コンコンコン──
「ん~……?」
「俺、陸だけど……瀬那、入ってもいいか?」
「あー、陸……いらっしゃい~……」
ガチャリとドアを開けて視線を即、ベッドの方へと向ければ、そこには氷枕に
頭を乗せ、額には冷えピタ、そして溢さないようにとの配慮からベッド脇に置
かれた椅子の上にある、何本ものスポーツドリンク入りストロー付き水筒(瀬
那の母さんじゃなくて多分、まも姉が置いてったもんだろう、机や床の上にま
で所狭しと並べられたこの量は……)の半分以上を空にしていながら、それ
でもまだ火照った顔全体の薄紅色が抜け切らず、可哀相に、とても苦しそう
な恋人の姿。
「練習中にぶっ倒れたんだって?」
「うん、気が付いたらもうここに寝かされてて……よいしょっ……と……」
何とか体を起こそうとする瀬那に、陸は慌てて手荷物を床に置いて駆け寄る
と、フラフラと頼りなく揺れる相手の体をそっと押し止めた。
「無理すんなって。そりゃ風邪とかとは違ってこじらせるってことはないけどさ、
しっかり水分取っておとなしく寝てんのが一番早く快復する方法なんだから、
日射病は」
「ん……ありがと。陸んとこは……ワイルドガンマンズの人たち、は、大丈夫
な……の?」
氷枕に再び頭を横たえ、瀬那は陸に訊ねた。
「おかげさまで、今んとこは何とかな。瀬那たちのデス・マーチには及ばない
けど、俺らだって一応、去年の夏は猛暑のテキサスで一ヶ月特訓したんだ、
暑さにはそれなりの免疫が出来てるさ」
「そっか……良かった。でもホント、そっちも、気を……つけ、てね?」
「ああ」
たどたどしい声に相槌を打ちながら、陸はそっと、指先を瀬那の頬に伸ばし
てみる。平熱というものを考えれば成程、確かに今日の瀬那の体温はかな
り高い。そのまま指を何度か往復させたり上下させたりして、愛しい相手の
頬のふくふくスベスベとした感触を楽しんでみる。瀬那は瀬那で、嫌がる風
でもなく──熱の有る彼の身にしてみれば、さほど体温が低いという訳でも
ない自分の体温でさえ、今は大層心地良く感じるのだろう──、猫のように
頬を自分の手にすり寄せて来る。
(こんなとこまで似るもんなのか……?)
本日先程、小早川家玄関の呼び鈴を鳴らす前に「よっ」、「ニャア~」と互いに
挨拶を交わしたこの家の飼猫・ピットとそっくりな仕種を取る瀬那に、やや吊り
上がり気味でいつもキリッとしている陸の緑眼が柔らかく和む。優しい気持ち
の赴くまま、陸は左右の掌全体で、瀬那の両頬をさも大切そうに押し包んだ。
「り、く……?」
ボンヤリと虚ろではあるが、この上なく幸せそうな陸の顔を、瀬那は不思議
そうに見上げた。
「あ、ああ! そうそう、俺、いいもん持ってきたんだ! 瀬那好きだろ、桃の
シャーベット!」
怪訝そうな問いかけに対し、陸はハッと我に返ると、慌てて先程床に置いた
手荷物の内の一つを取りに行こうと立ち上がった。
瀬那の家に来る途中、見舞いの品として選んだ、“美味い”とメディアでもよく
取り上げられる、某洋菓子店の夏季限定商品。案の定、瀬那はパァァと顔を
嬉しげに綻ばせた。
「わ、嬉しい……」
「今開けてやるからな~」
ガサゴソと紙袋の中から、間に沢山のドライアイスを挟んだ包装材で厳重に
くるまれた物体を取り出すと、陸は手際良くその包みを剥がした。中から姿
を現したパイント容器は店名すら入っていない、素っ気無い無地のものだっ
たが、その蓋を開けた途端、甘くさわやかな果実の匂いが瀬那の鼻腔にま
でフワリと届く。ほんのりと微かにピンクを感じさせる乳白色の愛らしい色合
い。夕食を抜いていたことを思い出した瀬那の腹が、小さくキュルルル……
と自己主張を始めた。
「スップーン、スップーン、スプー……っと、あったあった、ホイ」
プラスティック製の小さなスプーンをグッと容器の内部に突き刺して一口分、
その中身を刳り貫くと、陸は真っ直ぐに瀬那の口元へとそれを差し出した。
パクリと瀬那がスプーンの中身をたいらげる度、もう一度同じことを繰り返す。
自分の家のオウムが昔、まだ雛鳥だった頃のようだと、陸は笑いをこらえる
と同時に、桃シャーベットを食べるよりももっと甘やかな喜びに浸っていた。
(何つーか、寝込んでる瀬那には申し訳無いんだけど……今日みたく弱って
て呂律もあんまよく回ってない時の瀬那って、昔みたく無条件? それとも無
制限って言うのか? とにかく俺しか見てない、見えてないって感じに甘えて
きてくれて……ぶっちゃけ嬉しいんだよな、最近の頑張ってる瀬那には絶対
言えないことだけど)
暑さにやられたのは自分も同じらしいと自嘲しながら、それでも決して餌付け
(?/笑)の手は休めない、自宅のご近所と学校、及びフィールドに於いては、
冷静と情熱がイイ感じに混ざり合った男前と評判の甲斐谷陸(17歳)であった。
おしまい☆★
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
香夜さん、陸×瀬那はお菓子抜きには語れないらしい。何故?(苦笑)
“lovestruck”は形容詞なので、名詞の“sunstroke”と並べるのはど
うかと思ったのですが、“lovesickness”よりこっちの方が語呂が良い
というか(?)、韻を踏んでるというか(?)……ブ/ル/ー/ス/・/リ/ー
風に言うなら(は?)、“Don’t think, feel……!”みたいな(え?)。
↑と、拍手に入れていた時は後書き(?)に入れておりました。リサイクルし
ようと思い立ったのは、今回日本に戻ってきて最初に口にした甘味である○
ーゲンダッツの白桃味の美味しさに「ふおぉぉぉ……orz!」と感動したから。
何だあの美味さ、蝶・ネ申だ。
「ん~……?」
「俺、陸だけど……瀬那、入ってもいいか?」
「あー、陸……いらっしゃい~……」
ガチャリとドアを開けて視線を即、ベッドの方へと向ければ、そこには氷枕に
頭を乗せ、額には冷えピタ、そして溢さないようにとの配慮からベッド脇に置
かれた椅子の上にある、何本ものスポーツドリンク入りストロー付き水筒(瀬
那の母さんじゃなくて多分、まも姉が置いてったもんだろう、机や床の上にま
で所狭しと並べられたこの量は……)の半分以上を空にしていながら、それ
でもまだ火照った顔全体の薄紅色が抜け切らず、可哀相に、とても苦しそう
な恋人の姿。
「練習中にぶっ倒れたんだって?」
「うん、気が付いたらもうここに寝かされてて……よいしょっ……と……」
何とか体を起こそうとする瀬那に、陸は慌てて手荷物を床に置いて駆け寄る
と、フラフラと頼りなく揺れる相手の体をそっと押し止めた。
「無理すんなって。そりゃ風邪とかとは違ってこじらせるってことはないけどさ、
しっかり水分取っておとなしく寝てんのが一番早く快復する方法なんだから、
日射病は」
「ん……ありがと。陸んとこは……ワイルドガンマンズの人たち、は、大丈夫
な……の?」
氷枕に再び頭を横たえ、瀬那は陸に訊ねた。
「おかげさまで、今んとこは何とかな。瀬那たちのデス・マーチには及ばない
けど、俺らだって一応、去年の夏は猛暑のテキサスで一ヶ月特訓したんだ、
暑さにはそれなりの免疫が出来てるさ」
「そっか……良かった。でもホント、そっちも、気を……つけ、てね?」
「ああ」
たどたどしい声に相槌を打ちながら、陸はそっと、指先を瀬那の頬に伸ばし
てみる。平熱というものを考えれば成程、確かに今日の瀬那の体温はかな
り高い。そのまま指を何度か往復させたり上下させたりして、愛しい相手の
頬のふくふくスベスベとした感触を楽しんでみる。瀬那は瀬那で、嫌がる風
でもなく──熱の有る彼の身にしてみれば、さほど体温が低いという訳でも
ない自分の体温でさえ、今は大層心地良く感じるのだろう──、猫のように
頬を自分の手にすり寄せて来る。
(こんなとこまで似るもんなのか……?)
本日先程、小早川家玄関の呼び鈴を鳴らす前に「よっ」、「ニャア~」と互いに
挨拶を交わしたこの家の飼猫・ピットとそっくりな仕種を取る瀬那に、やや吊り
上がり気味でいつもキリッとしている陸の緑眼が柔らかく和む。優しい気持ち
の赴くまま、陸は左右の掌全体で、瀬那の両頬をさも大切そうに押し包んだ。
「り、く……?」
ボンヤリと虚ろではあるが、この上なく幸せそうな陸の顔を、瀬那は不思議
そうに見上げた。
「あ、ああ! そうそう、俺、いいもん持ってきたんだ! 瀬那好きだろ、桃の
シャーベット!」
怪訝そうな問いかけに対し、陸はハッと我に返ると、慌てて先程床に置いた
手荷物の内の一つを取りに行こうと立ち上がった。
瀬那の家に来る途中、見舞いの品として選んだ、“美味い”とメディアでもよく
取り上げられる、某洋菓子店の夏季限定商品。案の定、瀬那はパァァと顔を
嬉しげに綻ばせた。
「わ、嬉しい……」
「今開けてやるからな~」
ガサゴソと紙袋の中から、間に沢山のドライアイスを挟んだ包装材で厳重に
くるまれた物体を取り出すと、陸は手際良くその包みを剥がした。中から姿
を現したパイント容器は店名すら入っていない、素っ気無い無地のものだっ
たが、その蓋を開けた途端、甘くさわやかな果実の匂いが瀬那の鼻腔にま
でフワリと届く。ほんのりと微かにピンクを感じさせる乳白色の愛らしい色合
い。夕食を抜いていたことを思い出した瀬那の腹が、小さくキュルルル……
と自己主張を始めた。
「スップーン、スップーン、スプー……っと、あったあった、ホイ」
プラスティック製の小さなスプーンをグッと容器の内部に突き刺して一口分、
その中身を刳り貫くと、陸は真っ直ぐに瀬那の口元へとそれを差し出した。
パクリと瀬那がスプーンの中身をたいらげる度、もう一度同じことを繰り返す。
自分の家のオウムが昔、まだ雛鳥だった頃のようだと、陸は笑いをこらえる
と同時に、桃シャーベットを食べるよりももっと甘やかな喜びに浸っていた。
(何つーか、寝込んでる瀬那には申し訳無いんだけど……今日みたく弱って
て呂律もあんまよく回ってない時の瀬那って、昔みたく無条件? それとも無
制限って言うのか? とにかく俺しか見てない、見えてないって感じに甘えて
きてくれて……ぶっちゃけ嬉しいんだよな、最近の頑張ってる瀬那には絶対
言えないことだけど)
暑さにやられたのは自分も同じらしいと自嘲しながら、それでも決して餌付け
(?/笑)の手は休めない、自宅のご近所と学校、及びフィールドに於いては、
冷静と情熱がイイ感じに混ざり合った男前と評判の甲斐谷陸(17歳)であった。
おしまい☆★
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
香夜さん、陸×瀬那はお菓子抜きには語れないらしい。何故?(苦笑)
“lovestruck”は形容詞なので、名詞の“sunstroke”と並べるのはど
うかと思ったのですが、“lovesickness”よりこっちの方が語呂が良い
というか(?)、韻を踏んでるというか(?)……ブ/ル/ー/ス/・/リ/ー
風に言うなら(は?)、“Don’t think, feel……!”みたいな(え?)。
↑と、拍手に入れていた時は後書き(?)に入れておりました。リサイクルし
ようと思い立ったのは、今回日本に戻ってきて最初に口にした甘味である○
ーゲンダッツの白桃味の美味しさに「ふおぉぉぉ……orz!」と感動したから。
何だあの美味さ、蝶・ネ申だ。