ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

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暴力や性的暴行…DVの被害実態を語るシンポジウムに潜入!

2013年02月19日 | Weblog

 今年4月の政府の調査結果によると、実に女性の3人に1人が配偶者から「身体的暴行」「心理的攻撃」「性的強要」のいずれかの“暴力”を受けたことがあるという。(内閣府「男女間における暴力に関する調査」(平成23年度調査)より)

 このようにDVが横行するなか、「国際スタンダードに基づくDV法等の改正に向けて」と題するシンポジウムが12月1日、東京都渋谷区内の青山学院大学であった。主催はNPO法人ヒューマンライツ・ナウ、NPO法人全国女性シェルターネット、青山学院大学人権研究会。

 同シンポでは、女性の地位向上、ジェンダー問題に取り組む国連の機関「UN Women」(ユー・エヌ・ウイメン)のアジア太平洋地域ディレクター・ロバート・クラーク氏を招へいして、国際スタンダードの観点から日本の改善点をみていくという。世界のDVの実態を知るため、現地へ向かった。

 会場は約100人が参加。8割は女性で、DV被害者も多数来場しているとのことで、参加者の写真撮影は後ろからでも禁止だった。

 シンポジウムで圧巻だったのは、夫からDVを受けて保護命令を受けた30代の女性A氏が登場して証言したことだった。当日配布されたシンポジウムのプログラムにも、当事者の証言は記載されておらず、サプライズだった。写真撮影は当然禁じられ、横に母親が寄り添う中で、A氏はこう語った。

 「私は高校の同級生であった夫と08年から同居し、09年に結婚しました。結婚当初から日常的に、殴る蹴るの身体的暴力や、精神的、性的暴行を受けてきました。はずかしい気持ちと、両親が知ったら悲しむとわかっていたので、ずっと誰にも相談できずにいました」

 その後、11年冬にA氏は別居した。すると、夫は、「妻が身勝手で、家を勝手に出ていった」と友人に話し、A氏は悪人に仕立て上げられた。

 「夫は、家の外ではとても静かで優しく良い人で通っていました」とA氏はいう。

 同年末にA氏は、「黙っていたら夫のウソが通ってしまう」という思いと、「夫からのさらなる暴力が怖かった」ため、警察に相談した。すると、警察は、裁判所に保護命令を申請するよう言った。

 「保護命令」とは、配偶者暴力防止法(DV法)に基づき、被害者が配偶者(事実婚や別居中の夫婦、元配偶者も含む)からの身体に対する暴力により、生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときに、被害者からの申立てにより、裁判所が配偶者に対し保護命令を発することをいう。

 保護命令は具体的には次の5つとなる。「接近禁止命令」(6か月間、被害者の身辺につきまとったり、住居や勤務先等の付近をうろつくことを禁止する命令)、「退去命令」(被害者が引越しをする準備のために、加害者に2か月間家から出ていくことを命じ、かつ家の付近をうろつくことも禁止する命令)、「子への接近禁止命令」(6か月間、子の身辺につきまとったり、住居や学校等をうろつくことを禁止する命令)、「親族等への接近禁止命令」(被害者の実家など親族等の住居に押し掛けて暴れるなどの状態を防ぐため、6か月間、親族等への接近を禁止する命令)、「電話等禁止命令」(6か月間、被害者に対する面会の要求、深夜の電話やFAX送信、メール送信など一定の迷惑行為を禁止する命令)。

 保護命令に違反すると、,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられる。

 A氏は12年1月、裁判所に申し立てた。「これにより、夫を刺激し、何をされるかわからないという恐怖にさらされました。また、夫から受けてきた暴力を時系列で書き上げ陳述書を作成するたびに、思い出したくない記憶を思い出しました。夫からにらまれた時の鋭い目つきを思い出しただけで、吐き気や動悸、頭痛、例えようのない気持ち悪さで、座っていることができなくなり、横になることも何度もありました」(A氏)

 2月には裁判所から呼び出しがあり、裁判官と直接話をした。A氏はこのとき初めて、夫に両手を頭上で押さえつけられて性交渉をしたり、ガムテープで口をふさがれたり、手錠を使って両手を拘束されたりしながら性交渉をするという暴行を受けたこと、これまで何度も性的強要から逃れるため、台所やリビングまで逃げたが、夫が追いかけてきて無理矢理、性的暴行を受けてきたこと、渋滞した車のなかで髪の毛をひっぱられて性的暴行を強要されたこと、などを伝えた。

 「声を出そうとすると、涙があふれ、一言話すのにも時間がかかりましたが、裁判官はとてもよく話を聞いてくれました」(A氏)

 それから数日後、裁判所から夫に対し、「A氏への接近禁止」「子どもへの接近禁止」「A氏への電話等の禁止」が命じられた。

 すると、夫はその命令を不服とし、仙台高裁に即時抗告をした。高裁は、地裁とは打って変わり、A氏を呼んで直接話を聞くこともないまま審理を終え、仙台高裁第2部の佐藤陽一裁判長は、夫の主張を鵜呑みにする形で、「原決定を取り消す」「保護命令の申し立てを却下する」との判決を下した。その後、A氏は最高裁に抗告したが、今年6月に却下された。

 A氏は夫から受けた暴行で体調を崩し、PTSDと診断され、現在も通院している。「体調には波があり、仕事につくことも難しく、難病指定の長男と、1歳の息子を抱え…経済的にも精神的にも、家族から助けてもらい生活しています」と声を詰まらせた。

 その後、夫は、DVはA氏がつくりあげたもので、精神的苦痛を受けた、としてA氏に慰謝料を請求。周りの友人たちも、保護命令が取り消されたことで、夫に深く同情し、A氏はたくさんの誹謗、中傷を受けることになったという。

 最後にA氏は「DVに苦しんでいる女性が、私のようにさらなる苦しみを受けることのないよう、心から願っています」と訴えた。

 その後、パネリストたちによる討論がはじまった。そのとき、国連のロバート・クラーク氏に対し、司会者のヒューマンライツ・ナウ副理事長の後藤弘子・千葉大学大学院教授が、「どういう点が一番、国際的なスタンダードから外れているとお考えか? その外れているところについて、どのようなストラトジー、戦略をもって日本はやっていけばいいのか?」と質問した。

 すると、意外にもロバート氏は、A氏の話について、こう語った。「本当に心の痛む話ではありましたが、ある意味では、これは世界中、どこでも同じことが起きている、と痛感させられました。ジェンダー間の不平等がいかに世の中に蔓延しているか」

 要するに、日本で起きているDVは、国際スタンダードということになる。

 さらにロバート氏は基調講演でもこう語った。「イギリスのコモンロー、普通法では、『親指の法則』というのがありますけど、皆さん、聞いたことはございますか? これは、夫は妻をムチで叩くことができるが、ただし、そのムチは夫の親指より太いものであってはならない。親指よりも細ければ、ムチを使っても構わない、ということです。

 また、こうも語った。「暴力の事例は、通報されないケースもあるので、なかなか全容が報告されるということはありません。しかし、ある程度の統計はあります。各大陸から一か国ずつ数字を出してみました」と前置きして、「ニュージーランドでは30%が暴力を経験しています。東ティモールでは34%、コスタリカ33%、トルコ39%、バングラディシュ49%、ケニア37%となっています」と言う。

 「こうした男女間の暴力の常態化は、当然のことであるという考え方は、世界中で見られるのです。多くの国で調査をするたびに、男性、女性の双方が、男性には規律の表現として、子どもたちにも妻たちにも、暴力を振るう権利があるのだ、と考えていることがわかります」(ロバート氏)

 このように、シンポジウムのタイトルは「国際スタンダードに基づくDV法等の改正に向けて」だが、「国連スタンダード」に改める必要があったようだ。

 ちなみに、国連は、「女性に対する暴力に関する立法ハンドブック」という本で、あるべき法律を提言をしている。同ハンドブックと日本のDV法を照らし合わせて、パネリストの一人で弁護士の雪田樹理氏は、次のように述べた。

 国連では、DVの保護命令は「加害に対し、医療費の支払い、カウンセリング料、シェルター代、金銭的賠償を含む被害者への経済的援助。加えて、住宅ローン、家賃、保険料、生活費、養育費が含まれる」など手厚いという。

 これに対し、日本のDV法では、保護命令は前述のように6か月間と短く、金銭面でも手薄い点を指摘。

 また、「法により保護される範囲」ついて、国連では、「婚姻関係にあるカップル、事実婚関係にあるカップル、同姓カップル、同居していないカップルを含む、親密な関係」と定義しているが、DV法では、配偶者に加え、「婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含み」としている。現実は、交際中のDVなども多発しているため、現行法に加え、国連基準に法の保護対象と拡大すべき、と同氏は訴えた。

 ほかにも、現行法では、DVの定義を「配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ。)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」としているが、国連の定義では、「身体的、性的、心理的、経済的暴力を含む」としている点を指摘。

 また、現行法では、「被害者の保護、捜査、裁判等に職務上関係のある者」は、「被害者の人権、配偶者からの暴力の特性等に関する理解を深めるために必要な研修及び啓発を行うものとする」としている。

 国連では、より具体的に、「女性に対する暴力に関する法の履行に携わる公務員(警察、検察官、裁判官を含む)に対し、適正かつジェンダーに配慮した法の履行をなしうるよう、定期的かつ組織的な研修と能力向上を命じるべきであり、また、そのような研修と能力向上は、女性に対する暴力の被害者を支援しているNGO等と密に相談しながら開発され、実施されるよう命じるべきである」としている点を指摘。

 さらに、国連では、「警察部門、検察部門で、女性に対する暴力の専門を任命、強化し、配属職員の研修実施のため財政支援を行うよう保障すべき」としている。

 また、現行法では、「国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るための活動を行う民間の団体に対し、必要な援助を行うよう努めるものとする」としているが、国連では、「法の履行のための予算の配分を命じるべきである」「専門領域の活動を行うNGOに対し、特定の予算を割り当てること」と、より具体的に明言している点を指摘。

 DVをなくすためには、こうした国連基準に適う国に改善していく必要があるのではないか。(佐々木奎一)

 


 2012年12月9日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「潜入! ウワサの現場」で記事
 
「『暴力や性的暴行…DVの被害実態を語るシンポジウムに潜入!」
 
を企画、取材、執筆しました。
 
 
 
写真は、国連機関「UN Women」のアジア太平洋地域ディレクター・ロバート・クラーク氏。


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