どうぶつのこころ

動物の心について。サルとか類人猿とかにかたよる。個人的にフサオマキザルびいき。

野生オマキザルがマーモセットを養子に

2006-06-24 22:51:39 | 社会的認知
A17 Izar, P., Verderane, M. P., Visalberghi, E., Ottoni, E. B., Gomes de Oliveira, M., Shirley, J., & Fragaszy D. (2006).
Cross-genus adoption of a marmoset (Callithrix jacchus) by wild capuchin monkeys (Cebus libidinosus): Case report.
American Journal of Primatology, 68, 692-700. [link]

野生オマキザル(Cebus libidinosus)が属を超えてマーモセット(Callithrix jacchus)を養子にする
わたしたちは、野生オマキザル(Cebus libidinosus)が幼児のマーモセット(Callithrix jacchus)の種間養子をおこなった事例を報告する。そのマーモセットは、はじめて2004年3月3日にオマキザル群で観察されたときには幼児だった。はじめて現われてから、そのマーモセットを形式にとらわれず頻繁に観察してきた。2005年1月に、体系的な観察がそのマーモセットおよびそれと同様の年齢のオマキザルについてなされた。養子になっていた期間のあいだ、マーモセットは、その群れに社会的に調和し、連続的に養「母」となった2個体が示した養育行動や、その群れの全メンバーより受けた多大な寛容さから、利益を得ているように見えた。この事例は,社会的な交渉の相手がおこなう変化に富んだ社会的行動や、その相手の特徴(大きさを含む)に合わせて融通を利かせることについて、マーモセット属およびオマキザル属がもっている柔軟性を強調する。
キーワード:養子(adoption)、オマキザル属(Cebus)、マーモセット属(Callithrix)、母性行動(maternal behavior)、発達(development)。
オマキザルが幼児のマーモセット養子にした。最近刊行された論文であるが、ずっと前に紹介すると言っていたものがこれである。著者は、パトリシア・イザール・マウロ(Patrícia Izar Mauro)、ミシェリ・ペレイラ・ヴェルデラニ(Michele Pereira Verderane)、エリザベッタ・ヴィザルベルギ(Elisabetta Visalberghi)、エドゥアルド・ベネディクト・オットーニ(Eduardo Benedicto Ottoni)、マリノ・ゴメス・ジ・オリヴェイラ(Marino Gomes de Oliveira)、ジーン・シャーリー(Jeanne Shirley)、ドロシー・マンケンベク・フラゲイジー(Dorothy Munkenbeck Fragaszy)。

オマキザルは、ヒゲオマキザル(bearded capuchin monkey、別名クロスジオマキザルblack-striped capuchin、Cebus libidinosus)で、従来フサオマキザル(tufted capuchin monkey、Cebus apella)の亜種だったもの(Cebus apella libidinosus)が種に格上げされた。大きさは成体で3-4kgである。マーモセットは、コモンマーモセット(common marmoset、Callithrix jacchus)で、大きさは成体で350-450gしかない。

両種の生態のちがいとしては、オマキザルがマーモセットに比べて長期の養育をおこなうのにたいし、マーモセットはオマキザルに比べて速く成熟する。マーモセットが幼児と採食を同時におこなうように音声信号を発するのに対し、オマキザルはそうしない。マーモセットは社会において共同で子どもを養育する。また、マーモセットは、オマキザルに比べ、活動をみなそろっておこなうことが多く、空間的にも近くに集まっている。

形式にとらわれない観察は、幼児のマーモセットがはじめてオマキザル群で観察された2004年3月3日から、最後に観察された2005年5月3日まで14ヶ月にわたった。体系的なデータ収集は、2005年1月に1週間かけておこなわれた。

研究サイトは、乾季のある森林地帯(セラード)の平地で、ブラジルのピアウイ州(Piauí)ジルブエス(Gilbués)の近くに位置する。対象のオマキザル群の遊動域には、アグア・ブランカ山脈(Serra da Água Branca)の緑の翼の谷(Green Wing Valley)という生物保護区および周囲の私有地が含まれている。その生物保護区には、エコツーリズムのために餌を撒いている場所があり、この群れはそこを訪れる。エコツーリズムとは、生態系の保護を意識して現場を訪れる旅行のことである。この生物保護区を管理しているのが、著者のひとりであるゴメス・ジ・オリヴェイラの所属しているビオブラジル財団(Fundação BioBrazil)。

養子となったマーモセット(フォルトゥナータFortunataと命名)がはじめて観察されたのは2004年3月3日で、そのとき2ヶ月齢ほどでしかなかったと考えられる。これは、2005年1月の体系的な観察のさいに撮影された写真で推定された1歳未満という年齢から逆算した月齢である。最後に観察された2005年5月3日には少なくとも14ヶ月齢であり、これはマーモセットとしてはほとんど大人である。2005年1月の体系的な観察のときに比較対象となったオマキザルは、その時点でフォルトゥナータと同じような月齢(10ヶ月齢)のピアウ(Piau)だった。

フォルトゥナータの主要な養育者は、2004年3月から同年7月までは大人のメスのシキーニャ(Chiquinha)で、それ以降2005年1月まではデンデ(Dendê)だった。2005年1月の観察では、フォルトゥナータは群れにいるものの、デンデにしがみついているよりはひとりでいることが多かった。デンデのほうはしっかりフォルトゥナータの動きを確認していて、仲間のオマキザルが警戒音声を発したときや、フォルトゥナータが群れについていけずに激しく鳴いているときには、フォルトゥナータを拾いあげた。

群れの若い個体は、フォルトゥナータと遊ぶときに、マーモセットの大きさに合わせて力を加減していた。この群れはヤシの実を石で割ることで知られており([link])、フォルトゥナータは実を割るメンバー(優位のオス個体を含む)の近くに寄ることや残りものをとっていくことを許されていた。

2005年1月に1度、フォルトゥナータはしばらく置き去りにされていた。2005年4月の終わりに、フォルトゥナータは、餌を撒く場所にひとりで来ているのが観察された。2005年5月3日に最後に観察されて以降、フォルトゥナータを見ることはなかった。

フォルトゥナータピアウとの比較から。フォルトゥナータピアウよりもよく休息をとり、よく発声していた。母親からの養育、遊び、周りの他個体の観察の頻度に差はなかった。それぞれの傍にいる個体をみると、群れのメンバーがおおむね同じ頻度でピアウの傍にいることがわかった。それにたいして、フォルトゥナータについては、ほかの個体よりもデンデが傍にいる頻度が高かった。

ダリオ・マエストリピエリ(Dario Maestripieri)は、霊長類のメスが養育の潜在能力をもっていて、近縁でない幼児でも養子にしてしまえると主張している([link])。今回の事例は、その主張を支持している。

今回のオマキザル側の成功要因としては、幼児への注意幼児への寛容さがあった。また、マーモセットは小さいので、オマキザルにかかる負担が小さかったことも要因だったのだろう。

元来この地域では、オマキザルが小高い丘の森を遊動していて、マーモセットが平地ないし湿地の森を遊動しているので、種間の相互作用はほとんどない。それどころか、ほかの地域のフサオマキザルは、クロミミマーモセット(black-tufted marmoset、Callithrix penicillata)やダスキーティティ(dusky titi、Callicebus moloch)を捕食する(例[link])。しかし、種間の関係は、地域的そして経験的な条件に左右されるものである。ただ、この地域のオマキザルが種間養子をおこなう要因になった経験については、今のところ何もわかっていない(餌を撒いている場所があることを除いて)。


2006-06-26訂正
「緑の翼の谷」を「緑の風の谷」と書いていたので訂正。
2006-07-29訂正
DOIをリンクしていなかったので、修正。

貯食しているアメリカカケスは自分を目撃した相手を覚えている

2006-06-22 23:22:16 | 社会的知性
A16 Dally, J. M., Emery, N. J., & Clayton, N. S. (2006).
Food-caching western scrub-jays keep track of who was watching when.
Science, 312, 1662-1665. [link]

貯食しているアメリカカケスは誰ががいつ自分を見ていたのかを覚えている
アメリカカケス(western scrub-jay、Aphelocoma californica)は、将来に消費するために貯食したり、他個体の貯食したものを盗んだり、自分の貯食したものが盗まれる可能性を最小に抑える戦術をとったりする。わたしたちの研究は、アメリカカケスが、自分が貯食しているあいだにどの個体が自分を見ているのかを覚えていて、〔再貯食の機会にそれその観察者がまた見ているかどうかにしたがって再貯食行動を変化させることを示している。〔そのような貯食保護戦術を使用したのは、その観察者が自分を見ていたことを覚えていたからではなく、たんに再貯食の機会にその観察者がとっていた行動がきっかけとなっただけだとも考えられるが〕わたしたちの研究では、貯蔵者の貯食保護戦術の使用がその観察者の行動をきっかけとして起こっていることを示唆する証拠は見つからなかった
アメリカカケス(western scrub-jay、Aphelocoma californica)は、スズメ目スズメ亜目カラス小目カラス上科カラス科カラス亜科カラス族Aphelocomaに属する種。貯食行動(caching behavior、将来の使用のために食物を隠す)をおこなう種として有名。

カラス科(Family Covidae、コーヴィドcorvid)は、驚くべき認知能力を示すことで知られている。この研究に関連することでは、他個体が貯食している場所を覚える(アメリカカケス[link]、マツカケスGymnorhinus cyanocephalus[link][link]);貯食が盗まれるのを減らす行動をとる(アメリカカケス[link][link][link]、ワタリガラスCorvus corax[link][link]、カササギPica pica[link])。また、背景知識として、アメリカカケスでは、盗む個体が自分より劣位の個体であるときにだけ、貯食を盗むことから守ることができる([link])。つまり、貯食保護戦術は、盗む個体が自分より優位であるときにとる必要がある。さらに、アメリカカケスは、つがい相手の貯食を守ったりつがい相手が自分の貯食を盗むのを許したりする([link])。

この実験で、被験体は貯食する側であり、貯蔵者(storer)と呼ばれる。その貯食する被験体を観察する個体は、観察者(observer)と呼ばれる。

今回の論文は、認知科学徒 News Memoでもとりあげられている。著者は、ジョアナ・M・ダリー(Joanna M. Dally)、ネイサン・ジョン・エメリー(Nathan Jon Emery)、ニコラ・S・クレイトン(Nicola S. Clayton)。


実験1:貯蔵者は、自分の貯食した食物を保護する戦術をとるか。

貯食時――
貯食のためのトレイは2つ(観察者から近いもの、遠いもの)。それ以外にも隠そうとすれば隠せる場所はある。貯食のときの条件は4つ。
(i)優位条件:貯蔵者に、自分より優位の観察者がいるときに貯食させる。
(ii)劣位条件:貯蔵者に、自分より劣位の観察者がいるときに貯食させる。
(iii)つがい相手条件:貯蔵者に、つがい相手が観察者のときに貯食させる。
(iv)ひとり条件:貯蔵者に、観察者がいないときに貯食させる。

回収時――
3時間後、貯蔵者をひとりにして、貯食した食物の回収(recovery)をさせた。再貯食行動(recaching behavior)をとったこともあった。

結果:貯蔵者の行動――
貯食時には、「優位」条件と「劣位」条件とで、観察者から遠いトレイに貯食することが多かった。回収時には、再貯食をした頻度は、「優位」条件がほかの条件より高かった。しかも、「優位条件の回収時には、観察者から遠いトレイからの再貯食が、近いトレイからの再貯食よりも高頻度だった(この傾向は「劣位条件にも見られた)。どの条件でも、再貯食の食物は両トレイの以外の場所に貯食された。

考察―― 実験は、貯蔵者が、つがい相手以外が自分の貯食した食物を盗むリスクを小さくする保護戦術をとると示唆している。


実験2:貯蔵者は、貯食時にどの個体が自分を見ていたかを覚えているか。
貯蔵者と観察者との優劣が実験に与える影響を小さくするため、同じような順位のカケスで実験をおこなった。さらに、貯蔵者と観察者との優劣は、貯蔵者と観察者とを試行ごと〔各回の実験〕に入れ替えることで調整した。

貯食時――
貯蔵者に、観察者カケスAがいるときトレイAに貯食させ、観察者カケスBがいるときトレイBに貯食させた。ここで、観察トレイが定義され、観察者AについてはトレイAであり、観察者BについてはトレイBである。

回収時――
3時間後、貯蔵者に、次の3条件のもとで回収させた。再貯食行動をとったこともあった。
(i)ひとり条件:貯蔵者に、観察者がいないときに回収させる。
(ii)観察条件:貯蔵者に、観察者Aまたは観察者Bがいるときに回収させる。
(iii)統制条件:貯蔵者に、観察者Aでも観察者Bでもないカケスがいるときに回収させる。

結果:貯蔵者の行動――
観察条件では、「統制条件に比べて、回収時の再貯食の頻度が高かった。「観察条件では、ほかのトレイよりも観察トレイの食物を再貯食することが多かった。

考察―― 実験は、貯蔵者が、貯食時にどの個体が自分を見ていたかを覚えていると示唆している。


実験3:実験2の結果の解釈としては次の可能性もある。
観察者のカケスの何らかの行動が、貯蔵者が回収時に再貯食するきっかけになっている可能性もある。たとえば、観察者が貯食を目撃したほうのトレイに注意を向けていて、その行動が貯蔵者の再貯食のきっかけになったかもしれない。この可能性を排除するため、観察者のカケスの条件に手を加えないといけない。なお、この実験で用いた貯蔵者は、実験2のものとは異なる。

貯食時――
(i)観察条件(実験2と同じ):
観察者AがいるときにトレイAに貯食させ、観察者BがいるときにトレイBに貯食させた。
(ii)観察統制条件
観察者AがいるときにトレイAに貯食させ、観察者BがいるときにトレイBに貯食させた(ここまでは「観察」条件と同じ)。次に、観察者Aおよび観察者Bが見たのとは異なるカケス(追加貯蔵者)に、観察者Aでも観察者Bでもないカケス(統制観察者)がいるときに、トレイAに貯食させた。

回収時――
3時間後、上の2条件それぞれについて、次のようにした。
(i)観察条件(実験2と同じ):
貯蔵者に、観察者Aまたは観察者Bがいるときに回収させる。
(ii)観察統制条件
統制観察者がいるときに回収させる。
実験3の以上の手続きをまとめた論文の3(A)を改変したものが次図。

結果:貯蔵者の行動――
観察条件では、実験2と同じく、ほかのトレイよりも観察トレイの食物を再貯食することが多かった。。「観察統制条件では、再貯食の頻度はトレイ間で差がなかった。

考察―― 観察者にとって、両条件は同じ状況である。にもかかわらず、上の結果の項で述べたような差異が見られた。やはり、貯蔵者は、観察者の行動に影響を受けていたわけではなく、貯食時にどの個体が自分を見ていたかを覚えているのだろう。


この実験で示された行動については、ヒトと同じようなエピソード記憶〔言葉の意味などの意味記憶ではなく、1回きりの出来事ないし体験についての記憶〕は必要ない。また、ヒトと同じような「心の理論」〔他者が自分とは異なる独自の思考や感情をもつことを理解する能力〕も必要ない。学習アルゴリズムによって形成された行動の傾向に起因するか、または将来の危険についての推論に起因するのだろう。この実験は、ヒト以外の動物が、知識状態のちがいで他者どうしを区別できることを示唆している。

『ちびくろサンボ』改訂の効果

2006-06-18 18:49:44 | その他
A15 Mori, K. (2005).
A comparison of amusingness for Japanese children and senior citizens of The story of little black Sambo in the traditional version and a nonracist version.
Social Behavior and Personality, 33, 455-466. [link]

日本人の子どもおよび年長者にかんして『ちびくろサンボ』の従来の版と種差別的な版とでおもしろさを比較する
ちびくろサンボ』(The story of little black SamboLBS)の日本版は、人種差別的性格描写があると思われ、1988年に日本市場から撤退した。人種差別に関連する語や絵を含まないLBSの改訂版を準備し、おもしろさの観点から岩波書店から出版されていた〔従来の〕版のLBSと比較した。4歳から5歳までの54人の幼稚園児および平均78.9歳の43人の年長者に、日本で人気のある絵本〔『ぐりとぐら』〕を読み聴かせ、そのあとLBSの改訂版ないし岩波版を読み聴かせて、それからふたつの話のどちらがおもしろいか判断するように質問した〔改訂版と岩波版とを直接に比較するのではなく、それぞれと『ぐりとぐら』とを比較させた。ただし、各参加者には改訂版か岩波版かのどちらかだけを見せた〕。結果は、どちらの年齢群においても、LBS岩波版と改訂版とのあいだでおもしろさの水準が等しいことを示した〔カイ2乗検定の帰無仮説の採択を積極的にいうため、パワー分析を用いた〕。
もはや動物心理学でも認知心理学でもありませんけど。

ヘレン・バナマン(Helen Bannerman)の『ちびくろサンボ』(The story of little black SamboLBS)の人種差別的とされる従来版(岩波書店)と人種差別的特徴を含まないとされる改定版(北大路書房)とを、おもしろさの観点から比較した。著者の守一雄のサイトのここから原文が手に入る(改訂版全文を含む日本語版はここ)。

問題となっている書籍のまとめ。実際にこの論文でなされたのは、(1)(2)との比較だった。
(1) ばんなーまん, H. (作), どびあす, F. (絵) (1953). ちびくろ・さんぼ (光吉夏弥, 訳). 東京: 岩波書店.
(2) ばなまん, H. (作) (1997). チビクロさんぽ (森まりも, 改作, 訳, 絵). 京都: 北大路書房.
(3) ばなーまん, H. (作, 絵). (1999). ちびくろさんぼのおはなし (灘本昌久, 訳). 東京: 径書房
(4) ばんなーまん, H. (作), どびあす, F. (絵) (2005). ちびくろ・さんぼ (光吉夏弥, 訳). 東京: 瑞雲舎.
(1)が人種差別的とされて1988年に絶版となった本。また、海賊版だった。(4)は絶版となった(1)の復刻版。(3)は、海賊版でないバナマン自身の版の翻訳。

(2)は、人種差別的な部分を改良した版。改作者の森まりもは、この論文の著者である守一雄と同一人物。擬人化されたチビクロというイヌが散歩するお話(だから『チビクロさん』)。この論文で(1)(2)とを比較するうえでは、(2)の挿絵を使用せず、(1)の挿絵を加工したものを使用していた。
2006-07-29訂正
書籍の出版年にミス。

ニホンザルの社会的物体遊び

2006-06-18 17:25:16 | 社会的知性
A14 Shimada, M. (2006).
Social object play among young Japanese macaques (Macaca fuscata) in Arashiyama, Japan.
Primates, online, doi: 10.1007/s10329-006-0187-7. [link]

日本の嵐山のニホンザル(Macaca fuscata)における社会的物体遊び
嵐山E群の若いニホンザルMacaca fuscata、0-4歳)における社会的物体遊び(social object play、SOP)、すなわち持ち運び可能な物体を使用した社会的遊びについて、2000年7月から10月にかけて修正したシーケンス・サンプリング法を用いて調べた。SOPは、そこのほとんどの若いマカク〔サル〕のあいだで比較的よく見られる活動で、よく長い時間続いていた。参加者は、SOPバウト〔バウトは行動の単位〕において、食べられる自然物やプラスチック瓶などの人工物を含む多くの種類の物体を使用していたが、〔ヒトに〕与えられた食物や野生の果実は使用しなかった。長いバウト(0.5分以上)の分析から、相互作用的なSOPについて以下の特徴が明らかになった。(1) つねに参加者はひとつの物体しか使用せず、1個体の参加者しか物体を保持していなかった。(2) SOP追いかけ遊び(play-chasing)のあいだ、物体保持者が他個体に追いかけられる傾向にあった。(3) 長いバウトのあいだには、物体保持者が頻繁に変わっていた(4) 若いマカクにおいて、物体をめぐる敵対的な競合はまれだった。物体の保持者や非保持者の性、年齢、相対順位、母系は、保持者が追いかけ遊びで非保持者に追いかけられる傾向に影響しなかった。物体保持者が変わることがあっても、この相互作用様式、すなわち保持者がSOPバウトのあいだに追いかけられるということの反復が、物体を伴わないほかの型の社会的遊びからSOP構造を区別していた。自己ハンディキャッピング(self-handicapping)や役割の担当(role taking)といった一般的な近接的社会的遊びメカニズムが,SOPと関係していた。SOPに影響していたほかの機構は、以下のものを含んでいた。(1) 若いマカクは、遊びの競合において、ある物体を標的として扱っており(2) 標的物体の保持者であることは、「追いかけられるものという役割」と結びつけられていた。
キーワード:嵐山(Arashiyama)、相互作用様式(interactive pattern)、ニホンザル(Macaca fuscata)、追いかけ遊び(play-chasing)、社会的物体遊び(social object play)。
京都大学の島田将喜嵐山モンキーパークいわたやまでおこなった研究。何かをもって逃げる個体を別の個体が追いかける鬼ごっこのような社会的物体遊び(social object play、SOP)。

動物の遊び行動は、3つに分けられる。
(1) 移動遊び:走る、転がるといったひとり遊び。
(2) 物体遊び:何かを押したり壊したりする遊び。
(3) 社会的遊び:追いかけ遊び(play-chasing)や取っ組みあい遊び(play-fighting)といった個体間の相互作用。
SOPは物体遊び社会的遊びとの両方の特徴を兼ね備えている。

「物体を保持しているあいだに逃げる(run away while holding an object)」行動は、他個体を遊びに誘う行動(play solicitation)として、霊長類の社会的遊びでよく見られる。しかし、上の要約にまとめられているように、この追いかけの反復という構造は、ここで研究しているSOPに特有の特徴だった。

ここで見られる自己ハンディキャッピング(self-handicapping)とは、強い個体が自身の力を抑えて弱い個体と対等に遊ぶことを指している。また、ここでの役割の担当(role taking)の役割とは、追いかけるものと追いかけられるものとのことである。

また、すべてのニホンザルがこのSOPと同じ遊びをおこなうわけではないので、保持者であることと追いかけられる個体であることとの結びつけは、ニホンザルに生得的に備わっている傾向ではなく、社会的学習を通じて獲得されたものだと推測される。

昨年刊行の遊び関連書籍。ペーパーバックは今年9月刊行。
Burghardt, G. M. (2005). The genesis of animal play: testing the limits. Cambridge, MA: MIT Press.
ISBN0262025434[hardcover][paperback]

昨年度の第50回プリ研は、「遊ぶ子は育つ? -自然と進化、地域と学校-」というテーマでおこなわれました。類人猿、サル、イルカといったヒト以外の動物だけではなく、狩猟民や幼児の遊びについての発表もありました。