ネブタ小屋とさくらばな
夕刻になってしまったが アスパムに漸く着いた
巨大な小屋が長屋のように並んでいて 海からの残照で光って見えた
ひと部屋ごとに作家が違う 出来上がるまで 出し物は皆秘密主義だから
小屋の正面は不透明なビニール・シートで覆われている 覗くものもいない
やっと作龍の小屋を発見し 中を覗いたら
弟子達と捻り鉢巻で 必死になって木組みの準備をやっていた
九月~十二月まで 来期の下絵つくり(スポンサー探し)
一月~三月まで 組ネブタの詳細な部分の骨組み
四月~五月 組ネブタの木組み 及び番線張り
六月 和紙貼り 蝋線(下絵)描き
七月 彩色 完成したら 発電機が載っている台車に台あげ
八月三日~七日 本番 及び連日修理などの張替
七日夜 入賞したネブタ師の組ネブタだけ(約八組)
青森湾内にて海上運航され 花火も上がって
海面が色とりどりの色彩に揺らめき 弥が上にも幻想的な光景になる
ネブタ師は 兎に角年がら年中ネブタのことばかり考えているし 忙しい
今晩いっぱい飲るかと そんな声が掛かけて戴いて 二人で繁華街へ
青森特産の帆立や山菜の各種 美味しい田酒
珍しい藤壺の焼き物(貝の蓋に穴を開けてストローで汁を飲む)
デロデロに酔っ払い始めたネブタ師が 突如シャンとして吹くネブタ囃子の音
お店の若い方が鳴らす鉦の賑やかな音 マスターが叩く俄か太鼓の音
思わず「ラッセ~ラッセ~ラッセイラァ~~」と掛け声る私
ふと戸外の見える窓辺に 染井吉野が鮮やかな夜櫻にて どアップ
かくして華やかな花見になってしまったが
正調ネブタ囃子の所為で 賑やかな花見も悪くはないなぁと思えた
ホテルに帰ってから 今年の接待客の予約をし直して
久し振りにベッドにつくが なかなか寝付けない
あのネブタのお囃子の音が 遠く近くで聞こえて少しも消え去らないでいる
横になった身体が何かの拍子に あのリズムに勝手に反応してしまうからだった
小社では毎年青森ネブタに 家族連れの顧客を三百組以上の招待をする 前年に予約をするが
この時季に 改めて今年の分を若干の修正をしなければならない 夜の接待やゴルフの接待より
遥かに好評を得ているし 安上がりで 当社としても大変有難いことなのである ホテルにあぶれると
ラッセランドにテントを建てて そこでくそ熱い夜を過ごさなければならない お客様にはご法度だ
口絵の写真はラッセランド(アスパム=青森物産館脇)にあるネブタ小屋
これは正面のシートを取った状態の写真で まだ本格的に稼動していない
殆ど材料の搬入とか 大枠の木組みの準備をしている状況で
作業が本格化すると シートは常時張られて 他の作家には秘密となる
http://www.nebuta.or.jp/ 青森ネブタの公式サイト(お囃子が聴ける)
「全身に酒はしみゆき」(抄) 村山槐多
全身に酒はしみゆき
ぶだうの房のゆるるに似たる
美しき豊なる思ひみなぎり
われはうれしさに耐へがたし
酒杯を打ちて語れる
雷の如くはげしき友よ
わが心ののどかしさは
五月の野の如し
唇は甘味になれんとし
心は光のうちに消えんとす
何もなし何もなし
われは愚人となりて坐せり
ただ酒にもてあそばれる
小鳥の舌の如く顫へて
またつかれに似たる
埓もなきうるわしの酔に
林檎の水に沈むが如く
花の燃え落つるが如く
美しき酔は次第に
われを抱きて沈む
酒杯を打ち眼を血走らせ
手負ひしが如く語る友よ
君の昴上を我は遠きかなたより
打眺めほほ笑むをしらずや
お酒と祭は似合いますね。殆どシンネリとして櫻を観て来たのですが、突然のことで、櫻も大いに喜んでいるようでした。田酒も美味しいランクのお酒で、ついうっかり飲みすぎてしまいました。でもご想像の通りで、久し振りに大いに盛り上がって楽しいものでした。ネブタの受賞年表を御覧になって戴ければお分かりの通り、千葉伸二と作龍は同じ人で、ネブタの牽引車的存在だと思っております。お酒はしんみりばかり飲んでいてはいけませんね。偶にはこんな風に豪快に飲むのもいいでしょう。
村山槐多さんの詩は、その時の私の心情をあますところなく描き切っているように思われ、何度も読んでしまいました。いいですねぇ。本当に有難う御座いました。それにしても道草先生の造詣の深さと読まれた文章の多さにただただ驚くばかりです。本当に有難う御座いました。これから岩木神社の御山詣で知り合った笛吹き童子と待ち合わせです。じょんがら節と物悲しい篠笛と櫻と、大いに酔い痴れましょう!では!