03-25 07:10:00 | 映画賞
前回はアカデミー作品賞と監督賞、脚本賞の関係を過去データから分析しました。前回記事は以下リンクからどうぞ

アカデミー賞特集・作品賞の行方~監督賞と脚本部門から分析 - 自主映画制作工房Stud!o Yunfat 改め ALIQOUI film 映評のページ

アカデミー賞の時期がきたので、作品賞受賞を過去のデータから予想してみたいと思います。といっても近年は「例年にないこと」がしょっちゅう起こるので、データをもとにな...

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今回は、賞としては地味ながら作品賞を占ううえで非常に重要な「編集賞」と、それから主要部門である演技関係の部門から作品賞予想のための分析をしてみたいと思います。

まず作品賞候補作と重要部門のノミネート状況をおさらい
|作品賞候補作___|監督|脚本|編集|演技|
|ベルファスト___|〇_|〇_|X_|〇_|
|コーダ______|X_|〇_|X_|〇_|
|ドントルックアップ|X_|〇_|〇_|X_|
|ドライブマイカー_|〇_|〇_|X_|X_|
|デューン_____|X_|〇_|〇_|X_|
|ドリームプラン__|X_|〇_|〇_|〇_|
|リコリスピザ___|〇_|〇_|X_|X_|
|ナイトメアアリー_|X_|X_|X_|X_|
|パワーオブザドッグ|〇_|〇_|〇_|〇_|
|ウェストサイドストーリー__|〇_|X_|X_|〇_|

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【アカデミー賞作品賞と編集賞の関係】

アカデミー賞作品賞を占ううえで監督賞や脚本賞と同じくらい重要な賞が「編集賞」になります。
作品賞と編集賞のセット受賞率というのはとても低いのですが、編集賞でノミネートされない作品は作品賞をとれないというジンクスが不思議とずっと続いています。

1980年以降、編集賞にノミネートされずに作品賞を取ったケースはたった2回しかありません。
1つは「普通の人々」で、もう一つはわりと最近「バードマン」でのことです。

しかし「バードマン」は皆さんご存じの通りのワンカット映画でして、だから編集賞の候補にならなくても仕方ないかなと思います。
余談ですが「バードマン」は実際はワンカット撮影ではなく、デジタル編集を駆使してあたかもワンカットのように仕上げた作品でして、その意味ではむしろ編集賞に値する仕事だったのでは…と思います。

それにしましてもこの編集賞と作品賞の連動性は不思議といえば不思議です。
編集は映画の仕上げ作業なので、最終的な完成度が反映されると見る向きもあります。

とはいえ、「編集」としての手腕は、テンポの良さが売りのアクション映画(「マトリックス」とか「マッドマックス」とか)や音楽映画(「ボヘミアンラプソディ」とか「セッション」とか)で評価される傾向が多く、受賞するのは作品賞とは関係なくそうした映画になりがちです。

でもなぜか、テンポの良さとは無縁そうな作品であっても、作品賞受賞作は不思議と編集賞にノミネートされています。
例えば「ノマドランド」とか「ムーンライト」とか…(だからって編集が大したことないってわけではないですよ)
今回も「パワーオブザドッグ」は編集の良さが評価されるような映画とも思えないのですが、それでもこうして候補になっているところに、作品としての評価の高さが反映されています。

しかし編集の良し悪しって、よっぽどポストプロダクション作業に精通している人じゃないと、傍目にはわからないものです。
もしかするとオスカーキャンペーンで、編集でどれだけすごいことをやったか!みたいな情報が会員に回ってくるのかもしれませんが

OKテイク全部つなぐと5時間くらいになる映画を2時間にまとめたとか言われれば、編集グッジョブ!とか思いますけど、そういうのって一観客にはわからないことですよね。
「卒業」の即興感のある編集とか、ヌーベルバーグ系の映画で見たジャンプショットとか、北野武映画の間の取り方とかすごい編集だなって思いますけど、あれだって編集がいいのか、そもそもの演出がいいのか、あるいは脚本だったり撮影だったりもあるわけで、編集をその道のプロ以外が評価するなんてできるのだろうかと思うこともあります。
まあ、そんな裏事情はみんな知ってか知らずかなんとなく、いい編集だな…と思う作品は、作品自体が面白いってことでしょう。

さて、今回の作品賞候補作のうち編集賞で候補になっているのは

「パワーオブザドッグ」「ドントルックアップ」「ドリームプラン」「デューン」の4作となります。

「パワーオブザドッグ」の対抗と言われている「ベルファスト」「コーダあいのうた」は編集賞で候補になっていないため、今回の作品賞受賞は厳しそうだな…と思っています。

とはいえここ10年くらい、毎年なんかかんかで「例年にないこと」が起こっているのでまだわかりません

ちなみに「ウエストサイドストーリー」ですが、テンポの良さが命のミュージカルでありながら編集賞で候補にならないというのはちょっと作品賞獲りにおいては致命的ではないか?と思います。
その代わりに作品賞候補になっていないミュージカル映画「チック、チック…ブーン!」が編集賞候補枠の5つめに滑り込んでいて、それだけ作品としても高く評価されているのだと思います。すごく面白い映画でそもそもどうして作品賞候補にならなかったのか不思議なくらいでして、だからきっと編集賞の受賞は「チック、チック…ブーン!」だろうと思います。


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【アカデミー賞作品賞と演技部門の関係】

映画が面白かったり感動したりした時、その映画に登場したキャラを演じた役者は高く評価されがちです。別に悪いことではありません。
演技賞って言ってもスキルとしての演技力とか俳優の人気だけで評価するわけではなく、演出と脚本と撮影や編集や色々な力があっての好演・名演であることはみんな知っているので、演技を評価するってことは作品を評価するってことであっても構わないと思います。

アカデミーの演技部門は男女で主演と助演があり、計4部門でノミネート枠は20もあるわけです。
作品が評価されているなら出演者が1人もノミネートされないなんてことは普通はないのです。

とはいえ、過去に出演者が一人もノミネートされずに作品賞を受賞したケースは、多くはないけどあります

1980年以降で言うと…
「ラストエンペラー」
「ブレイブハート」
「ロードオブザリング王の帰還」
「スラムドッグミリオネア」
「パラサイト」

の5作品がそうです(圧勝した作品ばかりですね)。

で、今回のアカデミー賞で出演者が一人もノミネートされていない作品は…
「ドントルックアップ」
「ナイトメアアリー」
「リコリスピザ」
「デューン」
「ドライブマイカー」


となりまして、これらの作品賞受賞は難しい…と思わせておいて我らが「ドライブマイカー」についてはそこまで悲観的にならなくて良いと思います。

前述の演技部門でノミネートされずに作品賞とった作品群を見ていると気が付きませんか?
「ブレイブハート」と「ロードオブザリング」は置いといて、あとの3つは、主要人物がアジア人でアジアが舞台の映画じゃないですか。
思い返せば作品賞受賞はしなかったけど作品賞にノミネートされたアジアが舞台の映画、「グリーンデスティニー」「硫黄島からの手紙」「ライフ・オブ・パイ」…も演技部門では1人もノミネートされませんでした。
どうもアメリカ人はアジア人の芝居を高く評価しない傾向があるのです。いいことではないですよ。でもその傾向を考えれば「ドライブマイカー」の役者たちがノミネートされないのは想定内だし、だからって作品賞がないとまでは言えないのです。

非英語の演技って伝わりにくいだろうし、アメリカでの知名度がない役者はそれでなくても不利だろうし、アジアの役者が評価されないのも仕方ない面はあります。
だから英語で演技した渡辺謙さんや、ろうあ者の役で声を出さなかった菊地凛子さんは評価されたのかもしれません。
それ言うと全部英語の「ラストエンペラー」はなんでよってなりますし、イタリア語のロベルト・ベニーニやフランス語のマリオン・コティヤールは主演賞とってるしなあ…(この人たちは言葉を超えて響いてくる凄さありましたけどね)
それと「ミナリ」の例もあるので、最近は変わってきつつあるのかもしれません

それでもなんでも西島さんや三浦さんや岡田君の演技、評価してほしかったですけどね。
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と、今回はこんなところで、次回はいよいよアカデミー賞の私のほぼ全部門予想を発表しようと思います。

それではまた!素晴らしい映画でお会いしましょう!

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【参考データ】作品賞受賞作と編集賞、演技部門の連動性
◎⇒受賞(演技部門の場合、4つのどれかで受賞)
〇⇒ノミネート
X⇒ノミネートされず
_ 編集 演技 作品賞受賞作
2021 〇_ ◎_ ノマドランド
2020 〇_ X_ パラサイト
2019 〇_ ◎_ グリーンブック
2018 〇_ 〇_ シェイプオブウォーター
2017 〇_ ◎_ ムーンライト
2016 〇_ 〇_ スポットライト
2015 X_ 〇_ バードマン
2014 〇_ ◎_ それでも夜は明ける
2013 ◎_ 〇_ アルゴ
2012 〇_ ◎_ アーティスト
2011 〇_ ◎_ 英国王のスピーチ
2010 ◎_ 〇_ ハートロッカー
2009 ◎_ X_ スラムドッグミリオネア
2008 〇_ ◎_ ノーカントリー
2007 ◎_ 〇_ ディパーテッド
2006 ◎_ 〇_ クラッシュ
2005 〇_ ◎_ ミリオンダラーベイビー
2004 ◎_ X_ ロードオブザリング
2003 ◎_ ◎_ シカゴ
2002 〇_ ◎_ ビューティフルマインド
2001 ◎_ ◎_ グラディエーター
2000 ◎_ ◎_ アメリカンビューティー
1999 〇_ ◎_ 恋に落ちたシェイクスピア
1998 ◎_ 〇_ タイタニック
1997 ◎_ ◎_ イングリッシュペイシェント
1996 〇_ X_ ブレイブハート
1995 ◎_ ◎_ フォレストガンプ
1994 ◎_ 〇_ シンドラーのリスト
1993 ◎_ ◎_ 許されざる者
1992 〇_ ◎_ 羊たちの沈黙
1991 ◎_ 〇_ ダンスウィズウルブズ
1990 〇_ ◎_ ドライビングミスデイジー
1989 〇_ ◎_ レインマン
1988 ◎_ X_ ラストエンペラー
1987 ◎_ 〇_ プラトーン
1986 〇_ 〇_ 愛と哀しみの果て
1985 〇_ ◎_ アマデウス
1984 〇_ ◎_ 愛と追憶の日々
1983 〇_ ◎_ ガンジー
1982 〇_ 〇_ 炎のランナー
1981 X_ ◎_ 普通の人々
1980 〇_ ◎_ クレイマークレイマー

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