A18 Hare, B. & Tomasello, M. (2005).
Human-like social skills in dogs?
Trends in Cognitive Sciences, 9, 439-444. [link]
イヌにヒト様の社会的技能はあるか
イエイヌは、ヒトの社会的で伝達的な行動を読むことに――われわれにとって最近縁である霊長類に比べてさえも――異常に長けている。たとえば、彼ら〔イエイヌ〕は、隠された食物を発見するのにヒトの社会的で伝達的な行動(例 指さし身ぶり)を使用するし、さまざまな状況でヒトが何を見ることができて何を見ることができないかを知っている。最近おこなわれたイヌ科種のあいだでの比較によれば、これらの異常な社会的技能は遺伝性の部分であって、ヒトへの恐怖や攻撃を取り次ぐシステムにたいして選択〔淘汰〕が生じた結果として、おもに家畜化のあいだに進化したのだと示唆されている。チンパンジーとヒトとで気質がちがっていることから、〔イエイヌに生じた選択に〕類似した過程が重要な触媒となって、われわれ自身の種〔ヒト〕で異常な社会的技能が進化したのかもしれないと示唆されている。収斂進化の研究は、ヒト様の協力や伝達に到る進化過程にたいしてさらなる洞察を得るすばらしい機会を与える。
マクス・プランク進化人類学研究所のブライアン・ヘアとマイケル・トマセロとによるイエイヌ(domestic dog、Canis lupus familiaris)の社会的知性についてのレヴュー。イエイヌとは、どこにでもいるふつうの畜犬のことである。
マクス・プランク進化人類学研究所は、霊長類の研究だけではなく、イエイヌの研究でも有名である。イエイヌといえば、オオカミとの比較等の研究で、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の行動学部門も有名である。
指さし身ぶり(pointing gesture)などのヒトの社会的で伝達的な行動(human social and communicative behavior)をイヌが理解する。また、ヒトが何を見ることができて何を見ることができないかも理解する。ブライアン・ヘア自身らの研究もこのなかに含まれている。彼らのいくつかの研究については、次の本で触れられている(著者は発達心理学者であるが、もともとは霊長類の心理学の研究者である)。
イヌがすごいのは、上のような場面について、チンパンジー以上の能力を発揮するところである。チンパンジーの他者理解の能力については、トマセロとダニエル・J・ポヴィネリとのあいだで論争があった([link][link][link][link])。また、次の本には、トマセロの章とポヴィネリの章との両方が含まれている。
以前紹介したアメリカカケスの研究やヨーロッパコウイカの研究もそうであるが、最近は(といってもしばらく前から)霊長類以外の動物の他者理解についての研究が盛んである。たとえばウマだと[link]など。
さて、このレヴューで特徴的なのは、次の点。イヌの進化=家畜化の過程で、ヒトはヒトに馴れるように(恐怖や攻撃=ネガティヴな情動反応を減らすように)イヌを選択にかけてきたと考えられてきた。ヒトの進化の過程でも、おたがいに恐怖や攻撃を減らすように選択がかかっていたのではないかと、著者は考えている。これを「一種の自己家畜化(a kind of self-domestication)(情動反応を支配するシステムにたいする選択)」と表現している。
Human-like social skills in dogs?
Trends in Cognitive Sciences, 9, 439-444. [link]
イヌにヒト様の社会的技能はあるか
イエイヌは、ヒトの社会的で伝達的な行動を読むことに――われわれにとって最近縁である霊長類に比べてさえも――異常に長けている。たとえば、彼ら〔イエイヌ〕は、隠された食物を発見するのにヒトの社会的で伝達的な行動(例 指さし身ぶり)を使用するし、さまざまな状況でヒトが何を見ることができて何を見ることができないかを知っている。最近おこなわれたイヌ科種のあいだでの比較によれば、これらの異常な社会的技能は遺伝性の部分であって、ヒトへの恐怖や攻撃を取り次ぐシステムにたいして選択〔淘汰〕が生じた結果として、おもに家畜化のあいだに進化したのだと示唆されている。チンパンジーとヒトとで気質がちがっていることから、〔イエイヌに生じた選択に〕類似した過程が重要な触媒となって、われわれ自身の種〔ヒト〕で異常な社会的技能が進化したのかもしれないと示唆されている。収斂進化の研究は、ヒト様の協力や伝達に到る進化過程にたいしてさらなる洞察を得るすばらしい機会を与える。
マクス・プランク進化人類学研究所のブライアン・ヘアとマイケル・トマセロとによるイエイヌ(domestic dog、Canis lupus familiaris)の社会的知性についてのレヴュー。イエイヌとは、どこにでもいるふつうの畜犬のことである。
マクス・プランク進化人類学研究所は、霊長類の研究だけではなく、イエイヌの研究でも有名である。イエイヌといえば、オオカミとの比較等の研究で、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の行動学部門も有名である。
指さし身ぶり(pointing gesture)などのヒトの社会的で伝達的な行動(human social and communicative behavior)をイヌが理解する。また、ヒトが何を見ることができて何を見ることができないかも理解する。ブライアン・ヘア自身らの研究もこのなかに含まれている。彼らのいくつかの研究については、次の本で触れられている(著者は発達心理学者であるが、もともとは霊長類の心理学の研究者である)。
イヌがすごいのは、上のような場面について、チンパンジー以上の能力を発揮するところである。チンパンジーの他者理解の能力については、トマセロとダニエル・J・ポヴィネリとのあいだで論争があった([link][link][link][link])。また、次の本には、トマセロの章とポヴィネリの章との両方が含まれている。
以前紹介したアメリカカケスの研究やヨーロッパコウイカの研究もそうであるが、最近は(といってもしばらく前から)霊長類以外の動物の他者理解についての研究が盛んである。たとえばウマだと[link]など。
さて、このレヴューで特徴的なのは、次の点。イヌの進化=家畜化の過程で、ヒトはヒトに馴れるように(恐怖や攻撃=ネガティヴな情動反応を減らすように)イヌを選択にかけてきたと考えられてきた。ヒトの進化の過程でも、おたがいに恐怖や攻撃を減らすように選択がかかっていたのではないかと、著者は考えている。これを「一種の自己家畜化(a kind of self-domestication)(情動反応を支配するシステムにたいする選択)」と表現している。