A7 Melis, A. P., Hare, B., & Tomasello, M. (2006).
Chimpanzees recruit the best collaborators.
Science, 311, 1297-1300. [link]
チンパンジーは協力者としてもっともふさわしいものに助けを求める
ヒトは〔ほかの種にはない〕特殊な方法で非血縁者と協力するが、これらの協力技能の進化的基盤はいまだ不明である。われわれは、チンパンジーに協力問題を呈示した。その問題でチンパンジーは、〔実験1で〕協力者にいつ助けを求めるかを、また〔実験2では実験者が設定した2個体の〕潜在的な協力者のうちどちらに助けを求めるかを決定しなければならなかった。最初の研究〔実験1〕では、個体〔チンパンジー〕は、協力を必要とする問題を解決するときにのみ協力者に助けを求めた。第2の研究〔実験2〕では、個体〔チンパンジー〕は、協力者のそれぞれと前日に〔協力問題の〕経験をしていて、それにもとづいて2個体の協力者のうちより効果的なほうに〔協力して食物を回収できる可能性が大きいほうに〕助けを求めた。この結果からわかるように、いつ協力が必要かを認識すること、および誰がもっとも協力者としてふさわしいものかを決定することは、チンパンジーとヒトとの両方に共有された技能であり、それゆえそのような技能は、ヒトが特有の複雑な協力形式を進化させるまえに、それら〔ヒトとチンパンジーと〕の共通祖先がもっていたのだろう。
つい先週の『サイエンス』(2006年3月3日)に掲載された論文。本ブログには珍しく速報。
チンパンジーの社会的知性に関する研究。具体的には、協力行動をとるうえで、協力を求める側が協力すべきなのはいつ、誰となのか理解しているかどうか。
アリシア・ペレス・メリス(Alicia Pérez Melis)、ブライアン・ヘア(Brian Hare)、マイケル・トマセロ(Michael Tomasello)が著者。ドイツのライプツィヒにあるマクス・プランク進化人類学研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)に所属する研究者であるが、研究をおこなったのは、アフリカのウガンダにあるンガンバ島チンパンジーサンクチュアリ(Ngamba Island Chimpanzee Sanctuary)である。このサンクチュアリは、ウガンダのエンテベ(Entebbe)近郊、ヴィクトリア湖のンガンバ島にある。ウガンダのエンテベでは、2006年に第21回国際霊長類学会(21st Congress International Primatological Society)がおこなわれる。
上の要約は論文付されているものだが、その要約だけでは具体的な内容がよくわからないので、若干の補足。
協力問題で使用された装置は、図のようなものだった。装置が部屋の外に置かれていて、チンパンジーはロープをつかんで引き寄せることを求められた。装置の幅が一定の長さ以上であるとき、ひとりでは両方のロープの端が同時につかめず、ロープがするすると抜けて失敗する。つまりこの場合は協力者の助けが必要である。
被験体のチンパンジーは、協力者のいる隣の部屋への鍵をもっていて、その鍵は被験体が開けたいときに開けられるようになっていた。隣の部屋とテストをしていた部屋とは、柵で仕切られていただけなので、おたがいに丸見えである。
実験1では、2条件があった。どちらの条件でも、協力者となりうるものは1個体で、被験体の選択肢は、その個体に助けを求めるか求めないかのいずれかだった。
実験2では、2日に分けて行われた(上の要約で「前日」と書かれているのが第1日)。両日とも協力が必要な問題で、協力者となりうるものは2個体いた。その2個体は別々の部屋にいて、被験体はどちらを協力者とするのかを選択できた。
選択肢として2個体いれば、協力したあとの結果がよい個体と悪い個体との違いが出てくる(論文では、協力するによい相手を効果的(effective)と呼んでいる)。第1日には、もちろん効果的な個体とそうでない個体の区別はなかった。しかし、第2日には、効果的な個体に協力を求める割合が、効果的でない個体に協力を求める割合より大きかった。
また、両日を通して、うまくいったら次もその個体を選びつづけ、うまくいかなかったら次はその個体を選ばないという戦略(win-stay / lose-shift strategy)と、うまくいっても次はその個体を選ばず、うまくいかなくても次もその個体を選びつづけるという戦略(win-shift / lose-stay strategy)とを比べた。win-stay / lose-shift戦略をとる割合のほうが、win-shift / lose-stay戦略をとる割合より大きかった。
以上の結果からチンパンジーには、いつ協力者が必要かを判断する能力、2個体のうちどちらが協力者としてふさわしいかを判断する能力があると考えられる。
なお、実験参加者は全部で12個体。うち8個体がテスト被験体となった。そのうち6個体はテストの相手としても参加し(●●●●●●)、2個体は被験体としてのみ参加した(●●)。残り4個体はテストの相手としてのみ参加した(●●●●)。
同じ号には、フェリクス・ヴァルネケンとマイケル・トマセロが論文を([link])、ジョウン・B・シルクがこれらの2つの研究の簡単なまとめを([link])書いている。
2006-03-14追記
実験参加者たちについて。
Chimpanzees recruit the best collaborators.
Science, 311, 1297-1300. [link]
チンパンジーは協力者としてもっともふさわしいものに助けを求める
ヒトは〔ほかの種にはない〕特殊な方法で非血縁者と協力するが、これらの協力技能の進化的基盤はいまだ不明である。われわれは、チンパンジーに協力問題を呈示した。その問題でチンパンジーは、〔実験1で〕協力者にいつ助けを求めるかを、また〔実験2では実験者が設定した2個体の〕潜在的な協力者のうちどちらに助けを求めるかを決定しなければならなかった。最初の研究〔実験1〕では、個体〔チンパンジー〕は、協力を必要とする問題を解決するときにのみ協力者に助けを求めた。第2の研究〔実験2〕では、個体〔チンパンジー〕は、協力者のそれぞれと前日に〔協力問題の〕経験をしていて、それにもとづいて2個体の協力者のうちより効果的なほうに〔協力して食物を回収できる可能性が大きいほうに〕助けを求めた。この結果からわかるように、いつ協力が必要かを認識すること、および誰がもっとも協力者としてふさわしいものかを決定することは、チンパンジーとヒトとの両方に共有された技能であり、それゆえそのような技能は、ヒトが特有の複雑な協力形式を進化させるまえに、それら〔ヒトとチンパンジーと〕の共通祖先がもっていたのだろう。
つい先週の『サイエンス』(2006年3月3日)に掲載された論文。本ブログには珍しく速報。
チンパンジーの社会的知性に関する研究。具体的には、協力行動をとるうえで、協力を求める側が協力すべきなのはいつ、誰となのか理解しているかどうか。
アリシア・ペレス・メリス(Alicia Pérez Melis)、ブライアン・ヘア(Brian Hare)、マイケル・トマセロ(Michael Tomasello)が著者。ドイツのライプツィヒにあるマクス・プランク進化人類学研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)に所属する研究者であるが、研究をおこなったのは、アフリカのウガンダにあるンガンバ島チンパンジーサンクチュアリ(Ngamba Island Chimpanzee Sanctuary)である。このサンクチュアリは、ウガンダのエンテベ(Entebbe)近郊、ヴィクトリア湖のンガンバ島にある。ウガンダのエンテベでは、2006年に第21回国際霊長類学会(21st Congress International Primatological Society)がおこなわれる。
上の要約は論文付されているものだが、その要約だけでは具体的な内容がよくわからないので、若干の補足。
協力問題で使用された装置は、図のようなものだった。装置が部屋の外に置かれていて、チンパンジーはロープをつかんで引き寄せることを求められた。装置の幅が一定の長さ以上であるとき、ひとりでは両方のロープの端が同時につかめず、ロープがするすると抜けて失敗する。つまりこの場合は協力者の助けが必要である。
被験体のチンパンジーは、協力者のいる隣の部屋への鍵をもっていて、その鍵は被験体が開けたいときに開けられるようになっていた。隣の部屋とテストをしていた部屋とは、柵で仕切られていただけなので、おたがいに丸見えである。
実験1では、2条件があった。どちらの条件でも、協力者となりうるものは1個体で、被験体の選択肢は、その個体に助けを求めるか求めないかのいずれかだった。
条件1 装置のロープの両端は、ひとりで手が届く範囲にある。
条件2 装置のロープの両端は、ひとりで手が届く範囲にない。
チンパンジーは、条件2の協力者が必要なときにのみ協力者に助けを求めた。条件2 装置のロープの両端は、ひとりで手が届く範囲にない。
実験2では、2日に分けて行われた(上の要約で「前日」と書かれているのが第1日)。両日とも協力が必要な問題で、協力者となりうるものは2個体いた。その2個体は別々の部屋にいて、被験体はどちらを協力者とするのかを選択できた。
選択肢として2個体いれば、協力したあとの結果がよい個体と悪い個体との違いが出てくる(論文では、協力するによい相手を効果的(effective)と呼んでいる)。第1日には、もちろん効果的な個体とそうでない個体の区別はなかった。しかし、第2日には、効果的な個体に協力を求める割合が、効果的でない個体に協力を求める割合より大きかった。
また、両日を通して、うまくいったら次もその個体を選びつづけ、うまくいかなかったら次はその個体を選ばないという戦略(win-stay / lose-shift strategy)と、うまくいっても次はその個体を選ばず、うまくいかなくても次もその個体を選びつづけるという戦略(win-shift / lose-stay strategy)とを比べた。win-stay / lose-shift戦略をとる割合のほうが、win-shift / lose-stay戦略をとる割合より大きかった。
以上の結果からチンパンジーには、いつ協力者が必要かを判断する能力、2個体のうちどちらが協力者としてふさわしいかを判断する能力があると考えられる。
なお、実験参加者は全部で12個体。うち8個体がテスト被験体となった。そのうち6個体はテストの相手としても参加し(●●●●●●)、2個体は被験体としてのみ参加した(●●)。残り4個体はテストの相手としてのみ参加した(●●●●)。
同じ号には、フェリクス・ヴァルネケンとマイケル・トマセロが論文を([link])、ジョウン・B・シルクがこれらの2つの研究の簡単なまとめを([link])書いている。
2006-03-14追記
実験参加者たちについて。