「超空洞物語」(古川日出男著 2024年10月 講談社 165p)を読みました。
「光る筆」という章で源氏物語の光源氏が
「琴が鳴る」の章で宇津保物語が
交互に語られる
うえに
「光る筆」で源氏が須磨で絵を描く話は時間とともに進むのに
「琴が鳴る」の話は時間が逆に流れる。
過去へと進むのだ。
(源氏物語の絵合(えあわせ)の巻では
源氏と頭中将が帝の前で絵を見せ合って競い
最後の一番というところで
源氏が自ら須磨で描いた絵が披露され
一同はその見事な作品に涙し
勝負は源氏方の勝利で決する)
この物語の中では
源氏は
宇津保物語の場面を想像して描いている。
源氏は考える。
次は、どんな場面を描こう……と
源氏は物語を逆行で考える。
最初の場面は
京極の館にある二つの高楼で
俊蔭の娘(祖母)とその孫の七歳になるいぬ姫が
秘伝の琴を奏でる
源氏はその場面を描く。
宇津保(うつぼ)物語は
遣唐使船が難破してペルシアに漂着した俊蔭(としかげ)が
日本に持ち帰った琴を受け継いだ娘が
父母亡き後
家を失って息子と一緒に森の木のうろ(うつぼ)に住んで
秘伝の琴を弾いていると
それを聴いた昔の恋人(子の父)に見出され
妻になる話だ。
源氏は
最後の場面(時間的には最初)
俊蔭がペルシアに漂着したところを
想像し
描く。
源氏物語で人々の心を動かした絵は
須磨の荒涼とした風景を描いたものだったのかもしれないけれど
宇津保物語の場面を想像し
夢中になって描いている
という源氏像が
面白い。
「平家物語」もそうだったけど
リズムのある文体がここちよいです。
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