A45 Ferrira, R. G., Jerusalinsky, L., Silva, T. C. F., de Souza Fialho, M., de Araújo Roque, A., Fernandes, A., & Arruda, F. (2009).
On the occurrence of Cebus flavius (Schreber 1774) in the Caatinga, and the use of semi-arid environments by Cebus species in the Brazilian state of Rio Grande do Norte.
Primates, online, DOI:10.1007/s10329-009-0156-z
カーティンガにおけるCebus flaviusの出現、およびブラジルのヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州におけるCebus種による半乾燥環境の利用
Cebus flaviusは、近年再発見された種で、25のもっとも絶滅が危惧される種の一覧に加わる候補となっている。これまでの仮説によれば、C. flaviusの分布は大西洋岸森林にかぎられていた〔ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州のカーティンガ(ブラジル北東部の半乾燥地域)にはないとされていた〕。一方、C. libidinosusは、ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ(RN)のカーティンガにも出現しているだろうと推測された。それは、その周囲の州に〔RN以外のカーティンガやセハード(ブラジル中央部の半乾燥地域〕にも〕出現しているからである。RNカーティンガのなかで10の地域を調査した結果、この論文で報告するのは、4つのCebus集団である。そこにはふくまれているC. flaviusは、カーティンガではじめて出現したものである。このおかげで、この種の分布の北限が広がった〔大西洋岸森林だけでなくカーティンガにも分布するということである〕。このC. flavius集団は、地理的に分布域が縮小していく過程を示す稀有な例だろう。そして、これはおそらくこの種のなかでももっとも絶滅に瀕している集団かもしれない。また、C. libidinosusの出現する新しい地域も記述する。両種がいるという報告と関連して、道具使用の地点が観察された。
キーワード:Cebus flavius・カーティンガ(Caatinga)・オマキザル(Capuchin monkeys)・半乾燥環境(Semi-arid environments)・道具使用(Tool use)
やったー! ブロンドオマキザル(blond capuchin, Cebus flavius)の論文が初めて出たよ! ブロンドオマキザルについては、「新種ブロンドオマキザル」、「ブロンドオマキザルの再発見」で紹介したように、すでに論文が2本出ていますが、これらは標本の登録についての論文です。そのため、つまり本格的な調査はこれが初めてということです。
著者は、ブラジルの研究チーム。ヘナータ・G・フェヘーイラ(Renata G. Ferreira)(ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ連邦大学 Universidade Federal do Rio Grande do Norte)、レアーンドロ・ジェルザリーンスキ(Leandro Jerusalinsky)(シッコ・メーンジス生物多様性保全研究所 Instituto Chico Mendes de Conservação da Biodiversidade、パライーバ連邦大学 Universidade Federal da Paraíba)、チアーゴ・セーザル・ファリーアス・シーウヴァ(Thiago César Farias Silva)(シッコ・メーンジス生物多様性保全研究所、パライーバ連邦大学)、マールコス・ジ・ソーザ・フィアーリョ(Marcos de Souza Fialho)(シッコ・メーンジス生物多様性保全研究所)、アラーン・ジ・アラウージョ・ロッケ(Alan de Araújo Roque)(ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ連邦大学)、アダルベールト・フェルナーンジス(Adalberto Fernandes)(所属なし)、ファーティマ・アフーダ(Fátima Arruda)(ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ連邦大学)。
今回の論文の大きな成果は、ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州のカーティンガ(Caatinga)で、ブロンドオマキザルとクロスジオマキザル(bearded capuchin, Cebus libidinosus)を発見したことです。ただ、それぞれの種にとってヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州のカーティンガの位置づけが異なります。そのまえにいろいろなものの場所がわからないといけません。ブラジルの生物群系については、こちらの図 [Ache Tudo e Região] がわかりやすいです。ブラジル北東部(大西洋に向かって突き出たところ)に、カーティンガがあって、その横に細長く大西洋岸森林(Mata Atlântica)が並んでいます。また、ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州は、こちら [ウィキペディア] です。州内に、カーティンガと大西洋岸森林が、ともにあります。
クロスジオマキザルは、ブラジル北東部のカーティンガ、中央部のセハード(Cerrado)といった半乾燥地域に生息しています。ただ、ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州内に生息しているという公的な記録がなかっただけであるため、ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州内でもカーティンガを調べればクロスジオマキザルが生息しているだろうという予測は成りたちます。今回の研究では、しっかりとヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州のカーティンガで発見することができました。
一方、ブロンドオマキザルは、これまで大西洋岸森林でしかみられませんでした。そのため、今回の研究で、半乾燥地域で発見されたのは、画期的なことのようです。
次に、もうひとつの話題の道具使用について。野生オマキザルの道具使用は、クロスジオマキザル [Fragaszy et al. 2004][Liu et al. 2009][Mannu & Ottoni 2009][Moura & Lee 2004][Ottoni & Izar 2008][Visalberghi et al.; Lee & Moura 2005][Visalberghi et al. 2007][Visalberghi et al. 2008][Visalberghi et al. 2009a][Visalberghi et al. 2009b][Waga et al. 2006] と、キバラオマキザル(golden-bellied capuchin, C. xanthosternos)[Canale et al. 2009] でみられています。キバラオマキザルの道具使用について報告したそのカナーリたちの論文では、クロスジオマキザルの道具使用についても報告しています。
今回の研究では、実際に道具使用の現場を見たわけではありませんが、どちらの種についても、道具使用の痕跡が1ヶ所ずつ発見されています。鎚となる石(ハンマー)と台石(アンヴィル)、残った実の殻から、クロスジオマキザルもブロンドオマキザルも、ここで道具使用をおこなっていることが示唆されます。過去の別の研究者によるクロスジオマキザルの研究では、実際に道具使用を目撃した地点の周辺で、このような痕跡を探すことにより、どこで道具使用をおこなっているのか調べたものがあります(e.g., [Visalberghi et al. 2007])。とくに今まで道具使用の証拠が皆無だったブロンドオマキザルについては、これは非常に大きな発見です。しかし、まだ実際の道具使用の観察はないので、今後の研究が楽しみです。
あとは、私的なコメント。
動物の種に言及するとき、この論文では学名しか使っていません。つまり、「blond capuhinsうんぬん」と書かれているのではなく、「Cebus flaviusうんぬん」と書かれています。そこだけ斜体になるので、かえってわかりやすいのですが、霊長類以外の哺乳類が出てくると、私の手には負えませんでした。マタコミツオビアルマジロ(Tolypeutes matacus)なんて学名だけで書かれてもわかりません。と思ったら、霊長類以外については、表3に通称までまとめられていました。親切です。目、科、種、通称と、この地域でどういう形で発見されたのかを記している表なのですが、通称としてなぜか英名だけでなくポルトガル語名も載っています。それでアルマジロのポルトガル語名が「タトゥ」であると知りました。アルマジロ(armadillo)という英名はアルマディージョ(armadillo)というスペイン語に由来するので、どうしてここまでポルトガル語と差があるのだろうと思ったら、やはりタトゥはグアラニー語(南米先住民の言語)でした。
グアラニー語は、あまり聞いたことがないかもしれませんが、ウィキペディア [Vikipetã] もあるくらいです。グアラニー語で名づけられた南米の地名も多いですし、ジャガーやカピバラなど、グアラニー語を語源とする動物名もあります。
この論文も、冒頭に "the genus Cebus (capuchin monkeys, macacos-prego, and caiararas)" と書いています。キャプチン・モンキー(capuchin monkey)が英語、マカッコ=プレーゴ(macaco-prego)がポルトガル語、カイアララ(caiarara)がグアラニー語です。著者は妙にグアラニー語を押してきますね。マカッコ=プレーゴは「釘のサル」の意味で、オスのペニスが釘に似ているかららしいです。
この論文にはelectronic supplementary materialというのがついていて、定期購読者はシュプリンガーのウェブサイトから補遺をダウンロードできるようになっています。通常は、論文には載せられなかった細かい手続きやデータ、図表を載せるところです。が、今回のものは、写真が6枚、ポンと置かれているだけ。フォトアルバムみたい。6枚中2枚については、論文本体に地元の人の飼っているペットであると説明がありますが、残りについてはありません。推測するに、そもそも写真すらも乏しい種なので、画像があるだけでもかなり貴重ということでしょう。でも、うち1枚の写真はサルも何も写ってないのですが、何のための写真なんでしょうか。謎。
On the occurrence of Cebus flavius (Schreber 1774) in the Caatinga, and the use of semi-arid environments by Cebus species in the Brazilian state of Rio Grande do Norte.
Primates, online, DOI:10.1007/s10329-009-0156-z
カーティンガにおけるCebus flaviusの出現、およびブラジルのヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州におけるCebus種による半乾燥環境の利用
Cebus flaviusは、近年再発見された種で、25のもっとも絶滅が危惧される種の一覧に加わる候補となっている。これまでの仮説によれば、C. flaviusの分布は大西洋岸森林にかぎられていた〔ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州のカーティンガ(ブラジル北東部の半乾燥地域)にはないとされていた〕。一方、C. libidinosusは、ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ(RN)のカーティンガにも出現しているだろうと推測された。それは、その周囲の州に〔RN以外のカーティンガやセハード(ブラジル中央部の半乾燥地域〕にも〕出現しているからである。RNカーティンガのなかで10の地域を調査した結果、この論文で報告するのは、4つのCebus集団である。そこにはふくまれているC. flaviusは、カーティンガではじめて出現したものである。このおかげで、この種の分布の北限が広がった〔大西洋岸森林だけでなくカーティンガにも分布するということである〕。このC. flavius集団は、地理的に分布域が縮小していく過程を示す稀有な例だろう。そして、これはおそらくこの種のなかでももっとも絶滅に瀕している集団かもしれない。また、C. libidinosusの出現する新しい地域も記述する。両種がいるという報告と関連して、道具使用の地点が観察された。
キーワード:Cebus flavius・カーティンガ(Caatinga)・オマキザル(Capuchin monkeys)・半乾燥環境(Semi-arid environments)・道具使用(Tool use)
やったー! ブロンドオマキザル(blond capuchin, Cebus flavius)の論文が初めて出たよ! ブロンドオマキザルについては、「新種ブロンドオマキザル」、「ブロンドオマキザルの再発見」で紹介したように、すでに論文が2本出ていますが、これらは標本の登録についての論文です。そのため、つまり本格的な調査はこれが初めてということです。
著者は、ブラジルの研究チーム。ヘナータ・G・フェヘーイラ(Renata G. Ferreira)(ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ連邦大学 Universidade Federal do Rio Grande do Norte)、レアーンドロ・ジェルザリーンスキ(Leandro Jerusalinsky)(シッコ・メーンジス生物多様性保全研究所 Instituto Chico Mendes de Conservação da Biodiversidade、パライーバ連邦大学 Universidade Federal da Paraíba)、チアーゴ・セーザル・ファリーアス・シーウヴァ(Thiago César Farias Silva)(シッコ・メーンジス生物多様性保全研究所、パライーバ連邦大学)、マールコス・ジ・ソーザ・フィアーリョ(Marcos de Souza Fialho)(シッコ・メーンジス生物多様性保全研究所)、アラーン・ジ・アラウージョ・ロッケ(Alan de Araújo Roque)(ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ連邦大学)、アダルベールト・フェルナーンジス(Adalberto Fernandes)(所属なし)、ファーティマ・アフーダ(Fátima Arruda)(ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ連邦大学)。
今回の論文の大きな成果は、ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州のカーティンガ(Caatinga)で、ブロンドオマキザルとクロスジオマキザル(bearded capuchin, Cebus libidinosus)を発見したことです。ただ、それぞれの種にとってヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州のカーティンガの位置づけが異なります。そのまえにいろいろなものの場所がわからないといけません。ブラジルの生物群系については、こちらの図 [Ache Tudo e Região] がわかりやすいです。ブラジル北東部(大西洋に向かって突き出たところ)に、カーティンガがあって、その横に細長く大西洋岸森林(Mata Atlântica)が並んでいます。また、ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州は、こちら [ウィキペディア] です。州内に、カーティンガと大西洋岸森林が、ともにあります。
クロスジオマキザルは、ブラジル北東部のカーティンガ、中央部のセハード(Cerrado)といった半乾燥地域に生息しています。ただ、ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州内に生息しているという公的な記録がなかっただけであるため、ヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州内でもカーティンガを調べればクロスジオマキザルが生息しているだろうという予測は成りたちます。今回の研究では、しっかりとヒーオ・グラーンジ・ド・ノールチ州のカーティンガで発見することができました。
一方、ブロンドオマキザルは、これまで大西洋岸森林でしかみられませんでした。そのため、今回の研究で、半乾燥地域で発見されたのは、画期的なことのようです。
次に、もうひとつの話題の道具使用について。野生オマキザルの道具使用は、クロスジオマキザル [Fragaszy et al. 2004][Liu et al. 2009][Mannu & Ottoni 2009][Moura & Lee 2004][Ottoni & Izar 2008][Visalberghi et al.; Lee & Moura 2005][Visalberghi et al. 2007][Visalberghi et al. 2008][Visalberghi et al. 2009a][Visalberghi et al. 2009b][Waga et al. 2006] と、キバラオマキザル(golden-bellied capuchin, C. xanthosternos)[Canale et al. 2009] でみられています。キバラオマキザルの道具使用について報告したそのカナーリたちの論文では、クロスジオマキザルの道具使用についても報告しています。
今回の研究では、実際に道具使用の現場を見たわけではありませんが、どちらの種についても、道具使用の痕跡が1ヶ所ずつ発見されています。鎚となる石(ハンマー)と台石(アンヴィル)、残った実の殻から、クロスジオマキザルもブロンドオマキザルも、ここで道具使用をおこなっていることが示唆されます。過去の別の研究者によるクロスジオマキザルの研究では、実際に道具使用を目撃した地点の周辺で、このような痕跡を探すことにより、どこで道具使用をおこなっているのか調べたものがあります(e.g., [Visalberghi et al. 2007])。とくに今まで道具使用の証拠が皆無だったブロンドオマキザルについては、これは非常に大きな発見です。しかし、まだ実際の道具使用の観察はないので、今後の研究が楽しみです。
あとは、私的なコメント。
動物の種に言及するとき、この論文では学名しか使っていません。つまり、「blond capuhinsうんぬん」と書かれているのではなく、「Cebus flaviusうんぬん」と書かれています。そこだけ斜体になるので、かえってわかりやすいのですが、霊長類以外の哺乳類が出てくると、私の手には負えませんでした。マタコミツオビアルマジロ(Tolypeutes matacus)なんて学名だけで書かれてもわかりません。と思ったら、霊長類以外については、表3に通称までまとめられていました。親切です。目、科、種、通称と、この地域でどういう形で発見されたのかを記している表なのですが、通称としてなぜか英名だけでなくポルトガル語名も載っています。それでアルマジロのポルトガル語名が「タトゥ」であると知りました。アルマジロ(armadillo)という英名はアルマディージョ(armadillo)というスペイン語に由来するので、どうしてここまでポルトガル語と差があるのだろうと思ったら、やはりタトゥはグアラニー語(南米先住民の言語)でした。
グアラニー語は、あまり聞いたことがないかもしれませんが、ウィキペディア [Vikipetã] もあるくらいです。グアラニー語で名づけられた南米の地名も多いですし、ジャガーやカピバラなど、グアラニー語を語源とする動物名もあります。
この論文も、冒頭に "the genus Cebus (capuchin monkeys, macacos-prego, and caiararas)" と書いています。キャプチン・モンキー(capuchin monkey)が英語、マカッコ=プレーゴ(macaco-prego)がポルトガル語、カイアララ(caiarara)がグアラニー語です。著者は妙にグアラニー語を押してきますね。マカッコ=プレーゴは「釘のサル」の意味で、オスのペニスが釘に似ているかららしいです。
この論文にはelectronic supplementary materialというのがついていて、定期購読者はシュプリンガーのウェブサイトから補遺をダウンロードできるようになっています。通常は、論文には載せられなかった細かい手続きやデータ、図表を載せるところです。が、今回のものは、写真が6枚、ポンと置かれているだけ。フォトアルバムみたい。6枚中2枚については、論文本体に地元の人の飼っているペットであると説明がありますが、残りについてはありません。推測するに、そもそも写真すらも乏しい種なので、画像があるだけでもかなり貴重ということでしょう。でも、うち1枚の写真はサルも何も写ってないのですが、何のための写真なんでしょうか。謎。