古書肆雨柳堂

小説の感想。芥川龍之介、泉鏡花、中島敦、江戸川乱歩、京極夏彦、石田衣良、ブラッドベリ、アシモフ、ディック

『雪』中谷宇吉郎

2007-05-20 02:07:32 | その他

  「雪は天からの手紙」というフレーズで有名な古典的名著です。

  雪の基礎的研究という専門的な本書が、
なぜ広く読まれてきたのでしょう

 それは「科学者は如何にして社会に貢献すべきか」という
一般的な命題を扱っているからではないでしょうか。

 当たり前ですが、昔から雪は降っていたわけで。
雪とともに暮らしていた人々がいたわけです。
それに伴い、流雪溝など「生活の知恵」は
研究され続けていたのです。

 しかし意外にも、基礎的研究は行われていませんでした。
そして中谷先生が雪の本質
(雪の降る仕組み、結晶の形と気温と湿度の関係)を
研究したわけです。

 さらにしか~し
雪のできる仕組み、人工雪を研究することにより、
結晶の形は、上空との気象と関係があることが
分かりました。

 ところで、雪の日の航空機の運航ほど怖くないものはないそうです。
なぜなら上空の状況が分からないからです。
 そこで雪の結晶の研究の成果です。
 これにより、上空の気象を知ることができるわけです。
 基礎的研究から、応用に繋がる好例です。

 「このように見れば雪の結晶は、天から送られた手紙であるということが出来る。
 そしてその中の文句は結晶の形及び模様という暗号で書かれているのである。
 その暗号を読みとく仕事が即ち人工雪の研究であるということも出来るのである。」


GOSIK 桜庭一樹

2007-05-15 20:43:09 | ミステリ

 1924年
ヨーロッパの小国ソヴェール王国
貴族子弟を擁する聖マルグリット学園に
日本から留学した九城一弥

 学園の図書館の塔の上の上
その一室にいつも鎮座している
金髪な美しい少女ヴィクトリカ

 この二人がさまざまな事件を乗り越えていく(解決していくというより)
シリーズです。

 ヴィクトリカはその美しい容姿とは裏腹に
老成した知性、物腰で
可愛い気がありません。ツンデレです。

 ライトノベルであり、
挿絵にはロリータファッションの美少女。

 しかしキャラ萌えに終始する作品ではなく
プロットも目を瞠るものがありました。

 ミステリには謎解きを楽しむものと
世界を構成している概念の仕組みを詳らかにするものとが
あるとおもいますが、これは後者です。

 今回のテーマは占い。
 閉鎖された空間に
十数人の少年処女を入れ、
殺し合いをさせる

 
 これと占いとの関係は?

 エンディングでは感心させられる
知的な刺激が快い作品です。  


出口のない海

2007-05-03 00:17:38 | その他

戦争映画です、センチメンタル戦争映画です。

青春を野球に燃やしていた大学生が、
戦争という時代に飲み込まれ
学徒出陣としていく悲劇です。

彼らは回天の搭乗員となります。

回天は特攻の潜水艦版、
爆弾を抱え、戦艦等に体当たりする
人間魚雷です。

 主人公はとある事情で、
特攻ではなく事故で命を落とします。
海の底で、
酸欠によりじわじわと
死が迫るなか
消え行く意識のなか
最後の命を振り絞り
綴る遺言が感動的です。

 恋人に対し、

「君は生きて僕の見れなかったものを見て欲しい
 例えば今日の夕焼けの美しさ」

という言葉を残します。

 作品を通じて、
死や特攻を美化したり
賛美するのではなく、
命は、これは希望であることを
伝えていると感じました。