どうぶつのこころ

動物の心について。サルとか類人猿とかにかたよる。個人的にフサオマキザルびいき。

報酬を見積もって協力するフサオマキザル

2007-05-31 04:34:29 | 社会的知性
A34 de Waal, F. B. M. & Davis, J. M. (2003).
Capuchin cognitive ecology: Cooperation based on projected returns.
Neuropsychologia, 41, 221-228. [link]
オマキザル認知生態学:利益を見積もることにもとづく協力
安定した協力をするには、お互いの〔損得の〕清算が個別に行為したときに利用できる分を超えなければならないチャイロオマキザルCebus apella)についてのこの研究は、協力にかかわる決定が (a) 協力のあとに起こりそうな競合の量に左右され、(b) 即座になされるのか、それとも慣化の期間があってはじめてなされるのかを調べた。オトナのサルの組は、資源の独占の仕方(餌が集められているときと散らばっているとき)や〔協力〕相手との関係(血縁個体か非血縁個体か)にかんして機会がさまざまとなっている相互協力課題を呈示した。前訓練のあと、サルの組(N = 11)はそれぞれ、おのおの15回の2分間試行からなる6つのテストを受けた。報酬〔餌〕が集められている分布のときは、協力にたいしてすぐに否定的な効果があらわれた。つまり、この効果は開始直後から見られ、集められている試行が散らばっている試行と交互におこなわれるときでさえ、まだ見られた。協力が少なくなったのは、非血縁個体についてのほうが血縁個体についてよりもずっと劇的であり、これは優位非血縁個体が集まっている条件で半分以上の報酬を要求する傾向によって説明された。そのように反応が速いことは、決定過程が協力から予測される成果にもとづいていることを示唆する。それゆえ、協力にかんする決定では、〔協力のあとに〕引きつづいて起こる利権をめぐる競合の機会およびその起こりやすさの両方が考慮されている。
キーワード:オマキザル(capuchin monkeys);協力(cooperation);生態(ecology)。
エモリー大学(Emory University)ヤーキス霊長類センター(Yerkes Primate Center)リヴィングリンクス(Living Links)のフランス・B・M・ドゥ・ヴァール(Frans B. M. de Waal)とジェイソン・M・デイヴィス(Jason M. Davis)とによるフサオマキザルの協力行動についての論文。ドゥ・ヴァールは同大学心理学部(Deparment of Psychology)にも所属。要約文ではチャイロオマキザルとなっていますが、フサオマキザルのこと。

前回紹介した研究の応用。装置は、板のうえに食物の入ったカップが2つ載っており、2本の棒が延びているもの。2個体のサルが、2本の棒を同時に引けばよい。要約文にある「餌が集められているときと散らばっているとき」というのは、その2つのカップの接近程度のこと。2つのカップが近いほど、板が手前に寄ったときの競合が大きくなると予想できる。

協力を理解するフサオマキザル

2007-05-31 03:19:18 | 社会的知性
A33 Mendres, K. A. & de Waal, F. B. M. (2000).
Capuchins do cooperate: The advantage of an intuitive task.
Animal Behaviour, 60, 523-529. [link]
オマキザルはたしかに協力する:直感的な課題は好都合である
われわれは、協力引き寄せ課題を用いて、飼育下のフサオマキザルCebus apellaに見られる協力の近接的側面を調べた。具体的にいうと、われわれの目的は、相手が課題に参加していること成功して終わることとのあいだの随伴性をオマキザル学習するかどうかを調べることだった。われわれは、サルが視覚的に相手を監視し相手がいるかどうかで引き寄せ行動を調整するかを調べた。5組のオトナの同性個体でおこなった結果は、(1) 相手とのあいだの視覚的接触をさせないと、成功が有意に減少したということ、(2) 協力テストでは、相手の助力の必要でない統制テストに比べて、有意によく相手を見たということ、および (3) 相手がいるときは、いないときに比べて、有意にもっと頻繁に引き寄せたということを示している。それゆえ、シャルモーら(1997, Animal Behaviour, 54, 1215-1225) [link] とは対照的に、協力するオマキザルは、相手の役割を考慮できると思われる。とはいえ、用いられた課題の型が同調がどの水準まで達成されるのかに影響する重要な要因なのかもしれない。
フサオマキザルの協力行動についての実験的研究。ヤーキス霊長類研究センター(Yerkes Primate Research Center)のリヴィング・リンクス(Living Links)のキンバリー・A・メンドレスとフランス・B・M・ドゥ・ヴァール。また、メンドレスは、エモリー大学(Emory University)の生物科学および生医科学大学院部門(Graduate Division of Biological and Biomedical Sciences)にも所属。ドゥ・ヴァールは、同大学の心理学部(Psychology Department)にも所属。

装置は、実験部屋の外にある。板のうえに食物の入ったカップが2つ載っており、2本の棒が延びているもの。2個体のサルが、2本の棒を同時に引けばよい。たしかに、引くことが食物の獲得にどう影響しているのか、その因果関係がわかりづらいこちらの研究と比べても、この装置においては、引けば板が近づくだけなので、その因果関係が直感的にわかりやすいだろう。

この論文は、前回紹介したこの研究に参照していない。出版時期の都合で参照することができなかったのだろう。本研究の装置は、その研究と比べても直感的に因果関係の理解しやすいものといえるだろう。

やはり協力をするが理解できていないフサオマキザル

2007-05-30 03:05:32 | 社会的知性
A32 Visalberghi, E., Quarantotti, B. P., & Tranchida, F. (2000).
Solving a cooperation task without taking into account the partner's behavior: The case of capuchin monkeys (Cebus apella).
Journal of Comparative Psychology, 114, 297-301. [link]
相手の行動を考慮せずに協力課題を解決する:オマキザル(Cebus apella)の事例
4組のフサオマキザルCebus apella)が、両方の相手の報酬を得るのに両者が同時に取っ手を引かなければならない課題でテストされた。R・シャルモー、E・ヴィザルベルギ、およびA・ガロ(1997) [link] の改良版である実験計画は、引いているサルが相手の行動や空間位置をどの程度まで考慮しているのか、つまり協力に何が含まれているのかをサルが理解しているかを評価するのを目的とした。すべての組が成功したが、相手の行動は引くことに影響しなかったし相手の空間位置が引くことにある程度まで影響しただけだった。加えて、経験の多い個体は経験の少ない個体より優れてはいなかった。野生オマキザルの狩猟行動の記述では協力の認知的基盤について論ぜられてきたが、相手のオマキザルが相手の役割を理解することなく成功しているという結果は、彼らの協力が認知的基盤をもつわけではないと示唆している。
(イタリア)研究国家会議(Consiglio Nazionale delle Ricerche)のエリザベッタ・ヴィザルベルギ(Elisabetta Visalberghi)、ベネデッタ・ペッレグリーニ・クァラントッティ(Benedetta Pellegrini Quarantotti)、およびフラミニーア・トランキーダ(Flaminia Tranchida)によるフサオマキザルの協力行動についての論文。

装置は、すべて透明プラスチックガラスでできており、壁面に設置されている。ただ、取っ手を同時に引くことで上から食物が落ちてくるというもので、因果関係がわかりづらいということでは、要約文のなかで参照されているこちらの研究と比べても、あまり改善されていないのかもしれないと思う。

協力をするが理解できていないフサオマキザル

2007-05-30 02:39:15 | 社会的知性
A31 Chalmeau, R., Visalberghi, E., & Gallo, A. (1997).
Capuchin monkeys, Cebus apella, fail to understand a cooperative task.
Animal Behaviour, 37, 39-47. [link]
オマキザル、Cebus apellaは、協力課題を理解することに失敗する
われわれは、オマキザルが課題を解決するために協力するのか、また彼らが協力のさいに他個体の行動をどの程度まで考慮するのかを調べた。2群のオマキザル(N = 5および6)が、ある課題でテストされた。その課題の解決法は2つの取っ手を同時に引くことを求めており、その2つの取っ手も1個体のサルが引くには互いに離れすぎていた。協力研究をおこなうまえに、食物報酬を求めて、個々のサルは1つの取っ手を引くように訓練され(訓練段階1)、それから2つの取っ手を同時に引くように訓練された(訓練段階2)。9個体の被験者が訓練段階1で成功し、5個体が訓練段階2で成功した。協力研究では、7個体の被験者が成功した、つまり相手役が一方の取っ手を引いているあいだに他方の取っ手を引いた。さらに分析をすると、オマキザルが、相手が他方の取っ手に近いときないし取っ手のところにいるときに、つまり協力が生じうるときに引く行為を増やしたわけではないと明らかになった。これらのデータは、オマキザルが、相手の役割を理解することなしに、またその〔相手の〕行動を考慮することなしに、いっしょに課題にさいして行為し、報酬を得ていたと示唆している。彼らの探索しようとする傾向手の器用さに加え、社会的な寛容さがオマキザルの成功を説明する主要な要因だった。

ポール=サバティエ大学(Université Paul-Sabatier)のラファエル・シャルモー(Raphaël Chalmeau)とアラン・ガロ(Alain Gallo)、および(イタリア)研究国家会議(Consiglio Nazionale delle Ricerche)の心理学研究所(Istituto di Psicologia)のエリザベッタ・ヴィザルベルギ(Elisabetta Visalberghi)によるフサオマキザルの協力行動についての論文。

霊長類の協力行動にかんする最近の実験的研究では、こちらの続き。そちらでチンパンジーでやっていたことを、フサオマキザルに適用している。

装置は、同じく、ケージの外にある。果物片の載った台があり、そこから紐2本とチューブ1本が延びている。紐を2個体で同時に引くと、チューブから果物片が落ちてくる仕組み。のちの研究で、これが複雑すぎるのではないかという疑問が投げかけられた。

協力するチンパンジー

2007-05-30 02:18:05 | 社会的知性
A30 Chalmeau, R. & Gallo, A. (1996).
What chimpanzees (Pan troglodytes) learn in a cooperative task?
Primates, 37, 39-47. [link]
チンパンジー(Pan troglodytes)は協力課題で何を学習するのか
飼育群のチンパンジーPan troglodytes)で協力の発達を調べるため、われわれは、餌を得るのに2個体の動物が同時に引かなければならない装置を設計した。2個体のチンパンジー、つまり6個体の群れのうち1個体の大人オスおよび幼児のメスが、成功反応のほとんどを引き起こした(2つの取っ手を同時に引いて)。視覚的行動〔ほかのチンパンジーを見る行動〕が、チンパンジーが協力課題にかんして何を学習したのかを決めようとして使用された。どんな種類の学習がチンパンジーにありうるのかを調べるため、命題がつくられ、結果と突きあわされた。両方の被験者〔上で触れた2個体のチンパンジー〕が、装置に果実があることと果実を得られることとが結びついていると学習した。彼らは、成功した反応を引き起こすためには、相手が装置のところにいることが重要であるとも学習した。大人オスのほうのみが、取っ手を引くまえに装置のところにいる相手の行動を考慮することを学習した。方法論的観点から考えると、動物の瞥見〔何かを見ること〕は、被験者がある社会的状況のなかで何を学習したのかを示す有用な行動指標となりうる。
キーワード:協力(cooperation);道具的学習(instrumental learning);瞥見(glancing);Pan troglodytes
ポール=サバティエ大学(Université Paul-Sabatier)のラファエル・シャルモー(Raphaël Chalmeau)とアラン・ガロ(Alain Gallo)とによるチンパンジーの協力行動についての論文。

霊長類の協力行動にかんする最近の実験的研究では、嚆矢的なもの。

装置は、ケージの外にある。果物片の載った台があり、そこから紐2本とチューブ1本が延びている。紐を2個体で同時に引くと、チューブから果物片が落ちてくる仕組み。

ハツコ、動物園、環境エンリッチメント

2007-05-20 08:38:03 | 霊長類
ハツコについて。

京都市動物園のチンパンジーハツコ初子)が逝去されました。同動物園によるニュースはこちら。ハツコには先月はじめて会って、今月もう1度訪れたときには訃報が出ていました。先月は愛想よく笑顔を見せてくれましたが、あのときにも調子が悪かったそうですね。たいへん残念です。ご冥福をお祈りいたします。


日本で飼育されている大型類人猿について。

日本の動物園で飼育されている大型類人猿については、ナショナルバイオリソースプロジェクトの下位プロジェクトGAIN(Great Ape Information Network、ゲイン)が詳しい。

チンパンジーについては、京都大学霊長類研究所のウェブサイトのなかにあるチンパンジー・ワールドをみると、こちらに詳しいページがある。

動物園全般になってしまうが、東京動物園協会が『どうぶつと動物園』という雑誌(東京動物園友の会の会誌)を発行しており、カラーでおもしろい。


環境エンリッチメントについて。

動物園における動物の飼育ということでは、最近よく行動展示ということがいわれている。彼らがどんな行動をとるのかも含めて動物を展示する試みである。そのような行動を実現するため、できるかぎり野生に近い状態に飼育環境を整備しなければならない。それを環境エンリッチメント(環境の豊饒化、enviromental enrichment)と呼ぶ。

年に1度、市民ZOOネットワークにより、エンリッチメント大賞が選ばれている。京都市動物園の飼育員の方々も、エンリッチメント大賞2006で飼育担当者部門大賞を受賞。

エンリッチメント大賞の受賞者講演および大賞発表がおこなわれるのが、SAGA(大型類人猿を支援する集い、Support for African/Asian Great Apes、サガ)である。SAGAは、環境エンリッチメントのように飼育における福祉だけでなく、野生における保全も目指している。

参加者には、動物園や水族館のスタッフだけでなく、大学などの研究機関で動物の行動科学を研究している人々もいる。年度会合があり、大学と動物園とが組になって開催している。

一般にはあまり知られていないが、SAGAは、フジテレビの『CHIMPAN NEWS CHANNEL』や日本テレビの『天才!志村どうぶつ園』に、このように抗議文を出している。CHIMPAN NEWS CHANNELのほうは、現在レギュラー放送を終了した。

120年前に石でカキを叩き割って食べるカニクイザル

2007-05-20 07:21:29 | 思考・問題解決
A29 Carpenter, A. (1887).
Monkeys opening oysters.
Nature, 36, 53.
カキを開けるサル
ビルマ(South Burmah)の島でサルが石を使いカキを割って開けるのをたびたび目にしているというと、それを聞いてあまりに多くの人々が驚きをあらわすのであるから、そのような道具の使用法を短くとも記述することは、みなの興味を惹くことになるだろう。 メルギ諸島(Mergui Archipelago)の島において、岩の低潮時に現われる部分は、大なり小なりのカキに覆われている。このあたりの島にいるMacacus cynomolgusカニクイザルMacaca fascicularis)〕である可能性の高いサルが、潮が引いているときに岸をうろつき、ロックオイスター〔カキ〕を石で、外れて壊れるまでその上の殻を叩くことで開ける。それから彼は、4指および親指でカキをとりだし、ときどき直接口を壊れた貝殻に突っこむ。 彼らのじゃまをしてみていつもわかるのは、彼らが槌としての価値よりも一見したところ手で扱う便利さを求めて石を選択しており、ヒトがそれ相応の仕事をするために選びそうなものに比べて小さいということだった。要するに、たいていそれは、彼らが指を回しつけられる石だった。低潮のぬかるみに岩が現われると、〔槌となる〕石は高水標のところからもってこなければならないが、この距離は10ヤードから80ヤードまでの幅があった。このサルは、ロックオイスターを割るもっとも簡単な方法を選択しており、つまり上の殻を打つことで殻を外し、くっついている肉から貝殻を分けていた。テナガザルもこれらの島を頻繁に訪れていたが、浜では1個体も見なかった。〔全訳〕
120年前の昨日(5月19日)に、ムンバイー(Mumbai)にある海洋調査局(Marine Survey Office)のアルフレド・カーペンタ(Alfred Carpenter)により発表されたもの。クラレンス・レイ・カーペンタとは関係ない。このとき彼はまだ生まれていない。

前回紹介したとおり、この120年後にマライヴィジトノンドらが同じことを再発見することになった。この120年前のニュースがなければ、Natureに載っていたかもしれない。

なぜカニクイザルがカキ割りをしていることが重要かというと、次のような理由がある。

(1) ナッツ割り、カキ割りなど、硬い石などで何かを割り、そのなかにある食物を食べる行動は、大型類人猿2種ヒトHomo sapiens)、チンパンジーPan troglodytes)、サル2種カニクイザルMacaca fascicularis)、フサオマキザル(Cebus libidinosusを含むC. apella)だけに見られる。

(2) サルについていうと、フサオマキザルは何かを何かにぶつける傾向をもっているが、カニクイザルはもっていない。また、大型類人猿であるチンパンジーはそれをもっていない。この異同を考えると、カニクイザルのカキ割り行動は、チンパンジーとフサオマキザルとでナッツ割り行動を比較するときの重要な参照点となる。

文中の「ヤード」について補足。いま1ヤードは0.9144 mですが、当時の帝国標準ヤードがいくらかはよくわからない。知っている方、教えてください。ただ、現在とそれほど大きくは変わらないでしょう。