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オレゴンでの学生生活から南下して社会人生活へ。IT産業でホットなサンフランシスコ・ベイエリアで地味~に文系の仕事してます

「リンカーンは『奴隷解放の父』」という評価は妥当か?―相手を主体視することの重要性

2006-02-20 | 見方・視点
黒人は醜い?』で言ったように、2月は「Black History Month(黒人史月間)」。「黒人に敬意を表してて結構なことじゃない」?そんな単純ではないようです。Black History Monthの指定や意義に関しては、アフリカ系の方の間で様々な批判があります。「『黒人史』だけに焦点を当てると、アフリカ系の歴史はまるで『アメリカ史』に含まれていないようだ」、「2月だけ黒人史について考え、後は考えなくていいようだ」等など。

学校での黒人史の教え方自体を批判している、アフリカ系の方もいます。その方いわく、「黒人史=白人による黒人差別の歴史」のような教え方をしている、とのこと。この教え方のどこが問題なのか?「白人による」という言葉から分かるように、白人の視点が中心である、というのが一点。それと関連し、『男女同権論者は、非肉食者でなければならない?』で説明したように、白人が「主体(subject)」で黒人が「客体(object)」であるという見方をしている、という問題があります。つまり、「黒人史における主体は白人であり、その白人の差別の対象としての黒人」という視点から黒人史を教えているのです。「白人が黒人をいかに差別してきたか」という見方自体は、悪いことではないでしょう。しかし、それだけに焦点を当ててしまっては、「差別してきたひどい白人と、差別されたかわいそうな黒人」という印象を生徒が抱くだけになってしまいがちです。

実際、アメリカの(白人)大学生の奴隷制に関するレポートを読むと、「白人=主体、黒人=客体」という見方をしているのがほとんど。「白人は黒人を不当に扱ってきた、云々」。そのような見方をすること自体は悪いことではないけれど、奴隷制度に対して黒人は実際にどう対処してきたのかという、黒人を主体としてみた視点が完全に欠落しています。多くの奴隷は、主人の命令に素直に従っていたわけではありません。奴隷という身分に甘んじていたのではなく、白人社会に対して「自ら」行動を起こした奴隷は大勢いたようです。反乱を起こした奴隷、日々反抗していた奴隷など、黒人を主体としてみれば、奴隷制に対して新たな面が見えてきます。

黒人を主体としてみれば、これまでの歴史認識を覆すケースにも出会います。そのいい例が、日本語で「奴隷解放の父」と呼ばれているリンカーン大統領。奴隷を解放した功績に、リンカーンは本当に値するのか?南北戦争真っ最中だった1863年1月1日、当時大統領だったリンカーンは確かに奴隷解放宣言を出しました。しかし、「奴隷開放宣言を出した=奴隷解放の父になった」と言えるほど、単純な状況ではなったようです。見逃してはならないのが、1861年の南北戦争開始と同時に、南部にいた多くの奴隷が戦争のごたごたに紛れ込み、「自ら」北部へ脱出し始めたこと。実際どれくらいの数の黒人が北部へ脱走したのか知りませんが、かなりの数に上ったようです。だから、リンカーンが奴隷開放宣言を出したからといって、わたし達が思うほどの影響は奴隷にはなかったそうです。奴隷にしてみれば、「今さら?」。「リンカーンの宣言 → 奴隷解放」という図式よりどちらかと言えば、「大勢の奴隷が北部へ脱出 → 奴隷制度崩壊 → リンカーンは奴隷開放宣言を出さざるを得ない」という状況に近かったようです。それをまるで、白人大統領が「父」として、「子」のようだった黒人奴隷を解放して「あげた」ようにきこえる、「リンカーンは『奴隷解放の父』」という評価。このリンカーン像は、黒人の行動を無視したアンフェアな評価です。

歴史評価においてだけではなく、他国/民族/人に評価を下すさい、「主体」と「客体」の関係を意識する―。この関係を意識すると、自分がいかに自分を主体化し、相手を客体視しているか、気付くことがあります。「相手に思いやりを持ちましょう」ということをよく聞きますが、これは言い換えると、「相手を主体視しましょう」と言えるのかもしれません。あなたは無意識のうちに、他人を客体視していませんか?わたしはよくしてますね(笑)。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
しんのすけさんへ (mieko)
2006-02-21 06:15:27
TBとコメントありがとうございました。

記事を読ませて頂きました。

大変、勉強になりました。

これからも宜しくおねがいします。
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コメント、ありがとうございます (しんのすけ)
2006-02-21 09:04:25
ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。
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