ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

銀河鉄道の父

2017-10-06 | 読書日記
山に初雪が降った日

「銀河鉄道の父」(門井慶喜 2017年9月刊)を読みました




銀河鉄道の父
とは
宮沢賢治の父・政次郎のこと
政次郎の視点で書かれた宮沢賢治の生涯のものがたりです

政次郎のイメージといえば
賢治の前に壁のようにそそり立っているひと
賢治に現実を突きつけるひと
無理解なひと
という感じでしょうか

この作品ではそれがひっくり返される

宮沢家では先祖に財産を蕩尽した人があって
政次郎の父喜助は道端で古着を売るところからコツコツと財を築いて
質屋を開いた
政次郎は花巻一の秀才と言われながらも
喜助の「質屋には学問は必要ねぇ」の一言で
中学進学を諦めた

政次郎はひっそりと賢治を溺愛していた
賢治が赤痢になったときは
隔離病棟に泊まり込んで
蒟蒻で腹を温めたり
枕元で歌を歌ってやったりして看病した
(その果てに腸カタルになって
生涯、腸の不調に悩まされることになる)

賢治が石集めに熱中すれば
鉱物学の本を買い込んで
その知識を賢治に語って聞かせ
標本箱が欲しいと言われれば
京都に古着の買い付けに行った時に
500個の紙箱を買って送った

ひっそりと賢治を溺愛しながらも
政次郎は冷静に分析している
「これは賢治の肥やしになるか
むしろだめにするか
答えは、わからない」

宮沢家にとって質屋という商売は
祖父が苦難の末にたどり着いた頂点であったはずだったが
政次郎はついに喜助の反対を押し切って
賢治を中学校に進学させる
そこが宮沢家のターニングポイントになる
妹たちも弟清六も進学し
賢治はさらに 盛岡高等農林に
妹トシは日本女子大にまで進む

宮沢家の蓄えは
トシが東京で入院したあたりで尽きてしまう
誰かが後を継いでくれるならば頑張りようもあろうが
賢治も清六も質屋を継ぐことはないだろう
と政次郎は思う

しかし急に生計の道を放り出すことはできない
・・・・


宮沢賢治という芽は確かにあっただろうけれど
その芽に
手をかけて育ててしまった
のは政次郎だった
という説のものがたり

読んでいると
ちょっと胃のあたりが痛くなってきます









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