A51 Lindshield, S. M., & Rodrigues, M. A. (2009).
Tool use in wild spider monkeys (Ateles geoffroyi).
Primates, 50, 269-272. (DOI:10.1007/s10329-009-0144-3)
野生クモザルの道具使用
道具使用は、新世界ザルでも旧世界ザルでも、さまざまな霊長類種で観察されてきた。しかし、そのような報告は、おもにもっとも優れた道具使用者〔チンパンジー(Pan troglodytes)、オランウータン(Pongo pygmaeus)、オマキザル(Cebus sp.)〕にとりくんでおり、その道具使用にかんする考察も、採食の枠ぐみに限定されていることが多かった。ここでわれわれが示すのは、野生のジョフロワクモザル(black-handed spider monkeys, Ateles geoffroyi)で、新奇かつ自発的な道具使用が観察されたということである。そこでは、メスのクモザルが自己指向的な方法で遊離した棒を使用していた。われわれは、いくつかの要因を導入することで、Atelesが道具使用をおこなえることや、それでもその道具使用がかぎられたものであることを説明する。また、関連研究の総合を進めることで、クモザルの認知能力や霊長類の道具使用行動の進化にたいして洞察を得る。
キーワード:道具使用(Tool use)・Ateles geoffroyi・認知(Cognition)
著者はステイシー・マリー・リンドシールド(Stacy Marie Lindshield)(アイオワ州立大学 Iowa State University)、ミシェル・A・ロドリゲス(Michelle A. Rodrigues)(オハイオ州立大学 Ohio State University)。
この記事でジョフロワクモザル(アカクモザル、チュウベイクモザル、Ateles geoffroyi)の実験的研究を紹介し、この記事とこの記事で野生霊長類の道具使用を紹介した。今回は、野生ジョフロワクモザルの道具使用の事例報告である。クモザルの道具使用はこれまで報告されていない。
要旨では「自己指向的な方法で遊離した棒を使用していた」とあってわかりづらいが、実際におこなっていたのはわかりやすいことで、棒で自分の身体を掻いていた。また、系統的に観察はしていないとのことだが、観察者に向かって枝を落とすという道具使用もみられた。
この論文で初めて知ったのだが、ここで引用されている諸論文によると、ジョフロワクモザルの新皮質の割合は、フサオマキザル(Cebus apella)やボンネットモンキー(Macaca radiata)に類似しているとのことである。加えて、脳化指数(encephalization quotient)は、チンパンジー(Pan troglodytes)に匹敵するらしい。前の記事でもジョフロワクモザルの離合集散社会に触れられていたが、ここでは、群れの離合集散ダイナミクスが認知を強める可能性を指摘している。これらは、常習的な道具使用のような柔軟な知性の発揮がジョフロワクモザルにもありうることを支持している。
一方で、クモザルに道具使用がみられない理由として、次のことがあげられている。道具を使用するには、道具で環境から食べものをとりだす必要性に迫らなければならないが、クモザルはそういった採食をおこなっていない。また、親指が退化しているため、手の操作能力が制限されている。後者の点は、非常に手先が器用なチンパンジーやオマキザルとは対照的である。
道具使用はなかなか難しいかもしれませんが、前の記事でとりあげたように、クモザルが今後、社会的知性研究で活躍するとおもしろいですね。
Tool use in wild spider monkeys (Ateles geoffroyi).
Primates, 50, 269-272. (DOI:10.1007/s10329-009-0144-3)
野生クモザルの道具使用
道具使用は、新世界ザルでも旧世界ザルでも、さまざまな霊長類種で観察されてきた。しかし、そのような報告は、おもにもっとも優れた道具使用者〔チンパンジー(Pan troglodytes)、オランウータン(Pongo pygmaeus)、オマキザル(Cebus sp.)〕にとりくんでおり、その道具使用にかんする考察も、採食の枠ぐみに限定されていることが多かった。ここでわれわれが示すのは、野生のジョフロワクモザル(black-handed spider monkeys, Ateles geoffroyi)で、新奇かつ自発的な道具使用が観察されたということである。そこでは、メスのクモザルが自己指向的な方法で遊離した棒を使用していた。われわれは、いくつかの要因を導入することで、Atelesが道具使用をおこなえることや、それでもその道具使用がかぎられたものであることを説明する。また、関連研究の総合を進めることで、クモザルの認知能力や霊長類の道具使用行動の進化にたいして洞察を得る。
キーワード:道具使用(Tool use)・Ateles geoffroyi・認知(Cognition)
著者はステイシー・マリー・リンドシールド(Stacy Marie Lindshield)(アイオワ州立大学 Iowa State University)、ミシェル・A・ロドリゲス(Michelle A. Rodrigues)(オハイオ州立大学 Ohio State University)。
この記事でジョフロワクモザル(アカクモザル、チュウベイクモザル、Ateles geoffroyi)の実験的研究を紹介し、この記事とこの記事で野生霊長類の道具使用を紹介した。今回は、野生ジョフロワクモザルの道具使用の事例報告である。クモザルの道具使用はこれまで報告されていない。
要旨では「自己指向的な方法で遊離した棒を使用していた」とあってわかりづらいが、実際におこなっていたのはわかりやすいことで、棒で自分の身体を掻いていた。また、系統的に観察はしていないとのことだが、観察者に向かって枝を落とすという道具使用もみられた。
この論文で初めて知ったのだが、ここで引用されている諸論文によると、ジョフロワクモザルの新皮質の割合は、フサオマキザル(Cebus apella)やボンネットモンキー(Macaca radiata)に類似しているとのことである。加えて、脳化指数(encephalization quotient)は、チンパンジー(Pan troglodytes)に匹敵するらしい。前の記事でもジョフロワクモザルの離合集散社会に触れられていたが、ここでは、群れの離合集散ダイナミクスが認知を強める可能性を指摘している。これらは、常習的な道具使用のような柔軟な知性の発揮がジョフロワクモザルにもありうることを支持している。
一方で、クモザルに道具使用がみられない理由として、次のことがあげられている。道具を使用するには、道具で環境から食べものをとりだす必要性に迫らなければならないが、クモザルはそういった採食をおこなっていない。また、親指が退化しているため、手の操作能力が制限されている。後者の点は、非常に手先が器用なチンパンジーやオマキザルとは対照的である。
道具使用はなかなか難しいかもしれませんが、前の記事でとりあげたように、クモザルが今後、社会的知性研究で活躍するとおもしろいですね。