イギリスでワクチン候補投与後に微量のSARS-CoV-2ウイルスを鼻腔投与し、経過を観察するにという臨床試験(ヒトチャレンジ治験)が行われるとのことです。このような試験については以前から話題になっていましたが、多くの問題を包含していると思います。①被験者がリスクを正確に理解していることをどのように確かめるか、②謝金が払われるということですが、経済的に困窮している人を金銭的なインセンティブによって試験に誘導するような仕組みになっているのではないか、③症状が出たらremdesivirを投与するということですが、そもそもremdesivirは軽症患者に対する有効性は示されておらず、論理的に矛盾しているのではないか、④比較対象のない試験デザインで有効性をどのように判断するか、など疑問点が沢山あります。詳細を理解していないのであまり偉そうには言えませんが、私が倫理委員会の委員長なら却下するかも。
高齢者の術後譫妄は、病棟管理上の問題であるばかりではなく、患者の生命予後にも関わる大きな問題です。大腿骨近位部骨折後、譫妄を生じた患者では手術1年後の死亡率が高いことも報告されています(Lee et al., Am. J. Geriatr. Psychiatry 25, 308–315, 2017)。その原因としては、もちろん環境の変化や麻酔の影響もあるのですが、この総説では"neuroinflammation(神経炎症)"という観点から術後譫妄を解明しようという最近の研究を紹介しています。
外科的侵襲(ターニケットの阻血なども含めて)によって生じる種々の組織障害は、HMBG1などのDAMPs(damage-associated molecular patterns)を生じさせ、これがneuroinflammationの原因となること、また補体活性化が重要な役割を果たす可能性、手術侵襲によるプロテアーゼの産生のために血液脳関門がlooseになること、中枢神経におけるmicrogliaの活性化が重要な役割を果たすことなど、様々な研究が紹介されており、大変勉強になります。Spacialized proresolving lipid mediators(SPMs)などを用いたneuroinflammation抑制の可能性などにも言及されており、近い将来neuroinflammation制御によって術後譫妄が抑えられれば臨床現場にとって、また患者にとって大きな福音となることは間違いありません。