冷艶素香

現ES21がいろんな人達から愛されていたり、割れ顎の堅物侍を巡って、藤と金の人外魔境神未満ズが火花を散らしたりしてます。

ちいさなうさこちゃんと(五芒)星の王子さま─前編

2009年07月08日 | 瀬那総受け?
“Hey, Nijntje”
「え!?」

瀬那曰く“走ってばかりの人生”、アメリカから帰国したその足で炎馬大学の
入試合格発表を見に行き、某悪魔の陰謀で更にそのまま恋ヶ浜大学との突
発練習試合に出場させられたものの──入学手続きはおろか、アメフト部へ
の正式入部もまだというのに! ……と、嘆くだけ無駄なのは、蛭魔を知る誰
しもが承知の通りだ──、とりあえずは帰国後初の勝利を無事手にした。

少憩を取った後、新しいチームメイト達と共に改めて、諸々の手続きをしに一
旦大学へ戻ろうということになり、スポーツドリンクを飲みながら皆と、今後の
ことについて話し合っていたところへ。

「あ~っ、あんた確か、アメリカのペンタグラムの……!」

驚いた時でも決してバナナを食べる手は止めない、相変わらずのモン太が目
を真ん丸にして叫べば。

「「「「「「「クリフォード(さん/君)!!!!!!!」」」」」」」

残りのメンバー達も瞠目して、一斉に驚きの声を上げる。

“チッ”

人々から注目されるのには慣れっこのクリフォード・D・ルイス氏──さる筋に
よれば、どこぞの国の王家に連なる高貴なお生まれと、専らの噂の通称「王
子」──であったが、指差されたことが気に障ったのか、彼は淡青(うすあお)
の両目の内の片方を、さも不機嫌そうに眇めた。

“うさこ、忘れ物”
“え、わ、忘れ物? ススススミマセン、僕、普段着とかあらかたの荷物はち
ゃんと一昨日の夜に全部、スーツケースに詰めといたつもりだったんですけ
ど……”
“何が「ちゃんと」だ。帰国前後はぜってぇ慌しくなるに決まってるから一週間
前くらいから早め早めに準備始めとけよって、あんだけ言っといただろうが。
トに鈍臭ぇ上に抜けてるな。ドンに後できっちり礼言っとけよ、電話で。あい
つが空港に指示出して飛行機足止めさせてる間に自家ヘリ飛ばしてくんな
かったら、絶対間に合わなかったんだからな”
“も、勿論ですよ、すっごく感謝してますもん……って、いや、でもそもそもフ
ライトの一時間前までみっちり練習と試合のスケジュール組まれてた訳で
すし、それに……”
“黙れ”
“……ハイ”


ピシリと鞭打つような物言いと、氷柱のように冷たく高圧的なクリフォードの一
瞥の前に、瀬那は飼い主に叱られて耳のションボリと垂れ下がった仔犬──
例えて言うなら豆柴(´・ω・`)だろうか──のように、シュンと項垂れる。そんな
瀬那を見下ろす王子さまは、嗜虐的とまではゆかないにしろ、ニヤリと何やら、
大層御満悦の御様子である。

「す、すっごーい! 瀬那、英語ペラペラになってんじゃない!」

いよいよ大学生ということで、両親からの化粧解禁及び私服通学の開始に伴
い、モン太曰く、「高校時よりは多少、女として見られるようになった」鈴音が、
目をパチクリさせながらも、キャアキャアとはしゃぐ。

「当然だ、ノートルダムに着いたその日から俺が一日も欠かさずに勉強見てや
ってたんだからな」

もっとも、それでも試合や部活中の意思疎通と日常会話以外が全然進歩しな
かったってのにはある意味、かなり驚かされたがなと、高く、ツンと綺麗に筋の
通った鼻梁が特徴的な顔を僅かに、しかしかなり挑発的な印象を受ける角度
に傾けたクリフォードが、傲慢と紙0.1重の口調で尚且つ皮肉を満遍なく散り
ばめて放った科白は驚くべきことに、訛りのまったく無い、極めて正確なイント
ネーションと明瞭な発音の日本語であった。

「ええ、ええ、文字通り“叩き込んで”くれましたもんね……感謝してますよ、そりゃあもう……orz」
「……うさこ、今、何か言ったか?」

それまでの耳触りの良いテノールとはまったく違う、そして端整に過ぎる容貌と
やや細身の体付きからはどうにも連想出来ない、ドス低い声の問いかけを瀬那
が認識するよりも早く、彼の両頬──早ければ十歳前後で髭が生えてくる者も
いるほど、発育のスピードや筋肉の付き方が日本人とはまるで異なる本場アメ
リカの学生アメフトマンたちの中に在って、そのスベスベぷよぷよ感は日本語で
表現するならそれこそ「アリエナイィィvv!」と、毎日つついてはその触感と少年
(と言っても、同級生な訳だが)の「ふぇ~ん(T○T)」という初々しい反応が、ご
っつい野郎どものメンタル・サプリメント(?)とされていたという、曰く付きのもの
である──は、(←説明長いよ)よく手入れされたクリフォードの細く長い指でブニブ
ニむにぃっ!
と、伸びることrice cakeの如くに弄ばれていた。

「ヒッ……め、滅しょうもゴジャいまふぇんへふ、ハイ!」
「フン、ならいい」

ピン、ピロリロリロリーン♪ 王子の顔の満ち足り度が+100アップした!

「えー、ちょっと何々、アンタ日本語話せんの!? ってか俺も瀬那のほっぺた
プニプニしてぇ!!!」

未だ着替え途中の水町がTシャツをブンブン振り回しながら興奮気味に尋ねれ
ば。

「パンサーに出来て俺に出来ない筈無ぇだろ。(←酷!) ところでこっちも聞きた
いんだが、日本では今、半裸でアメフトすんのが流行ってんのか?」

あとコイツの頬は俺の私有地だ勝手に手ぇ出したらそのスカスカ箒頭の脳天(ド
タマ)カチ割んぞゴルァと、立て板に水の流れの返事が、本日の王子のお勧め・
“切りまくりメンチの片手立て中指添え”と共に返された。

「うおぉこれまた日本語!? しかも何かハードロックって感じじゃねえか!(←絶
対違う)
 外人のくせに大したもんだ、(ってかまずハードロック自体、日本生まれじゃないだろ)
スマートだぜ!!!」

大学進学を機に本当の、しかしとても良い意味で、清々しい決別をした紅毛赤眼
のエロリスト in football fieldsを除けば、頭の良い奴は本当に凄いと素直に認め
ることが出来るコータローの、無邪気な賛辞に対しては。

「ありがとよ、but you think you're pretty smart, don't you? Don't
get smart with me, smartass!!!”
(←もんの凄い大雑把な意味としては、「ガキがナマ
言ってんじゃねーぞ、あ゛?」みたいな???)

“ち、違うんですクリフォードさん、コータローさんは相手が年上の人でも年下の
人でもいつもあんな感じですし、「くせに」ってのも別に差別とかそんなつもりで
言ったんじゃなくて……!”


クリフォードは決して人格者という訳ではないのだが、最後にはチームJAPAN
の実力を認めたMr.ドンのように、広い度量と視野という前提の下に実力を誇る
のならまだしも、モーガンのような歪んだアメリカ唯我独裁主義者に対しては、
「反吐が出るぜ」だの、「弱い犬ほどよく吠える、か……特に体どころか脳味噌
まで観賞専用筋肉だけで構成された、“M”で始まって“O”、“R”、“G”、“A”と
続く最後に“N”が入る名前の、アフロヘアしたチワワとかな」だのと、痛烈な面
罵の言葉を露骨な冷笑と共に隠そうともしない王子さまには、半年間の留学中、
アメフト関連のイベントや学校主催の外賓を招いてのレセプションなどに於いて
いつもパンサーと共に、ヒヤヒヤさせられていた瀬那としては──ペンタグラムの
他三人は一向気にするでもなく、いつも慣れた風であったのだが──、クリフォ
ードのとどめの一言を耳にして、先程拭った試合後の熱い汗とは別種の、冷たい
汗がダラダラと背中に伝うのを、嫌でも感じない訳にはゆかなかった。

“日本では「チョーヨーノジョ」とか「センパイ・コーハイ」ってのが今でもスポーツ
の世界で幅利かせてんだろ?”
“え?”
“こっちの実力主義に慣れちまったお前が日本帰ってから人間関係で困んねぇ
ように、今日からは俺がそれに付き合ってやる”
“え……?”
“返事は「はい」だけだ”
“えぇぇぇぇ!?”
“五月蝿い”


ブニィィィ(←両頬やられた)


と、いった遣り取りの後は、日本での蛭魔との関係を再現したかの如き六ヶ月
間を過ごしてきた瀬那が、慌ててクリフォードに説明したのはつまり、こういうこ
とである。

通常の会話には殆ど不自由しないが、漢字を伴う読み書きや和語の微妙なニュ
アンス、日本の歴史的・文化背景まではまだ完全に理解しておらず、しかし何の
書物から得てきたのかそれともワット辺りがまた要らぬ知識を吹き込んだのか、
上述の如き日本の(?①)一部慣習(?②)を曲解した上で持ち出してくる、愛用
Tシャツには「天上天下唯我独尊」とダイナミックな筆文字が墨痕鮮やかに躍り、
瀬那の帰国数日前には、

“ノートルダム(うち)のアメフト特待生入学のオファーを蹴ってまで帰るだと……?
チッ、んならこういうの一万着送ってこい。そしたら特別に“一ヶ月だけ”帰国さ
せてやる”


と、煌びやかな金糸銀糸で背中に「喧嘩上等」と華麗に刺繍されたファー付きジ
ャンパーのオンライン・カタログがプリントアウトされた紙を手に、瀬那を脅……い
やいやいや、瀬那にせがんでいたクリフォードにしてみれば、「~のくせに」という
言葉を己に対して使われるのは、自分が相手にナメられているからだとしか思え
ないのだ。何しろこの連語の例文として彼が覚えたのは、未来から来た某・青色
猫型ロボットが活躍する日本製アニメの中でよく聞かれる、「の/び/太/のくせに
生意気だぞ!」なのであるからして。(北部出身のヤンキー王子か……洒落にならんわぁ)

閑話休題(それはさておき)。

「「……??(でもちょっとムカっ)」」

幸い、コータローと水町の英語力では、クリフォードの言葉を理解出来なかったこ
とに加え、多少喧嘩っ早いところは有るにせよ、本気の悪意以外に対してはそこ
そこに感情の抑制も出来る二人である。

問題はむしろ──

“ねぇ、瀬那を自分の所有物みたいに扱うのやめてくんない? あとついでにそ
のメンチビーム出すためだけに使われてるっぽい目もサングラスか何かで隠し
てもらえると有難いんだけど? はっきし言ってウザいんだよね”


傲岸不遜が服を着て歩いているようなクリフォード王子に対し、これまたどこかの
王子さまを彷彿とさせる──もっともその王子さま、お得意のスポーツはアメフト
ではなく、テニスなのだが──クールな物腰で、悠々と挑戦状を叩き付けたのは。
(↑だってりっくんも「スピードの貴公子」って紹介されてたし、対白秋戦で……/苦笑)


                                    →後編へ続く

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