読書の記録

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寒暖700年周期説

2008年09月12日 | 環境・公益
 寒暖700年周期説---西岡秀雄

 地球温暖化とCO2をめぐる政策の賛否論はおおむね以下に分類される。

 1.地球が温暖化すると人間にとって不都合か
 2.不都合であるとして、実際に地球温暖化は本当に起こっているのか
 3.起こっているとすれば、それはCO2増加が原因か
 4.CO2増加が原因として、それは人間の活動によるものか
 5.人間の活動が原因として、それは同じく人間が食い止められるのか

 で、5までをYESとして通過してはじめて「食い止められるとして、その際の経済的損失をどこまで許容するか」の議論となり、先進国と途上国のバランスとか、キャップ&トレードとか、環境税とか、まあ喧々諤々いろいろ議論されるのである。

 しかし、懐疑論者や否定論者は1~5の段階でだいたい引っかかる。
 正直なところ1~5に関しては明白な解答というのは出ない気がする。ひとつひとつは客観的なデータでも、そこから描く過去と未来のシナリオはしょせん状況証拠や帰納法的な推論の積み重ねであり、賛成者も反対者も自分の都合のよいデータを引っ張り出して戦わせているに過ぎないという印象を受ける。

 思うに、今のCO2削減は、地球のため人類のためというのはあくまで建前で、要するに近代社会以降何度も繰り返されている覇権争いなのである。資源(植民地)や工業、宇宙開発、ITなど様々なお題目がこれまで繰り広げられ、そして今度は「地球温暖化とCO2削減」であり、みんな自分の国が有利なようにCO2削減のルールの綱引きをしているのだ。だから“温暖化なんか関係ねーよ”という態度は、だったら好きにすれば、と国際競争からの棄権・離脱を意味する。
 鎖国時代ならともかく、エネルギー自給率も食料自給率も極端に低い現在の日本にこのような孤立主義は絶対にありえないので、それだったら中途半端なこと言ってないで、がんがん自分の国に有利なルールを掲げて覇権の旗取りに参加してほしい、というのが個人的意見である。


 さて、本書は70年代後半に書かれたものを改訂したもので(改訂にあたって著者は95才!)、当時は「地球温暖化」なんてほとんどささやかれておらず、どちらかといえば「寒冷化」の警鐘があった時代だったように記憶するが、本書によれば少なくとも地球の中で日本列島のあるあたりは、700年の周期で、寒期と暖期がいれかわるのだそうである。その原因は太陽黒点の移動など複合的なものだそうだが、それによると日本列島の場合

 弥生中期~弥生後期 温暖期(卑弥呼の頃にピーク)
 古墳時代~飛鳥時代 寒冷期(大化改新の頃にピーク)
 奈良時代~平安時代 温暖期(将門の乱の頃にピーク)
 平安末期~室町中期 寒冷期(元寇の頃にピーク)
 室町後期~江戸中期 温暖期(秀吉太閤の頃にピーク)

 で、江戸後期から寒冷期に入り(天明の飢饉とかあった頃だね)、幕末の風雲あたりに寒冷期のピークをむかえる。桜田門外の変は3月24日に起こったが、この日の江戸は大雪であった。そこから暖かくなって、現在は温暖期のピークにむかっている途上ということになる。

 本書というか、著者の長年の研究は、それを様々な歴史文献や考古学・民俗学資料、あるいは自然資料に基づいて仮説立てしている。文献のほうは、オーロラの目撃とか桜の開花記録などに注目するわけだが、たまたまの異常気象と中長期的傾向が混同している気がするし、火山や地震との関係性にいたっては牽強付会を免れない印象もある。ただ、年輪の観察や、時代ごとの屋根の傾斜角度なんかはわりと信用度が高そうだ。過去においては寒冷期も温暖期もあったということは事実なのだろう。
 もっとも、じゃあ寒かったとされる元寇の頃はいったい何度くらいだったのか、暑かったとされる秀吉太閤の頃は何度だったのか、は本書からは分からない。静岡県で油が凍ったとか、四国沖にアシカが出没した、とかエピソードが書かれているだけである。


 ちなみにIPCCは、このような「周期的な寒暖サイクルを考慮にいれても、今の温暖化のスピードは速すぎる」と言っている。
 本書では京都の桜の開花時期の記録を調べており、それによると温暖期のピークでも桜が咲き始めるのはやっぱり4月だった。現在の日本はちょうど寒暖のピークの真ん中あたり、つまり寒冷期から温暖期に移行しつつあるときなのだが、この時点にして既に最近の京都の桜は3月末から開花する。
 これはヒートアイランド現象のせいなのか、それともやっぱり過去にない暖かさになってきているということなのだろうか。

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