どうぶつのこころ

動物の心について。サルとか類人猿とかにかたよる。個人的にフサオマキザルびいき。

幼いチンパンジーは物体を土台にどう定位するか

2006-12-26 01:19:15 | 思考・問題解決
A27 Takeshita, H., Fragaszy, D., Mizuno, Y., Matsuzawa, T., Tomonaga, M., & Tanaka, M. (2005).
Exploring by doing: How young chimpanzees discover surfaces through actions with objects.
Infant Behavior & Development, 28, 316-328. [link]
実際にやりつつ探索すること:幼いチンパンジーは、物体を用いた行為を通して、どのように土台を発見するのか
ヒトの幼児では、遊び探索で物体と土台とを定位する〔結びつける〕知覚‐行為ルーティンは、物体を道具として使用することの前兆となる。この縦断研究は、物体を用いた探索活動が、チンパンジーでいつ、どのように発生するのかを明らかにした。われわれは、13ヶ月から21ヶ月までのあいだの3個体のチンパンジー幼児で、物体と土台とを用いた探索行為の発達を研究した。幼児は、13ヶ月および15ヶ月のとき、おもに立方体〔物体〕と土台とを別々に操作した。21ヶ月までに、すべての幼児は、大人チンパンジーほど分化した行為をおこなったわけではないものの、頻繁に物体と土台とを定位した。幼児の定位行為のほとんどが、ヒトにおいてみられた叩きつけることよりも置くことや放ることを含んでおり、相対的に穏やかだった。定位の頻度は、物体よりも土台の特性に影響されていた。
キーワード:知覚‐行為ルーティン(perception-action routine);チンパンジー(chimpanzee);定位操作(combinatory manipulation);道具使用(tool use)
著者は、滋賀県立大学の竹下秀子、ジョージア大学ドロシー・マンケンベク・フラゲイジー(Dorothy Munkenbeck Fragaszy)、京都大学霊長類研究所の水野友有(現在、中部学院大学)、松沢哲郎、友永雅己、田中正之。

先日NHKの『ダーウィンが来た! 生きもの新伝説』で「第34回 大発見! 道具を使うサル」が放送された。見逃した (;_;)。

この研究の全般的な内容については上の要約に書かれているが、気になるのはチンパンジーの初期の定位操作に打ちつけ」(banging)が含まれないということである。対照的に、ヒトはもちろん [Lockman 2000]、フサオマキザル [Fragaszy & Adams-Curtis 1991] も幼いころに打ちつける行為が見られる。それにもかかわらず野生チンパンジーでも石器の打ちつけ使用が見られる [Inoue-Nakamura & Matsuzawa 1997]。やはり打ちつけ行為は若いチンパンジーでは頻度が低い。チンパンジーは、打ちつけがそもそもの行動レパートリにないにもかかわらず、がんばって石器使用を獲得しているのである。

ちょうどFolia Primatologicaの最新号にフサオマキザルの道具使用についての論文が出ています [Moura 2007]。著者のアントーニオ・クリスティアーン・ジ・A・モーラ(Antonio Christian de A. Moura)は、野生フサオマキザルの道具使用をはじめて報告した人物のひとり。野生フサオマキザルの道具使用の初めての報告は、2004年12月に同時に2件あった [Moura & Lee 2004][Fragaszy et al. 2004]。

オオカミと満月

2006-12-24 22:52:54 | その他生物科学
A26 Sábato, M. A. L., Bandeira de Melo, L. F., Magni, E. M. V., Young, R. J., & Coelho, C. M. (2006).
A note on the effect of the full moon on the activity of wild maned wolves, Chrysocyon brachyurus.
Behavioural Processes, 73, 228-230. [link]
野生タテガミオオカミの活動性にたいする満月の効果についての註
動物の被食種が捕食危険の高い時間に活動性を低めることは、科学的な文献でよく知られるところである。夜行性の動物については、これ〔活動性を低めること〕は満月があるときに生ずるが、しかし、被食者の行動の変化にたいする捕食者の反応については、比較的知られてはいない。2つの反応が可能である:(1) 食物摂取を維持するために探索努力を増やす。ないし (2) (a) エネルギーを保存する努力のために、あるいは (b) 捕食能率が増すおかげで、遊動距離を減らす。GPS〔全地球測位システム〕追跡首輪を使用して、われわれは(乾季のあいだ)5回の太陰周期にわたって、満月の夜および新月の夜に3個体のタテガミオオカミの遊動距離(探索努力を表わす)を監視した。ウィルコクソンの符号つき順位検定は、タテガミオオカミが新月に比べて満月のときには有意に移動していないことを示した(p <0.05)。平均して、満月のときの暗い10時間に、タテガミオオカミは新月のときに比べて1.88 km短く遊動していた。これらのデータは、タテガミオオカミが遊動距離を減らすことで、被食者の利用可能性が一時的に低下することにたいして反応していると示唆する。キーワード:Chrysocyon brachyurus;タテガミオオカミ(maned wolf);(moon);捕食者行動(predator behaviour)。
狼男は満月の夜にオオカミになるそうですが、オオカミは満月の夜に活動性を増すのかという論文。

動植物財団(Fundação Zoo-Botânica)のマールコ・アウレーリオ・リーマ・サーバト(Marco Aurélio Lima Sábato)、ルイース・フェルナーンド・バンデイラ・ジ・メーロ(Luiz Fernando Bandeira de Melo)、エリーザ・M・ヴァース・マーグニ(Elisa M. Vaz Magni)、カーライル・メーンデス・コエーリョ(Carlyle Mendes Coelho)、およびポンティフィーシア・カトリック大学ミーナス・ゲライス校(Pontifícia Universidade Católica de Minas Gerais)のロバート・ジョン・ヤング(Robert John Young)。ともにブラジルの組織。

タテガミオオカミが満月の夜に活動を低下させることについて、次の2つの説が考えられている。
(1) 月光⇒被食者の活動が低下する⇒それにあわせてオオカミの活動が低下する。
(2) 月光⇒明るいので捕食者が被食者を捕らえやすい⇒移動の必要性が低下する。

クリスマス・イヴに読むことはないような気もする論文でした。
2006-12-31
少々修正。

チンパンジーの絵画表象

2006-12-24 13:17:06 | 言語・コミュニケーション
A25 Tanaka, M. (2006).
Recognition of pictorial representations by chimpanzees (Pan troglodytes).
Animal Cognition, online, DOI: 10.1007/s10071-006-0056-1 [link]
チンパンジー(Pan troglodytes)による絵画表象の認識
この研究で、私はチンパンジー絵画表象を認識する能力を調べた。4個体の大人チンパンジーおよび3個体の若者チンパンジーが、タッチパネル上で、4カテゴリに属する12項目から花の写真画像を選ぶことを訓練された。般化テストとして、以下の5つの型の画像が呈示された:(1) 新奇の写真(2) 彩色された写生画より写実的)、(3) 彩色されたクリップアート漫画のような画像)、(4) 白黒の線画、および (5) 漢字(統制画像として)。1個体の大人と3個体すべての若者は、偶然水準以上に有意に、どんな様式であっても写真でない花の画像を選ぶことができたが〔(2)、(3)、(4)〕、誰も偶然水準以上に有意に、花に対応する正しい漢字を選ぶことはできなかった〔(5)〕。ほかの3個体の大人チンパンジーの遂行水準は、写真でない画像を選ぶことについては偶然水準を超えなかったものの〔(2)、(3)、(4)〕、新奇の写真への転移技能をよく示した〔偶然水準以上のよい遂行だった。(1)〕。結果は、すべてのチンパンジーが訓練なしでヒトの使用する絵画を認識できるわけではないことを明らかにした。結果は、チンパンジーに絵画を認識する技能を獲得する「臨界期」があることも示唆している。若者チンパンジーを別にすれば、視覚シンボルを認識する技能を〔すでに〕獲得していた1個体の大人チンパンジーだけが絵画も認識した。彼女〔その1個体の大人チンパンジー〕の学習履歴が、この技能を獲得するのを促進したのかもしれない。この研究の結果は、絵画能力とシンボル能力との関係を示唆している。
キーワード:チンパンジー(chimpanzee)・カテゴリ化(categorization)・絵画表象(pictorial representation)・絵画(picture)・臨界期(critical period)
京都大学霊長類研究所田中正之による研究。チンパンジーがモニタ上の写真を認識できることは当然のこととしてわかっていたが、どこまで抽象的な画像を理解できるかはわかっていなかった。今回の研究では、図鑑にあるような写実的な彩色写生画漫画のような彩色クリップアートモノトーンの線画が認識できることがわかった。ただし、臨界期までにシンボル使用の訓練をされている必要があることが示唆されている。

この分野の総説については同著者の次の章。
田中正之 & 松沢哲郎 (2000). シンボルの成立. In 渡辺茂 (Ed), 心の比較認知科学 (pp. 225-268). 京都: ミネルヴァ書房.
ISBN4623031799

低類像(hypoicon)にかかわる問題として、チャールズ・サンダース・パース(Charles Sanders Peirce)によってとりあげられ、ウンベルト・エーコ(Umberto Eco)によって記号論(semiotics)や記号学(semiology)の分野で検討されてきている。パースは、記号(sign)を類像(icon)、指標(index)、象徴(symbol)に分類している。ただ、イメージ(image)だけでなく、ダイアグラム(diagram)やメタファ(metaphor)も低類像記号に含まれているので、幅広い用法で使用される。
Peirce, C. S. (1932). Collected papers of Charles Sanders Peirce: Vol. 1. Principles of philosophy; Vol. 2. Elements of logic. Cambridge, MA: The Belknap Press of Harvard University Press.
ISBN0674138007
パース, C. S. (1986). パース著作集: Vol. 2. 記号学. 東京: 勁草書房.
ISBN4326198923
Eco, U. (1997). Kant e l'ornitorinco. Milano, Italia: Bompiani.
ISBN8845228681
エーコ, U. (2003). カントとカモノハシ: 上. 東京: 岩波書店.
ISBN4000224301
エーコ, U. (2003). カントとカモノハシ: 下. 東京: 岩波書店.
ISBN400022431X

ブルーモンキーとアカオザルとの共存

2006-12-05 06:57:41 | 社会的知性
A24 Houle, A., Vickery, W. L., & Chapman, C. L. (2006).
Testing mechanisms of coexistence among two species of frugivorous primates.
Journal of Animal Ecology, 75, 1034-1044. [link]

果実食性霊長類2種間の共存メカニズムをテストする
1. 私たちは、同属の2種の果実食性(frugivorous)の霊長類であるブルーモンキーCercopithecus mitis)とアカオザルC. ascanius)とのあいだにある共存メカニズム(mechanism of coexistence)を調べた。
2. 私たちは、採餌効率(foraging efficiency)を測定し、可能な共存メカニズムを調べるため、果樹における限界採餌密度(giving-up density)を使用した。限界採餌密度の高い動物は、限界採餌密度のもっと低い動物といっしょにいつづけない傾向にある。それは、後者が前に使用した食物パッチを前者が利用できないからである。私たちは樹木に登り、霊長類が残した果実を数えることで限界採餌密度を評定した。
3. 私たちは、5つの可能な共存メカニズムをテストした。3つのメカニズムは、果実食性の一方の種がそれぞれ、以下のうちの少なくともひとつで他方の種より低い限界採餌密度をもっていると提案した:(1) 異なる樹木の種〔ある種の樹木では一方の種の限界採餌密度が高かったのに、別の種の樹木ではそれが逆転している〕、(2) 同じ樹木の採餌域〔同じ樹木について、樹冠の上のほうでは一方の種の限界採餌密度が高かったのに、樹冠の下のほうではそれが逆転している〕、ないし (3) 季節〔ある季節では一方の種の限界採餌密度が高かったのに、別の季節ではそれが逆転している〕。第4のメカニズムは、社会的に優位な種がもっぱら資源を利用し、劣位の種がより低い限界採餌密度をもっていると予測した。最後のメカニズムは、一方の種が別の種よりももっとはやく資源を発見し、それで後者がより低い限界採餌密度をもっていることになると予測した。
4. 私たちのデータは、5つのメカニズムのうち4つを支持しなかった。種間優位と限界採餌密度とのトレードオフ交換〕〔上でいう第4のメカニズム〕のみを支持した。
5. 私たちは、結果がどれほど一般なのかを、またほかのどのような要因との交互作用がありうるのかを論ずる。
キーワード:共存メカニズム(coexistence mechanism)、勝ち抜き型競争(contest competition)、採餌効率(foraging efficiency)、果実食(frugivory)、限界採餌密度(giving-up density、GUD)、キバレ国立公園(Kibale National Park)[link]、パッチ消耗(patch depletion)、ウガンダ(Uganda)。
ケベック大学モントリオール校生物科学部大学間森林生態学研究グループ(Groupe de Recherce en Écologie Forestière interuniversitaire (GREFi), Départment des Sciences Biologiques, Universié du Québec à Montréal)に所属しているアラン・ウール(Alain Houle)とウィリアム・L・ヴィカリー(William L. Vickery)、そしてマギル大学人類学部およびマギル環境校(Deparment of Anthropology and McGill School of Environment, McGill University)と野生生物保全協会とに所属するコリン・A・チャプマン(Colin A. Chapman)による論文。ウールは現在ハーヴァード大学(Harvard University)人類学部(Department of Anthropology)ピーボディ考古学民族学博物館(Peabody Museum of Archaeology and Ethnology)にいる。

種間優位と限界採餌密度とのトレードオフ」という結論がおもしろい。要約には書いてないが、限界採餌密度はブルーモンキーのほうが総じて高め。ブルーモンキーのほうがアカオザルよりも優位であると示している。

人に教えていただいたもの。Journal of Animal Ecology [JSTOR] の論文を読んだのは、たぶん初めて。

知った分野でもないので短く終わる。
2006-12-31
Alain Houleの読み方を修正。