とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

腱板損傷に対するplatelet-rich plasmaの有効性

2020-12-22 06:19:46 | 整形外科・手術
腱板損傷に対するステロイド注射とplatelet-rich plasma(PRP)の有効性についてのRCTの結果が報告されました。6カ月後の疼痛は変わらないものの、DASH (Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand) scoreおよびoverall functionそして外旋角度はPRPで優れていたという結果です。ステロイドは即効性があるもののその後の改善はあまり見られず、一方でPRPは徐々に改善が見られるという結果です。


ダウン症候群ではCOVID-19は重症化する

2020-12-22 06:19:46 | 新型コロナウイルス(治療)
ダウン症候群の方はCOVID-19による入院のリスクが一般の方の5倍、死亡リスクが10倍高いそうです。その原因としては、巨舌、小顎、大きな扁桃およびアデノイドの存在、嚥下筋の弛緩などの解剖学的な要因に加えて、SARS-CoV-2感染に関与するTMPRSS2遺伝子を3コピー有しているためにTMPRSS2発現が通常の1.6倍高いこと、またT細胞分化に異常があり、インターフェロンシグナルのhyperactivationが生じることもCOVID-19が重症化しやすい一因ではないかと考えられています。このようなことから、ダウン症候群の方に対するワクチン投与の重要性とともに、JAK阻害薬baricitinibによるインターフェロンシグナルの抑制が重症化予防に有用な可能性があるとしています。

ACPA陽性RA患者は低骨密度を示す

2020-12-17 15:23:28 | 骨代謝・骨粗鬆症
ACPA(anti-cyclic citrullinated peptide antibody)を始めとした自己抗体の存在は関節リウマチ(RA)患者の診断に重要であるだけではなく、予後不良因子としても知られています。この論文ではオランダ(IMPROVED study)とスウェーデンのRA患者コホートにおいて、自己抗体の存在と骨密度(BMD)との関係を調べています。いずれのコホートも早期未治療RA患者が中心であり、オランダのIMPROVED studyではDAS<1.6という厳格なゴールを目指しています。
(結果)ベースラインの疾患活動性は、オランダのコホートではDAS 3.3 vs 3.6とACPA陰性群でやや高く、スウェーデンでは3.3 vs 3.2と有意差はありませんでした。オランダのコホートではACPA陽性患者ではベースラインの腰椎・大腿骨近位部のBMDが陰性患者と比較して有意に低く、この差は骨粗鬆症治療薬内服の有無に影響されませんでした。一方スウェーデンのコホートではACPA陽性患者ではBMDが低い傾向にはありましたが、その差はオランダのものほど顕著ではなく、統計学的に有意ではありませんでした。またその後のBMDの変化についてはオランダ、スウェーデンともにACPAの有無に影響を受けませんでした。またリウマトイド因子やanti-CarP抗体などはBMDに独立した影響を有していませんでした。オランダのコホートにおいて、組み入れ後2年間の平均DAS>1.8と比較的コントロールが不良であった患者ではACPAとベースラインBMDとの有意な関係は見られませんでした。
以上の結果はACPAが未治療RA患者の低骨密度と関係している可能性を示しており、自己抗体と骨代謝との関連という観点から興味深いものがあります。ベースラインのRA疾患活動性はさほど変わらなかったことから、このような違いはACPA陽性患者においては骨代謝回転が亢進している可能性を示唆しているのかもしれません。


季節性コロナウイルス感染は新型コロナウイルスの免疫を高めるか?

2020-12-16 11:50:46 | 新型コロナウイルス(疫学他)
季節性のコロナウイルス(seasonal human coronaviruses, HCoVs)に感染した人はSARS-CoV-2に対しても免疫を有するのではないかという話は以前からありましたが、最近実際に非感染者においてSARS-CoV-2に対する抗体がみられることが報告されました(Ng et al., Science 370, 1339, 2020; Shrocke et al., Science 370, eabd4250, 2020)。非感染者に見られる抗体はSpikeタンパクのうちウイルスとホスト細胞との融合に重要なS2に対する中和抗体が多いことが明らかになりました。これはS2領域が様々なコロナウイルスの間で保存されているためで、このような抗体を有するヒトがSARS-CoV-2に感染するとback-boostingという現象が生じ、SARS-CoV-2とクロスする抗体を産生する細胞が増殖すると考えられています。このような抗体を有する患者においてCOVID-19重症化が抑制されるという報告もありますが(Sagar et al., J Clin Invest. 2020. https://doi.org/10.1172/JCI143380)、まだ不確定な部分も少なくありません。Affinityが弱い抗体を有することでかえって感染しやすくなるantibody-dependent enhancement(ADE)という現象が生じる可能性もあります(回復期患者血漿を投与された患者でADEが起こっていないので可能性は低いだろうと考えられてはいますが)。このPerspectiveの著者らは、小児や若年者はHCoVsに曝露される機会が多いので、SARS-CoV-2とクロスする免疫を持っており、それが重症化しない原因ではないかとしているのですが、その点はどうでしょうか?私は高齢者で分泌物が少なかったり、嚥下機能が低下していたり、といったことが肺炎発症および重症化の原因ではないかと思っております。もともと高齢者は誤嚥性肺炎を起こしやすいですし。

Guthmiller and Wilson, Remembering seasonal coronaviruses.Science  11 Dec 2020: Vol. 370, Issue 6522, pp. 1272-1273
DOI: 10.1126/science.abf4860


ダニの有する抗菌酵素dae2

2020-12-15 11:43:43 | その他
ダニの研究者でもなければダニが大好きという人は多くないと思います。刺されて痒いのも困りますが、病原体の媒介になるというのはもっと困ります。つつが虫病リケッチアもダニによって媒介されますし、リウマチ性疾患の領域だとBorrelia burgdorferiによって生じるライム病もダニが媒介する疾患として知られています。ダニの種類によってはヒトの皮膚に食い込んで1週間以上も血を吸い続ける強者もおり、本当にカイカイ・・いや不愉快です。自然免疫に作用する分子として、マダニなどはdomesticated amidase effector 2 (dae2)という酵素を有しており、これは元々は細菌のtype VI secretion (T6S) amidase effector 2 (tae2) という遺伝子を4000万年前くらいに取り込んだもののようです。Tae2には細菌が自らにとって邪魔なグラム陰性菌の細胞壁を壊して殺してしまうという効果があります。著者らはダニに存在するdae2の作用を研究し、この酵素がグラム陰性菌だけではなくグラム陽性菌に対しても殺菌効果を有し、特にヒトの皮膚常在菌である表皮ブドウ球菌を極めて効率よく殺す作用を持っていることを明らかにしました。つまりダニはdae2を分泌することで自分にとって有害なヒト皮膚常在菌を殺してヒト皮膚における自分の居場所を確保しているようで、dae2をノックダウンしたダニはマウスの吸血を効率よくできなくなることも明らかになりました。このような進化はヒトに寄生するダニに特異的なものであり、爬虫類に寄生するダニは爬虫類の常在菌(グラム陰性菌)に対して有効な酵素を有しているそうです。Dae2の作用機序がわかればダニ媒介感染症を防ぐことができるかもしれませんし、また表皮ブドウ球菌に対して抗菌効果を持つ物質の開発にもつながるかもしれません。というようなことを考えていたらなんだか背中が痒くなってきました。
Hayes et al., Ticks Resist Skin Commensals with Immune Factor of Bacterial Origin. Cell VOLUME 183, ISSUE 6, P1562-1571.E12, DECEMBER 10, 2020.