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牛肉普及はアメリカの陰謀?

2007-03-23 | 動物の死体
今月初め、Thomas Eagleton元上院議員がお亡くなりになったというニュースが流れました。Eagletonさんは1972年の大統領選挙において民主党の副大統領候補になった方で、その時大統領候補だったのがジョージ・マクガバン(George McGovern)、当時上院議員(上の画像)。結局、共和党のニクソン氏に敗北したわけですが。

マクガバン氏は1960年代終わりから1970年代にかけて、Committee on Nutrition and Human Needs という上院(Senate)が設立したアメリカの食状況を調査する委員会のトップだった方です。その委員会が 1977年に発表したのが、Dietary Goals for the United States。この報告書、わたしは読んだことがないのですが、アメリカ人は果物、野菜、穀物、鶏肉、魚をもっと食べ、逆に、牛肉、卵、脂肪分が多く含まれる食品、バター脂、砂糖、塩分の摂取を減らし、全乳から無脂肪牛乳に変えること、という調査報告をしたそうです。このアドバイスは今でこそ当たり前だけれど、1977年当時は牧場経営者、卵や砂糖業者、それに酪農業者などが、自分たちが生産している食品が不健康だとアメリカ議会(Congress)が国民に伝えている、と猛反発。特に、マクガバン氏の出身州だったサウス・ダコタの牛肉生産業者たちが、報告書の即時取り下げを要求したとか。そのような反発もあって、1977年終わりに発表した改訂版では、「肉の摂取を減らそう」という否定表現が、「飽和脂肪が少ない肉や魚を選ぼう」という肯定表現に変わったそうです。まるで、前者が菜食主義志向なら後者はロハス志向のよう

この報告書が画期的だったのは、アメリカ政府が初めて"eat less"の指針を出したこと。それまでは"eat more、"つまり、いろんな種類の食物をどんどん食べなさい。それが今回初めて"eat less、"つまり、肉、卵、砂糖、塩分の摂取を減らしなさい、という指示を出したことで、"eat less”だと名指しされた食産業から反発が出たのは当然でしょう。この報告書の影響かどうかは知らないけれど、1977年を境にしてアメリカでの牛肉消費量は下り坂のようです。日本が牛肉の輸入自由化を1991年に始めざるを得なかったのは、米国内で需要が減っているから?

最近、アメリカによる日本での"牛肉普及陰謀説"が普及しているようで、日本はアメリカの牛肉押し付けの被害者だと思っている方もいるようだけれど、日本人ってそんなに"受身"だっけ?確かに戦後、アメリカの財政援助でキッチン・カーが各地を走って洋食普及に一役買ったことが、肉をはじめとする洋食の味を多くの日本人が覚えて牛肉の需要が増えた一要因かもしれません。でも、戦後直後の英語ブームもそうだけれど、日本社会や文化状況に英語や牛肉を”積極的に”受け入れれば何かしらの”得”になる要素があるんだと思うな。具体的にどういう要素があるのかは、わたしは分からないけれど。「戦勝国のアメリカが、自国で需要が減っている牛肉を敗戦国の日本に押し付けている」というような一方通行の力関係しか見ないのは、「日本人は受身で、アメリカの圧力にしり込みする臆病者」だと認めているようなもの(←実際、そうだったりして?)。Michael Pollan教授が「動物や植物は、人間が思っている以上に能動的でしたたかである」と主張しているように、アメリカ産牛肉も(安全でさえあれば)日本人が能動的に、というより積極的に受け入れている部分もあるのでは?

物事を二者に分けて考える場合、「Aが善/良/強/主体でBが悪/弱/客体」のような単純な二極思考の罠に陥らないようにしたいものです。例えば奴隷制度について学習する場合、「残酷な白人と、奴隷にされた可哀相な黒人」という見方だけで満足していては進歩がない。普段から奴隷制度にちょくちょく反発していた奴隷や、自分の日常生活が少しでも楽になるように工夫していた奴隷など、多くの奴隷が限られた状況でもagencies(能動的に起こすパワー)を活用していました。「奴隷にされた可哀相な黒人」という見方だけでは、実際に奴隷を経験して死んでいった方たちに失礼です。同じように米国産牛肉に関しても、「アメリカから牛肉を押し付けられている可哀相な日本」という見方だけで満足したくないな。

事実を確認せずに妄想だけ広げて、「日本の牛肉普及はアメリカのせいだ!」と叫んでいては、「大量破壊兵器の発見」を大義名分にイラク戦争を始めたどこかの国の大統領と変わらない。このような妄想者に限って、というかだからこそ、自分は善良者だと信じて疑わず、「戦争反対!世界平和実現!」などと臆面もなく言うからたちが悪い。自分こそが、二者間の対立や強弱関係を強調した”戦争思考”を増長していることに気付いていないんだよね。

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2 コメント

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最新記事 (しんのすけ)
2007-03-28 10:47:25
コメントがやたらと長くなったので記事にしました。そちらをご覧ください。1950年代の法案に関して知っている医者の連絡先、お待ちしています。このブログのメールに送ってくださっても結構です。
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Unknown (マーフィー)
2007-03-28 08:45:22
日本人が受け身で…では無く、敗戦国の政府はやむを得ず勝戦国の要求を飲まざるを得なかった。

このように私は解釈します。



また、資料が無いから捏造だと言われますが、極秘資料が表に出てくるのは、かかわった方が亡くなってからか、良心の呵責にうたれたときくらいでしょう。

しかも大半は処分されているかもしれないです。

あとになりましたが、1950年代の法案提出に関しては、私が以前しんのすけさんに、アメリカの大学図書館に無いですか?と裏をとろうと聞いて、しんのすけさんが初耳だ~とおっしゃったネタですよね… 政治的な真実は、闇に葬られることもありましょう。

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