古書肆雨柳堂

小説の感想。芥川龍之介、泉鏡花、中島敦、江戸川乱歩、京極夏彦、石田衣良、ブラッドベリ、アシモフ、ディック

両性具有ジェナイ星人 The Outcast

2008-01-24 19:48:31 | STAR TREK TNG

5th season Episode117

1)粗筋
 ジェナイ星のシャトルが行方不明となり、エンタープライズは捜索に協力することになった。ライカーが派遣され、ジェナイ星人のソランと救助活動にあたる。

 ジェナイ星人は両性具有であり、性別の区別がない。
ソランはライカーに、片方の性別を持って生まれた者は洗脳を施して矯正してしまうのだと説明する。
 それにもかかわらず、ソランは自分が女性的傾向が強いこと、ライカーに魅かれていることを告白する。

 ソランはそれを察知した仲間に捕らえられ、裁判にかけられる。ライカーは、彼女を助けようとするが、すでに遅すぎた。「矯正」を受けたソランは、ライカーとの間に芽生え始めていた感情を拒絶するのだった。

2)テーマ
 直接的なテーマは同性愛者、性同一性障害者の自由です。 
しかしジェナイ星には性別を持つ「異常者」を矯正する法律が
あるという設定から、性に限らず少数派を抑圧することの恐ろしさ、
そして、社会の重圧のために自分に正直に生きられないことの
哀しさが語られています。

 タイトルの"The Outcast"は「のけもの、追放された者」であり、
そのことを如実に示しています。

3)シーン
 裁判で、性に目覚めたことは異常ではないと主張するソランは
勇敢です。

「何も悪いことをしていないのに迫害される、みなと違うというだけで。
我々はみなと変わることはない。
みなと同じように語り、笑い、時にはグチをいい、悲しい時は大声でなく。
あなた達が友人と過ごすように、私たちも友人と過ごす。
私たちのような者に必要ななのは、治療ではなく
あなた方の理解と思いやりです。」

 それと一変し、「矯正」を受けたソランは
「自分の間違いに気づいた、私は病気だった、どうかしていたよ。」
とライカーへの恋心を否定します。

 「洗脳」って怖~!
『時計仕掛けのオレンジ』の「教育」をうけた少年が
虚ろに優等生的な回答するシーンを思いださせます。


『雪』中谷宇吉郎

2007-05-20 02:07:32 | その他

  「雪は天からの手紙」というフレーズで有名な古典的名著です。

  雪の基礎的研究という専門的な本書が、
なぜ広く読まれてきたのでしょう

 それは「科学者は如何にして社会に貢献すべきか」という
一般的な命題を扱っているからではないでしょうか。

 当たり前ですが、昔から雪は降っていたわけで。
雪とともに暮らしていた人々がいたわけです。
それに伴い、流雪溝など「生活の知恵」は
研究され続けていたのです。

 しかし意外にも、基礎的研究は行われていませんでした。
そして中谷先生が雪の本質
(雪の降る仕組み、結晶の形と気温と湿度の関係)を
研究したわけです。

 さらにしか~し
雪のできる仕組み、人工雪を研究することにより、
結晶の形は、上空との気象と関係があることが
分かりました。

 ところで、雪の日の航空機の運航ほど怖くないものはないそうです。
なぜなら上空の状況が分からないからです。
 そこで雪の結晶の研究の成果です。
 これにより、上空の気象を知ることができるわけです。
 基礎的研究から、応用に繋がる好例です。

 「このように見れば雪の結晶は、天から送られた手紙であるということが出来る。
 そしてその中の文句は結晶の形及び模様という暗号で書かれているのである。
 その暗号を読みとく仕事が即ち人工雪の研究であるということも出来るのである。」


GOSIK 桜庭一樹

2007-05-15 20:43:09 | ミステリ

 1924年
ヨーロッパの小国ソヴェール王国
貴族子弟を擁する聖マルグリット学園に
日本から留学した九城一弥

 学園の図書館の塔の上の上
その一室にいつも鎮座している
金髪な美しい少女ヴィクトリカ

 この二人がさまざまな事件を乗り越えていく(解決していくというより)
シリーズです。

 ヴィクトリカはその美しい容姿とは裏腹に
老成した知性、物腰で
可愛い気がありません。ツンデレです。

 ライトノベルであり、
挿絵にはロリータファッションの美少女。

 しかしキャラ萌えに終始する作品ではなく
プロットも目を瞠るものがありました。

 ミステリには謎解きを楽しむものと
世界を構成している概念の仕組みを詳らかにするものとが
あるとおもいますが、これは後者です。

 今回のテーマは占い。
 閉鎖された空間に
十数人の少年処女を入れ、
殺し合いをさせる

 
 これと占いとの関係は?

 エンディングでは感心させられる
知的な刺激が快い作品です。  


出口のない海

2007-05-03 00:17:38 | その他

戦争映画です、センチメンタル戦争映画です。

青春を野球に燃やしていた大学生が、
戦争という時代に飲み込まれ
学徒出陣としていく悲劇です。

彼らは回天の搭乗員となります。

回天は特攻の潜水艦版、
爆弾を抱え、戦艦等に体当たりする
人間魚雷です。

 主人公はとある事情で、
特攻ではなく事故で命を落とします。
海の底で、
酸欠によりじわじわと
死が迫るなか
消え行く意識のなか
最後の命を振り絞り
綴る遺言が感動的です。

 恋人に対し、

「君は生きて僕の見れなかったものを見て欲しい
 例えば今日の夕焼けの美しさ」

という言葉を残します。

 作品を通じて、
死や特攻を美化したり
賛美するのではなく、
命は、これは希望であることを
伝えていると感じました。 


『春の雪 (豊饒の海一)』 三島由紀夫

2007-02-27 22:24:20 | 近代文学

 映画で話題になりました、『春の雪』です。
 
 映画は見てないので詳しくは言えませんが、CMを見る限りでは
悲恋の物語と描かれているようです。

 さらにそれだけではなく、
 当時(大正)の若者らしい、人生に苦悩したさまが描かれ、
 物事の本質について述べられています。

 テーマは多岐にわたりますが、共通するのは「誠実と偽善」
ついてでしょうか。

 「人生について」考える・・・・・・こんなことを昨今言うと、
奇妙に思われてしまいますが、それは時代のせいなのでしょうか?
どうもそうではないようです。
 主人公も自分が真剣に悩んでいるのに、世界はそれとは関係なく
存在していることに違和感を感じていたようです。


Ski, first time! in this season.

2007-01-05 23:33:28 | English diary

06 25&26th DEC 
  I went to Moya hills, Hakkouda.

 No snows!
 Even Hakkouda, there's no fresh poder on the ground.
 

 It is good for us , it is sunny and very warm!

  


『ハピネス』嶽本野ばら

2007-01-03 23:00:26 | その他

「私ね、後、一週間で、死んじゃうの。」

 高校生の「彼女」の告白から始まり、先天的な心臓の異常で夭逝までの生きる様を描いた「僕」の記録です。
 若くしてこの世を去る恋人との純愛は、『世界の中心で愛を叫ぶ』
と同じモチーフですが、違う点があります。

1、彼女がロリータ・ファッションが好きなこと
2、「僕」とセックスしちゃうこと
 (セックスが描かれていても純愛モノだと思います。)

 死を宣告された彼女は、死ぬまでにやりたいことのひとつとして、
ロリータデビューをします。ファンシーな出で立ちで僕の前に現れ、
それとは不釣合いな「死」の告白をするのです。

 彼女は安静にして死を待つより、好きなお洋服に包まれ、
好きな人と楽しい時を過ごし、死にたい、と言います。

 『世界・・・』でのようにセックスを排除しているのは不自然に感じます。
本作品のように、死ぬ前に一杯抱かれておきたいと思うものではない
でしょうか。
 それに好きな人がいるのに、その人と結ばれずに
死んでしまうことは哀しいことだと思います。

 
 また彼と彼女の家族は、なくなった彼女に非常識なことをします。
1、死後、医師の確認前に遺体に触れる
2、葬式で祭壇にばらの花を飾る。それも赤とピンク
3、骨壷にかわいい紅茶の陶製の容器を使う。

 1、は死ぬ直前、一夜をともにした彼が、裸だった彼女にロリータの
お洋服を着せてあげたのです。

 2、3は彼女の遺言に従って彼女の両親を行ったことです。

 ただでさえ若くしてなくなった彼女、その死をモノトーンの陰気な
葬式で送り出すのは、かわいいモノ好きの彼女には耐えられないでしょう。
 また骨壷もかわいくないのは・・・

 このことだけ聞けば非常識に聞こえますが、彼女のことを知る読者は、
彼女に意思を尊重した行為だと納得できます。
 「死」ははどう生きるかの流儀につながります。
 紋切り型の葬式も、故人によって柔軟性を持たせてもよいかもしれません。

 

 

 


機動戦士ガンダム

2007-01-01 22:16:42 | SF

 アニメでお馴染みの作品であるが、小説は社会派小説といってもよい内容である。

 民主制における官僚政治の鈍重さ、それに対する革新国の独裁性。

 またアニメでは十分に語りつくせない「ニュータイプ」の概念。
ニュータイプとはエスパーのような特異な人間ではなく、
人類が生活の場を宇宙という新しい環境に移せば、
その環境に適応するために獲得する
共感能力と洞察力を得て、
宇宙を十全に活用できる人間のことである。

 広大で人類が離れ離れとなる宇宙では、
種として存続するためには
より優れた共感能力――種を保存するため助け合うことと、
真空の宇宙で危険を回避するための洞察力が必要なのである。

 ガンダムのテーマはこれ、宇宙進出のために人類に必要なことであり、
アシモフの「ロボット工学三原則」が、「アイボ三原則」として
現実に結実したように、将来現実のものになるかもしれません。


ローゼン・メイデン

2006-12-31 22:18:00 | その他

  パソコンでの通販で気を紛らす引きこもりの男子中学生、ジュン。
いつものように彼のもとに送られてきた商品
―――――それはお人形。

  いわゆるフランス人形。名前は真紅、「彼女」たちは生きているのです。
彼女たちは究極の人形の座を目指して闘っており、(比喩ではなくバトルします)
持ち主はそのパートナー(僕)となり、ジュンの生活は人形たちの喧騒に
巻き込まれていきます。

 最後の闘いの際、右腕を失い、真紅は絶望します。
「これではもう、ジャンクだと。」

 人間のようにしゃべり、動く彼女たちですが、人間と人形は決定的に違います。
それは人形はあらかじめ目的―――――人間に可愛がられるモノという目的を
持って作られるということです。
 不完全な人形は、その存在意義を失うのです。

このことは反語的に「 しかし人間はそうではない」と述べています。
周囲による自己規定(過度の期待)と自己認識との
違いに悩んでいたジュンは、」真紅の戦い様からそれを学び成長していきます。

 


『てのひらの迷路』 石田衣良

2006-12-16 19:14:04 | その他

石田衣良の短編集です。作品の前にどのように書いたか、締め切り前の苦しみとともに(?)述べられていて、半分エッセイのようでもあり、興味深い作品です。例えば『ナンバーズ』では母の死について、『レイン、レイン、レイン』では子供の頃から雨がすきだったこと、『地の精』では土地を購入したことがモチーフとなっています。

『完璧な砂時計』

 タイムキーパーという係りがテレビにはあるそうです。この作品の主人公はアナウンサーですが、時間に偏執的です。ですが、神経質な人という感じはなく、作品の雰囲気はファンタジーのように感じました。

 あること、この場合は時間の正確さ、について異常までのこだわりを持っていることは魔法を持っているのに等しいではないのでしょうか。

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『ウエイトレスの天才』

 客が何を注文したか全て覚えているウェイトレス。こういうのも「職人技」といえるでしょう。人々に広く知られることはなくとも、このような職人はどこにでもいるものなのでしょう。このような人は本当に尊敬できます。このような人とお話してみたいものです。

 食べるのが大好きな彼女。男性の前で小食ぶるより、より魅力的に思えます。

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『書棚と旅する男』

 仕事をやめ夢見ていた悠々自適の生活を始めた男。彼は船旅を楽しむことにしました。そこで一生を掛けて自分にとって最良の一冊を探すために本を読んでいる男性と出会います。自分に合った本を探す―このことは本好きなら共感できるでしょう。しかし彼はその一冊の候補をどんどん絞り、それ以外の本は捨てていくのです。私はなるべく本を捨てたくないので、これは真似できません。
 自分の書棚の本を増やしていくのと一冊に絞っていく。どちらが幸福な読書生活なのでしょう。