古書肆雨柳堂

小説の感想。芥川龍之介、泉鏡花、中島敦、江戸川乱歩、京極夏彦、石田衣良、ブラッドベリ、アシモフ、ディック

『華氏451』レイ・ブラッドベリ

2005-07-17 00:51:28 | SF
 一番初めには是非この作品を紹介したいです。なぜならこの作品は本を読むことが禁止された世界で、本が好きな人たちが本を守ろうとしようとする物語で、本とは何か、思考とはなにかを問いかけている作品だからです。

出会い
 最初にこの作品を知ったのは映画でした。監督はフランソワ・トリュフォー。『大人はわかってくれない』など子供が大人になるまでのドワネル・シリーズが好きでした。
 ドワネルシリーズの印象から、トリュフォーの作風は文学的だと思っていたので、SFがあるとは意外でした。

粗筋
 思想を統制するために本を読むことが禁止された近未来の管理社会。この時代の消防士(Fire Man)(焚書官と訳されている)の仕事は隠されている本を捜索し、焼却すること・・・華氏451度(232.7℃)とは紙が燃える温度のコトらしいです。

焚書官モンターグはある日、偶然出会った少女から本の素晴らしさを知る。追いやられる本を守ろうとする人々、その方法とは何か?感動するラストです。


感想
世界
 ファーストシーンはモノレールの通勤シーン。セットは正直未来っぽくない。が、モノレールがいい味を出しています。

本が禁止された社会。焚書中に本について「哲学、神・真理などありもしないことを書いてある。文学、どくだらんたわごとだ。」と語っているシーンがあります。本と対照的に描かれているのがTV。問いかけ、語りかけるTVであり、決まった時間にみることが義務づけられています。これにより思想の同調が図られているのです。

 これは「手軽に情報が手にいれらるようになると、本当の知識をえる努力を怠ってしまう。」という警鐘であると考えられます。これは既に現代進行しているといえます。
 
ワンシーン
 モンターグの妻はTVに夢中です。その様子はただ反射的に応えているようで、中身がカラッポのような怖さを感じます。が、この社会の人間の大半はこのように主体性を失くしているのです。

 モンターグ業務中は「反逆者」のアジトを見つけます。その主、老婆は焚書官に逆らいモンターグの目の前で本とともに焼かれていきます。モンターグはこれにショックを受けます。

 少女に触発され本を読み始めたモンターグ。必死に妻から隠す様が印象的。
 
 初めは雑多に本を読んでいます。なんと図鑑や辞典なんかも。しかも「凡例」などから読んでいます。つまりこの社会の人間は「本を読む」ということを知らないのです。

 ラスト、追い詰められた人が考え出した本を守る方法ーそれは住人の一人一人が一冊の本を暗唱することです。これは「思想の自由」までは権力で奪えないという寓意であると考えられます。それぞれが物語を口ずさみながらそぞろ歩いているシーンは印象的です。
 私なら何の作品をえらぶだろうか?「私は○○」