ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

「化学の授業をはじめます。」 ガルマス

2024-03-18 | 読書日記

本屋をはじめた作家の今村翔吾さんは
ある賞をもらった時
書店員さんにこそお礼をしたいと
100日あまりかけて(その間一度も家に帰らず)
47都道府県の書店を回った。
原稿は車中泊をしていた車の中で書いた。
今村さんは言う。
「朝ドラのように
日々のルーティンの中に文学がちょっと落ちている
というのはすごくいい国だなと思っています」
そういえば
このところフィクション味が足りないなと反省。

「化学の授業をはじめます」(ガルマス著 2024年1月 文藝春秋 535p)を読みました。



すごく面白いです。

「調子は合わせません」と言う主人公エリザベスは化学者だ。
(1960年代が舞台)
女であるということで不利益を被ってきた。
大学院では教授に乱暴されそうになり
持っていた鉛筆で刺して怪我を負わせたため
博士号を得られず、事件は隠蔽された。
勤めた研究所でも
望む研究環境は与えられず
論文は男性研究者の名前で発表された。
(つまり盗用)

研究所で出会った(変人と言わている)天才化学者キャルヴィンは違っていた。
2人は心ゆくまで化学の話をし
(うらやましい
関心が100%に近く一致する人に巡りあうなんて)
キャルヴィンの好きなボートまで一緒に楽しむようになった。
ところが、ある日、キャルヴィンは事故死してしまう。
エリザベスは研究所を追い出され
収入の道は途絶える。
そのころキャルヴィンの子どもが宿っていることが分かる……

でもエリザベスは研究をやめない。
やめられるわけがない。
大きなお腹を抱え
猛然と台所を研究室に改装する場面には
ちょっと待ってと言いたくなる。
これから子育てしなくてはならないのに……
案の定、新生児との睡眠時間もない戦いの日々がやって来る。
(とてもリアル)

助けてくれたのは隣家に住むハリエットと愛犬のシックス・サーティ
シックス・サーティは数百語の語彙を持つ犬だ。
(登場人物(犬)の魅力的なこと!)

エリザベスは生計を立てるためにテレビの料理番組に出るようになる。
(化学者エリザベスは料理が得意)
「料理は化学」というエリザベスの料理番組は
女性たちの熱狂的な支持を受けるようになる……
(一回一回の番組がリアル)

100回近く出版社に持ち込んで
ようやく出版に漕ぎ着けて
出版されるや口コミでじわじわと広まって→ベストテン入り
全世界で発行部数600万部
というこの本

そうそう、あるある感と
悪役がバタバタと打ち倒されていく爽快感で
ページを繰る手が止まりません。

エリザベスの娘(ディッケンズを読む5才児)マッドも魅力的です。

 

 

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