平成二十五年十一月四日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
「朝刊ピックアップ」で記事
「NHKが安倍政権の広報放送に!? 同意人事で問われる見識」
を企画、取材、執筆しました。
11月1日付の読売新聞一面トップに「NHK会長 交代の公算」という記事がある。これによると、NHKの松本正之会長が来年1月24日の任期満了に伴い、退任する公算が大きくなったという。
放送法に基づき、NHK会長は、財界人や有識者ら12人による「経営委員会」の委員9人以上の賛成で選出されることになっている。経営委員は、政府が人事案を示し、衆参両院での同意が必要な「国会同意人事」となる。
安倍政権は、今臨時国会で5人の経営委員を提示している。その人選は、小説家の百田(ひゃくた)尚樹氏、埼玉大名誉教授の長谷川三千子氏、日本たばこ産業(JT)顧問の本田勝彦氏、海陽中等教育学校長の中島尚正氏、JR九州会長の石原進氏の5人。
安倍首相は、百田氏の小説「永遠の0」や「海賊とよばれた男」を愛読しており、8月には月刊誌の企画で対談した仲。長谷川氏は百田氏とともに、昨年9月の自民党総裁選で首相を支援した民間有志の会の発起人に名を連ね、本田氏は学生時代、首相の家庭教師を務めるなど“安倍色”の強い人事となっている。
すでに安倍政権下では、今年の通常国会時にも、5人のNHK経営委員を任命しており、今回の人事が決定すると、計10人の経営委員が安倍氏の息のかかった人物となる。そうなると、どういう事態が懸念さるか――。
そのことについて、10月28日付のTBSラジオ「荒川強啓 デイ・キャッチ!」で経済ジャーナリストの町田徹氏が、こう語っている。町田氏によると、「安倍カラーがNHKに反映されると、たとえば、特定秘密保護法案であるとか、産業競争力強化法案(解雇特区などで物議を醸した法案)であるとか、色々な問題を報じなくなる可能性があります。NHKの会長は、普通の会社でいう、社長に当たる仕事です。経営委員は株主総会に当たる存在。その両方が、安倍政権のお友達だと、そういう可能性が出てくる」という。
そもそも放送法第4条には、放送番組の編集で「政治的に公平であること」が義務付けられている。それを担保するため、NHKは時の政権にこびることのないよう、税金ではなく、受信料で運営している。しかし、安倍首相のお友達がNHK中枢に送り込まれることで、「問題のある法案を、問題ない、と報じるだけではなく、黒を黒といわなない、まったく触れない、という報道の自主規制により、政治的公平性を損ねていく可能性がある」と指摘。
町田氏によれば、普通は、報道機関を自分の広報メディアのように扱わないのが“総理の見識”という。「本来は、受信料を払っている国民の皆さんの放送局でなければいけないのが、安倍政権のいわれるままの放送局になってしまう」(町田氏)。安倍首相の意のままになってしまうということは、ロシアのタス通信や、中国の人民日報、北朝鮮の朝鮮中央通信といった「国家の広報機関」と同じ類になってしまうということである。「そもそも国民が受信料払う必要がなくなりますよね」(町田氏)。
ちなみに、先の参院選で自公が大勝した頃から、安倍首相の政権運営に変化が出てきた。その運営手法には、政権復帰した当初の謙虚さがなくなっている、と公然と指摘する識者も出てきている。
「驕れる人も久しからず、只春の夜の夢のごとし」と『平家物語』にはある。(意味は「栄華を極めて勝手な振舞をする人は長くその身を保つことができない」(広辞苑第六版より))。安倍氏の真価が問われているのかもしれない。(佐々木奎一)