随縁記

つれづれなるままに、ものの歴史や、社会に対して思いつくことどもを記す

日本の紙幣

2005-09-10 10:38:47 | 紙の話し
日本の紙幣は、ひとつに「紙」に特徴がある。
つまり、三椏(みつまた)を主原料にした(詳細は機密である)「和紙」で出来ている。
和紙は長繊維で出来ており、肌触りがよく、しかも丈夫なのである。
和紙の主原料は、紙幣にも使われている三椏(みつまた)と、雁皮(がんぴ)、楮(こうぞ)である。

三椏は、春を告げるように一足先に、淡い黄色の花を一斉に開くので、サキサクと万葉歌人はよんだ、ジンチョウゲ科の落葉低木で、その枝が必ず三叉、すなわち三つに分岐する特徴があるため、三枝、三又、とも書く。
古い時代には、植物の明確な識別が曖昧で混同することも多かったために、同じジンチョウゲ科に属する「雁皮」も「三椏」を原料としたものも、斐紙(ひし)(美紙ともいう)と総称されて、近世まで文献に紙の原料としての三椏という名がなかった。 
後に植物の知識も増え、製紙技術の高度化により、雁皮と三椏を識別するようになったとも考えられる。

「みつまた」の最初の文献は、徳川家康がまだ将軍になる前の慶長三年(1598)に、伊豆修善寺の製紙工の文左右衛門に三椏の使用を許可した黒印状(諸大名の発行する公文書)である
「豆州にては 鳥子草、かんひ みつまたは 何方に候とも 修善寺文左右衛門 より外には切るべからず」                         
とある。「かんひ」は雁皮(がんぴ)のことで、鳥子草が何であるかはよくわからないが、当時は公用の紙を漉くための原料植物の伐採は、特定の許可を得たもの以外は禁じていた。

和紙の原料の中では、楮の繊維が最も長く、肌触りやや荒いが丈夫さでは一番である。
雁皮の繊維は、楮の三分の一程度と短いが、その質は優美で光沢があり、平滑にして半透明でしかも粘性があり緊縮した紙質となる。
遣唐使と共に唐に渡った最澄が、わざわざ土産として筑紫の斐紙(ひし)を、二〇〇張りを持参している。紙の先輩国である中国に、土産として持参できるほどに高い評価を得ていたことになる。平安期の公家の女流詩人たちに、かな文字を書くのにもっともふさわしい紙として愛用され、中世から近世にかけて、「鳥の子紙」の名で紙の王としてその名を知られているのが雁皮紙である。
江戸時代の藩札は、殆どが雁皮で漉かれている。

明治になって、政府は雁皮を使い、初めての日本国紙幣を作る事を試みた。
しかし、楮や雁皮は古来、天然の物を使っており、栽培が困難であった。
天然の雁皮を原料として紙幣を作ると、天候に左右されて紙幣の安定供給ができない。
試行錯誤したが、どうしても雁皮の栽培が困難で有るため、栽培が容易な三椏を原料として、丈夫で平滑で印刷に適した紙幣として最適な紙漉の研究をした。
その結果、明治十二年(1879)大蔵省印刷局抄紙部で、苛性ソーダ煮熟法を活用することで、三椏を原料とした日本の紙幣が使用されるようになっている。 

それ以来今日まで、三椏を原料とした日本の紙幣は、その優秀性を世界に誇っている。
手漉き和紙業界でも、野生だけで供給量の限定されたガンピの代用原料として栽培し、現代の手漉き和紙では、楮に次ぐ主要な原料となっている。現代の手漉き鳥の子和紙ふすま紙は、三椏を主原料としている。

もうひとつの特徴は、黒透かしの技術である。
越前美術紙と呼ばれるさまざまな技法のなかで、透かし技術は生まれた。
和紙の透かし技術は、簀(すのこ)面に凹凸を付けて漉くと、凸の部分が薄く漉け、他の部分よりも光が透過し易く、透かし紋様となる。
普通は、渋紙を紋型に切り抜いて簀に縫いつけ、紗を用いる場合は、漆で紋を描いて凸部を造る。中国では、糸で編んだものを竹簀(す)に固定し、ヨーロッパでは銅線細工で紋型を造った。
越前では、黒透かしの技術も開発された。
一般の透かしは白透かしと呼ばれ、紙に厚薄をつけて、その薄い部分が透けて見えるというものである。黒透かしは、単に厚薄の部分だけで透けるのではなく、明暗のある透かしを特徴としている。
この黒透かしの技術は、明治政府が紙幣に贋造防止のため採用し、一般には黒透かしは禁止された。
この当時の黒透かしの技術者は、明治政府の大蔵省印刷局抄紙部に全員採用された。このため、越前和紙では白透かしだけしか造られていない。

このように、日本の紙幣は、世界に比類のない和紙で出来ており、手触りが良くて印刷適正に優れ、しかも抜群の耐久性を誇っている。折り曲げや引っ張り強度に関して、世界に誇る強度を持っている。
偽札を、例え外国で高度な技術で刷しても、この紙質だけは絶対に真似ができない。
お札を改めてじっくり触り、他紙と比較してみれば、自ずからその紙質の違いが分かる。
洋紙と和紙の違いは、やはり手触りである。目を閉じて、洋紙などの紙と、お札の紙質の違いを感じてほしい。
さらには黒透かしを確認する。そうすれば、一発で、偽札を見抜ける。

和紙については、詳しくは、http://sano-a238.hp.infoseek.co.jp
又は、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』の「和紙」の項目を参照されたい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8


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