古書肆雨柳堂

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『おお、大砲』司馬遼太郎

2006-06-15 15:28:11 | その他

新潮文庫『人斬り以蔵』内の一つ。
 和州の植村藩の大砲方を継いだ中書新次郎をめぐる幕末から明治にいたる物語である。この藩が京にいたる要衝であることから、権現様から大砲ブリキートスが下され、三家の大砲方が200年にわたり、大砲と砲術を伝承してきたのです。

 一部の血気に逸った志士が京に登るためこの藩に攻めてきます。いよいよお上のために、ブリキートスを発揮させる時が到来したのです。ところが三家のうち、中書家以外の大砲は火を噴きません。

 権現様から下されたとブリキートスを崇めるあまり、大砲に触れることさえ畏れおおいとしてきました。当然、操法訓練などやっていません。しかも、壊れたものを黙っていた家もあるのです。また、火薬の調合法なども武道同様に一子相伝の口伝としたため、歳を経るうち誤って伝わっていたのです。

 結局彼らは、役立たず。そのくせ長い間、禄をうけていたのです。

 中書は大砲方の家に養子縁組された身で、もともとは医者の勉強をしていました。そのため舎密(せいみ)=chemistryに精通していたので、自ら火薬の研究も行い、見事発砲しました。

 時は明治に移り、中書も無事維新を乗り切りました。そしてあれほど大事にされていた幕府、藩というもの価値が崩れていくのを眺めるのでした。



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