A52 Paukner, A., Suomi, S. J., Visalberghi, E., & Ferrari, P. F. (2009).
Capuchin monkeys display affiliation toward humans who imitate them.
Science, 325, 880-883. (DOI:10.1126/science.1176269)
オマキザルは自分の模倣をおこなうヒトにたいして親愛を示す
社会的相互作用のあいだ、ヒトはよく、無意識的にも非意図的にも他者の行動を模倣している。そうすることにより、相互作用相手とのラポール、結びつき、共感が増す。この効果は、集団生活を促進させる進化的適応であると考えられ、ほかの霊長類種と共有されている可能性がある。ここで示すのは、高度に社会的な霊長類種であるオマキザルが、ヒトの模倣者のことを非模倣者よりもさまざまな方法で選好するということである。すなわち、サルは模倣者のほうを長く注視し、模倣者のほうの近くで長い時間をすごし、またトークン交換課題では模倣者のほうと頻繁に相互作用をおこなっている。これらの結果が示すように、模倣はヒト以外の霊長類で親愛を促進しうる。行動を合わせることは、他者にたいする向社会的行動をひき起こすが、これは、オマキザルにおいても、ヒトをふくむほかの霊長類においても、利他的な行動傾向の根底にあるメカニズムのひとつだったのだろう。

CNN.co.jp、ScienceNowなどでニュースが出ていた研究。
著者は、アニカ・パウクナー(Annika Paukner)(アメリカ国立衛生研究所動物センター National Institute of Health Animal Center)、スティーヴン・J・スオミ(Stephen J. Suomi)(アメリカ国立衛生研究所動物センター)、エリザベッタ・ヴィザルベルギ(Elisabetta Visalberghi)(イタリア国立学術会議認知科学技術研究所 Consiglio Nazionale delle Ricerche Istituto di Scienze e Tecnologie della Cognizione)、ピエル・F・フェッラーリ(Pier F. Ferrari)(アメリカ国立衛生研究所動物センター、パルマ大学 Università di Parma)。
ヒト以外の霊長類が模倣に影響されるか、あるいは模倣を理解できるかどうかといったことについての研究が、大型類人猿やマカクでおこなわれてきた。しかし、ヒト以外の霊長類で、模倣がその後の社会的相互作用や親愛関係に与える影響についての研究は、これが初めてである。
被験者はフサオマキザル(Cebus apella)12個体。すべてアメリカ国立衛生研究所動物センターで飼育されているもの。
模倣の影響をみるための装置は、次のとおり。3つ続きのケージがある。左右のケージの前に、それぞれ実験者が立っている。被験者は中央のケージにいるが、実験者にどれほど近づくかを調べる場合には、ケージのあいだを行き来できるようになっている。
実験1。被験者がボールで遊んでいるとき、片方の実験者(模倣者)は被験者がボールを操作するのにあわせて模倣をおこなった。一方、もう片方の実験者(非模倣者)は、被験者と同時ではあるが異なる動作をおこなった。被験者が各実験者を見る注視時間を、親愛関係の指標とした。被験者は、非模倣者と比べて、模倣者のほうを長く注視した。
実験2。同様の模倣実験をおこなった。この実験では、被験者が各実験者に近づくことを、親愛関係の指標として用いた。被験者が移動して各実験者のまえのケージにいることを、その実験者に近づいていることと定義した。さらに、注視時間も測定した。被験者は、非模倣者と比べて、模倣者のほうを長く注視した。また、非模倣者と比べて、模倣者のほうの近くで長い時間をすごした。
実験3(統制実験)。模倣者のほうが被験者のサルに注意を向けていて、それが影響を与えている可能性を排除する統制実験である。両実験者は、模倣も何の動作もおこなわなかった。片方は、被験者に顔を向けていた。もう片方は、被験者から顔を背けていた。これまでと同じく、注視時間と近接時間を指標とした。被験者は、自分から顔を背けている実験者と比べて、自分に顔を向けている実験者のほうを長く注視した。これは、実験者の注意が被験者のサルに影響を与えていることを示唆している。一方、近接時間は、被験者に顔を向けている実験者と被験者から顔を背けている実験者とのあいだで、差はみられなかった。これは、実験者が被験者のサルに単純に注意を向けていることが、被験者のサルが実験者に近づいてくるかどうかに影響しないということを示唆している。この結果は、実験2の結果が模倣の影響であることを支持する。
実験4。実験1と同様の模倣実験をおこなった。この実験では、どちらの実験者とより頻繁に交換をおこなうかどうかを指標にした。被験者はすでに、自分のもっているトークン(引換券)をヒトがもってきた食物と交換する課題を習得していた。これを指標とすることができたのは、恐れている相手とは交換をおこないたがらないことがわかっていたためである。被験者は、非模倣者と比べて、模倣者のほうと頻繁に交換した。
実験5(統制実験)。実験3と同様の統制実験をおこなった。注視時間と交換の頻度を指標とした。被験者は、自分から顔を背けている実験者と比べて、自分に顔を向けている実験者のほうを長く注視した。これは、実験3と同じ結果である。一方、交換の頻度は、被験者に顔を向けている実験者と被験者から顔を背けている実験者とのあいだで、差はみられなかった。これは、実験者が被験者のサルに単純に注意を向けていることが、被験者のサルが実験者と交換をおこなうかどうかに影響しないということを示唆している。この結果は、実験4の結果が模倣の影響であることを支持する。
野生のオマキザルも、遊動、採食、捕食者からの防衛のときなどに行動を同調させている。行動の同調は、その場で社会的学習の基盤となるメカニズムとしてはたらくだけでなく、その後の社会的相互作用を増すように影響しているのだろう。ヒトだけでなく、ほかの集団生活をおこなっている霊長類でも、行動の同調は、親愛を増す「社会的な糊」(social glue)としてはたらいていると考えられる。
論文の内容は以上です。動物園でオマキザルをみたら、ぜひマネをしてみましょう。
Capuchin monkeys display affiliation toward humans who imitate them.
Science, 325, 880-883. (DOI:10.1126/science.1176269)
オマキザルは自分の模倣をおこなうヒトにたいして親愛を示す
社会的相互作用のあいだ、ヒトはよく、無意識的にも非意図的にも他者の行動を模倣している。そうすることにより、相互作用相手とのラポール、結びつき、共感が増す。この効果は、集団生活を促進させる進化的適応であると考えられ、ほかの霊長類種と共有されている可能性がある。ここで示すのは、高度に社会的な霊長類種であるオマキザルが、ヒトの模倣者のことを非模倣者よりもさまざまな方法で選好するということである。すなわち、サルは模倣者のほうを長く注視し、模倣者のほうの近くで長い時間をすごし、またトークン交換課題では模倣者のほうと頻繁に相互作用をおこなっている。これらの結果が示すように、模倣はヒト以外の霊長類で親愛を促進しうる。行動を合わせることは、他者にたいする向社会的行動をひき起こすが、これは、オマキザルにおいても、ヒトをふくむほかの霊長類においても、利他的な行動傾向の根底にあるメカニズムのひとつだったのだろう。

CNN.co.jp、ScienceNowなどでニュースが出ていた研究。
著者は、アニカ・パウクナー(Annika Paukner)(アメリカ国立衛生研究所動物センター National Institute of Health Animal Center)、スティーヴン・J・スオミ(Stephen J. Suomi)(アメリカ国立衛生研究所動物センター)、エリザベッタ・ヴィザルベルギ(Elisabetta Visalberghi)(イタリア国立学術会議認知科学技術研究所 Consiglio Nazionale delle Ricerche Istituto di Scienze e Tecnologie della Cognizione)、ピエル・F・フェッラーリ(Pier F. Ferrari)(アメリカ国立衛生研究所動物センター、パルマ大学 Università di Parma)。
ヒト以外の霊長類が模倣に影響されるか、あるいは模倣を理解できるかどうかといったことについての研究が、大型類人猿やマカクでおこなわれてきた。しかし、ヒト以外の霊長類で、模倣がその後の社会的相互作用や親愛関係に与える影響についての研究は、これが初めてである。
被験者はフサオマキザル(Cebus apella)12個体。すべてアメリカ国立衛生研究所動物センターで飼育されているもの。
模倣の影響をみるための装置は、次のとおり。3つ続きのケージがある。左右のケージの前に、それぞれ実験者が立っている。被験者は中央のケージにいるが、実験者にどれほど近づくかを調べる場合には、ケージのあいだを行き来できるようになっている。
実験1。被験者がボールで遊んでいるとき、片方の実験者(模倣者)は被験者がボールを操作するのにあわせて模倣をおこなった。一方、もう片方の実験者(非模倣者)は、被験者と同時ではあるが異なる動作をおこなった。被験者が各実験者を見る注視時間を、親愛関係の指標とした。被験者は、非模倣者と比べて、模倣者のほうを長く注視した。
実験2。同様の模倣実験をおこなった。この実験では、被験者が各実験者に近づくことを、親愛関係の指標として用いた。被験者が移動して各実験者のまえのケージにいることを、その実験者に近づいていることと定義した。さらに、注視時間も測定した。被験者は、非模倣者と比べて、模倣者のほうを長く注視した。また、非模倣者と比べて、模倣者のほうの近くで長い時間をすごした。
実験3(統制実験)。模倣者のほうが被験者のサルに注意を向けていて、それが影響を与えている可能性を排除する統制実験である。両実験者は、模倣も何の動作もおこなわなかった。片方は、被験者に顔を向けていた。もう片方は、被験者から顔を背けていた。これまでと同じく、注視時間と近接時間を指標とした。被験者は、自分から顔を背けている実験者と比べて、自分に顔を向けている実験者のほうを長く注視した。これは、実験者の注意が被験者のサルに影響を与えていることを示唆している。一方、近接時間は、被験者に顔を向けている実験者と被験者から顔を背けている実験者とのあいだで、差はみられなかった。これは、実験者が被験者のサルに単純に注意を向けていることが、被験者のサルが実験者に近づいてくるかどうかに影響しないということを示唆している。この結果は、実験2の結果が模倣の影響であることを支持する。
実験4。実験1と同様の模倣実験をおこなった。この実験では、どちらの実験者とより頻繁に交換をおこなうかどうかを指標にした。被験者はすでに、自分のもっているトークン(引換券)をヒトがもってきた食物と交換する課題を習得していた。これを指標とすることができたのは、恐れている相手とは交換をおこないたがらないことがわかっていたためである。被験者は、非模倣者と比べて、模倣者のほうと頻繁に交換した。
実験5(統制実験)。実験3と同様の統制実験をおこなった。注視時間と交換の頻度を指標とした。被験者は、自分から顔を背けている実験者と比べて、自分に顔を向けている実験者のほうを長く注視した。これは、実験3と同じ結果である。一方、交換の頻度は、被験者に顔を向けている実験者と被験者から顔を背けている実験者とのあいだで、差はみられなかった。これは、実験者が被験者のサルに単純に注意を向けていることが、被験者のサルが実験者と交換をおこなうかどうかに影響しないということを示唆している。この結果は、実験4の結果が模倣の影響であることを支持する。
野生のオマキザルも、遊動、採食、捕食者からの防衛のときなどに行動を同調させている。行動の同調は、その場で社会的学習の基盤となるメカニズムとしてはたらくだけでなく、その後の社会的相互作用を増すように影響しているのだろう。ヒトだけでなく、ほかの集団生活をおこなっている霊長類でも、行動の同調は、親愛を増す「社会的な糊」(social glue)としてはたらいていると考えられる。
論文の内容は以上です。動物園でオマキザルをみたら、ぜひマネをしてみましょう。
