A22 Haun, D. B. M., Call, J., Janzen, G., & Levinson, S. C. (2006).
Evolutionary psychology of spatial representations in the Hominidae.
Current Biology, 16, 1736-1740. [link]
ヒト科における空間表象の進化心理学
ヒトの認知の基盤となる遺伝的な霊長類的背景、つまりヒトの認知の「野生型」については、比較的ほとんど知られていない。しかし、われわれの最近縁の従姉妹、つまりチンパンジーだけでなくすべての現生大型類人猿の技能と対比し、そうしてわれわれが共通祖先から遺伝させてきているものを示すことで、ヒトの認知能力および傾向の進化を辿ることは可能である [1]。認知発達の初期のヒト幼児を見ることにより、われわれは、われわれの種にある生まれながらにしての認知傾向についての洞察を得ることもできる [2]。ここでわれわれは、中心的な認知領域である空間記憶に焦点を当てる。われわれはまず、すべてのヒト以外の大型類人猿および1歳のヒト幼児が空間記憶にかんする場所よりも特徴という戦略にたいする選好を表わすということを示す。このことは、すべての大型類人猿の共通祖先が同一の選好をもっていたことを示唆する。われわれはそれから、3歳のヒトの子どもを調べ、この選好が反転することを発見している。それゆえ、われわれの種とほかの大型類人猿との連続性は、ヒトの個体発生の初期に隠されている。これらの知見は、系統発生的および個体発生的対比にもとづき、認知的選好の分岐学に支えられている体系的な進化心理学の前途を切り開く。
References [1] Byrne RW (1995) The thinking ape: Evolutionary origins of intelligence. New York, Oxford University Press [link][link] [2] Hespos SJ, Spelke ES (2004) Conceptual precursors to language. Nature 430:453-456 [link]
著者はマクス・プランク心理言語学研究所(Max Planck Institute for Psycholinguistics)のダニエル・B・M・ハウン(Daniel B.M. Haun、現在はマクス・プランク進化人類学研究所)、ガブリーレ・ヤンツェン(Gabriele Janzen)、スティーヴン・C・レヴィンソン(Stephen C. Levinson)、マクス・プランク進化人類学研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)のジョゼプ・コール(Josep Call)。
実験参加者は、オランウータン(Pongo pygmaeus)、ゴリラ(Gorilla gorilla)、ボノボ(Pan paniscus)、チンパンジー(Pan troglodytes)、ヒト(Homo sapiens)3歳児、ヒト1歳児。
実験は次のような空間記憶にかかわるもの。3つの物体(それぞれ特徴的なので、場所が入れ替わればすぐわかる)のうちの1つに、被験体が欲しがるものを隠す⇒その3つが被験体から見えないように遮蔽物を置く⇒その物体のうち2つの場所を移動させる(2つの条件がある)⇒遮蔽物をとりのぞく⇒被験体がどれを選ぶかを調べる。ヒト1歳児については、選択肢は2つにした(中央を選ぶ傾向があるため)。
上で述べた実験の途中で現われた条件は次の2つ。特徴条件は、被験体が選択するときに、欲しいものを隠された物体の特徴(形状など)を覚えていればよいというもの。もとあった場所は覚えている必要はない。反対に、場所条件では、欲しいものを隠された物体がもともとあった場所を覚えていればよい。それがどんな特徴をもっているのかは覚えている必要はない。
あとは上の要約で述べられているとおりである。結論だけいうと、ヒト以外の大型類人猿とヒト1歳児とは、欲しいものが隠された物体の特徴を手がかりにせず、欲しいものがもともと隠された場所にこだわった(場所にもとづく戦略)。これにたいして、ヒト3歳児は、欲しいものが隠された物体の特徴を覚えていて、たとえその場所が変わっても、その特徴をもつ物体にこだわった(特徴にもとづく戦略)。
なお、過去の研究で、場所にもとづく戦略をとるもの(例、サカナ [link][link]、トカゲ [link]、ラット [link][link]、イヌ [link])と、特徴にもとづく戦略をとるもの(例、カエル [Williams (1967) Psychonomic Science 9:259-260]、ヒヨコ [link]、ヒトの子ども [link])とがいることがわかっている。
この実験でみられた戦略の選好は、採食および生活様式の選好を示しているだろうと考察している。具体的には、場所にもとづく戦略は安定した縄張りでの採食に有利であり、特徴にもとづく戦略は、新奇の環境での採食に有利である(例、特定の種の樹木の近くに生えるキノコ)。
ところで、先行研究では、動物 [link][Meador et al. (1987) link] やヒト [Bremner (1978) Bulletin of the British Psychological Society 31:164][link] が特徴手がかりを使用できたという報告はある。だから、特徴よりも場所を選好する戦略をとったヒト1歳児やヒト以外の大型類人猿は、特徴条件を解決する能力を欠いているわけではなく、特徴にもとづく戦略よりも場所にもとづく戦略を使用する傾向があるというだけなのだろう。
Evolutionary psychology of spatial representations in the Hominidae.
Current Biology, 16, 1736-1740. [link]
ヒト科における空間表象の進化心理学
ヒトの認知の基盤となる遺伝的な霊長類的背景、つまりヒトの認知の「野生型」については、比較的ほとんど知られていない。しかし、われわれの最近縁の従姉妹、つまりチンパンジーだけでなくすべての現生大型類人猿の技能と対比し、そうしてわれわれが共通祖先から遺伝させてきているものを示すことで、ヒトの認知能力および傾向の進化を辿ることは可能である [1]。認知発達の初期のヒト幼児を見ることにより、われわれは、われわれの種にある生まれながらにしての認知傾向についての洞察を得ることもできる [2]。ここでわれわれは、中心的な認知領域である空間記憶に焦点を当てる。われわれはまず、すべてのヒト以外の大型類人猿および1歳のヒト幼児が空間記憶にかんする場所よりも特徴という戦略にたいする選好を表わすということを示す。このことは、すべての大型類人猿の共通祖先が同一の選好をもっていたことを示唆する。われわれはそれから、3歳のヒトの子どもを調べ、この選好が反転することを発見している。それゆえ、われわれの種とほかの大型類人猿との連続性は、ヒトの個体発生の初期に隠されている。これらの知見は、系統発生的および個体発生的対比にもとづき、認知的選好の分岐学に支えられている体系的な進化心理学の前途を切り開く。
References [1] Byrne RW (1995) The thinking ape: Evolutionary origins of intelligence. New York, Oxford University Press [link][link] [2] Hespos SJ, Spelke ES (2004) Conceptual precursors to language. Nature 430:453-456 [link]
著者はマクス・プランク心理言語学研究所(Max Planck Institute for Psycholinguistics)のダニエル・B・M・ハウン(Daniel B.M. Haun、現在はマクス・プランク進化人類学研究所)、ガブリーレ・ヤンツェン(Gabriele Janzen)、スティーヴン・C・レヴィンソン(Stephen C. Levinson)、マクス・プランク進化人類学研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)のジョゼプ・コール(Josep Call)。
実験参加者は、オランウータン(Pongo pygmaeus)、ゴリラ(Gorilla gorilla)、ボノボ(Pan paniscus)、チンパンジー(Pan troglodytes)、ヒト(Homo sapiens)3歳児、ヒト1歳児。
実験は次のような空間記憶にかかわるもの。3つの物体(それぞれ特徴的なので、場所が入れ替わればすぐわかる)のうちの1つに、被験体が欲しがるものを隠す⇒その3つが被験体から見えないように遮蔽物を置く⇒その物体のうち2つの場所を移動させる(2つの条件がある)⇒遮蔽物をとりのぞく⇒被験体がどれを選ぶかを調べる。ヒト1歳児については、選択肢は2つにした(中央を選ぶ傾向があるため)。
上で述べた実験の途中で現われた条件は次の2つ。特徴条件は、被験体が選択するときに、欲しいものを隠された物体の特徴(形状など)を覚えていればよいというもの。もとあった場所は覚えている必要はない。反対に、場所条件では、欲しいものを隠された物体がもともとあった場所を覚えていればよい。それがどんな特徴をもっているのかは覚えている必要はない。
あとは上の要約で述べられているとおりである。結論だけいうと、ヒト以外の大型類人猿とヒト1歳児とは、欲しいものが隠された物体の特徴を手がかりにせず、欲しいものがもともと隠された場所にこだわった(場所にもとづく戦略)。これにたいして、ヒト3歳児は、欲しいものが隠された物体の特徴を覚えていて、たとえその場所が変わっても、その特徴をもつ物体にこだわった(特徴にもとづく戦略)。
なお、過去の研究で、場所にもとづく戦略をとるもの(例、サカナ [link][link]、トカゲ [link]、ラット [link][link]、イヌ [link])と、特徴にもとづく戦略をとるもの(例、カエル [Williams (1967) Psychonomic Science 9:259-260]、ヒヨコ [link]、ヒトの子ども [link])とがいることがわかっている。
この実験でみられた戦略の選好は、採食および生活様式の選好を示しているだろうと考察している。具体的には、場所にもとづく戦略は安定した縄張りでの採食に有利であり、特徴にもとづく戦略は、新奇の環境での採食に有利である(例、特定の種の樹木の近くに生えるキノコ)。
ところで、先行研究では、動物 [link][Meador et al. (1987) link] やヒト [Bremner (1978) Bulletin of the British Psychological Society 31:164][link] が特徴手がかりを使用できたという報告はある。だから、特徴よりも場所を選好する戦略をとったヒト1歳児やヒト以外の大型類人猿は、特徴条件を解決する能力を欠いているわけではなく、特徴にもとづく戦略よりも場所にもとづく戦略を使用する傾向があるというだけなのだろう。