背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

映画女優、入江たか子(その6)~『越後獅子祭』

2012年07月14日 05時24分42秒 | 映画女優入江たか子
 『越後獅子祭』(1939年 東宝映画)は、情感溢れる素晴らしい作品だった。
 原作は長谷川伸、 脚色は三村伸太郎(タイトルでは三笠新太郎)、監督は渡辺邦男。
 長谷川一夫の片貝の半四郎も、入江たか子の水芸師の小陣も、実にカッコ良く、絵になっていた。この二大スターの初共演作は『藤十郎の恋』(1938年)だが、それより私はこの『越後獅子祭』の方が小品(57分)ながら好きである。
 
 片貝の半四郎は、幼い頃貧乏がゆえ父親に角兵衛獅子に売られ、旅回りをしていた家なき子だったが、今はやくざに身を崩し、一人者のあてない旅鴉。自分の名前さえ「はんちゃん」としか知らぬ身の上であり、だから半四郎とは自分に適当に付けた名前で、片貝は越後の出身地を名前にかぶせたに過ぎない。
 半四郎は、自分を売った父親を憎むどころか慕い続け、ひと目会いたいと捜し歩いている。この男には、もう一人どうしても会いたい娘がいる。角兵衛獅子仲間の三歳年下の子で、この子も親に売られてやって来た。「さよちゃん」といい、妹のように可愛がっていたが、十数年前に別れたきりで消息不明。そんな半四郎が、越後へ向かう旅の途中で、いわば「瞼の父」なる父親に出会い、そしてまた、懐かしのさよに出会うのだ。
 聞くだけで目頭がじーんと熱くなるストーリーではないか。
 日が暮れて半四郎が道に迷い、飛込んだ炭焼き小屋の主人宇平(横山運平)が実は父親だった。半四郎の身の上話を聞いて宇平はわが子だと気づくが、半四郎に自分のことは打ち明けない。だから半四郎は父親だとは知らぬまま、晩飯(ソバ)をご馳走になり、一緒に月見をし、いい気持ちになって寝てしまうのだ。宇平を演じた名優・横山運平の朴訥で暖かみのある演技が胸を打つほど良かった。
 そして、ついに半四郎は幼馴染のさよちゃんに出会う。さよは、今は旅回りの曲芸師一座の座長で、芸名は小陣、ちょっと鉄火肌で粋なお姐さんといった一人前の女に成長していた。小陣役の入江たか子は、なんとも言えぬ雰囲気があった。現代劇とは違ったセリフ回しで、着物の着こなしも良く、やや大柄で豊満な身体を斜めに構えてシナをつくる身振りも艶めかしかった。
 半四郎が一座の舞台の邪魔に入ったやくざを追い払い、小屋の外でやくざと格闘しながら角兵衛獅子の宙返りをやるのを見て、小陣ははんちゃんだと気づく。小陣も彼に会いたくて捜していたのだ。そして、ラストは二人が一座の荷車に乗り、仲睦まじく共に旅を続けるというハッピーエンド。
 見せ場は入江たか子が舞台で水芸を披露するシーン。入江たか子自身が水芸師の衣裳(肩衣に袴)をまとい、吹き替えなしで演じるのだが、ピューッと出した水を左右に移すその手さばきの鮮やかさ。プロの水芸師に教わって覚えたのだろうが、いかにも楽しそうにやっていた。
 『越後獅子祭』には、仇討する侍(鳥羽陽之助)と仇討される侍(清川荘司)の決闘に半四郎が絡むといったサブストーリーがあるが、ここもまた面白い。

<データ>
『越後獅子祭』  *注
原作:長谷川伸
脚色:三笠新太郎 *三村伸太郎のこと。日活との関係で偽名を使ったのだと思われる。
製作:瀧村和男
演出:渡邊邦男  *「瀧村」も「渡邊」も旧字表記。
製作主任:齋藤久
撮影:伊藤武夫
装置:島康平
照明:岸田九一郎
編輯:後藤敏男
殺陣:尾上緑郎
音楽:町田嘉章
按舞:花柳壽美 *「按舞」とは朝鮮舞踊の振付け。
出演:長谷川一夫(片貝の半四郎)、入江たか子(曲藝の小陣)
鳥羽陽之助(駒沢番十郎)、清川荘司(浅井朝之助)、横山運平(炭焼の宇平)、
清川虹子(女中お松)、花柳壽美社中(踊)、松井源水(独楽)



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