次の首相を決める選挙と目する人も多い自民党総裁選の公開討論会が9月19日、自民党本部8階ホールで開催された。主催は党青年局・女性局。現地へ向かった。
会場は超満員で、自民党の党員、地方議員、国会議員や、テレビや新聞などの大手マスコミなど500人超が参加しており、開始前から熱気を帯びていた。ちょうど約3年前に民主党が総選挙前に報道陣などを集めて、時の鳩山由紀夫代表がマニフェストを大々的に発表したことがあった。あの時とどことなく似た雰囲気である。つまり、この選挙の勝者を中心に日本の政治が動き出す、という熱気である。
その後、候補者が入場した。安倍晋三(57)、石破茂(55)、石原伸晃(55)、林芳正(51)の4氏が登壇。町村信孝氏(67)は体調不良で急遽入院したため、欠席だった。各候補の特筆すべき言動は以下の通りだ。
安倍氏は、冒頭から中国の反日デモに言及し「中国で日系企業が襲撃されていますが、日本人は決して中国の国旗を焼いたりはしません。中国人に危害を加えたりはしない。これは私たちの誇りです。この誇りは是非守っていきたい。そのためにもやっぱり教育は大切です」と、暗に中国人の無学で教養のない粗暴なデモ行為を批判した。
また、安倍氏は橋下徹大阪市長率いる「維新の会」の新自由主義的な考え方との違いについて、こう語った。「日本というのはどういう国か。朝早くみんなで起きて、額に汗して働いて、水を分かち合って、秋が迫れば天皇陛下を中心に五穀豊穣をみんなで祈っていった国なんです。この瑞穂(みずほ)の国にふさわしい、市場主義経済の形があるんだろうと私は思うんです。アメリカのように強欲をエネルギーとはせずに、道義を重んじて、真の豊かさを知る日本の価値を大切する」
なお、安倍氏は一度首相になり、辞任した過去がある。そのため、「一度総理になった人が再び出るのはいかがなものか」と批判する声もある中、こんな場面もあった。安倍氏が、「経験というのは、とっても大切です。私も経験を担い、挫折を含めて学んできました」というと、突然、会場からドッと失笑が漏れた。一瞬、安倍氏の表情も一瞬、「え?」と戸惑いを感じたように見えた。このように同氏は一度総理を経験したからか他候補に比べ落ち着いていた印象もあるが、半面、一度総理の座を自ら降りたことは、党員たちの間でネックになっていると見受けられた。
石原氏については、こう場面があった。自民党京都府連の青年局長が挙手をして諮問する折、こんな発言をしたのだ。「党青年局主催の討論会の出席は4回目ですが、前回は非常に暗い雰囲気でしてね。ただ、そのなかでも、京都選出の谷垣さん(前総裁)が一生懸命だった。それが今日おられないのは、非常に残念です!」
よく言われているように、谷垣禎一前総裁が総裁選に立候補しなかった背景には、幹事長である石原氏の出馬が背景にある。そのことについて麻生太郎元総理は13日の会見で、「石原を幹事長にしたのは、谷垣がしてくれた。それが『反谷垣』という形になって出馬するというのは、私の渡世の考え方から言ったら考えられんな。下剋上というか『平成の明智光秀』」と酷評したのは記憶に新しい。
その恨み節ともとれる京都府連のこの発言に対し、石原氏の顔が一瞬、こわばったようにも見えなくもなかった。
また石原氏は、尖閣を含めた日中外交について、「色々な人間関係のパイプを使って、こじれた時こそ話をする。それをせず、過剰な行動をした時は、戦後はじめての紛争が発生する可能性がゼロではない。こういうことにならないために、政治が、外交が、ある。今度の中国の報道をみて、中国を嫌いになる方や、それでも好きな方など、色々いると思うけど、好き嫌いで外交をやっちゃいけない、ということだけは確信しています」と吐露した。このように中国嫌いで中国政府と外交対話する気もサラサラなさそうな父親の石原慎太郎都知事とは、全く正反対の見解なのが興味深い。
経済通の林氏は「働く場所をつくる。これが経済再生の基本だと思っています。(働くこと、つまり、)『はたを楽にすること』によって、感謝をされて、自分がそこに生き甲斐を見出す。働くことを日本人は好きです。働く喜びを再び取り戻したい」と意気込みを語った。
安全保障の知識が豊富な石破氏は、外交について「ロシアの北方領土、韓国の竹島、中国の尖閣、それぞれが日本の隙をついているわけです。隙があるから入って来る。私たちは、精神論だけではなく、ずい分抜けている法律があるので、急いで整備していく。つまり、装備が十分ではない。海兵隊がない。これは自分の国民を助けに行く組織がない、離党を守る組織がないということです」と語った。
また、日米同盟については「日米関係を強めるというのは、口で百回、千回言ってもダメ。リビアでアメリカ大使が殺された時に、真っ先に総理が行って弔辞を表するのが当たり前でしょう」と暗に野田政権を批判した。
会場のボルテージがピークになったのは、維新の会について聞かれた時だった。各候補は次のように語った。
石原氏は「維新の会は、衆議院の定数を240人に半減させる、と言っているが、一票の格差を仮に1にして240人にすると、東京、大阪などの大都市ばっかりになってしまう。それで本当に日本全体の問題を国政に反映させることができるのか?」と疑問符をつけた。
林氏は「維新の会は、具体的に一体何をしたいのか。ハッサクというようなものではなく、もうちょっと小さなミカンくらいに絞られてくるといいんじゃないかな、と思います」とユーモラスに語ると、会場は爆笑と拍手で染まった。
安倍氏は「みなさん、維新の会には、石破さん、石原さん、林さんのような人います? そして、小泉さん(青年局長)や島尻さん(女性局長)のように未来のある人がいますか? 人材がいない。そして経験を積んだ人がいない」と指摘。
石破氏は「維新の会の支持が高いというのは、自民党の支持が高くないことの裏返し。自民党がどう支持を伸ばすかを考えてやっていないと、バカらしくてやってられないですよ。こんなものは」と、維新の会をこんなものは扱いしたことに、会場は爆笑、拍手が鳴り響いた。
さらに石破氏は「問われているのは自民党であって、維新が問われているわけでない。維新は全部の選挙区に候補者を立てると言っているが、じゃあ、『維新の言うことは聞きますから、命だけは勘弁よ』と言っても、しょうがないでしょう。足下見られるに決まってるんです。自民党はそのようなことにおびえる政党であってはないらない。そんな自民党は誰も期待していない」と石破節を披歴し、会場からは「そうだ!」との相槌ちの声や拍手が鳴りやまず、候補者と党員に一体感が出ていたように見受けられた。
なお、どの候補者が総裁になるにせよ、言うは易し、行うは難し、である。往々にして、野党で冷飯を食べている時に語るともっともらしく聞こえるものだ。民主党もそうだった。与党になったとき、豹変してまた国民に愛想を尽かされるのかどうか、その時こそ真価が問われる。(佐々木奎一)
2012年9月22日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
「潜入! ウワサの現場」で記事
「次の総理候補!? 自民党本部『総裁選』討論会に潜入!」
を企画、取材、執筆しました。
写真は、会場。