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どうぶつのこころ

動物の心について。サルとか類人猿とかにかたよる。個人的にフサオマキザルびいき。

やはり協力をするが理解できていないフサオマキザル

2007-05-30 03:05:32 | 社会的知性
A32 Visalberghi, E., Quarantotti, B. P., & Tranchida, F. (2000).
Solving a cooperation task without taking into account the partner's behavior: The case of capuchin monkeys (Cebus apella).
Journal of Comparative Psychology, 114, 297-301. [link]
相手の行動を考慮せずに協力課題を解決する:オマキザル(Cebus apella)の事例
4組のフサオマキザルCebus apella)が、両方の相手の報酬を得るのに両者が同時に取っ手を引かなければならない課題でテストされた。R・シャルモー、E・ヴィザルベルギ、およびA・ガロ(1997) [link] の改良版である実験計画は、引いているサルが相手の行動や空間位置をどの程度まで考慮しているのか、つまり協力に何が含まれているのかをサルが理解しているかを評価するのを目的とした。すべての組が成功したが、相手の行動は引くことに影響しなかったし相手の空間位置が引くことにある程度まで影響しただけだった。加えて、経験の多い個体は経験の少ない個体より優れてはいなかった。野生オマキザルの狩猟行動の記述では協力の認知的基盤について論ぜられてきたが、相手のオマキザルが相手の役割を理解することなく成功しているという結果は、彼らの協力が認知的基盤をもつわけではないと示唆している。
(イタリア)研究国家会議(Consiglio Nazionale delle Ricerche)のエリザベッタ・ヴィザルベルギ(Elisabetta Visalberghi)、ベネデッタ・ペッレグリーニ・クァラントッティ(Benedetta Pellegrini Quarantotti)、およびフラミニーア・トランキーダ(Flaminia Tranchida)によるフサオマキザルの協力行動についての論文。

装置は、すべて透明プラスチックガラスでできており、壁面に設置されている。ただ、取っ手を同時に引くことで上から食物が落ちてくるというもので、因果関係がわかりづらいということでは、要約文のなかで参照されているこちらの研究と比べても、あまり改善されていないのかもしれないと思う。

協力をするが理解できていないフサオマキザル

2007-05-30 02:39:15 | 社会的知性
A31 Chalmeau, R., Visalberghi, E., & Gallo, A. (1997).
Capuchin monkeys, Cebus apella, fail to understand a cooperative task.
Animal Behaviour, 37, 39-47. [link]
オマキザル、Cebus apellaは、協力課題を理解することに失敗する
われわれは、オマキザルが課題を解決するために協力するのか、また彼らが協力のさいに他個体の行動をどの程度まで考慮するのかを調べた。2群のオマキザル(N = 5および6)が、ある課題でテストされた。その課題の解決法は2つの取っ手を同時に引くことを求めており、その2つの取っ手も1個体のサルが引くには互いに離れすぎていた。協力研究をおこなうまえに、食物報酬を求めて、個々のサルは1つの取っ手を引くように訓練され(訓練段階1)、それから2つの取っ手を同時に引くように訓練された(訓練段階2)。9個体の被験者が訓練段階1で成功し、5個体が訓練段階2で成功した。協力研究では、7個体の被験者が成功した、つまり相手役が一方の取っ手を引いているあいだに他方の取っ手を引いた。さらに分析をすると、オマキザルが、相手が他方の取っ手に近いときないし取っ手のところにいるときに、つまり協力が生じうるときに引く行為を増やしたわけではないと明らかになった。これらのデータは、オマキザルが、相手の役割を理解することなしに、またその〔相手の〕行動を考慮することなしに、いっしょに課題にさいして行為し、報酬を得ていたと示唆している。彼らの探索しようとする傾向手の器用さに加え、社会的な寛容さがオマキザルの成功を説明する主要な要因だった。

ポール=サバティエ大学(Université Paul-Sabatier)のラファエル・シャルモー(Raphaël Chalmeau)とアラン・ガロ(Alain Gallo)、および(イタリア)研究国家会議(Consiglio Nazionale delle Ricerche)の心理学研究所(Istituto di Psicologia)のエリザベッタ・ヴィザルベルギ(Elisabetta Visalberghi)によるフサオマキザルの協力行動についての論文。

霊長類の協力行動にかんする最近の実験的研究では、こちらの続き。そちらでチンパンジーでやっていたことを、フサオマキザルに適用している。

装置は、同じく、ケージの外にある。果物片の載った台があり、そこから紐2本とチューブ1本が延びている。紐を2個体で同時に引くと、チューブから果物片が落ちてくる仕組み。のちの研究で、これが複雑すぎるのではないかという疑問が投げかけられた。

協力するチンパンジー

2007-05-30 02:18:05 | 社会的知性
A30 Chalmeau, R. & Gallo, A. (1996).
What chimpanzees (Pan troglodytes) learn in a cooperative task?
Primates, 37, 39-47. [link]
チンパンジー(Pan troglodytes)は協力課題で何を学習するのか
飼育群のチンパンジーPan troglodytes)で協力の発達を調べるため、われわれは、餌を得るのに2個体の動物が同時に引かなければならない装置を設計した。2個体のチンパンジー、つまり6個体の群れのうち1個体の大人オスおよび幼児のメスが、成功反応のほとんどを引き起こした(2つの取っ手を同時に引いて)。視覚的行動〔ほかのチンパンジーを見る行動〕が、チンパンジーが協力課題にかんして何を学習したのかを決めようとして使用された。どんな種類の学習がチンパンジーにありうるのかを調べるため、命題がつくられ、結果と突きあわされた。両方の被験者〔上で触れた2個体のチンパンジー〕が、装置に果実があることと果実を得られることとが結びついていると学習した。彼らは、成功した反応を引き起こすためには、相手が装置のところにいることが重要であるとも学習した。大人オスのほうのみが、取っ手を引くまえに装置のところにいる相手の行動を考慮することを学習した。方法論的観点から考えると、動物の瞥見〔何かを見ること〕は、被験者がある社会的状況のなかで何を学習したのかを示す有用な行動指標となりうる。
キーワード:協力(cooperation);道具的学習(instrumental learning);瞥見(glancing);Pan troglodytes
ポール=サバティエ大学(Université Paul-Sabatier)のラファエル・シャルモー(Raphaël Chalmeau)とアラン・ガロ(Alain Gallo)とによるチンパンジーの協力行動についての論文。

霊長類の協力行動にかんする最近の実験的研究では、嚆矢的なもの。

装置は、ケージの外にある。果物片の載った台があり、そこから紐2本とチューブ1本が延びている。紐を2個体で同時に引くと、チューブから果物片が落ちてくる仕組み。

ブルーモンキーとアカオザルとの共存

2006-12-05 06:57:41 | 社会的知性
A24 Houle, A., Vickery, W. L., & Chapman, C. L. (2006).
Testing mechanisms of coexistence among two species of frugivorous primates.
Journal of Animal Ecology, 75, 1034-1044. [link]

果実食性霊長類2種間の共存メカニズムをテストする
1. 私たちは、同属の2種の果実食性(frugivorous)の霊長類であるブルーモンキーCercopithecus mitis)とアカオザルC. ascanius)とのあいだにある共存メカニズム(mechanism of coexistence)を調べた。
2. 私たちは、採餌効率(foraging efficiency)を測定し、可能な共存メカニズムを調べるため、果樹における限界採餌密度(giving-up density)を使用した。限界採餌密度の高い動物は、限界採餌密度のもっと低い動物といっしょにいつづけない傾向にある。それは、後者が前に使用した食物パッチを前者が利用できないからである。私たちは樹木に登り、霊長類が残した果実を数えることで限界採餌密度を評定した。
3. 私たちは、5つの可能な共存メカニズムをテストした。3つのメカニズムは、果実食性の一方の種がそれぞれ、以下のうちの少なくともひとつで他方の種より低い限界採餌密度をもっていると提案した:(1) 異なる樹木の種〔ある種の樹木では一方の種の限界採餌密度が高かったのに、別の種の樹木ではそれが逆転している〕、(2) 同じ樹木の採餌域〔同じ樹木について、樹冠の上のほうでは一方の種の限界採餌密度が高かったのに、樹冠の下のほうではそれが逆転している〕、ないし (3) 季節〔ある季節では一方の種の限界採餌密度が高かったのに、別の季節ではそれが逆転している〕。第4のメカニズムは、社会的に優位な種がもっぱら資源を利用し、劣位の種がより低い限界採餌密度をもっていると予測した。最後のメカニズムは、一方の種が別の種よりももっとはやく資源を発見し、それで後者がより低い限界採餌密度をもっていることになると予測した。
4. 私たちのデータは、5つのメカニズムのうち4つを支持しなかった。種間優位と限界採餌密度とのトレードオフ交換〕〔上でいう第4のメカニズム〕のみを支持した。
5. 私たちは、結果がどれほど一般なのかを、またほかのどのような要因との交互作用がありうるのかを論ずる。
キーワード:共存メカニズム(coexistence mechanism)、勝ち抜き型競争(contest competition)、採餌効率(foraging efficiency)、果実食(frugivory)、限界採餌密度(giving-up density、GUD)、キバレ国立公園(Kibale National Park)[link]、パッチ消耗(patch depletion)、ウガンダ(Uganda)。
ケベック大学モントリオール校生物科学部大学間森林生態学研究グループ(Groupe de Recherce en Écologie Forestière interuniversitaire (GREFi), Départment des Sciences Biologiques, Universié du Québec à Montréal)に所属しているアラン・ウール(Alain Houle)とウィリアム・L・ヴィカリー(William L. Vickery)、そしてマギル大学人類学部およびマギル環境校(Deparment of Anthropology and McGill School of Environment, McGill University)と野生生物保全協会とに所属するコリン・A・チャプマン(Colin A. Chapman)による論文。ウールは現在ハーヴァード大学(Harvard University)人類学部(Department of Anthropology)ピーボディ考古学民族学博物館(Peabody Museum of Archaeology and Ethnology)にいる。

種間優位と限界採餌密度とのトレードオフ」という結論がおもしろい。要約には書いてないが、限界採餌密度はブルーモンキーのほうが総じて高め。ブルーモンキーのほうがアカオザルよりも優位であると示している。

人に教えていただいたもの。Journal of Animal Ecology [JSTOR] の論文を読んだのは、たぶん初めて。

知った分野でもないので短く終わる。
2006-12-31
Alain Houleの読み方を修正。

ヒトに似たイヌの社会的技能とヒトの自己家畜化

2006-07-30 12:08:43 | 社会的知性
A18 Hare, B. & Tomasello, M. (2005).
Human-like social skills in dogs?
Trends in Cognitive Sciences, 9, 439-444. [link]

イヌにヒト様の社会的技能はあるか
イエイヌは、ヒトの社会的で伝達的な行動を読むことに――われわれにとって最近縁である霊長類に比べてさえも――異常に長けている。たとえば、彼ら〔イエイヌ〕は、隠された食物を発見するのにヒトの社会的で伝達的な行動(例 指さし身ぶり)を使用するし、さまざまな状況でヒトが何を見ることができて何を見ることができないかを知っている。最近おこなわれたイヌ科種のあいだでの比較によれば、これらの異常な社会的技能は遺伝性の部分であって、ヒトへの恐怖や攻撃を取り次ぐシステムにたいして選択〔淘汰〕が生じた結果として、おもに家畜化のあいだに進化したのだと示唆されている。チンパンジーとヒトとで気質がちがっていることから、〔イエイヌに生じた選択に類似した過程が重要な触媒となって、われわれ自身の種〔ヒト〕で異常な社会的技能が進化したのかもしれないと示唆されている。収斂進化の研究は、ヒト様の協力や伝達に到る進化過程にたいしてさらなる洞察を得るすばらしい機会を与える。
マクス・プランク進化人類学研究所ブライアン・ヘアマイケル・トマセロとによるイエイヌ(domestic dog、Canis lupus familiaris)の社会的知性についてのレヴュー。イエイヌとは、どこにでもいるふつうの畜犬のことである。

マクス・プランク進化人類学研究所は、霊長類の研究だけではなく、イエイヌの研究でも有名である。イエイヌといえば、オオカミとの比較等の研究で、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学行動学部門も有名である。

指さし身ぶり(pointing gesture)などのヒトの社会的で伝達的な行動(human social and communicative behavior)をイヌが理解する。また、ヒトが何を見ることができて何を見ることができないかも理解する。ブライアン・ヘア自身らの研究もこのなかに含まれている。彼らのいくつかの研究については、次の本で触れられている(著者は発達心理学者であるが、もともとは霊長類の心理学の研究者である)。
板倉昭二 (2006). 「私」はいつ生まれるか. ちくま新書 597. 東京: 筑摩書房.
ISBN4480063013

イヌがすごいのは、上のような場面について、チンパンジー以上の能力を発揮するところである。チンパンジーの他者理解の能力については、トマセロとダニエル・J・ポヴィネリとのあいだで論争があった([link][link][link][link])。また、次の本には、トマセロの章とポヴィネリの章との両方が含まれている。
Maestripieri, D. (Ed.) (2003). Primate psychology. Cambridge, MA: Harvard Univeristy Press.
ISBN067401152X[hardcover][paperback]

以前紹介したアメリカカケスの研究ヨーロッパコウイカの研究もそうであるが、最近は(といってもしばらく前から)霊長類以外の動物の他者理解についての研究が盛んである。たとえばウマだと[link]など。

さて、このレヴューで特徴的なのは、次の点。イヌの進化=家畜化の過程で、ヒトはヒトに馴れるように(恐怖や攻撃=ネガティヴな情動反応を減らすように)イヌを選択にかけてきたと考えられてきた。ヒトの進化の過程でもおたがいに恐怖や攻撃を減らすように選択がかかっていたのではないかと、著者は考えている。これを「一種の自己家畜化(a kind of self-domestication)(情動反応を支配するシステムにたいする選択)」と表現している。

貯食しているアメリカカケスは自分を目撃した相手を覚えている

2006-06-22 23:22:16 | 社会的知性
A16 Dally, J. M., Emery, N. J., & Clayton, N. S. (2006).
Food-caching western scrub-jays keep track of who was watching when.
Science, 312, 1662-1665. [link]

貯食しているアメリカカケスは誰ががいつ自分を見ていたのかを覚えている
アメリカカケス(western scrub-jay、Aphelocoma californica)は、将来に消費するために貯食したり、他個体の貯食したものを盗んだり、自分の貯食したものが盗まれる可能性を最小に抑える戦術をとったりする。わたしたちの研究は、アメリカカケスが、自分が貯食しているあいだにどの個体が自分を見ているのかを覚えていて、〔再貯食の機会にそれその観察者がまた見ているかどうかにしたがって再貯食行動を変化させることを示している。〔そのような貯食保護戦術を使用したのは、その観察者が自分を見ていたことを覚えていたからではなく、たんに再貯食の機会にその観察者がとっていた行動がきっかけとなっただけだとも考えられるが〕わたしたちの研究では、貯蔵者の貯食保護戦術の使用がその観察者の行動をきっかけとして起こっていることを示唆する証拠は見つからなかった
アメリカカケス(western scrub-jay、Aphelocoma californica)は、スズメ目スズメ亜目カラス小目カラス上科カラス科カラス亜科カラス族Aphelocomaに属する種。貯食行動(caching behavior、将来の使用のために食物を隠す)をおこなう種として有名。

カラス科(Family Covidae、コーヴィドcorvid)は、驚くべき認知能力を示すことで知られている。この研究に関連することでは、他個体が貯食している場所を覚える(アメリカカケス[link]、マツカケスGymnorhinus cyanocephalus[link][link]);貯食が盗まれるのを減らす行動をとる(アメリカカケス[link][link][link]、ワタリガラスCorvus corax[link][link]、カササギPica pica[link])。また、背景知識として、アメリカカケスでは、盗む個体が自分より劣位の個体であるときにだけ、貯食を盗むことから守ることができる([link])。つまり、貯食保護戦術は、盗む個体が自分より優位であるときにとる必要がある。さらに、アメリカカケスは、つがい相手の貯食を守ったりつがい相手が自分の貯食を盗むのを許したりする([link])。

この実験で、被験体は貯食する側であり、貯蔵者(storer)と呼ばれる。その貯食する被験体を観察する個体は、観察者(observer)と呼ばれる。

今回の論文は、認知科学徒 News Memoでもとりあげられている。著者は、ジョアナ・M・ダリー(Joanna M. Dally)、ネイサン・ジョン・エメリー(Nathan Jon Emery)、ニコラ・S・クレイトン(Nicola S. Clayton)。


実験1:貯蔵者は、自分の貯食した食物を保護する戦術をとるか。

貯食時――
貯食のためのトレイは2つ(観察者から近いもの、遠いもの)。それ以外にも隠そうとすれば隠せる場所はある。貯食のときの条件は4つ。
(i)優位条件:貯蔵者に、自分より優位の観察者がいるときに貯食させる。
(ii)劣位条件:貯蔵者に、自分より劣位の観察者がいるときに貯食させる。
(iii)つがい相手条件:貯蔵者に、つがい相手が観察者のときに貯食させる。
(iv)ひとり条件:貯蔵者に、観察者がいないときに貯食させる。

回収時――
3時間後、貯蔵者をひとりにして、貯食した食物の回収(recovery)をさせた。再貯食行動(recaching behavior)をとったこともあった。

結果:貯蔵者の行動――
貯食時には、「優位」条件と「劣位」条件とで、観察者から遠いトレイに貯食することが多かった。回収時には、再貯食をした頻度は、「優位」条件がほかの条件より高かった。しかも、「優位条件の回収時には、観察者から遠いトレイからの再貯食が、近いトレイからの再貯食よりも高頻度だった(この傾向は「劣位条件にも見られた)。どの条件でも、再貯食の食物は両トレイの以外の場所に貯食された。

考察―― 実験は、貯蔵者が、つがい相手以外が自分の貯食した食物を盗むリスクを小さくする保護戦術をとると示唆している。


実験2:貯蔵者は、貯食時にどの個体が自分を見ていたかを覚えているか。
貯蔵者と観察者との優劣が実験に与える影響を小さくするため、同じような順位のカケスで実験をおこなった。さらに、貯蔵者と観察者との優劣は、貯蔵者と観察者とを試行ごと〔各回の実験〕に入れ替えることで調整した。

貯食時――
貯蔵者に、観察者カケスAがいるときトレイAに貯食させ、観察者カケスBがいるときトレイBに貯食させた。ここで、観察トレイが定義され、観察者AについてはトレイAであり、観察者BについてはトレイBである。

回収時――
3時間後、貯蔵者に、次の3条件のもとで回収させた。再貯食行動をとったこともあった。
(i)ひとり条件:貯蔵者に、観察者がいないときに回収させる。
(ii)観察条件:貯蔵者に、観察者Aまたは観察者Bがいるときに回収させる。
(iii)統制条件:貯蔵者に、観察者Aでも観察者Bでもないカケスがいるときに回収させる。

結果:貯蔵者の行動――
観察条件では、「統制条件に比べて、回収時の再貯食の頻度が高かった。「観察条件では、ほかのトレイよりも観察トレイの食物を再貯食することが多かった。

考察―― 実験は、貯蔵者が、貯食時にどの個体が自分を見ていたかを覚えていると示唆している。


実験3:実験2の結果の解釈としては次の可能性もある。
観察者のカケスの何らかの行動が、貯蔵者が回収時に再貯食するきっかけになっている可能性もある。たとえば、観察者が貯食を目撃したほうのトレイに注意を向けていて、その行動が貯蔵者の再貯食のきっかけになったかもしれない。この可能性を排除するため、観察者のカケスの条件に手を加えないといけない。なお、この実験で用いた貯蔵者は、実験2のものとは異なる。

貯食時――
(i)観察条件(実験2と同じ):
観察者AがいるときにトレイAに貯食させ、観察者BがいるときにトレイBに貯食させた。
(ii)観察統制条件
観察者AがいるときにトレイAに貯食させ、観察者BがいるときにトレイBに貯食させた(ここまでは「観察」条件と同じ)。次に、観察者Aおよび観察者Bが見たのとは異なるカケス(追加貯蔵者)に、観察者Aでも観察者Bでもないカケス(統制観察者)がいるときに、トレイAに貯食させた。

回収時――
3時間後、上の2条件それぞれについて、次のようにした。
(i)観察条件(実験2と同じ):
貯蔵者に、観察者Aまたは観察者Bがいるときに回収させる。
(ii)観察統制条件
統制観察者がいるときに回収させる。
実験3の以上の手続きをまとめた論文の3(A)を改変したものが次図。

結果:貯蔵者の行動――
観察条件では、実験2と同じく、ほかのトレイよりも観察トレイの食物を再貯食することが多かった。。「観察統制条件では、再貯食の頻度はトレイ間で差がなかった。

考察―― 観察者にとって、両条件は同じ状況である。にもかかわらず、上の結果の項で述べたような差異が見られた。やはり、貯蔵者は、観察者の行動に影響を受けていたわけではなく、貯食時にどの個体が自分を見ていたかを覚えているのだろう。


この実験で示された行動については、ヒトと同じようなエピソード記憶〔言葉の意味などの意味記憶ではなく、1回きりの出来事ないし体験についての記憶〕は必要ない。また、ヒトと同じような「心の理論」〔他者が自分とは異なる独自の思考や感情をもつことを理解する能力〕も必要ない。学習アルゴリズムによって形成された行動の傾向に起因するか、または将来の危険についての推論に起因するのだろう。この実験は、ヒト以外の動物が、知識状態のちがいで他者どうしを区別できることを示唆している。

ニホンザルの社会的物体遊び

2006-06-18 17:25:16 | 社会的知性
A14 Shimada, M. (2006).
Social object play among young Japanese macaques (Macaca fuscata) in Arashiyama, Japan.
Primates, online, doi: 10.1007/s10329-006-0187-7. [link]

日本の嵐山のニホンザル(Macaca fuscata)における社会的物体遊び
嵐山E群の若いニホンザルMacaca fuscata、0-4歳)における社会的物体遊び(social object play、SOP)、すなわち持ち運び可能な物体を使用した社会的遊びについて、2000年7月から10月にかけて修正したシーケンス・サンプリング法を用いて調べた。SOPは、そこのほとんどの若いマカク〔サル〕のあいだで比較的よく見られる活動で、よく長い時間続いていた。参加者は、SOPバウト〔バウトは行動の単位〕において、食べられる自然物やプラスチック瓶などの人工物を含む多くの種類の物体を使用していたが、〔ヒトに〕与えられた食物や野生の果実は使用しなかった。長いバウト(0.5分以上)の分析から、相互作用的なSOPについて以下の特徴が明らかになった。(1) つねに参加者はひとつの物体しか使用せず、1個体の参加者しか物体を保持していなかった。(2) SOP追いかけ遊び(play-chasing)のあいだ、物体保持者が他個体に追いかけられる傾向にあった。(3) 長いバウトのあいだには、物体保持者が頻繁に変わっていた(4) 若いマカクにおいて、物体をめぐる敵対的な競合はまれだった。物体の保持者や非保持者の性、年齢、相対順位、母系は、保持者が追いかけ遊びで非保持者に追いかけられる傾向に影響しなかった。物体保持者が変わることがあっても、この相互作用様式、すなわち保持者がSOPバウトのあいだに追いかけられるということの反復が、物体を伴わないほかの型の社会的遊びからSOP構造を区別していた。自己ハンディキャッピング(self-handicapping)や役割の担当(role taking)といった一般的な近接的社会的遊びメカニズムが,SOPと関係していた。SOPに影響していたほかの機構は、以下のものを含んでいた。(1) 若いマカクは、遊びの競合において、ある物体を標的として扱っており(2) 標的物体の保持者であることは、「追いかけられるものという役割」と結びつけられていた。
キーワード:嵐山(Arashiyama)、相互作用様式(interactive pattern)、ニホンザル(Macaca fuscata)、追いかけ遊び(play-chasing)、社会的物体遊び(social object play)。
京都大学の島田将喜嵐山モンキーパークいわたやまでおこなった研究。何かをもって逃げる個体を別の個体が追いかける鬼ごっこのような社会的物体遊び(social object play、SOP)。

動物の遊び行動は、3つに分けられる。
(1) 移動遊び:走る、転がるといったひとり遊び。
(2) 物体遊び:何かを押したり壊したりする遊び。
(3) 社会的遊び:追いかけ遊び(play-chasing)や取っ組みあい遊び(play-fighting)といった個体間の相互作用。
SOPは物体遊び社会的遊びとの両方の特徴を兼ね備えている。

「物体を保持しているあいだに逃げる(run away while holding an object)」行動は、他個体を遊びに誘う行動(play solicitation)として、霊長類の社会的遊びでよく見られる。しかし、上の要約にまとめられているように、この追いかけの反復という構造は、ここで研究しているSOPに特有の特徴だった。

ここで見られる自己ハンディキャッピング(self-handicapping)とは、強い個体が自身の力を抑えて弱い個体と対等に遊ぶことを指している。また、ここでの役割の担当(role taking)の役割とは、追いかけるものと追いかけられるものとのことである。

また、すべてのニホンザルがこのSOPと同じ遊びをおこなうわけではないので、保持者であることと追いかけられる個体であることとの結びつけは、ニホンザルに生得的に備わっている傾向ではなく、社会的学習を通じて獲得されたものだと推測される。

昨年刊行の遊び関連書籍。ペーパーバックは今年9月刊行。
Burghardt, G. M. (2005). The genesis of animal play: testing the limits. Cambridge, MA: MIT Press.
ISBN0262025434[hardcover][paperback]

昨年度の第50回プリ研は、「遊ぶ子は育つ? -自然と進化、地域と学校-」というテーマでおこなわれました。類人猿、サル、イルカといったヒト以外の動物だけではなく、狩猟民や幼児の遊びについての発表もありました。

チンパンジーが隠れることで相手を欺く

2006-03-29 06:23:55 | 社会的知性
A11 Hare, B., Call, J., & Tomasello, M. (2006).
Chimpanzees deceive a human competitor by hiding.
Cognition, online, doi: 10.1016/j.cognition.2005.01.011. [link]

チンパンジーは隠れることでヒト競合者を欺く
ヒト以外の種が故意に他者の心理状態を操作して欺こうとする(たとえば、他者が何を見ているかを操作する)能力があるという実験的証拠はほとんどない。われわれはここで、チンパンジーつまりヒトにもっとも近縁の霊長類の1種が積極的に他者からものを隠そうとすることがあることを示す。具体的には、3つの新奇なテストでヒトと競合したとき、8個体のチンパンジーは、最初のほうの試行〔テストの1回分〕からヒト〔競合者〕の視野から隠れた道筋を通って争っている食物項目に近づくことを選択した(そうするのに迂回路を使用することもあった)。これらの結果は、チンパンジーが他者が何を見ることができるかおよびできないかを知っていることを示す先行研究を確証するだけでなく、食物をめぐって競合するときチンパンジーが自分に有利になるように他者が自分を見ることができるかまたはできないかを操作することに長けていることを示唆する。
キーワード:チンパンジー(chimpanzee)、欺き(deception)、視点取得(visual perspective taking)、社会的認知(social cognition)、認知進化(cognitive evolution)。
毎度毎度毎度だが、マクス・プランク進化人類学研究所発達および比較心理学分野ブライアン・ヘアジョゼプ・コールマイケル・トマセロ

欺きdeception)は戦略的欺きと戦術的欺きとに分けられている。戦略的欺きstrategic deception)は、擬態のように形態的に決まりきった方法で欺くことである(意図性はない)。戦術的欺きtactical deception)とは、自分の行為を他者が誤解するようにすることである。戦術的欺きの意図性intentionality)を考えると、自分の行為の目的も相手の心的状態〔相手が何らかを知っている状態〕も理解せず結果的に欺いているのを0次意図性0-order intentionality)、自分の行為の目的だけを理解して結果的に欺いているのを1次意図性1st-order intentionality)、自分の行為の目的欺く相手の心的状態も理解して欺いているのを2次意図性2nd-order intentionality)と考える。意図性の分類はダニエル・クレメント・デネット(Daniel Clement Dennett)による。デネット進化論認知科学にかかわる心の哲学科学哲学の専門家。この段落は、藤田和生『比較認知科学への招待』による。
藤田和生 (1998). 比較認知科学への招待: 「こころ」の進化論. 京都: ナカニシヤ出版.
ISBN4888484376

ということで、欺きがチンパンジーでテーマになるというのは、チンパンジーが他者の心的状態を理解しうるかという社会的知性にかかわる問題と直結することになる。ここでは具体的には、他者の視線を社会的手がかりとして利用できるか、他者に何が見えているかを理解しているかが問題になっている。

実験装置は、図のとおり(俯瞰図になっている)。まず実験者は真ん中のチューブにフルーツジュースを流し、チンパンジーを中央に近寄らせる。そのあとチンパンジーがバナナに近づくのを見たら実験者はバナナを取り去るということを、チンパンジーに教えておく。チンパンジーはどう対処するか。

以降のテストでいつバナナを取ることを許すのかが重要になりそうだが、結果的にバナナを取ることを許すことで学習が促進されることはなかったので、とくに明記しない。

テスト1身体方向

条件は3つ。
条件1 顔と胸条件:顔を身体も同じバナナのほうを向く。
⇒実験者の顔も身体も向いていないほうからバナナを取る。

条件2 顔対胸条件:顔と身体とで別のバナナのほうを向く。
⇒実験者の顔が向いていないほうからバナナを取る。

条件3 社会的手かがりなし:上2条件との比較。実験者はすぐに場を離れる。
⇒どちらからでもバナナを取る。

テスト2遮蔽板

条件は3つ。遮蔽板がある側からは、自分の姿を実験者に見られずにバナナに近づける。遮蔽板を置く箇所は、図に青い点線で示してある。テスト2では、図に示してある遮蔽板設置箇所のうち、バナナと取り口とのあいだのもののみ用いた。
条件1 顔と胸条件:顔を身体も同じバナナのほうを向く(テスト1と同じ)。
⇒実験者の顔も身体も向いていないほうからバナナを取る。

条件2 遮蔽板条件:左右のどちらかのバナナと取り口とのあいだに遮蔽板を置く。実験者はまっすぐ前を向く。
条件3で遮蔽板を回避した個体を除外すると、遮蔽板のあるほうからバナナを取る。

条件3 社会的手がかりなし:条件2との比較。遮蔽板は左右のどちらかにある。実験者はすぐに場を離れる。
⇒2個体は遮蔽板を回避する。それ以外の個体はどちらからでもバナナを取る。

テスト3分割遮蔽板

条件は3つ。テスト3では、図に示してある遮蔽板設置箇所のうち、すべてを用いた。
条件1 2重遮蔽板条件:左右のどちらかについて、2ヶ所ある設置箇所の両方に遮蔽板を置く。実験者はまっすぐ前を向く。
遮蔽板のあるほうからバナナを取る。

条件2 分割遮蔽板条件:左右の一方には、実験者とバナナとのあいだに分割されていない遮蔽板を置く。他方には、上下に分割した遮蔽板を置く。下部分は実験者とバナナとのあいだに、上部分はバナナと取り口とのあいだに下げる。実験者はまっすぐ前を向く。論文の手続きのところには書かれていないが、チンパンジーが実験者に見られる可能性は、分割遮蔽板を置かれた側のほうが高いということだろう。
分割されていない遮蔽板のあるほうからバナナを取る。

条件3 社会的手がかりなし:条件2との比較。遮蔽板条件2の状態にして、実験者はすぐに場を離れる。
⇒どちらからでもバナナを取る。

バナナへの接近の仕方を2通りに分けている。そのまま取りにいくのを直接接近と、1回離れて実験者から見えないくらいのところでまた戻ってくるのを間接接近と呼んでいる。

テスト1テスト2実験者がいる条件では、かなりの個体が間接接近を用いた。しかし、テスト3では、実験者がいる条件でも直接接近を用いている。現に、テスト3には遮蔽板が多く、そこまで身を隠す必要性がない。

以上のような結果を踏まえて、上の要約で書かれている結論が得られる。

参加者は、26歳オス(ロベルトRobert)、25歳メス(リートRiet)、9歳オス(フロドFrodo)、9歳メス4個体(ザンドラSandra、ヤハガJahaga、フィフィFifi、トルディTruddy〔ゲルトルディアGertrudia?〕)、5歳オス(パトリクPatrick)。リートについて、論文だとライト(Reit)になっているが、「リート」としたのは、ヴォルフガング・ケーラー霊長類研究センターのウェブサイトでの表記による。各個体の読み仮名はいいかげん。

最後に。チンパンジーの他者理解というのはいろいろと論争の多い問題領域なので、さまざまな論文を参照しなければならない。

コウイカの同種同性個体の認知

2006-03-22 08:47:17 | 社会的知性
A10 Palmer, M. E., Calvé, M. R., & Adamo, S. A. (2006).
Response of female cuttlefish Sepia officinalis (Cephalopoda) to mirrors and conspecifics: evidence for signaling in female cuttlefish.
Animal Cognition, online, doi: 10.1007/s10071-005-0009-0. [link]

メスのコウイカSepia officinalis〔ヨーロッパコウイカ〕(頭足綱)の鏡や同種個体に対する反応:メスのイカにおける信号の証拠
コウイカは、迷彩や個体間信号に用いられる身体模様の膨大なレパートリーをもっている。オスのコウイカによる個体間信号はよく記録されてきているが、メスによる信号の研究は不足している。われわれは、新しく〔この研究ではじめて〕描かれた身体模様を、オスや獲物、無生物に対してではなく自分の鏡像同種メス個体に対して見せることを発見し、この身体模様をスプロッチsplotch)〔斑点〕と名づけた。メスのコウイカは、スプロッチ身体模様を、おそらく〔ほかのメスとの〕敵対的なやりとりを減少させるために用いているのだろう。メスが同種個体や鏡に反応して一貫した身体模様を産みだせることから、ヒト観察者に視認できる性的2型〔同種でのオス、メス間の違い〕がないにもかかわらず、彼女ら〔メスのコウイカ〕が視覚的手がかりを用いて同種同性個体を認識できることが示唆される。
キーワード:動物コミュニケーション(animal communication)、軟体動物門(Mollusca)、身体模様(body pattern)、頭足綱(Cephalopoda)。
カナダのドーセット環境科学センター(Dorset Environmental Science Centre)のM・E・パルメール(M. E. Palmer)、ダルハウジー大学(Dalhousie University)のM・リシャール・カルヴェ(M. Richard Calvé)、シェリー・A・アダモ(Shelley A. Adamo)によって『動物認知(Animal Cognition)』に発表されたヨーロッパコウイカSepia officinalis)の同種同性個体認知についての研究。アダモのウェブサイトはこちら。このウェブサイトに飛ぶといきなりコオロギ、青虫の写真があるので虫嫌いの人は注意。そのページの下のほうには今回被験体となったのと同じ種類のコウイカの写真がある。

頭足綱(Class Cephalopoda)鞘形亜綱(Subclass Coleoidea)は、イカタココウモリダコから成る分類群であり、身体模様をすばやく変化させられることで有名である。研究者たちは、中枢神経系が発達しているということもあって、その身体模様がコミュニケーションで役割を果たすという証拠を探してきた。

イカすなわち十腕形上目(Superorder Decapodiformes)といっても、コウイカ目(cuttlefish、Order Sepiida)、ダンゴイカ目(bobtail squid、Order Sepiolida)、トグロコウイカ目(Ram's horn squid、Order Spirulida)、ツツイカ目(squid、Order Teuthida)に分かれている。ヤリイカLoligo bleekeri)、アオリイカSepiotenthis lessoniana)、スルメイカTodarodes pacificus)はすべてツツイカ目に属している。今回とりあげたヨーロッパコウイカは、名前のとおりコウイカ目コウイカ科(Family Sepiidae)に属している。同じくコウイカ科に属しているイカとしては、シリヤケイカ(Sepiella japonica)がいる。

上の要約の補足。腕広げ(splayed arms)は典型的には採食中に、また潜在的に脅威をもつ相手に対して示されることが知られているが、その腕広げが自身の鏡像同種メス個体に対して見られた。コウイカは同種メス個体を潜在的な脅威とみなしているのだろう。メス個体どうしが出会ったとき、たがいに腕広げをするわけだが、おそらく一方がスプロッチを示したおかげで、ともに腕広げをしていたのをやめている

ただ、今回の研究では一貫した信号(スプロッチ)を出していることがわかっただけで、それをいま述べたようにコミュニケーションに用いているかどうかについては示唆されるに留まる。将来的にはスプロッチに対して信号の受け手一貫した反応を示すかどうかを調べる必要があると、著者らは考えている。また、信号の送り手、受け手にどのような利益があるのかについても調べなければならず、可能性としてはスプロッチ同種個体による攻撃を減らすことがあるだろうとしている。

ちょうど、ケリ・V・ラングリジが『ロンドン王立協会紀要 シリーズB:生物科学(Proceedings of the Royal Society of London Series B: Biological Sciences)』の最新号(273巻1589号)に「コウイカSepia officinalisにおける対称的隠蔽色と非対称的信号」という論文を書いている([link])。要約を読むかぎり、内容は次のとおり。コウイカはヒトと同じく左右対称の動物であるが、その模様は自由に、非対称にも変えられる。左右対称のほうが模様としては目立つわけだから、脅威となる相手に対して迷彩の効果を出すには非対称の、何らかの信号を出すには対称の模様にすればよいと予想される。しかし、論文の題に表わされているとおり、結果は予想と逆になった。

チンパンジーは他者の利益に無関心

2006-03-19 14:57:10 | 社会的知性
A9 Jensen, K., Hare, B., & Call, J., & Tomasello, M. (2006).
What's in it for me? Self-regard precludes altruism and spite in chimpanzees.
Proceedings of the Royal Society of London Series B: Biological Scieces, online, doi: 10.1098/rspb.2005.3417. [link]

そこには自分のために何があるのか。チンパンジーにおいて、自己への関心が利他と嫌がらせとを阻害する
公平への感受性は、個体が相互に利益のある利己的な利他的な、あるいは嫌がらせの活動に携わることを選択するかどうかに影響するだろう。一連の3つの実験で、チンパンジー(Pan troglodytes)は〔2本のうち1本の〕ロープを引いて届かないところにある食物を手に入れることができた。そうすることに伴って、別の〔引かなかったほうのロープにつながれた〕食物は遠ざかることになった。第1の実験で彼ら〔チンパンジー〕は、自分自身のみが利益を受けるか(利己)、自分自身ともう1個体いるチンパンジーとの両方が利益を受けるか(相互)の選択をすることができた。次の2つの実験では彼ら〔チンパンジー〕は、もう1個体いるチンパンジーのみが食物をもらうか(利他)、そのもう1個体いるチンパンジーが利益を受けるのを妨害して両者ともに食物をもらえないか(嫌がらせ)のあいだで選択することができた。すべての研究を通じてのおもな結果は、チンパンジーが個人的な利益のみにもとづいて選択をおこなっていて、同種個体に及ぶ結果には関心をもたないということだった。これらの結果は、ヒトの協力行動の起源についての疑問を呈する。
キーワード:行動生物学(bihavioural biology)、進化心理学(evolutionary psychology)、ゲーム理論(game theory)、不衡平(inequity)、チンパンジー種(Pan troglodytes)。
キース・ジェンセン(Keith Jensen)、ブライアン・ヘア(Brian Hare)、ジョゼプ・コール(Josep Call)、マイケル・トマセロ(Michael Tomasello)によるチンパンジー社会的知性の研究。前回に紹介した研究と同じく、マクス・プランク進化人類学研究所発達および比較心理学分野のチームによる。

全体を通じた実験方法としては次のとおり。2つの選択肢を与えられるわけだが、どちらの選択肢を選んでも自分自身は食物をもらえる。あるいはどちらの選択肢を選んでも自分自身は食物をもらえない。では選択肢間でどう違うのかというと、もう1個体チンパンジーが別にいて、その個体が利益をもらうかどうかである。下図を参照。
中央にいるのが著者らが行動を見ようとしている個体。左にいるのが中央の個体の行動によって食物がもらえたりもらえなかったりする個体。ここで「到達可能」「到達不可能」は受益者にとって可能か不可能かという意味である。ロープを引いたほうの食物は近づくが、すると他方の食物は遠ざかる。このような装置を用いて、受益者が受益者部屋にいるとき統制部屋にいるときとで行為者(研究ターゲット)の行動が変わるかどうかを見る。もちろん、統制部屋にいる受益者は、行為者が何をしても食物をもらえない。

ウィリアム・ドナルド・ハミルトン(William Donald Hamilton)にしたがって([link])、利得行列(payoff matrix)を示している。相互(mutualism)、利己(selfishness)、利他(altruism)、嫌がらせ(spite)の分類に注意。
受益者
利益(+)損失(-)
行為者利益(+)相互(+、+)利己(+、-)
損失(-)利他(-、+)嫌がらせ(-、-)

実験の具体的な流れは、次の表のとおり。バナナ入ったカップの番号は上図を参照。
バナナの
カップ
行為者の行為
到達可能テーブル
引く頻度が高い
到達不可能テーブル
引く頻度が高い
何もしない
実験1すべてふたりともに利益
相互
行為者だけに利益
利己
実験2(1)(4)のみ受益者だけに利益
利他
誰にも利益はない
嫌がらせ
誰にも利益はない
嫌がらせ
実験315秒後に受益者のみに利益
利他
実験3で行為者が何もしないと、しばらく後に受益者のみに利益が渡される(実験者が装置を操作して、到達可能テーブルを部屋に向かって動かす)。

実験1では、到達可能テーブルを引く割合が大きかった。しかし、受益者が受益者部屋にいても統制部屋にいても到達可能テーブルを引くというのは変わらなかったので、それは受益者の利益を考えてのことではなかったのだろう。

実験23では、何もしない割合が大きかった。なお、これは受益者がどちらの部屋にいても同じだった。

全体として、行為者は自分への関心にもとづいて選択していて、他者の利益への関心は見られなかった。

同じようにチンパンジーが他者に関心をもたないという研究は、ジョウン・B・シルクらによってもおこなわれている([link])。

しかし、前回紹介したとおり、チンパンジーの子どもは自分に利益がないにもかかわらず他者を手助けすることがある。