どうぶつのこころ

動物の心について。サルとか類人猿とかにかたよる。個人的にフサオマキザルびいき。

オマキザル属の分類(おまけ)

2009-02-21 13:35:20 | 霊長類
オマキザルの分類」のおまけ。

2009年2月15日、日本モンキーセンターのフサオマキザル(Cebus apella)のケージまえにて撮影しました。

かわいい……。日向ぼっこしているところです。フェンスのせいで写真が撮りづらいのが悩み。名前も知りたいところ。全部で少なくとも9個体はいました。2個体を除いて若者かそれ未満のようでした。


解説パネルです。分布域が南米の広い部分に及んでいることから、これは昔の分類の「フサオマキザル」であることがわかります。新しい分類のフサオマキザルだと、分布域はだいたいこれの北半分ほどになります。


右の大人個体の額の筋肉がすごい……? 房毛でなくて筋肉がすごそうです。ひょっとしてキバラオマキザル(C. xanthosternos)の血が混じっているのでは? と疑ってしまいます。そう疑う理由はもうひとつあって……。


それがこちら、解説パネルの顔写真の拡大です。この顔写真の個体はケージのなかにはいませんでした。この個体は、キバラオマキザルに見えます。たとえば、キバラオマキザルの写真はこちらで見ることができます。また、スティーヴン・ナッシュ(Stephen Nash)の描いた図式的な顔をこちら(最右列の上から2段目)で見ることができます。これもナッシュによるものでしょうか。キバラオマキザルは、額のあたりの筋肉が発達し、頭のうえにコブが2つできているように見えるのが特徴です。

ということで、もしこの顔写真の個体が園内で撮影されたものなら、現在日本モンキーセンターにいる個体には、ひょっとしたらキバラオマキザルの血が混じっているかも! それが園内で撮影されたものでないのなら、私の撮影した額のものすごい個体は、ただたんに額のあたりがものすごくなっているというだけ……なんだかおもしろくありませんが……。キバラオマキザルの血が入っているかもと思うと、ちょっと夢が膨らみます。

できるかぎり調べたうえで記事を書いているつもりですが、私は形態学の専門家でないので、とくにこのおまけにかんしてはでたらめを書いている可能性が高いです。「キバラオマキザル」が入っていたらおもしろいなあという希望的観測をこめて書いている部分が大きいです。また、この記事で「キバラオマキザル」と連発していますが、以前の記事で少し触れたとおり、このサルは一般的な和名をもっていません。

オマキザル属の分類

2009-02-21 09:36:17 | 霊長類
今年2009年に出版されたアンソニー・B・ライランズ(Anthony B. Rylands)とラッセル・A・ミッターマイアー(Russell A. Mittermeier)による分類の概説によると、オマキザル属は12種からなる。下にIUCN Red Listの評価とともに挙げる。今後の研究によって大きく変わる可能性があることに注意。和名は、定訳のないものは適当に訳した。なお、これは細かすぎるせいか、現在一般的なものは、この記事の下のほうで挙げる9種分類であるようだ。
- 房毛なしオマキザルグループ
(1) Cebus capucinus (Linnaeus, 1758) ノドジロオマキザル [least concern]
(2) Cebus albifrons (Humboldt, 1812) シロガオオマキザル [least concern]
(3) Cebus olivaceus Schomburgk, 1848 ナキガオオマキザル [least concern]
(4) Cebus kaapori Queiroz, 1992 カアポルオマキザル [critically endangered]
- 房毛ありオマキザルグループ
(5) Cebus apella (Linnaeus, 1758) フサオマキザル [least concern]
(6) Cebus macrocephalus Spix 1823 オオアタマオマキザル [least concern]
(7) Cebus flavius (Schreber, 1774) ブロンドオマキザル [critically endangered]
(8) Cebus libidinosus Spix, 1823 クロスジオマキザル [least concern]
(9) Cebus cay Illiger, 1815 ズキンオマキザル [least concern]
(10) Cebus nigritus (Goldfuss, 1809) クロオマキザル [near threatened]
(11) Cebus robustus Kuhl, 1820 トサカオマキザル [endangered]
(12) Cebus xanthosternos Wied, 1826 キバラオマキザル [critically endangered]
キバラオマキザルの和名については、前回の記事で少し触れた。

房毛ありオマキザルをひと括りに「フサオマキザル」と呼ぶことがある。これは、かつて房毛ありオマキザルをまとめてフサオマキザルCebus apella一種としていたことに関係があるかもしれない。たとえば、『NHKスペシャル 南米の驚異 道具を使うサル』でフサオマキザルが道具を使用するとしているが、この「フサオマキザル」はクロスジオマキザル(C. libidinosus)のことである。現在2009年2月まで、野生の房毛ありオマキザルのうち、少数の事例報告でなく、系統的な道具使用(打撃する石器の使用)が観察されているのは、クロスジオマキザル [Fragaszy, et al. 2004] [Moura, & Lee 2004] とキバラオマキザル(C. xanthosternos) [Canale, et al. 2009] のみである。フサオマキザル(C. apella)では観察されていない。もちろん、フサオマキザルも、飼育下や準自由遊動下では、系統的な道具使用を示している。

かつて房毛ありオマキザルをまとめて一種としていたことに関連して。日本の動物園で「フサオマキザル(Cebu apella)」とされているのは、ほとんどはこの古い時代の分類にもとづいていると思われる。つまり、上であげた房毛ありオマキザルグループのいずれかであるか、それらのあいだの雑種であるということである。欧米の動物園なども、事情は似たものらしい。

その概説からの又引きになるが、ホセー・ジ・ソウザ・エ・シーウヴァ・ジューニオル(José de Sousa e Silva Júnior)は、房毛のあるなしで属を別にしようとしているようだ。このとき、房毛なしオマキザルがCebus属、房毛ありオマキザルがSapajus属である。ただし、そのかわりというか、シーウヴァ・ジューニオルの分類は、亜種を設けていない。

なお、便宜のために、コリン・グローヴズ(Collin Groves)の分類への対応を示すと、オオアタマオマキザル(C. macrocephalus)は、フサオマキザル(C. apella)の亜種C. a. macrocephalus, C. a. peruanus、およびクロスジオマキザル(C. libidinosus)の亜種C. l. juruanusに対応している。また、ズキンオマキザル(C. cay)は、クロスジオマキザルの亜種C. l. paraguayanus, C. l. pallidusに対応している(ただし、C. l. pallidusとの対応は仮のもの)。さらに、トサカオマキザル(C. robustus)は、クロオマキザル(C. nigritus)の亜種C. n. robustusに対応している。この対応については、下の『オマキザル大全』による。

コリン・グローヴズの挙げる8種のオマキザル+ブロンドオマキザルの計9種の一覧は下のとおりである。この記事の冒頭で述べたように、冒頭の12種分類よりも、こちらのほうが一般的であるだろう。
- 房毛なしオマキザルグループ
(1) Cebus capucinus (Linnaeus, 1758) ノドジロオマキザル
(2) Cebus albifrons (Humboldt, 1812) シロガオオマキザル
(3) Cebus olivaceus Schomburgk, 1848 ナキガオオマキザル
(4) Cebus kaapori Queiroz, 1992 カアポルオマキザル
- 房毛ありオマキザルグループ
(5) Cebus apella (Linnaeus, 1758) フサオマキザル
(6) Cebus flavius (Schreber, 1774) ブロンドオマキザル
(7) Cebus libidinosus Spix, 1823 クロスジオマキザル
(8) Cebus nigritus (Goldfuss, 1809) クロオマキザル
(9) Cebus xanthosternos Wied, 1826 キバラオマキザル

上で触れた参考文献。
Rylands, A. B., & Mittermeier, R. A. (2009). The diversity of the New World primates (Platyrrhini): An annotated taxonomy. In P. A. Garber, A. Estrada, J. C. Bicca-Marques, E. W. Heymann, & K. B. Strier (Eds.), South American primates: Comparative perspectives in the study of behavior, ecology, and conservation (pp. 3-54). New York: Springer Science+Business Media.
ISBN0387787046
Groves, C. (2001). Primate taxonomy. Washington, DC: Smithonian Institution Press.
ISBN156098872X
Fragaszy, D. M., Visalberghi, E., & Fedigan, L. M. (with Rylands, A.). (2004). Taxonomy, distribution and conservation. Where and what are they and how did they get there? In D. M. Fragaszy, E. Visalberghi, and L. M. Fedigan, The complete capuchin: The biology of the genus Cebus (pp. 13-34). Cambridge, England: Cambridge University Press.
ISBN0521661161 [hdc] [pbk]

こちらにおまけ。

ブロンドオマキザルの再発見

2009-02-21 06:01:44 | その他生物科学
A44 de Oliveira, M. M., & Langguth, A. (2006).
Rediscovery of Marcgrave's capuchin monkey and designation of a neotype for Simia flavia Schreber, 1774 (Primates, Cebidae).
Boletim do Museu Nacional: Nova Série: Zoologia, 523, 1-16. [link]

マルクグラーフェオマキザルの再発見と新基準標本の指定
ゲオルグ・マルクグラーフェ(Georg Marcgrave)は、1648年の著作ではじめてブラジルの北東大西洋岸森林から採取した動物や植物を記述した。オマキザルを「カイタイア」(caitaia)として言及した。1995年に出版された『第1の者の書(リーブリー・プリーンキピス)』(Libri Principis)に複写されている記述と絵画によると、これは、パライーバ(Paraiba)州やペルナンブーコ(Pernanbuco)州、アラゴアス(Alagoas)州の大西洋岸森林のなかにいるCebus (Sapajus) の種と完全に一致する。これらの種は、近隣の地域に生息する種であるCebus xanthosternosCebus libidinosusとは異なっている。最近になるまでは、科学的な蒐集のなかにこの種の標本はなかった。この理由のため、シュレーバー(Schreber)(1774)の著作の図版31-bに描かれた動物は、Simia flaviaと名づけられていたものの、正確に同定されることはなかった。それで、長年にわたり、その起源と同定にかんして、分類学者のもとで広範だが決定的でない議論に曝されていた。ここで言及した地域から採取して調べたオマキザルの標本は、シュレーバーの図版31-bに明らかに類似している。それゆえ、Simia flavia Schreber, 1774は、この種にとって利用可能な名前のうちもっとも古いものである。客観的に名義分類群を定義し、その分類学的地位を明らかにするために、Simia flaviaにかんする新基準標本を指定し、Cebus flaviusという組みあわせ〔の学名〕を確立する。Cebus flaviusの記述とオマキザルの近縁種との比較を与える。
キーワードSimia flavia Schreber。新基準標本指定(Neotype designation)。北東大西洋岸森林(Northeastern Atlantic Forest)。オマキザル(Capuchin monkey)。 Cebus flavius


新種ブロンドオマキザル」の続報といえる論文。その記事を書いた以上、今回の記事も書かないといけないと思いながら、今まで書けずにいました。

その記事で「ブロンドオマキザル」(blond capuchin, Cebus queirozi Mendes Pontes & Malta 2006)という新種がいるということを述べた。しかし、今回の論文の著者であるブラジル環境・再生可能天然資源院(Instituto Brasileiro do Meio Ambiente e dos Recursos Naturais Renováveis, IBAMA)ブラジル霊長類保護センター(Centro de Proteção de Primatas Brasileiros)のマルセーロ・マルセリーノ・ジ・オリヴェイラ(Marcelo Marcelino di Oliveira)とパライーバ連邦大学(Universidade Federal da Paraíba)系統学および生態学部門(Departamento de Sistemática e Ecologia)のアロンゾー・ラングート(Alonso Langguth)によると、それは新種ではなく、シュレーバー(1774)の描いたSimia flaviaであるとのことである。これは、そのような種のサルがいることは記述されてはきたが、この論文が出版されるまで基準標本のない種であった。著者らは、S. flaviaという学名を、現在の属名であるCebusにあわせ、

Cebus flavius Schreber, 1774

としている。この論文のとおり、C. queiroziC. flaviusの若い別名であることが受けいれられれば、今後はこの学名で通されることになる。たしかに、今年2009年に出た分類の概説では、C. flaviusののみ掲載され、C. queiroziはその若い別名ということになっている。
Rylands, A. B., & Mittermeier, R. A. (2009). The diversity of the New World primates (Platyrrhini): An annotated taxonomy. In P. A. Garber, A. Estrada, J. C. Bicca-Marques, E. W. Heymann, & K. B. Strier (Eds.), South American primates: Comparative perspectives in the study of behavior, ecology, and conservation (pp. 3-54). New York: Springer Science+Business Media.
ISBN0387787046

著者らは通称として「マルクグラーフェオマキザル」(Marcgrave's capuchin monkey)を提案している。上の分類の概説では、「マルクグラーフオマキザル」(Marcgraf's capuchin)と「ブロンドオマキザル」(blond capuchin)を併記している。マルクグラーフは、もちろんマルクグラーフェと同一人物。

いくつかほかのウェブサイトにある図を紹介しながら、下で順を追って述べる。上でリンクした今回の論文には、下であげるものを含めて、いくつか図が掲載されている。また、下であげた著者以外にも、この種に携わっている研究者はいる。詳しくは、今回の論文に書かれている。

1. ゲオルグ・マルクグラーフェ(Georg Marcgrave)

MARCGRAVIUS, Georgius. (1648). Liber sextus: De quadrupedibus, et sepentibus. In G. Marcgravius, Historiae rerum naturalium Brasiliae (pp. 221-244). Lugdunum Batavorum: Franciscus Hackius; Amstelodamum: Ludovicus Elzevirius. [link]

マルクグラーフェのこの著作の227ページに「カイタイア」(caitaia)記述がある。マーモセットの絵の右下あたりから始まる段落である。その絵は226ページにある。

2. ヨハン・クリスティアン・ダニエル・フォン・シュレーバー(Johann Christian Daniel von Schreber)

SCHREBER, Johann Christian Daniel von. (1774-1846). Die Säugethiere in Abbildungen nach der Natur, mit Beschreibungen. Leipzig: Siegfried Leberecht Crusius.

シュレーバーのこの絵Simia flavia Schreber, 1774である。このリンク先では、分布が誤っている。正しい分布は、上の要約にあるとおり、ブラジルの北東大西洋岸森林である。この誤りは、下の荒俣宏の同定に影響されたものだろう。荒俣宏は、この種が再発見される2005年よりもずっとまえに、この絵のサルをヘンディーウーリーモンキーと同定した。今回の論文によると、これは結果的に誤りである。
荒俣宏. (1991). Fantastic Dozen: Vol. 6. 悪夢の猿たち. 東京: リブロポート.
ISBN4845705427

3. アントーニオ・ロッサーノ・メンジス・ポンチス(Antonio Rossano Mendes Pontes)、アレシャンドリ・マールタ(Alexandre Malta)、パウロ・エンリーケ・アスフォーラ(Paulo Henrique Asfora)

MENDES PONTES, Antonio Rossano, MALTA, Alexandre, & ASFORA, Pauro Henrique. (2006). A new species of capuchin monkey, genus Cebus Erxleben (Cebidae, Primates): Found at the very blink of extinction in the Pernambuco Endemism Centre. Zootaxa, 1200, 1-12. [link]

これについては、以前の記事「新種ブロンドオマキザル」に書いた。「ブロンドオマキザル」(Cebus queirozi Mendes Pontes & Malta 2006)という新種を掲載している。

しかし、今回の論文の著者らによると、このメンジス・ポンチスらの記述では、標本となるはずの個体を意図的に逃がしており、標本としての基準を満たしていないとのことである。そのため、下のジ・オリヴェイラらの標本が基準標本とみなされる。また、メンジス・ポンチスらの論文では、数が少ないということが書かれているが、たしかに数は少ないものの、1群のみということはなさそうである。

4. マルセーロ・マルセリーノ・ジ・オリヴェイラ(Marcelo Marcelino de Oliveira)、アロンゾー・ラングート(Alonso Langguth)

DE OLIVEIRA, Marcelo Marcelino, & LANGGUTH, Alonso. (2006). Rediscovery of Marcgrave's capuchin monkey and designation of a neotype for Simia flavia Schreber, 1774 (Primates, Cebidae). Boletim do Museu Nacional: Nova Serie: Zoologia, 523, 1-16. [link]

今回の論文である。採取された標本のうち、新基準標本となったのは、メス個体で、2005年6月4日にP・ラロック(P. Laroque)が採取した。発見場所はブラジルのペルナンブーコ州の南緯7度28分35.95秒西経34度59分4.85秒。Googleマップだとじゃっかんずれているようだ。

この論文において、マルクグラーフェのカイタイア、シュレーバーのSimia flavia Schreber, 1774、Cebus queirozi Mendes Pontes & Malta, 2006が同一視された。あとはこの記事の冒頭で述べたとおり、S. flaviaflaviaを現在のオマキザルの属名Cebusにあわせてflaviusとし、学名はCebus flavius Schreber, 1774となった。

それにしても、記述だけが先行して231年ぶりに標本が採取されるということがあるのですね。驚きました。

最後に、2009年2月21日の時点でのWikipediaについて。英語版では、C. flaviusの項目はなく、C. queiroziが立てられている。おそらく、blond capuchinの名前のまま、C. flaviusの項目に落ちつくだろう。日本語版には、どちらに対応する項目も立てられていない。

また、C. xanthosternosに対応する項目として、アゴヒゲオマキザルが立てられている。この和名は、その項目で参考文献としてあげられている小原らの文献によるのかもしれない(未確認)。しかし、アゴヒゲオマキザルを英語に訳したbearded capuchinは、C. libidinosusの英語の通称として定着している。加えて、C. xanthosternosの学名を日本語に訳しても(黄色い腹のサル)、その英語の通称であるyellow-breasted capuchin, golden-bellied capuchin, buff-headed capuchinを日本語に訳しても(それぞれ黄色い胸のオマキザル、金色の腹のオマキザル、淡黄褐色の頭のオマキザル)、アゴヒゲオマキザルという日本語は出てこない。項目名を改名したほうがよいと思うのだが、困ったことに、一般的といえる和名は存在しない。上で英語版のC. xanthosternosにリンクしたのは、このため。
小原秀雄, 浦本昌紀, 太田英利, & 松井正文. (Eds.) (2001). 動物世界遺産: レッド・データ・アニマルズ: Vol. 2. アマゾン. 東京: 講談社.
ISBN4062687526

こちらにオマキザル属の分類を示した。