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どうぶつのこころ

動物の心について。サルとか類人猿とかにかたよる。個人的にフサオマキザルびいき。

フサオマキザルは模倣されることを好む

2009-08-15 23:49:59 | 社会的知性
A52 Paukner, A., Suomi, S. J., Visalberghi, E., & Ferrari, P. F. (2009).
Capuchin monkeys display affiliation toward humans who imitate them.
Science, 325, 880-883. (DOI:10.1126/science.1176269)

オマキザルは自分の模倣をおこなうヒトにたいして親愛を示す
社会的相互作用のあいだ、ヒトはよく、無意識的にも非意図的にも他者の行動を模倣している。そうすることにより、相互作用相手とのラポール、結びつき、共感が増す。この効果は、集団生活を促進させる進化的適応であると考えられ、ほかの霊長類種と共有されている可能性がある。ここで示すのは、高度に社会的な霊長類種であるオマキザルが、ヒトの模倣者のことを非模倣者よりもさまざまな方法で選好するということである。すなわち、サルは模倣者のほうを長く注視し、模倣者のほうの近くで長い時間をすごし、またトークン交換課題では模倣者のほうと頻繁に相互作用をおこなっている。これらの結果が示すように、模倣はヒト以外の霊長類で親愛を促進しうる。行動を合わせることは、他者にたいする向社会的行動をひき起こすが、これは、オマキザルにおいても、ヒトをふくむほかの霊長類においても、利他的な行動傾向の根底にあるメカニズムのひとつだったのだろう。


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CNN.co.jpScienceNowなどでニュースが出ていた研究。

著者は、アニカ・パウクナー(Annika Paukner)(アメリカ国立衛生研究所動物センター National Institute of Health Animal Center)、スティーヴン・J・スオミ(Stephen J. Suomi)(アメリカ国立衛生研究所動物センター)、エリザベッタ・ヴィザルベルギ(Elisabetta Visalberghi)(イタリア国立学術会議認知科学技術研究所 Consiglio Nazionale delle Ricerche Istituto di Scienze e Tecnologie della Cognizione)、ピエル・F・フェッラーリ(Pier F. Ferrari)(アメリカ国立衛生研究所動物センター、パルマ大学 Università di Parma)。

ヒト以外の霊長類が模倣に影響されるか、あるいは模倣を理解できるかどうかといったことについての研究が、大型類人猿やマカクでおこなわれてきた。しかし、ヒト以外の霊長類で、模倣がその後の社会的相互作用や親愛関係に与える影響についての研究は、これが初めてである。

被験者はフサオマキザル(Cebus apella)12個体。すべてアメリカ国立衛生研究所動物センターで飼育されているもの。

模倣の影響をみるための装置は、次のとおり。3つ続きのケージがある。左右のケージの前に、それぞれ実験者が立っている。被験者は中央のケージにいるが、実験者にどれほど近づくかを調べる場合には、ケージのあいだを行き来できるようになっている。

実験1。被験者がボールで遊んでいるとき、片方の実験者(模倣者)は被験者がボールを操作するのにあわせて模倣をおこなった。一方、もう片方の実験者(非模倣者)は、被験者と同時ではあるが異なる動作をおこなった。被験者が各実験者を見る注視時間を、親愛関係の指標とした。被験者は、非模倣者と比べて、模倣者のほうを長く注視した。

実験2。同様の模倣実験をおこなった。この実験では、被験者が各実験者に近づくことを、親愛関係の指標として用いた。被験者が移動して各実験者のまえのケージにいることを、その実験者に近づいていることと定義した。さらに、注視時間も測定した。被験者は、非模倣者と比べて、模倣者のほうを長く注視した。また、非模倣者と比べて、模倣者のほうの近くで長い時間をすごした。

実験3(統制実験)。模倣者のほうが被験者のサルに注意を向けていて、それが影響を与えている可能性を排除する統制実験である。両実験者は、模倣も何の動作もおこなわなかった。片方は、被験者に顔を向けていた。もう片方は、被験者から顔を背けていた。これまでと同じく、注視時間と近接時間を指標とした。被験者は、自分から顔を背けている実験者と比べて、自分に顔を向けている実験者のほうを長く注視した。これは、実験者の注意が被験者のサルに影響を与えていることを示唆している。一方、近接時間は、被験者に顔を向けている実験者と被験者から顔を背けている実験者とのあいだで、差はみられなかった。これは、実験者が被験者のサルに単純に注意を向けていることが、被験者のサルが実験者に近づいてくるかどうかに影響しないということを示唆している。この結果は、実験2の結果が模倣の影響であることを支持する。

実験4。実験1と同様の模倣実験をおこなった。この実験では、どちらの実験者とより頻繁に交換をおこなうかどうかを指標にした。被験者はすでに、自分のもっているトークン(引換券)をヒトがもってきた食物と交換する課題を習得していた。これを指標とすることができたのは、恐れている相手とは交換をおこないたがらないことがわかっていたためである。被験者は、非模倣者と比べて、模倣者のほうと頻繁に交換した。

実験5(統制実験)。実験3と同様の統制実験をおこなった。注視時間と交換の頻度を指標とした。被験者は、自分から顔を背けている実験者と比べて、自分に顔を向けている実験者のほうを長く注視した。これは、実験3と同じ結果である。一方、交換の頻度は、被験者に顔を向けている実験者と被験者から顔を背けている実験者とのあいだで、差はみられなかった。これは、実験者が被験者のサルに単純に注意を向けていることが、被験者のサルが実験者と交換をおこなうかどうかに影響しないということを示唆している。この結果は、実験4の結果が模倣の影響であることを支持する。

野生のオマキザルも、遊動、採食、捕食者からの防衛のときなどに行動を同調させている。行動の同調は、その場で社会的学習の基盤となるメカニズムとしてはたらくだけでなく、その後の社会的相互作用を増すように影響しているのだろう。ヒトだけでなく、ほかの集団生活をおこなっている霊長類でも、行動の同調は、親愛を増す「社会的な糊」(social glue)としてはたらいていると考えられる。

論文の内容は以上です。動物園でオマキザルをみたら、ぜひマネをしてみましょう。

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情報秘匿を3種のサルで比較する

2009-07-26 21:03:09 | 社会的知性
A48 Amici, F., Call, J., & Aureli, F. (2009).
Variation in withholding of information in three monkey species.
Proceedings of the Royal Society of London, Series B: Biological Sciences. (DOI:10.1098/rspb.2009.0759)

サル3種における情報秘匿の変異
これまでの戦術的欺きに関する研究により、情報をもった劣位個体がそれを知らない優位個体から情報を秘匿することは報告されてきたものの、直接に種どうしで遂行を比較するものはなかった。ここでわれわれが比較するのは、2つの情報秘匿課題において示されたサル3種の遂行である。その3種のサルは、どれほど優劣順位制が厳しいのか、また離合集散ダイナミクスがどの程度なのかで異なっている。その3種とは、クモザル、オマキザル、カニクイザルである。食物を、〔劣位個体は見えるが〕優位個体の見えないところで、不透明な箱もしくは透明な箱に隠した。透明な箱は、やり方を知っている劣位個体だけが開けられた。どの種も情報を秘匿でき、被験者は優位個体のいるときには箱と作用しあうことをしなかった。クモザルは、優位個体が箱から離れているときに時宜を得ることで、もっとも能率的に食物を回収した。オマキザルも、箱のところにひとりでいる〔優位個体が箱から離れている〕ときには、じつに能率よくおこなったが、優位個体が近くにいるときにも箱を操作してしまって食物の多くを失った。その結果はわれわれの予測を支持していた。その予測は、優劣順位制の厳しさや離合集散ダイナミクスの程度が種間でどれほど異なっているのかにもとづいている。被験者が箱に近づいていく傾向は、前者〔優劣順位制の厳しさの差異〕があるために、〔種間で〕対照的なものになっているのだろう。被験者が食物を回収するのにふさわしい状況を待つ傾向は、後者〔離合集散ダイナミクスの差異〕から影響を受けているのだろう。
キーワード:戦術的欺き(tactical deception);比較認知(comparative cognition);抑制(inhibition);クモザル(spider monkeys);オマキザル(capuchin monkeys);カニクイザル(long-tailed macaques)


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著者は、フェデリカ・アミーチ(Federica Amici)(リヴァプール・ジョン・ムーアズ大学 Liverpool John Moores University、マックス=プランク進化人類学研究所 Max-Planck-Institut für Evolutionäre Anthropologie、イタリア国立学術会議認知科学技術研究所 Istituto di Scienze e Tecnologie della Cognizione, Consiglio Nazionale delle Ricerche、ユートレヘト大学 Universiteit Utrecht)、ジョゼップ・コール(Josep Call)(マックス=プランク進化人類学研究所)、フィリッポ・アウレーリ(Filippo Aureli)(リヴァプール・ジョン・ムーアズ大学)。

情報秘匿(withholding of information)の研究。自分だけが情報を得ていて、それを優位個体から秘匿した状態で目的を達成できるかどうかというものである。霊長類における情報秘匿の研究は、京都大学でもおこなわれている(この論文でも引用されている)。チンパンジーについては、平田聡と松沢哲郎 [Hirata & Matsuzawa 2001]、フサオマキザルについては、藤田和生と黒島妃香、増田露香 [Fujita, Kuroshima, & Masuda 2002]。

被験者は、9個体のジョフロワクモザル(アカクモザル、チュウベイクモザル、Ateles geoffroyi)、7個体のフサオマキザルCebus apella)、10個体のカニクイザルMacaca fascicularis)。

課題や条件は、上の要旨のとおり。

情報秘匿の実験は、これまでにもおこなわれてきたが、直接的な種比較は初めて。社会の寛容さや群れの仕くみに応じて仮説をたて、そのとおりに結果が得られているのがおもしろい。

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クロオマキザルが嘘の警戒声で仲間を欺く

2009-07-11 01:59:40 | 社会的知性
A46 Wheeler, B. C. (2009).
Monkeys crying wolf? Tufted capuchin monkeys use anti-predator calls to usurp resources from conspecifics.
Proceedings of the Royal Society of London, Series B: Biological Sciences, online, DOI:10.1098/rspb.2009.0544

サルはオオカミが来たぞと叫ぶか。フサオマキザルは同種個体から資源を横領するために対捕食者音声を使用する
「戦術的欺き」の使用は、霊長目の認知進化において重要だったと論じられているが、野生のヒト以外の霊長類の能動的な欺きにかんして、系統的な研究は乏しい。この研究は、野生のフサオマキザル(Cebus apella nigritus)〔クロオマキザル(Cebus nigritus)〕が、食物資源を横領するため、機能的に欺くように警戒声を使用するかどうかをテストしている。もしオマキザルが「欺くように」警戒声を使用するなら、発せられる誤警戒〔誤報〕が次のようであることが予測された:(i) 劣位個体が優位個体よりも用いる、(ii) 食物の競争が激しい場合ほど頻発する、(iii) 利用できる食物が少ない場合ほど頻発する、(iv) 発声者のいる空間位置は、同種個体がその音声に反応すれば採食成功が増すような位置である。これらの予測が、実験的な文脈で被験者を観察することによりテストされた。そこでは、高価値の資源(バナナ片)の量や分布を、木の枝に吊るされた木製の台を使って操作した。誤警戒は、〔統計的に〕有意ではなかったものの、利用できる食物が多いときほど頻発していた〔上の仮説 (iii) は支持されなかった〕。一方、残り3つの予測〔(i), (ii), (iv)〕は支持された。これらの結果が全般的に支持する仮説は、警戒声はオマキザルが食物競合の作用を抑えるために用いるというものである。これが発声者にとって意図的であるかどうかは、さらなる調査を必要としている。
キーワード:警戒声(alarm calls);採食競合(feeding competition);欺き(deception);コミュニケーション(communication);霊長類(primates);Cebus apella nigritus


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1ヶ月ほどまえにニュースでも話題になっていた論文(e.g., [ScienceNOW Daily News][ナショナルジオグラフィックニュース])。著者は、ニューヨーク州立大学ストーニブルック校(Stony Brook University)のブランドン・C・ウィーラー(Brandon C. Wheeler)。

実験をおこなった場所は、アルゼンチンのイグアスー国立公園である。ここに実験者が餌場を設けることで、野生個体の調査でありながら、実験的に食物資源の量や場所を統制することができた。ここにいるのは、クロオマキザル(black capuchin, Cebus nigritus)である。論文ではフサオマキザル(tufted capuchin, Cebus apella nigritus)と書かれているが、これは、クロオマキザルがフサオマキザル(tufted capuchin, Cebus apella)の亜種だったかつての分類にしたがっている(本ブログの過去の記事「オマキザル属の分類」を参照)。このイグアスー国立公園は、アレハーンドロ・D・ブラウン(Alejandro D. Brown)、マリオ・S・ディ・ビテッティ(Mario S. Di Bitetti)、チャールズ・H・ジャンソン(Charles H. Janson)らが研究をおこなってきた有名なオマキザル研究拠点である。

警戒声(alarm call)とは捕食者が現われたときに発せられる音声で、それを合図に本人や周囲の同種個体が逃げる行動に移る。これを濫用して、捕食者がいないのに警戒声を発することで、食物資源を奪うかどうかが、今回の論文の話題である。表題に「オオカミ」とあるが、これはもちろん「オオカミ少年」からの連想であって、実際の捕食者は、猛禽、ジャガー、ヘビの類のようである。フサオマキザルは、3つの警戒声をもっていて、空中の脅威にたいするバーク(bark)と、大型のネコやヘビの類にたいするピープ(peep)とヒカップ(hiccup)である。今回は、ヒカップに注目している。

食物資源の付近で警戒声を記録するわけだが、それは4つに分類された。
1) 潜在的な樹上の脅威にたいする反応:これは、本当に危険が迫っているときに発せられた警戒声で、ふつうの使用方法である。
2) 他者の警戒声にたいする反応:他者が警戒声を発しているときにそれに応答するように警戒声を発することがある。
3) 同種個体から受けた攻撃にたいする反応:他者から攻撃を受けたとき、警戒声を発すれば、相手は捕食者がやってきたと勘違いして注意が逸れる。これも機能的欺きであり、非常におもしろい行動であるのだが、今回は食物の横領に注目しているため、詳細に分析を加えることはしていない。
4) 資源関連欺き警報(resource-related deceptive alarm, RRDA):今回の研究のおもな対象は、この警戒声である。上の3つに比べ、ある警戒声がRRDAであることを確定するのは曖昧になりがちであるため、しっかりと基準を設けている。

記録された警戒声の内訳は、下のとおりである。
1) 潜在的な樹上の脅威にたいする反応:4
2) 他者の警戒声にたいする反応:15
3) 同種個体から受けた攻撃にたいする反応:16
4) RRDA:25
けっこう嘘をついている。

25回の嘘のうち10回で、それを聞いた仲間が逃げた。けっこう騙されている。その10回のうち3回は餌場から発声者以外のすべての個体が逃げたわけではなく、結局食物の獲得に成功しなかった。その10回のうち7回では、発声者はまんまと食物を得ることに成功している。

RRDAの機能としては、採食競合を和らげるということが考えられているので、次の仮説が考えられ、ひとつ以外は支持された。
(i) 劣位個体のほうが優位個体よりも頻繁に使用する。
(ii) 食物が狭い場所に密集している場合のほうが、広い場所に散らばっている場合よりも頻繁に使用する。
(iii) 食物の量が少ない場合のほうが、多い場合よりも頻繁に使用する。⇒データはこれを支持しなかった。実際は、食物の多いときのほうが頻繁に使用していたが、これも統計的に有意ではなかった。
(iv) 食物の横領がしやすいため、食物に近いところにいるときのほうが、食物から離れているときよりも頻繁に使用する。

データは全般的に、RRDAが採食競合を和らげる機能を果たしているという考えを支持している。何度もRRDAが繰り返されていると、騙される側も理解していって、この行動は意味がなくなっていきそうだが、実際は上でみたように残っている。重要なのは、警戒声が本当だった場合のコスト(命を失うかもしれない)に比べて、警戒声が嘘だった場合のコスト(少量の食物の損失)が小さいということである。警戒声を受信する側は、better safe than sorry(転ばぬ先の杖)という戦略をとっているようだ(e.g., [Haftorn 2000])。

ただ、この「欺き」という表現は、あくまでRRDAという行動の機能を文脈にそって説明しようとしたときの言葉である。そこで「機能的に欺くような」(functionally deceptive)と呼ばれている。本人に欺く気があるのかどうか、つまり「意図的に欺くような」(intentionally deceptive)ものなのかどうかは、この研究だけからはわからない。著者は可能性を3つ考えている。
1) 意図的欺き。他者の信念を理解する認知能力をもっている場合にかぎる。自分が警戒声を発すれば、相手は捕食者が来たと信じるということが、発声者にはわかっている。
2) 連合学習。警戒声を発すると、食物が獲得しやすくなるという状況を繰り返し経験することで、警戒声を発することと食物とを連合することを学習した。
3) 生理学的メカニズム。フサオマキザルの先行研究によれば、持続的なストレスがかかっている場合、警戒声を発しやすくなる。優位個体が先においしい食べものをとってしまい、高いストレスを受けていることは、考えられることである。

いずれにしても、順位の低い個体の生き残り戦略という側面があることを気に留めてください。嘘をついているからといってズルをしていると思われると、オマキザル好きとしてはちょっと悲しいです。まあ、ズルをするというのも、一種の知性ですけれども。

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2009-07-26追記。
この論文のオマキザルが、印刷時に表紙画像として採用されました。

ボノボのほうがチンパンジーよりも協力にたけている

2008-05-25 21:42:56 | 社会的知性
A43 Hare, B., Melis, A. P., Woods, V., Hastings, S., & Wrangham, R. (2007).
Tolerance allows bonobos to outperform chimpanzees on a cooperative task.
Current Biology, 17, 619-623. [link]

協力課題においてボノボは寛容さのおかげでチンパンジーを凌駕する
協力の進化にかかる制約を理解するため、われわれは、ボノボおよびチンパンジーが協力して食物回収問題を解決する能力を比較した。われわれは、2つの仮説を提出した。「情動反応性仮説」は、寛容の水準がボノボのほうで高いため、ボノボのほうがもっと協力に成功するだろうと予測する。この予測は、馴化動物の研究から着想されている;このような研究は、情動性反応にたいする選択が社会的問題を解決する能力に影響しうるということを示唆している[1, 2]。対照的に、「狩猟仮説」は、チンパンジーのみが野生で協力して狩猟していることが報告されているため[3-5]、チンパンジーのほうがもっと協力に成功するだろうと予測する。われわれは、動物が共採食しているあいだに社会的寛容を測定することで情動反応性を指標化し、ボノボのほうがチンパンジーよりも共採食に寛容であることを発見した。加えて、共採食テストのあいだ、ボノボだけが社会的性行動を示したし、〔チンパンジーと比べて〕もっとよく遊んでいた。独占するのが難しい食物を回収する課題を呈示されたとき、ボノボとチンパンジーとは、同じように協力的だった。しかし、食物報酬が非常に独占しやすいとき、ボノボは、チンパンジーと比べて、それを回収するために協力することに成功した。これらの結果は、情動反応性仮説を支持している。気質にたいする選択〔淘汰〕は、ヒト上科を含む種のあいだに広がる協力能力の相違をある程度説明するかもしれない。
〔[1] Hare B, Plyusnina I, Ignacio N, Schepina O, Stepika A, Wrangham R, Trut L (2005) Social cognitive evolution in captive fox is a correlated by-product experimental domestication. Curr Biol 15:226-230. [2] Hare B, Tomasello M (2005) Human-like social skills in dogs? Trends Cogn Sci 9:439-444. [3] Mitani J, Watts D (2001) Why do chimpanzees hunt and share meat? Anim Behav 61:915-924. [4] Boesch C, Boesch-Achermann H (2000) The chimpanzees of the Taï Forest. Oxford University Press, Cambridge, England. [5] Fruth B, Hohmann G (2002) How bonobos handle hunts and harvests: why share food? In: Boesch C, Hohmann G, Marchant L (eds) Behavioral diversity in chimpanzees and bonobos. Cambridge University Press, Cambridge, England, pp 231-243〕

マックスプランク進化人類学研究所のブライアン・ヘア、アリシア・ペレス・メリス、ヴァネッサ・ウッズ、サラ・ヘイスティングズ、ハーヴァード大学のリチャード・ランガムの論文。

ブライアン・ヘアが2008年5月28日(水)「チンパンジーとボノボの認知の比較」というタイトルで京都大学にて講演をするそうです(こちら)。ヴァネッサ・ウッズも翌日に講演があります。

前回平田と不破の論文を紹介したが(こちら)、その装置を元にしたメリスらの研究があって(こちら)、今回はその発展版。

装置の図はこのようなもの。このブログで3回目の掲載になるが。

何回かまえの記事でドゥ・ヴァールがA1で言及しているのがこの論文だろうと思われます。

霊長類の協力行動の心理学的研究について、いろいろと紹介してきましたが、90年代~00年代についてはあと3回ほどでだいたい尽くせると思います。

チンパンジーが協力行動を学習する

2008-05-25 21:10:36 | 社会的知性
A42 Hirata, S. & Fuwa, K. (2007).
Chimpanzees (Pan troglodytes) learn to act with other individuals in a cooperative task.
Primates, 48, 13-21. [link]

チンパンジー(Pan troglodytes)は協力課題において他個体といっしょに行為することを学習する
われわれは、2個体のチンパンジーに、食物を支えるブロックを手の届くところまで引き寄せるために同時にロープの両端を引くことを求められる課題を呈示した。チンパンジーは、最初のテストでは成功しなかった。彼らは、協力に必要なことをすぐには理解せず、相手といっしょにはたらくように行動を調整しなかった。しかし、成功の頻度は、セッション数が増し、課題が変化するにつれ、徐々に増えていった。彼らは、よく相手を見るようになり、相手がロープをもっていないならば待つようになり、相手と同期してロープを引くようになった。しかし彼らは、行動を同期させるために相互作用行動ないしアイコンタクトを使用しなかった。それから、片方のチンパンジーは、同じ状況でヒトの相手と組まされた。最初の失敗のあと、そのチンパンジーはヒトの相手に協力を求めて誘いかけはじめた:顔を見あげる、発声する、相手の手を引く。このチンパンジーがふたたびチンパンジーの相手と組まされたとき、誘いかけ行動はまったく観察されなかった。かくして、チンパンジーは試行錯誤を通して行動を協調させることを学習できた。コミュニカティヴな行動は課題のあいだに現われたが、コミュニケーションは相手が誰かによって変化した。
キーワード チンパンジー(chimpanzee)・協力(cooperation)・誘いかけ(solicitation)

林原類人猿研究センターの平田聡、不破紅樹の論文。

以前にメリスらの論文を紹介したが(こちら)、その装置の元ネタとなったのが、本研究。メリスらの研究が出版されたときにはまだこの論文は出ていなかったので、メリスらは『発達』に掲載された日本語の論文を引用している。日本語が読めるかどうか以前に、海外だと『発達』そのものの入手が困難そうだ。

装置の見た目は違うが、基本的な構造は同じで、ひもを同時に引くことで装置が手前に寄ってきて食べものを獲得できる。ただし、ひとりで片方のひもを引くと、するするとひもが抜けてしまい、食べものは食べられない。なお、平田 & 不破の課題は、ひもの長さがメリスらの課題よりも短めで、ひとりでは確実に両方のひもが引けないようになっている。

上で述べたとおり、メリスらのものとは見た目は違うのだが、メリスらの研究を紹介したときに作成した図を再掲する。

論文のタイトルにはあらわれていないが、要旨にあるとおり、チンパンジーが、協力相手がヒトであるかチンパンジーであるかによって、誘いかけをおこなうかどうかが変わってくるとのこと。おもしろい点だと思う。

ヒト幼児とチンパンジーの協力活動

2008-05-25 20:29:01 | 社会的知性
A41 Warneken, F., Chen, F., Tomasello, M. (2006).
Cooperative activities in young children and chimpanzees
Child Development, 77, 640-663. [link]
幼い子どもとチンパンジーとにおける協力活動
ヒトの18‐24ヶ月齢の子ども3個体の幼いチンパンジーとが、4つの協力活動においてヒトのおとなの相手と相互に行為しあった。ヒトの子どもは首尾よく協力的問題解決活動および社会的ゲームに参加したが、チンパンジーは社会的ゲームに興味がなかった。実験的操作としてそれぞれの課題において、おとなの相手は、活動のあいだの特定の時点で参加をやめた。すべての〔ヒトの〕子どもは、彼〔そのおとなの相手〕にふたたび参加してもらおうと少なくとも1回のコミュニケートする努力をおこなっていて、おそらく彼らが共有した目標を回復しようとしていたことを示唆しているのだろう。チンパンジーはどの個体も、その相手にふたたび参加してもらおうとコミュニケートする努力をおこなうことはなかった。これらの結果は、人生の2年目に生じる共有意図性を含むヒトに特有な協力活動の形式についての証拠として解釈される。

マックスプランク進化人類学研究所のフェリクス・ヴァルネケン、フランシズ・チェン、マイケル・トマセロの論文。PLoS Biologyに関連研究([link])。また、前のヴァルネケンらの研究は、このブログで紹介していました(こちら)。

4つの協力活動とは、次のもの。

相補的な役割をともなう問題解決:エレベータ課題

上下する円柱から物体をとりだす協力課題。「相補的な役割」というのは、協力しあっているものどうしが、たがいを補うような異なる行動をとらねばならないことを意味している。

平行的な役割をともなう問題解決:取っ手つきのチューブ課題

チューブの両口に取っ手がついており、それを外して中のものをとりだす課題。「平行的な役割」というのは、同時に同じことをする必要があるという意味。

相補的な役割をともなう社会的ゲーム:2重チューブ課題

ひとりは2つの傾いたチューブのどちらかに木片を入れ、もうひとりはその木片が出てきたところを缶で受けて音をたてるという課題。

平行的な役割をともなう社会的ゲーム:トランポリン課題

C型の部品を2つ組みあわせることで円とし、中央に布を張ることで成立しているトランポリンを2人で保持するという課題。どちらかが手を離すと円が崩れてトランポリンにならない。

チンパンジーは相手の意図に応じて報復する

2007-07-26 05:13:01 | 社会的知性
A38 Jensen, K., Call, J., & Tomasello, M. (2007).
Chimpanzees are vengeful but not spiteful.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, online, DOI: 10.1073/pnas.0705555104 [link]

チンパンジーは報復的であるが嫌がらせ的ではない
人々〔ヒト〕は、個人的なコストを払って他者を罰することをいとわない。そして、この見たところ反社会的な傾向のおかげで、協力を安定させることができる。ヒトに協力者を罰させようと動機づけるものは、おそらく、〔非協力者がもたらした〕不公正な結果の回避と〔非協力者のもつ〕不公正な意図の回避との両方の組みあわせだろう。ここでわれわれは、飼育下のチンパンジー(Pan troglodytes)でおこなった1組の研究を報告する。結果がただ〔被験者にとって〕個人的に不利である場合には、食物を遠ざけることで同種個体にコストを与えることはしなかった。しかし、同種個体が現実に彼ら〔被験者〕から食物を盗んだ場合には、その同種個体に報復した。ヒトと同じように、チンパンジーは個人的に有害な行為には報復する。だが、ヒトとは異なり、彼ら〔チンパンジー〕はたんに個人的に不利な結果には無関心であり、それゆえ嫌がらせ的ではない
協力(cooperation)|公正(fairness)|他者考慮(other-regard)|罰(punishment)|互恵性(reciprocity)

ディスカヴァリ・チャンネル [link] やロイター [link] でもニュースになっていました。日本ではニュースになっていなかったと思います。なお、比較認知科学関係のニュースは、ComparativePsychNewsがおすすめです。

マックス・プランク進化人類学研究所(Max-Planck-Institut für evolutionäre Anthropologie)のキース・ジェンセン(Keith Jensen)、ジョゼップ・コール(Josep Call)、マイケル・トマセロ(Michael Tomasello)。

今回重要な用語。定義は私がいい加減に書きましたが、実験結果が統計的にはわかりやすいのでひとまず十分だと思います。報復(retribution, retaliate/retaliatory/retaliation, vengeful/vengefully/vengeance)、嫌がらせ性(spiteful/spitefulness)ともに、自分のコストを払って自分より有利な結果を得た相手を罰する(punish/punishment)ことである。
報復:不公正な結果を生んだ相手の不公正な意図にたいするもの。
嫌がらせ性不公正な結果そのものにたいするもの。
今回の実験では、至近的な水準の嫌がらせ(spite)について触れているだけで、究極的な水準(適応)の嫌がらせではない。それを明示するため、嫌がらせ的(spiteful)/嫌がらせ性(spitefulness)という言葉を使用している。

装置は、行為者(被験者)と相手とのあいだにあるテーブルで、行為者が紐を引っぱると崩れるようになっている。

==研究1==

次の各条件で、紐を引いてテーブルを壊した頻度を調べた。
基線条件:テーブルの上には食べられないものがあり、相手はいない。
自己給餌条件(統制条件):テーブルの上には食べものがあり、行為者は食べものに手が届かない。
非給餌条件(統制条件):テーブルの上には食べものがあるが、行為者は食べものに手が届かないが、相手もいない。
相手給餌条件(実験条件):テーブルの上には食べものがあり、相手だけが食べものに手が届く。

紐を引いてテーブルを壊した頻度は、自己給餌条件では、基線条件よりも低かった。このことは、紐引きを抑制していたことを示している。

その頻度は、非給餌条件相手給餌条件では、基線条件よりも高かったが、両条件間には差はみられなかった。このことは、手の届かない食べものを食べられないことにたいして抱いている一般的な欲求不満に動機づけられていただけで、とくに自分に不利な状況相手だけが食べられるという状況に動機づけられているわけではなかったと示している。

==研究2==

ただ、研究1の装置では、相手の食事に立ち会っているだけで、食べられるはずのものを奪われた気はしないかもしれない。装置を改造し、テーブルの上にさらに土台を設けた。基線条件以外では、各試行のまえの30秒間土台の上の食べものを食べることを許した

基線条件:テーブルの上には食べられないものがあり、相手はいない。
損失条件(統制条件):その30秒後、実験者が現われて、土台を誰もいないケージのほうに遠ざける。
結果不等条件(実験条件):その30秒後、実験者および相手が現われて、実験者が土台の上の食べものを相手に与える。
盗難条件(実験条件):その30秒後、相手が現われて紐を引くことで土台を奪ってしまい、食べものが相手のものになる。

紐を引いてテーブルを壊した頻度は、損失条件結果不等条件盗難条件では、基線条件よりも高かった。
その頻度は、結果不等条件では、損失条件とのあいだに差はみられなかった。このことは、たんに不利である自分が食べられるはずのものを相手が食べている)だけでは、相手にたいして嫌がらせ的にはならなかったことを示している。

その頻度は、盗難条件では、損失条件結果不等条件よりも高かった。このことは、自分が不利である自分が食べられるはずのものを相手が食べている)のが相手の意図によるものであるときに、報復していたことを示している。

また、怒りがテーブルを壊す頻度に影響しているかどうかを調べるため、ディスプレイ癇癪(かんしゃく)の起こる頻度を調べた。この頻度は、盗難条件では、損失条件よりも高かった。しかし、この頻度は、結果不等条件では、盗難条件損失条件とのあいだにあったが、統計的にはどちらの条件とも差はみられなかった。またどの条件においても、ディスプレイや癇癪がみられるときに、よりテーブルを壊す傾向にあった。ここに怒りは介在しているが、どのような影響を与えているかは不明だった。

(この実験では、ディスプレイはよく相手のチンパンジーに向けられていたと書かれているが、実験者にたいして不平をあらわす行動(オッという発声など)が結果不等条件と盗難条件とで異なっていたら、おもしろいだろうと思う。)

==結論==

チンパンジーは報復的であるが嫌がらせ的ではないという結論となった。端的にいうと、たんに不公平を回避するかどうかではなく、不公平の原因を相手の意図に帰属できるかどうかというところまで調べることにより、それがわかった。

協力するフサオマキザル――分業、コミュニケーション、互恵的利他性

2007-06-01 04:09:51 | 社会的知性
A35 Hattori, Y., Kuroshima, H., & Fujita, K. (2005).
Cooperative problem solving by tufted capuchin monkeys (Cebus apella): Spontaneous division of lebor, communication, and reciprocal altruism.
Journal of Comparative Psychology, 119, 335-342. [link]
フサオマキザル(Cebus apella)による協力問題解決:自発的分業、コミュニケーション、および互恵的利他性
実験的に誘発した協力課題を用いて、著者らは、フサオマキザルCebus apella)が以下の3つの協力の特徴をヒトと共有しているかどうかを調べた:分業コミュニケーション、および互恵的利他性実験1では、著者らは、個々のサルを訓練し、報酬を得るのに必要な一連の行為をおこなうようにしてから、自発的に一連の行為を分配して課題を解決できるかどうかを評価するため、2個体1組にしてテストした。すべての組がこの課題を解決した。実験2では、サルは、協力課題と相手の助けを必要としない課題との両方にとりくんだ。前者〔協力〕の課題のほうで、後者の〔相手の助けを必要としない〕課題よりも有意に長く相手を見たが、コミュニケーション上の意思があるかは決めることができなかった。実験3では、毎試行、2個体の参加者のうち1個体しか報酬を得られなかった。サルは、試行ごとに役割を交替させても、協力を維持した。彼らの協力の遂行では分業が示され、結果から課題に関連するコミュニケーション互恵的利他性が示唆される。
京都大学の服部裕子、黒島妃香、藤田和生によるフサオマキザルの協力行動にかんする研究。自発的な分業(division of labor)、協力のさいのコミュニケーション(communication)、互恵的利他性(reciprocal altruism)について検討している。

装置は、2個体のサルが入っている2個の箱の横についている。(1) 個体Aが、目の前の小さな板を引く。(2) 個体Bが、今までその小さい板のせいで動かなかったブロックを押す。(3) 個体Bは、ブロックの下に置かれていた食物を得ることができ、個体Aはブロックに押されて落ちてきた食物を得ることができる。

藤田和生 (2007). 動物たちのゆたかな心. 心の宇宙 (4). 学術選書 (22). 京都: 京都大学学術出版会.
ISBN4876988226
比較認知科学の新刊です。著者の研究室でおこなわれていることが中心に書かれています。知覚や道具使用から、近年のトピックである協力行動まで幅広いです。もちろん今回紹介した研究も収録されています。比較認知科学における動物観といったことにも触れられています。

「学術選書」は、京都大学学術出版会が出している科学関連の選書です。「心の宇宙」は、そのなかのシリーズで、京都大学心理学連合の面々によって書かれています。比較認知科学だけでなく、神経心理学や臨床心理学、そのほかのさまざまな分野が含まれています。
シリーズ「心の宇宙」全13巻
(1)前頭葉の謎を解く』 船橋新太郎(2005)
(2)コミュニティのグループ・ダイナミックス』 杉万俊夫(編)(2006)
(3)心理臨床学のコア』 山中康裕(2006)
(4)動物たちのゆたかな心』 藤田和生(2007)

以下続刊
『多重知能理論』 子安増生
『心のなりたち:比較発達科学の視座』 板倉昭二
『脳の情報表現と神経回路網:実験方法と研究例』 桜井芳雄
『脳と高次機能』 苧阪直行
『ヒトの行動神経科学』 松村道一
『顔の認識とコミュニケーション』 吉川佐紀子
『ポスト・モダンの意識』 河合俊雄
『心・身体・言葉』 伊藤良子
『人生心理学』 やまだようこ
以上の続刊の部分は『2005年12月学術選書京大から』というチラシによる。それによると、杉万俊夫(編)『コミュニティのグループ・ダイナミックス』の旧題は『コミュニティーのグループ・ダイナミクス』、山中康裕『心理臨床学のコア』の旧題は『心理臨床学外論』、藤田和生『動物たちのゆたかな心』の旧題は『動物たちのゆたかなこころ』。

報酬を見積もって協力するフサオマキザル

2007-05-31 04:34:29 | 社会的知性
A34 de Waal, F. B. M. & Davis, J. M. (2003).
Capuchin cognitive ecology: Cooperation based on projected returns.
Neuropsychologia, 41, 221-228. [link]
オマキザル認知生態学:利益を見積もることにもとづく協力
安定した協力をするには、お互いの〔損得の〕清算が個別に行為したときに利用できる分を超えなければならないチャイロオマキザルCebus apella)についてのこの研究は、協力にかかわる決定が (a) 協力のあとに起こりそうな競合の量に左右され、(b) 即座になされるのか、それとも慣化の期間があってはじめてなされるのかを調べた。オトナのサルの組は、資源の独占の仕方(餌が集められているときと散らばっているとき)や〔協力〕相手との関係(血縁個体か非血縁個体か)にかんして機会がさまざまとなっている相互協力課題を呈示した。前訓練のあと、サルの組(N = 11)はそれぞれ、おのおの15回の2分間試行からなる6つのテストを受けた。報酬〔餌〕が集められている分布のときは、協力にたいしてすぐに否定的な効果があらわれた。つまり、この効果は開始直後から見られ、集められている試行が散らばっている試行と交互におこなわれるときでさえ、まだ見られた。協力が少なくなったのは、非血縁個体についてのほうが血縁個体についてよりもずっと劇的であり、これは優位非血縁個体が集まっている条件で半分以上の報酬を要求する傾向によって説明された。そのように反応が速いことは、決定過程が協力から予測される成果にもとづいていることを示唆する。それゆえ、協力にかんする決定では、〔協力のあとに〕引きつづいて起こる利権をめぐる競合の機会およびその起こりやすさの両方が考慮されている。
キーワード:オマキザル(capuchin monkeys);協力(cooperation);生態(ecology)。
エモリー大学(Emory University)ヤーキス霊長類センター(Yerkes Primate Center)リヴィングリンクス(Living Links)のフランス・B・M・ドゥ・ヴァール(Frans B. M. de Waal)とジェイソン・M・デイヴィス(Jason M. Davis)とによるフサオマキザルの協力行動についての論文。ドゥ・ヴァールは同大学心理学部(Deparment of Psychology)にも所属。要約文ではチャイロオマキザルとなっていますが、フサオマキザルのこと。

前回紹介した研究の応用。装置は、板のうえに食物の入ったカップが2つ載っており、2本の棒が延びているもの。2個体のサルが、2本の棒を同時に引けばよい。要約文にある「餌が集められているときと散らばっているとき」というのは、その2つのカップの接近程度のこと。2つのカップが近いほど、板が手前に寄ったときの競合が大きくなると予想できる。

協力を理解するフサオマキザル

2007-05-31 03:19:18 | 社会的知性
A33 Mendres, K. A. & de Waal, F. B. M. (2000).
Capuchins do cooperate: The advantage of an intuitive task.
Animal Behaviour, 60, 523-529. [link]
オマキザルはたしかに協力する:直感的な課題は好都合である
われわれは、協力引き寄せ課題を用いて、飼育下のフサオマキザルCebus apellaに見られる協力の近接的側面を調べた。具体的にいうと、われわれの目的は、相手が課題に参加していること成功して終わることとのあいだの随伴性をオマキザル学習するかどうかを調べることだった。われわれは、サルが視覚的に相手を監視し相手がいるかどうかで引き寄せ行動を調整するかを調べた。5組のオトナの同性個体でおこなった結果は、(1) 相手とのあいだの視覚的接触をさせないと、成功が有意に減少したということ、(2) 協力テストでは、相手の助力の必要でない統制テストに比べて、有意によく相手を見たということ、および (3) 相手がいるときは、いないときに比べて、有意にもっと頻繁に引き寄せたということを示している。それゆえ、シャルモーら(1997, Animal Behaviour, 54, 1215-1225) [link] とは対照的に、協力するオマキザルは、相手の役割を考慮できると思われる。とはいえ、用いられた課題の型が同調がどの水準まで達成されるのかに影響する重要な要因なのかもしれない。
フサオマキザルの協力行動についての実験的研究。ヤーキス霊長類研究センター(Yerkes Primate Research Center)のリヴィング・リンクス(Living Links)のキンバリー・A・メンドレスとフランス・B・M・ドゥ・ヴァール。また、メンドレスは、エモリー大学(Emory University)の生物科学および生医科学大学院部門(Graduate Division of Biological and Biomedical Sciences)にも所属。ドゥ・ヴァールは、同大学の心理学部(Psychology Department)にも所属。

装置は、実験部屋の外にある。板のうえに食物の入ったカップが2つ載っており、2本の棒が延びているもの。2個体のサルが、2本の棒を同時に引けばよい。たしかに、引くことが食物の獲得にどう影響しているのか、その因果関係がわかりづらいこちらの研究と比べても、この装置においては、引けば板が近づくだけなので、その因果関係が直感的にわかりやすいだろう。

この論文は、前回紹介したこの研究に参照していない。出版時期の都合で参照することができなかったのだろう。本研究の装置は、その研究と比べても直感的に因果関係の理解しやすいものといえるだろう。